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020 見守り隊

 千咲が登校してきたことで、冬華達が少し騒いだけれど竜胆が直ぐにそれを止めて何やら話し合っているようだった。


 千咲としては騒がれても面倒臭いので、どういう意図があったか分からないけれど竜胆が止めてくれた事は素直にありがたい。


 そのまま午後の授業を終え、千咲は今回のバイト先であるダンジョンへと向かう。


 合同演習で使われていたダンジョンは、今は上級ギルドが調査をしている。あそこも、階位上昇するまではバイト先として丁度良かったのだけれど、今となっては手の遠い場所となってしまった。


 今回のバイト先は、美郷達の荷物持ちとして入ったダンジョンであり、今回も美郷達と一緒にダンジョンに入る。


 と言う事は、当然千咲に悪態を吐いて来た者も一緒だろう。


 ちょっと嫌だなとは思うけれど、これも仕事だと割り切るしかない。


 バスに揺られてダンジョンに到着すれば、千咲を見かけた美郷がおーいと手を振って声を掛ける。


「やっ、来たね。それじゃあ、今日もよろしくぅ!」


「はい。よろしくお願いします」


 礼儀正しく、ぺこっと頭を下げる千咲。


「あれ……?」


 パーティーメンバーを確認してから、千咲はメンバーが前回と違う事に気付く。


 美郷ともう一人女性が居るのは変わらないけれど、それ以外の三人が違っていた。


 女性一人と男性二人。その男性二人も、あの時のメンバーとは違う。


「さ、それじゃあ早速行きましょう」


「あ、はい」


 美郷に促されるまま、一行はダンジョンへと入っていく。


 人が変わろうが、千咲のやる事は変わらない。今日も今日とて荷物持ちである。


「そう言えば、近くのダンジョンで階位上昇あったんだって? 怖いね~」


「そうっすね」


 美郷の言葉に、さも自分は関係無いとばかりの態度で返事をする千咲。重傷を負って死にかけたなんてわざわざ言う事でも無い。


「因みに、千咲くんの学校も巻き込まれてたような気がするけど?」


「そうっすね」


「因みに因みに、その時千咲くんの学年が合同演習とも聞いたけど?」


「そうっすね」


「そうっすね、じゃ無いと思うけど?」


「そう、っすね……」


 にっこり笑みを浮かべる美郷。笑みであるはずなのに決して美郷が笑っていないと分かるのが不思議である。


「ちゃーんと説明して貰おうかしらね~」


 笑顔で千咲に圧をかける美郷。


 どう説明したものかと考えあぐねながら、千咲は美郷の詰問に何とか答えた。





「チッ……」


 そんな二人の様子を後方から見ていた四人組の内の一人が、苛立たしそうに舌打ちをする。


「ね~、も~帰ろ~よ~」


「まあそう言わない。ひまりも納得したから来たんでしょ?」


「でもさ~」


 不満げに頬を膨らませて、自分達の様子を見直す。


「これじゃストーカーだよ、わたし達?」


 彼女達は先程から千咲の後を隠れて追っている。しかし、彼女等は千咲に害をなそうとして追っている訳では無い。何せ、彼女達は千咲の正式なパーティーメンバーであり、重傷を負った千咲を見て心を痛めた良識のある人物達なのだから。


 ひまりの言葉を聞いた冬華は、がっと勢い良くひまりを振り返る。


「違う。これはストーカーでは無い。これはアイツの事を知るために必要な事だ。仲間を知ろうという行動をストーカー行為だなんて、例えひまりでもそんな的外れな事を言うのは許さないぞ」


「うわっ、急に饒舌じゃん~……ガチの奴じゃんこれ~……」


 いつもの無口さは何処へやら、急に饒舌に話す冬華を見て諦めたように肩を落とすひまり。


 冬華、竜胆、ひまり、マリーローズの四人は千咲について知らない事の方が多い。


 両親が亡くなって、親戚に預けられていると言うのは知っているが、それ以上の事は何も知らないのだ。


 今日、竜胆がお礼をしたいから一緒に買い物に行こうと言った時も、バイトがあるからと断られた。好かれていない事は分かっていたけれど、断られるとも思ってはいなかった。


それに、完治したとはいえ、重傷を負った後にバイトを入れようと思うだろうか? 体力的にも精神的にも消耗しているはずなのに、二日間バイトを入れられなかったから休め無いと千咲は言った。


 自分達が持っている千咲の認識と、実際の千咲の情報にずれがある。千咲の言動に違和感を覚えた竜胆はそう考え、冬華達に相談をしてこうして千咲を知るために陰ながら見守る事にしたのだった。


 竜胆が隠密の魔法をかけ、物陰に隠れながら、千咲がどういう生活を送っているのか調べる。何か、とんでもない誤認をしているなら、その誤認を正したい。


 だから、決して、ストーカー行為では無い。決してである。


「……あの女、近くねぇか?」


「だいぶ近いですね」


「おい、今頭撫でたぞ!」


「恋愛感情と言うより、弟みたいな感じですね」


「でも撫でてるだろ!」


 こそこそと隠れながら、美郷の行動に文句を付ける冬華。


「ねぇ、これいつまで続くのかな~?」


「この二人が飽きるまでじゃない? まぁでも、ウチとしても重傷負って直ぐにバイト入れる動機は気になるから、最後まで見守ろうとは思うけど……」


「え~? これ見守りじゃ無くてストーカーだよ絶対。直接聞こうよ~。その方が絶対話早いって~」


 ひまりとしてはこんな風にこそこそするよりも、本人と直接話し合うべきだと思っている。今からパーティーに合流して、バイトの邪魔をしないように話を聞けば良い。それが無理なら、時間を作って貰って話をした方が絶対に良い。


 それで話したく無いって事であれば、本人にとって触れられたくないところになるだろうし、それをこうして裏で暴こうとする方が良く無い事のように思う。


 少し考えれば分かる事なのに、冬華と竜胆はこれが最適解だと言って聞きやしない。


「わたし反対したからね~……」


 言い訳のように言いながら、ひまりは退屈そうに三人の後に付いて行った。


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