ユイの種明かしとママウサギ
昨夜は色々あり、寝落ちしたようだ。
俺が目覚めると、焚き火跡のそばに巨大なモフモフが座っていた。
「……は?」
(俺は寝ぼけているのか?)
目をこすったが、見間違いじゃない。
全長2メートル超、真っ白なウサギが俺とユイを見下ろしている。
「お、おいユイ……なんかいるんだけど……」
「ああ、お母さんだよ」
「軽っ!!」
(えっ、実在したの?…人外だけど)
ウサギは優雅に首をかしげた。
「初めまして。ユイの母です。で、あなたが――その……ロリコンさんね?」
「えっ!? なにその出オチの偏見!? 誤解!!」
「誤解?幼い娘に契約を迫ってるんでしょ?」
「待って待ってどういうこと!?」
ユイがニコニコ顔で補足した。
「昨夜の私のスープ、お兄ちゃんが“すごくコクがある”って言ってたよね」
「それ今考えると最悪な褒め言葉だったなオイ!!って、違くて母親の誤解を解こうか。」
ウサギ(以下、母)はうんうんと頷く。
「あなたね……見た目は年相応の青年。だけど中身はロリコン。認定!」
「やめろぉぉおお!!」
「しかも、私が出かけてる最中に事をすますなんて…ケダモノね」
「いやそれ、俺のセリフ!!ケモノはあんただろ?」
俺は振り返ってユイに詰め寄った。
「お前さぁ、昨日あの玉――願珠だっけ? あれ勝手に光らせて、俺に“家族になってくれてありがとう”とか言ってただろ。アレ何なの?あれが契約なの?」
ユイは小首をかしげて答えた。
「うん、お母さんが、森以外で生活するのは危ないから、森の外に出れないって契約で縛られてたの。
でも、森に迷い込んだ気に入った人がいれば、その人を奴隷にして外に出ていいことになってたの。
でも、お兄ちゃんとは家族の契約しちゃった!」
母ウサギがビクッと震えた。
「ちょっと待ってユイ、それ本当!!?」
「うん。」
母ウサギは顔を覆い、地面に突っ伏した。
「ひどい……! ロリコンが、家族契約…こんな幼い娘と?一線を越えたっていうの?」
「何回言うんだロリコンって!!! 俺は人妻派だ!!!」
この朝っぱらからのわけのわからない修羅場に、森の小鳥たちも完全に黙った。
「頭がこんがらがってきたわ……願珠? ってのは一体何なの?」
母ウサギが唐突に真顔で問いかけた。
ユイはさらりと答える。
「“この世界で初めて助けた人に好かれる”っていうアイテム。でも条件があるの。“好きになってもいいよ”って、相手が明確に受け入れる必要があるんだよ」
「え、それ聞いてないんだけど!?」
ユイは願珠のことを知っていた。むしろ、俺の知らないことまで知ってる…
俺が叫ぶと、ユイは無邪気に笑った。
「彼を好きになってくれるなら、彼に君の夢を叶えさせるから、彼を好きになってよって、願珠さんにお願いされたの。私の願いが叶ったら、今後も彼をよろしくねって言って砕けていったよ」
何それ?あれって、霊的な何かだったの?怖
「なんで俺が知らねぇんだよ!!俺何やらされてたの?」
「お兄ちゃんの声も匂いも、指の形も、皮膚の感触も、ぜんぶ……ぜんぶ……私のものにする契約をしたんだよ」
ユイの目が怖い
「奴隷なんて弱い繋がりじゃ足りない…お兄ちゃんが何を考えてるのか、全てを知りたい。
本当は手足を動かなくしてずっと一緒にいる予定だったんだけど願珠さんが心も手に入れる契約があるって教えてくれたの。今なら嘘か本当かだけじゃなくて、お兄ちゃんが考えることがなんでもわかるの。」
ユイさん、ユイさん、急にスイッチ入っちゃった…
「…契約のキャンセルはどうすればいい?」
母ウサギに尋ねる。
「無理ね。あなたを殺したら、ユイも死んじゃうし、例え死んでも来世でも続く契約だから…」
さらっと怖い事を言われた。
ユイが壊れていくのをウサギと間男は、冷や汗かきながら、見守ることしかできずにいた。