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015 VS バルギース 2

「やっぱ無理ぃ……ッ!!」


 大斧を振り回すバルギースに、なんとか目で追って防ぐけれど、それが限界だ。


 食らいつけているわけでは無い。なんとか、追い付けているだけだ。


「きちぃよぉ……ッ!!」


 泣き言を漏らしながらも、千咲はステッキをぶんぶん振り回す。


 千咲の戦い方には型が無い。対して、バルギースの戦い方には型がある。鋭く、力強く、相手を真正面から叩き潰すだけの熟達した技がある。


 相対していて分かる。これは、勝てない。


 あまりにも練度が違い過ぎる。


 マジカル・ピーチに変身していない千咲であれば一秒もかからずに死んでいただろう。それどころか、バルギースと同ランクの者でも勝てる者が居るかどうか怪しいくらいだ。


 千咲が今も生を繋いでいられるのは、なんとか追い付けているからだ。ただそれだけ。


 聖羅達が回復し終わって、逃げる準備が整うまでの時間稼ぎが出来れば良いだけだ。倒す事に固執はしない。がむしゃらでも良いから、時間を稼げれば良い。


「はぁ……んはぁっ……きづいぃ……!!」


 息を切らしながら、千咲はバルギースの大斧をステッキでぶっ叩く。


 同じパーティーの冬華も大斧を使っているけれど、もっとよく見ておけば良かったと後悔する。自分には縁の無い事だからとただぼーっと見ていただけだった過去の自分をぶん殴りたい気持ちに駆られる。


『ふむ、なんぞ面白い事になっておるなぁ』


 不意に、自身の中から声が聞こえて来た。


「ディギトゥス!! 助けてぇっ!!」


 ディギトゥスの声が聞こえた途端に助けを求める千咲。


 あれだけの力を使えるディギトゥスであれば、バルギースを倒す事も用意のはずだ。


『無理だ』


 だが、ディギトゥスは千咲のお願いを即座に却下する。


「なんでぇっ!?」


『基本、妾は其方の戦いに関与はしない。妾の存在を嗅ぎ付けられとう無いからな』


「このままだとオレが死ぬぅっ、がぁ!?」


『ふむ、残念だ。別の契約者を探さねばならぬなぁ』


「そうならないように助けてよっ!!」


『だから無理じゃ。なんとかしてみせい』


「それこそ無理なんだがぁってぇぇ!?」


 倒せないから頼っているのに、ディギトゥスは自分で何とかしろと無理難題を仰る。


『まぁ頑張れ。……それにしても、厄介な相手と戦っとるなぁ』


 手助けをしてくれないのであれば、ディギトゥスと会話をするメリットは無い。何せ、ディギトゥスと会話をしている間に顔と腹を殴られた。凄い痛い。


『バルギース。こやつは相当な使い手だぞ』


 んなの分かってんだよッ!!


『こやつ、今でこそランクCだが、生前であればランクAだろうな。死して無理矢理に服従させられておるから、ランクCで留まっておるのだろう。いやはや、正当な手順でスケルトンになっておったら、手が付けられぬ化け物になっておったろうなぁ』


 バルギースを観察してしみじみとこぼすディギトゥス。


「ら、ランクAぇッ!?」


 ディギトゥスの解説を聞いたら、より絶望感が深まった千咲。


 お腹は痛いし、顔も腫れ上がって痛い。痛みと恐怖でぽろぽろと涙を流している。もう本当に辛い。


「なんとかなりません……?」


『頑張れ』


「いぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいッ!!」


 ディギトゥスの答えに奇声を上げながらも、必死にバルギースの攻撃をなんとかする千咲。


『そのまま気張れよ。其方が生き抜くにはそれしかあるまい』


「ずっと気張ってますぅ!!」


 文句を言いながらがむしゃらにステッキを振るう千咲。


 曖昧な事しか言わないディギトゥスよりも、へんてこだけれど、頑丈なステッキに感謝の念を覚える。生き残れたらしっかり磨いてあげようと思うくらいには感謝している。


「ぴ、ピーチさぁんッ!!」


「なぁにぃッ!?」


「こちら、準備整いましたわぁっ!!」


 千咲が戦っている間に、どうやら聖羅達の脱出の準備が整ったようだ。


「いよぉっしッ!! 逃げろぉッ!!」


 千咲の叫びと同時に、聖羅達はボス部屋から退避するために走りだす。


 千咲もバルギースの攻撃をなんとか対処しながら、ボス部屋の入り口に行こうとする。


 逃げる千咲を見て、バルギースは何故か攻撃の手を止めた。


 手を止めたバルギースを見て訝しみながらも、死にたくは無いのでバルギースを警戒しながらも後退する。


『……権限、発動……』


 腕を伸ばし、力を込めるように徐々に手を握り締めるバルギース。


『エリア……閉塞……!!』


 エリア閉塞。確かにそう聞こえたけれど、それが何を意味しているかは分からなかった。


 聖羅達がボス部屋を抜け、千咲も慌てて出ようとしたその時――


「べっ!?」


 ――千咲は見えない壁に阻まれた。


「は、なに? え? え?」


 慌てて立ち上がり、ボス部屋から出ようとするけれど、やはり見えない壁に阻まれてしまう。


「なんで? なんでぇっ!?」


「ちょっ、ピーチさん!? 早く出て来てください!」


「オレだって出たいよ! 助けてよぉ!!」


「わ、分かりましたわ! って、入れない!?」


 千咲は出られない。そして、聖羅達も入る事は出来ない。


 千咲は完全にボス部屋に隔離されていた。バルギースと二人きりで。


 嫌な予感が千咲の脳裏を過ぎる。


『ふむ。エリア閉塞を使われたか。これは、少し不味い事になったのう』


 エリア閉塞。つまり、このボス部屋だけを閉じたのだ。


『孤立無援だな』


「うぅ……うぐぅ……ッ!!」


 唸りながら、千咲はステッキで見えない壁をぶっ叩いてみるけれど、見えない壁はびくともしない。


『無駄だ。ボスの権限を発動しておる。其方の力では出られぬよ』


「ピーチさん! なんとか出られませんか!?」


『エリア閉塞を解く方法は二つ。其方がバルギースを倒すか、其方がバルギースに殺されるかだ』


「くっ、この!! どうして壊れないんですの!?」


『さぁ、どうする?』


「どうしましょう、ピーチさん!」


「どうするって言ったってぇ……っ」


 ちらりと背後を振り返れば、千咲が自身と対峙するのを待つバルギースの姿が。


 勝てない。勝てるイメージが湧かない。


 それでも、千咲が生き残るには、道は一つしか残されていないのだ。


 すんっと鼻水を啜りながら、千咲はバルギースと向き合う。


「ピーチさん……?」


「……ほんとに、助けに来なきゃ良かったぁ……」


 泣き言を言いながら、千咲は出口から離れる。


 本当に、心の底から、助けなければ良かったと後悔してる。だって、自分の命の方が大事だから。


 身の程を弁えて、無視して逃げれば良かった。本当にそう思ってる。


 万に一つの可能性。いや、もしかしたら、億に一つの可能性かもしれない。


 涙を拭い、千咲はステッキを強く握る。


 生きたいなら、戦うしかない。


 それ以外の道が残されていないのであれば、本当に嫌だけど、出来れば別の道も見付けたいけれど、それでも、その道しか残されていないなら。


「……決着付けようぜ、バルギース」


『目を腫らして言われても恰好つかぬのう』


「うるせぇ!!」


 ディギトゥスへ咆え、千咲はバルギースへと肉薄した。


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