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024 ひゃんっ!?

 流石に一日中下痢させられるのは嫌だったので、渋々ではあるけれどダンジョンに赴いた次第である。


 ダンジョンの中に入り、くいっと手を広げればディギトゥスに押し付けられた大きなリボンが虚空から現れる。


 周囲に誰も人が居ない事を確認してから、千咲は大きなリボンを自身の胸元に押し付けた。


「……あれ?」


 事前にディギトゥスに聞いていた通りにしたのに千咲の姿は変わらない。


 姿が変わらない事に困惑していると、頭の中でディギトゥスが変身出来ない事の答えを言う。


『変身と言え』


「なんで?」


『変身と言わないと姿を変えられぬようにしておる。事故防止だ』


「えぇ……」


 確かに不注意で胸元にリボンが押し当てられて勝手に変身してしまっても困るけれど、わざわざ変身と言わないと変身出来ないのも面倒だし気恥ずかしい。どちらかと言うと恥ずかしい気持ちの方が強いけれど。


「それ、変えられない?」


『煩い。つべこべ言わずに黙って変身せい』


「……へーい」


 気恥ずかしさを覚えながらも、自身の胸元にリボンを押し付ける。


「変身」


 そう言った直後、千咲の身体中をピンク色の光が包み込む。そうして光が千咲の身体にぴたっと張り付いて光が収まると、そこには桃花千咲では無くマジカル・ピーチが姿を現す。


「またなってしまった……」


 はぁっと深く溜息を吐いて肩を落とす千咲。


「さて、変身したな」


「不本意ながら……」


 いつの間にか隣に立っていたバルギースに、千咲はげんなりした声音で返す。


 女の子に変身するのが嫌な訳では無い。ド派手なピンクの髪と服装が嫌なのだ。ダンジョンにはこういう恰好をして来る者も居るけれどかなり少数である。


 こういう恰好をしている者はどこであれかなり目立つ。注目されるのは好きじゃないから、それが嫌なのだ。


「俺の得意武器は大斧だけど、基本的に武器はなんでも扱える。アンタのステッキは使い方を見るに戦槌みたいなもんだろ? なら、基本的な戦い方を教える事は出来る」


 手に持った戦槌を軽く振って使い勝手を確かめるバルギース。


「最初は俺の戦い方を見とけな」


「へーい」


 バルギースの言葉に不貞腐れたように頷く千咲。


 千咲の返事を気にした様子も無く、バルギースは最初に出くわした魔物と戦闘を開始する。


 出くわしたのは兎のような形をした魔物。額に大きな角が付いており、身体も中型兼程のサイズと普通の兎よりもはるかに大きい。


「まずは基本からだな。大前提として相手の動きを常に把握しろ。相手が武器を持ってたら、得物だけじゃ無くて身体全体に目を向けろ。じゃねぇと、俺みたいな手練れには通用しねぇ」


 口で説明をしながら、バルギースは角兎の攻撃を楽にいなす。


「武器っつうのは手だけで振るもんじゃねぇ。肩、腰、脚。身体全体を使って振るもんだ」


 そう言って、流れるような動きで角兎を叩き潰すバルギース。


「脚の踏ん張り、腰の捻り、どれが抜けても中途半端な一撃になっちまう。まぁ、俺くれぇになりゃ中途半端な一撃だろうが大抵の奴ぁぶっ殺せるけどな」


「ふーん」


 千咲は頷きながら、ぶんぶんっとステッキを振ってみる。


「あー、ダメだダメだ。肩も腰も入ってねぇ。それに、脚は土台だ。しっかり踏ん張んねぇと重てぇ一撃は打てねぇぞ」


「ひゃんっ!?」


 ばしんっと腰を叩かれて、思わず変な声を上げてしまう千咲。


 バルギースもまさかそんな声を出されるとは思っていなかったのか、ぱちくりと目を瞬かせている。


 そして、千咲もそんな声を上げるとは思っていなかったので、少しびっくりした顔をした後で恥ずかしそうに顔を赤らめてバルギースを睨む。


「ば、バルギースぅ……うぅ~っ!!」


「え、オレが悪ぃのか?」


「だって急に叩くから!」


「わ、悪ぃ……」


 変な声を上げた事が余程恥ずかしかったのだろう。八つ当たり気味にバルギースを怒る千咲。


 確かに、バルギースも配慮が足りていなかった。元は男とはいえ、今の千咲の身体は完全に女性である。感覚も男だった時とは違うだろうし、何より不用意に女性の身体に触るべきではなかった。


 ステッキをぎゅっと両手で握り締めながら、真っ赤な顔でバルギースを睨んでいた千咲だったけれど、ついっと顔を背ける。


「……気を付けてよね、ほんと」


 ぶつくさと文句を言いながら、千咲はバルギースを置いて先に進む。


「だから、悪かったって」


 ぶんぶんっとステッキを振りながら歩く千咲の後を、バルギースは謝りながら追う。


「……身体全部使うと、攻撃する時の動き遅くなるんだけど」


 恥ずかしさを誤魔化すように、先程の話の続きをする千咲。


「慣れだ。身体に沁み込ませろ。何回も何回も戦って、自分の身体をどう使うかを頭と身体に沁み込ませろ」


 バルギースも千咲の思惑が分かっているので、藪を突く事無く会話を進める。


「今のアンタに足りねぇのは経験値だ。弱ぇ奴からで良い。戦って戦って戦って、アンタの身体に戦いを馴染ませろ」


「その戦いが怖いんだってば……」


「怖くても良いんだ。ちゃんと立ち向かえ。それがアンタの糧になっからよ」


「うぇぇ……頑張ってみるけどさぁ……」


 心底戦いたくなさそうな表情を浮かべる千咲。


 このまま何にも出会わなければ良いなと思ってはいたけれど、何事もそう上手くは行かないものである。


「うわぁ……」


 千咲の前にぴょんっと角兎が現れる。


「さ、戦闘開始だ。気張れよ、大将」


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