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001 無職

とりあえず、一章は書ききる所存

 数十年程前、世界は科学だけが正解だった。魔法はその存在を否定され、魑魅魍魎は架空の存在だと断定された。


 その常識が一瞬にして書き換わった。


 突如として世界中に発生した迷宮(ダンジョン)。そして、人々に与えられた(レベル)能力値(ステータス)職業(ジョブ)。世界の指針はそれだけで大きく狂ってしまった。


 今やレベルとステータスがモノを言う世界へと変貌を遂げてしまっていた。


「おい、そっち行ったぞ!!」


「あいあい、任せてリーダー!!」


 迫る魔物(モンスター)を迎撃するのは、炎で(かたど)られた槍。


 炎の槍は魔物を貫き、その命を散らす。


 四人の少女と相対するは、五体の魔物。内一体は既に炎の槍に貫かれて地に伏している。


 魔物。この世界にレベルやらステータス、ダンジョン等が出始めてから世界各地に現れた人間を害する存在。ダンジョンに現れたり、新しく世界に出現した大陸にも生息している。


 魔物は脅威度によってランク分けされており、下がEから上がSまで分類されている。ダンジョンも同じように分類されている。


 魔物が蔓延るダンジョンの中で四人の少女が魔物と戦っている。ダンジョンが出現するまでの間、歴史やドラマの中でしか出てこない剣や槍、空想の中でしか現れなかった魔法を駆使して、迫り来る脅威を退ける。


 その戦いを、壁沿いで立って眺めている一人の少年。


 少年はボロボロになった剣を持ってはいるけれど、戦闘には参加しない。ただ、少女達が戦っているのを感情の伺えない瞳で眺めている。


 暫くして戦闘は終わり、四人の少女は軽口を叩きながら戦利品の報告をする。


「っぱ、D級ダンジョンはしょっぺぇなぁ」


「でも、お小遣い稼ぎにはなるよね」


「て言っても、少し遊んだら無くなっちゃうくらいだけどね~」


「楽して稼げるならそれに越した事は無いでしょう。命を張る必要も無く稼げるわけですし」


「ま、例外も居るけどね~」


 そう言った少女は少年を見やる。遠慮も思慮も無く、そこにはただ(あざけ)りの色しかない。


 ランクEの迷宮にでる魔物は強くは無い。大抵の者は簡単に倒す事が出来る。ランクDの迷宮に出る魔物は難易度が少し上がるけれど、それでも大した脅威にはならない。少女達の言う通り、ちょっとしたお小遣い稼ぎにはリスクの少ない場所である。


 だが、それが適用されない相手も居る。


「偉いじゃん桃花(ももはな)~。ちゃんと端っこ寄ってて」


 一人の少女が、壁に黙って立っていた少年に言う。言葉は褒めているようだけれど、馬鹿にしたような笑みと声音をしている。そして、少年もまた、少女が自分を褒めていない事は重々承知している。


 ついっと視線を少女達から逸らす。馬鹿にされるのはいつもの事だ。下手に言葉を返す方が面倒な事になる。


「はぁ? 無視? 無職の癖に生意気なんですけど」


「桃花ちゃんさ、お礼くらい言ったら? 戦えない自分の為に稼いできてくれてどうもありがとうございます、って」


 一人の少女が更に馬鹿にしたように言うけれど、桃花と呼ばれた少年はそっぽを向いたまま答える事はしない。


「桃花、お礼を言うのは大事ですよ。貴方が戦っていないのは事実なんですから。取り分たった一割でも、貴方の代わりに稼いでいる私に感謝すべきです」


「おい、そこはウチ等でしょうが」


「何にせよ、少しは感謝して欲しいよね~」


「……」


 何を言われても、少年は何も返さない。


「おい」


 長身の少女が、少年の顔を乱暴に掴み無理矢理自身の方を向かせる。


「……っ」


「あたし等はパーティーだ。して貰った事に対して礼を言うのが礼儀だろ。違うか?」


「……」


「お前がどう思っていようが、あたし達はお前の分まで稼いでる。その事実は変わらない。そうだろう?」


「……」


「そうだろう?」


 静かだが、確かな圧を相手に与える声音。だが、それでも少年は何も答えない。


「……そうか。お礼も言えないのか。じゃあ今日のお前の取り分はゼロだ」


 そう言って、乱暴に少年の顔から手を離す。


「行くぞ。もう少し潜る」


「あいあ~い。タダ働きよろしくね、桃花ちゃ~ん」


「働いて無いのはいつもでしょ。無職なんだから、さっ」


「桃花。危ないからしっかりついて来てくださいね。離れると護るのも大変なので」


 四人の少女はダンジョンの先へ進んで行く。その背中を少年は睨み付けるように見る。


 少年――桃花(ももはな)千咲(ちさき)は、ゆっくりとした足取りで少女達の後を追う。非情に業腹な事ではあるけれど、少女達の元を離れると危険なのは事実。少女達から離れたら、自分に降り注ぐ身の危険は計り知れない。


 理由は単純明快。千咲が弱いからだ。


 レベル、ステータス、ジョブ。この世界にそれらが適応されてから、人々の能力は目に一目で分かるようになった。


 まずレベル。これはその者の成長度合いを表している。経験値が溜まるとレベルが上がり、ステータスに反映される。経験値は数値化されているけれど、どのようにしてその経験値が溜まるのかは未だに分かっていない。


 次にステータス。ステータスは筋力、体力、魔力、俊敏、知力の五つに別れている。経験値を得てレベルアップをするとその成長度合いによってステータスが変化する。筋トレや勉強をすればレベルアップをしなくともある程度ステータスも変化をする。それでも、微々たる変化ではある。


 最後にジョブ。これは、ある程度のレベルになると自然とその者に与えられる。戦士やら弓兵やら、様々な職業がある。その上、職業にも経験値があり、その経験値が溜まると上位職にレベルアップする。


 以上の三つが人々に与えられたその者を示す能力。その三つを総合してその者の階位を表すランクというモノもある。レベルやステータスも重要だけれど、このランクを見ればその者の大体の力量が分かる。


 ランクもダンジョンと同じくE~Sで表される。Eは素人。Dは下級。Cで中級。Bで上級。Aで達人。Sは化物だ。Sは世界中で見ても五十人程しかいない。教科書に載る程に伝説的な存在である。因みに、これはダンジョンでも同じ事が言える。


 ともあれ、能力は目視可能となり、それが人々を見る指針となった。


 千咲の顔を掴んだ長身の少女。アッシュグレーのウルフカットに、冷たい目をした美人。


 狼森(おいのもり)冬華(とうか)

 レベル:38 職業:戦士 ランク:C

 体力:37 魔力:12 筋力:42 俊敏:28 知力:30


 全員に敬語で話をしていた黒髪ロングにピンクのインナーカラーの入った美少女。


 愛須(あいす)竜胆(りんどう)

 レベル:34 職業:魔術師 ランク:C

 体力:24 魔力:36 筋力:11 俊敏:20 知力:40


 最初に千咲を馬鹿にした少女。茶髪の天然パーマが特徴的で、活発なイメージの小柄な美少女。


 羽田野(はたの)ひまり

 レベル:30 職業:斥候 ランク:C

 体力:28 魔力:20 筋力:25 俊敏:31 知力:22


 ずっと千咲に冷たくも当たりの強い態度を取っていた少女。金髪のツインテールが特徴的でいつも不機嫌そうな釣り目をしている美少女。


 不知火(しらぬい)・E・マリーローズ

 レベル:32 職業:弓兵 ランク:C

 体力30 魔力:22 筋力:28 俊敏:28 知力:26


 千咲のパーティーメンバーは全員がレベル30越えのランクC。全員高校生であり、年齢の割にはレベルが高いのと、全員容姿が整っているので地元ではちょっとした有名人だ。


 そんなパーティーメンバーと一緒に戦う千咲もまた、ランクCの中級者かと思われがちだが、残念な事に千咲は彼女達より劣っている。いや、彼女達だけではない。彼女達以外の者よりも劣っているのだ。


 桃花千咲

 レベル:5 職業:―― ランク:E

 体力:5 魔力:5 筋力:5 俊敏:5 知力:10


 そう。本来であれば自然と授かるはずの職業が、千咲には無い。どう頑張ってもレベルも上がらず、ステータスも上がらない。勉強をしているので知力だけは少し上がっているけれど、周りに直ぐに追い抜かれるレベル。


 桃花千咲、十五歳の高校一年生。彼は、周囲の人間に嘲笑と憐憫を持ってこう呼ばれている。


 無職、と。


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