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契約ありがとうございます

焚き火はほとんど燃え尽き、赤くなった炭がかすかに熱を放っている。


夜は深く、森の冷気が肌に刺さるようだった。


それでも俺は動けなかった。


ユイの瞳が、ただ真っ直ぐに、俺を見つめていた。


「……お兄ちゃん。名前……教えてくれない?」

その声は、先ほどと同じように優しくて、怖かった。


けれど――

(……俺は、何を怖がってる?)


もうすでに逃げ場なんてない。

この世界で、俺は一人で生きていける自信がない。

そして――ユイがいなければ、おそらくすぐにでも飢え死にする。


「……マサヒト、だ」


自分の声が、自分のものじゃないみたいだった。

喉の奥から絞り出すように、名前が漏れる。


「え……」


ユイの目が、わずかに見開かれる。


「マサヒト。俺の名前だ。」


言った瞬間、何かが――世界そのものが、変わったような気がした。


パキィン――!


ポケットにしまっていた「縁結びの願珠」が、光り、砕け、無数の光粒となって舞い上がる。


そのすべてが、ユイの胸元へと吸い込まれていった。


「……っ! !?」


ユイの身体が淡く発光する。

肌に、紋様のようなものが浮かび上がり、消える


「……契約が、成立したんだね」

ユイはそうつぶやくと、静かに微笑んだ。


その直後だった。

森の奥から、響くような唸り声が聞こえた。

ユイの母親がいた祠の方角だ…


「……後から行くから待ってて…」

ユイが森に向かって手をかざすと、静寂に積まれる。


「これで、契約は終わり。もう……生贄は、いらない」


俺はその言葉に、全身が凍る思いだった。

「ユイ……今の、どういう意味だ?」


「うん。私ね、お母さんと契約してたの。命を差し出す契約」


「……お前……」


「でも、私の身体を食べさせてお兄ちゃんと私は一つになった。大好きなお兄ちゃんの名前を知って心が繋がった。それで、お母さんとの契約がお兄ちゃんの契約に上書きされたの」


「身体……?」


その瞬間、俺は今日の夕飯に食べたスープの味を思い出した。

「まさか、お前……!」


「うん。毎日ちょっとだけ、煮込んでたの。」


「お、お前正気かよ!? 俺に、そんなもん食わせて――!」


「だって、そうしないと“家族”になれないから」


「お前のいう“家族”ってのは、どんなもんなんだよ!」


「……お兄ちゃんと、生きること。死ぬときは、一緒に死ぬこと」


「は?」


ユイは俺の腕を握る。


その手は、先ほどまでの優しさとは違う、確かな強さを持っていた。


「簡単だよ。“どっちかが死ねば、もう一人も死ぬ”契約が成立したの」


俺の心臓が、凍る。


「それってつまり……!」


「もう、どこにも逃げられないよ。お兄ちゃん。」


ユイは微笑んだ。


「これで、ずっと一緒だね」


焚き火の最後の火花が、夜の闇へと消えていった。


そして俺は、願った。ユイが厨二病であることを…

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