008 階位上昇
ダンジョンに出現したモンスターを倒しながら、千咲達はギルドメンバーによる指導を受けていた。
事前に千咲達の職業を聞いていたのだろう。千咲達を担当しているパーティーは千咲以外の全員と職業が被っているので、適切なアドバイスが出来る。
「君の役割って何?」
一人ずつギルドメンバーが付いているので、当然千咲にも指導役が付いている。
が、千咲には仕事が何も無いので、何も教える事が無い。
「無いっす」
「……無い?」
「無いっす」
「……そっか」
なんとも言えない表情で千咲を見やる千咲の担当のギルドメンバー。
見栄を張っても仕方ないし、得る物も特にないので包み隠さずに話した。それに、真実を知る者が直ぐ近くに居るのだ。使えない荷物持ちな上に、見栄っ張りの虚言癖だなんて救いようがない。
千咲と千咲の担当は八人の戦闘をぼーっと眺める。
「ていうか、女子の中で男子一人って居づらくない? わたし逆だからめっちゃ居づらいんだよね」
千咲を担当するメンバーは女性であり、それ以外のメンバーは男性であった。確かに、千咲とは真逆の状態です。
仕事が無いと分かったのでお喋りをする事にしたのか、女性はそのまま続ける。
「むさ苦しいからずっと転属願い出してんだけどさ、バランス考えてこのパーティーでやれって言われてさ。他のパーティーはさ、最低でも二人は居るんだよ? なんでこのパーティーだけ男女比おかしいんだってなるんよね」
「はぁ……」
「話題も合わないし。会話も下品だし。下ネタ言うのは良いんだけどさ、女子の言う下ネタと男子の言う下ネタって内容違うじゃん? なーんか乗り辛いしさー」
そう言われても、千咲は下ネタを言わないし、下ネタを言う相手も居ないので分からない。会話する女子も限られる上に、別にそんなに会話をしても居ない。
「君も居づらくない? あ、それとも誰か好みの子が居んの?」
「オレ、数合わせなんで」
「あー、そーいう。でも、美人どころがこんなに揃ってんだから、役得ってやつ? ウチのぱっとしないからさー。ムサいし、かっこよく無いし、趣味パチンコとかだし」
「おい、さっきから全部聞こえてるからな!!」
「こっちだってお前みたいなガサツ女願い下げだ!」
「というかちゃんと仕事しろ!!」
「パチンコ趣味なのはコイツだけだから!!」
女性の言葉に、前で戦っている者達が文句を言う。
「うっさい!! 集中しろ馬鹿共!!」
女性も負けじと言い返す。見る限り、居づらいとは言っているけれど、馴染めていないわけでは無いようだ。
「で? で? 誰が一番好み? 四人も可愛い子居るんだから、一人くらい好みの子いるでしょ?」
「いや、別に……」
「えー、いないって事は無いっしょー? あ、じゃあ、誰が可愛いって思う?」
「可愛い……?」
思わず首を傾げる千咲。
果たして、自分に強く当たる者を人は可愛いと思えるだろうか。
「えぇ……小首傾げる、ふつー? じゃあ、パーティー内じゃなくても、そう思った人とかいないの?」
パーティー以外であれば千咲に良くしてくれる者は二人居るけれど、可愛いと思った事は無い。どちらも、優しい人なんだろうなとは思うけれど。
短い人生を思い出してみても、可愛いと思った者は居ないような気がする。美に厳しいという訳では無い。レベルが上がらず、職業の無い千咲にとって、どんなに初対面の印象が良くてもそれが長続きする事が無かった。
そのため、相手が綺麗だろうが何だろうが、千咲にとって加点対象では無いのだ。
ただ、目の前の人は多分それで納得はしてくれないだろう。それに、初対面の相手にそんな暗い話をされるのも嫌だろう。
かと言って、同じパーティーメンバーの名前を上げるのも嫌だ。となると、彼女を納得させる説得力のある人物を上げなければいけない。
彼女は千咲の事を知っていても馬鹿にしたような態度をしない。ただの暇潰しなのだろうけれど、ちゃんと話をしてくれる。そういう相手に冷たくするのは千咲の理念に反する。なので、出来るだけ誠実に答えたいところである。
まぁ、時雨は別である。すっごい構われるし、時雨に構われると周りからのやっかみがあったりするので勘弁して欲しい。
だが、それだけやっかみを受けると言う事は、時雨の見た目は可愛いと言う事なのだろう。それに、時雨は有名だ。出す名前としては無難な気がする。
「……御剣さん、とか」
「あー、御剣時雨ね。あの人ちっこいのに強いって凄いよね」
千咲の答えに納得したように頷く。
その直後、前方から轟音が鳴り響く。
戦闘の音は聞こえてきていたけれど、派手な戦闘では無かったはずだ。
驚いて轟音の方を見やれば、地面に大きな穴が空いていた。血飛沫が周囲に飛んでいる事もあって、モンスターを攻撃したのだろう事は分かった。
「冬華、なにやってんの~?」
「……別に。ちょっと力んだだけ」
どうやら下手人は冬華らしい。確かによく見やれば穴の近くには冬華が居るし、冬華が愛用する大斧が地面に突き刺さっている。
「別にって……明らかにイラついてんじゃん」
「イラついてない」
「いや、言い方怖っ。何そんな怒ってんの?」
「怒ってない」
冬華は大斧を引っこ抜き肩に担ぐ。そして何故かギロリと千咲を睨んだ後、視線を前に戻す。
良く分からないが、千咲は機嫌が悪いらしい。別段恐ろしいとは思わないけれど、面倒臭いとは思う。
「ほー……なるほどね……」
隣に立つ女性は何か納得したのか、によによとした目で千咲を見やる。
「なんすか?」
「別にー」
ふふふっと意味深に笑う女性。
少しだけ気にはなったけれど、なんとなく変な事を考えているのは分かったので深くは追及しなかった。
ともあれ、戦闘は今ので終了だ。後は素材を回収して先に進むだけ。
人数が増えたのでいつも以上にダンジョンの攻略は楽だった。そもそも低ランクのダンジョンでの戦闘だ。ダンジョンランク以上のランクを持つ者達がこれだけ集まっているのだ。苦戦をするはずも無い。
ただ実りのある実践になる。そのはずだった。
突如としてダンジョンが震える。
「なっ!?」
「まさか、これは……っ!!」
ギルドの面々は突然の事態に驚愕するけれど、冷静に事態を把握する。
「階位上昇だ!! 全員直ぐにダンジョンから出るぞ!!」
パーティーリーダーがそう叫んだ直後、全員の足元に謎の魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣の出現は誰もが予想していなかった。だから、それは咄嗟の行動だった。
その魔法陣が何なのかは分からない。けれど、この上に居るのはまずいと本能が理解をしていた。
「――ッ!!」
考えるより先に身体が動いていた。
「え?」
千咲の一番近くに居たギルドの女性と竜胆を突き飛ばした。
全員の足元に魔法陣が浮かび上がっていたけれど、一つの魔法陣の上に数人が乗っている状態だった。千咲の所に浮かび上がった魔法陣の上に乗っていたのは千咲と竜胆とその女性の三人。
慌てて千咲は二人を突き飛ばした、その直後、視界が一瞬にして切り替わった。
「――っ、転移魔法陣か……」
突然景色が変わったのに驚きながらも、冷静に足元に浮かび上がった魔法陣がどういった性質の物なのかを理解する。
違う場所に移動させる魔法、転移魔法を発動するための魔法陣だった。
咄嗟の行動で二人を魔法陣の外に突き飛ばしたけれど、千咲の状況は絶体絶命と言えた。
ダンジョンランクは分からないけれど、階位上昇した以上は最低でもランクはC。ランクEの千咲が一人で生き抜けるダンジョンでは無い。
冷や汗が頬を伝う。
「どーすんだ……これ……」