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011 得た力

 契約が完了し、ディギトゥスが千咲の体内に入り込む。


『ぐっ……』


 身体の中に異物が入り込む不快な感覚。不快過ぎて吐き気を催す。


 それでも、吐く事は出来ない。


 この力は、千咲には必要だ。


『妾が力を与える。その力は其方の意のままに操れる』


 ディギトゥスの言葉通り、身体の中から力が溢れ出る。


 今までに感じた事の無い、まるで全能にでもなったかのような高揚感で胸がいっぱいになる。


『さぁ。心を開け。解放しろ。思うままに力を振るえ』


 溢れた力が体外に放出される。光となり、圧力となり、周囲を押し広げる。


 骸骨兵士が光の圧力によって消し飛ばされる。


 力の解放と同時に止まった世界が再び動き出す。


「すげぇ! 身体から力が溢れる! ……え?」


 身体の底から溢れる力に歓喜の声を上げた千咲だったけれど、直ぐにその違和感に気付く。


 興奮交じりに上げられた声は、聞き覚えの無い(・・・・・・・)声だった。


「え? はぁ!? えぇ、ナニコレ!?」


 声の高さに驚きながら、自分の身体に変化が起きたのかと思い確認すれば、そこには確かに無視できない変化が起こっていた。


 まず、怪我は全て治っている。斬り落とされた腕も元通りに生えている。そこは良い。五体満足なのだ。文句があろうはずも無い。


 問題は千咲の恰好だ。


 フリル過多の桃色の服。白いタイツにこれまた可愛らしい桃色のショートブーツ。手にはゴテゴテに装飾されたステッキを持っており、胸元には大きなリボンが付いていた。


 胸元のリボンは下からナニカに押し上げられており、千咲の脳裏に嫌な予感が過ぎる。


「か、鏡!! どっか鏡無いか!?」


 自身の全身を客観的に見ようと周囲を見渡すも、こんな陰鬱な地下墓地に姿見なんて気の利いた物があるはずも無い。


『鏡か? それくらいなら出してやろう』


 脳内に直接聞こえてくるディギトゥスの声に驚く間も無く、千咲の目の前に姿見が現れる。


 慌てて、姿見を確認する千咲。


「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!」


 姿見に映る自分を見た千咲は、腹の底から声を上げる。


 薄々分かっていたけれど、直接その事実を確認しなければ信じられなかった。いや、信じたく無かったと言うべきかもしれない。


 死んだ魚の様な目をした三白眼。鮫を思わせる鋭い歯。その二つの特徴は千咲そのままだったけれど、それ以外が何もかも違った。


 桃色の長い髪はツーサイドアップで纏められている。フリル過多な衣装、いわゆるゴシックロリータファッションに身を包み、身体のシルエットは女性らしい丸みを帯びてはいるものの、出るところは出て、引っ込むところは引っ込む美しいプロポーションとなっている。


 そこまで脳が情報を処理して、自身の身に起こった出来事を正しく認識する。


「なんで女の子になってんの!?」


 千咲の心からの疑問の通り、千咲は女の子になってしまっていた。


「なんで女の子!? なんでピンク!? アンタのイメージカラー黒だったよな!? それにアンタの持ってた禍々しさの欠片も無いんだが!?」


『妾との関与を疑われるのは避けたいからのう。妾と正反対の力にしたのだよ。それに、其方も人の世で生きるのに禍々しさを持っておったら生き辛かろう?』


「女の子になって生きづれぇよ!! そこも配慮して欲しかったんだが!?」


『うむ。そこは普通にすまん。妾のイメージが反映されたようだのう』


「どーすんだよこれから!! 学校だってあるんだぞ!?」


『そこは安心せい。変身を解けば普段の姿に戻れる』


「なら、良いの、か……? ……いや良くねぇよ。なんで戦う度にこんな格好しなきゃいけねぇんだよ……」


 がっくしと肩を落とす千咲。一人でも戦って生きていける力を得られるのであればなんでも良いと思っていたけれど、こんな展開は想定外だ。いや、選り好みしていられないのは分かっている。それでも、どうせならもっと違う力が良かったと思ってしまう。


 千咲だって男の子だ。大剣やら刀を使って格好良く戦ってみたいと夢見た事はある。だが、今の千咲は格好良さからは程遠い恰好だ。


「……チェンジって出来ない?」


『無理だの』


「………………はぁ……」


 思わず深く溜息を吐いてしまう千咲。


「ていうか、これどうやって戦うんだよ……」


 手に持ったステッキをぶんぶん振ってみるけれど、特に何も起こらない。


『まずステータスを見てみよ。話はそれからだ』


「あぁ……」


 頷き、自身のステータスを確認してみる。


「あれ?」


 ステータスを確認してみるけれど、何故だか全ての文字が文字化けしてしまっている。


 文字化けした文字は何度も変化する。ひらがな、カタカナ、漢字やアルファベット。ランダムに変化する文字はやがてその変化を止め、千咲の新たなステータスを映し出す。


 マジカル・ピーチ

 レベル:15 職業:〇〇〇〇 ランク:D

 体力:15 魔力:15 筋力:15 俊敏:15 知力:15


「何、マジカル・ピーチって……ていうか、こんだけ力に溢れててもレベル15なのか……」


『まぁ、其方は無力からパワーアップだからの。レベル15でも相当力強く感じる事だろうさ』


「なるほどなぁ……って、このレベルじゃどっちみち一人じゃ生き残れないぞ……。それに、職業だって〇〇〇〇だし……結局何が出来るんだオレ?」


 階位上昇した現在のダンジョンランクは最低でもC。Dランクに上がったとは言え、やはり一人で生き残るのはかなり難しい。


『生きて逃げるだけであれば問題は無かろう』


「贅沢言うようだけど、もっと上のランクに出来なかったのか?」


『その場合、其方がぶっ壊れる。小さな器に無理矢理物を詰め込めば、壊れるのは道理だろう?』


「なるほど……」


『それに、妾は切っ掛けを与えたに過ぎぬ。強くなりたいのであれば、其方自身が研鑽するほかあるまいよ』


「思いの外、真っ当な事を言う……」


 邪悪な存在であるディギトゥスがそんな事を言うとは思っていなかったので、思わず素直な感想を口走ってしまう千咲。


『さて、それでは妾は少し眠りにつく。暫く起きる事は叶わんだろう』


「え」


『変身は其方の意志で解除できる。もう一度変身したい時は、心の中で強く念じるだけで良い』


「ちょ、ちょっと待って! この状況で一人にしないでくれ! さっき殺されかけたのまだ怖いんだから!!」


『そう言われても、妾も久方振りの力の行使で消耗しておるのだ。時を止めるの、結構辛いのだぞ』


「そうかもしれないけど!! オレもこの状況で一人にされるのすっごく辛い!!」


『気張れよ、其方。あぁ、ステータスは偽装しておる。元の姿とその姿で、名前が変わるようにはしてあるぞ。ではな……』


「ではな、じゃない!! 頼むからダンジョンから出るまでは起きててくれディギトゥス!!」


 いくら胡散臭く邪悪な存在と言えども、いなくなると心細くなってしまう。殺されかけた後ともなればなおさらだ。


 だが、千咲の叫びも虚しく、ディギトゥスから返事が返って来る事は無かった。


「一人にするなよぅ……」


 涙声の呟きは、誰に届くでも無く虚しく霧散した。


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