お弁当の中身といえば、餃子だろう?
「なろうラジオ大賞」参加作のため、1000文字の超短編です。
「ちくしょう!」
閑古鳥が鳴いている店の中で、俺は思わず叫んだ。
餃子が人気のうちの食堂は、朝から客が一人も来ない。
食材を破棄する日々に俺は憤っていた。
こうなったのはSNSが原因だ。
うちの餃子に虫が入っていると投稿され、拡散されてしまったのだ。
客の誰かがしたことだろうが、気づいたときには手遅れだった。
「虫なんか入れるかよ!」
急死した父の代わりに会社を辞めて、母と必死こいて店をやってきて。
母が亡くなった後は、妻とふたりで店をやってきて。
妻が妊娠して、俺は幸せをかみしめていたんだ!
それなのに、これはあんまりだろう。
「ちくしょうっ⋯⋯」
悔しくて鼻をすすっていると、母が書いたメニューが目に留まった。
黄色い紙に『エビ入り特大餃子』と書かれてある。
「これ⋯⋯俺の好物だったな」
初めて食べたのは、弁当でだった。
俺の弁当には、いっつも餃子が入っていて「おまえんち餃子屋だからなあ」って、馬鹿にされていた。
餃子はやめろと母に言っても「お父さんの餃子は日本一だから!」と言って、母は頑なに餃子を弁当に入れていた。
母は変わり種餃子をよく作ってくれて、キムチチーズ入り、ツナと塩昆布入りとかもあった。
そんな母は「お父さんが倒れたとき、あなたが店をやってくれると言ってくれて嬉しかったわ。ありがとね」と言いながら、息を引き取った。
ふと母の顔がよみがえり、俺は厨房に駆け込んだ。
「たかが一件の投稿で、今までの俺を否定されてたまるかよ!」
俺は餃子づくりを一心不乱に始めた。
しばらくして食堂の引き戸が乱暴に開いた。
入ってきたのは、検診に行っていたはずの妻だ。
「あなた、これ!」
妻は俺にスマホの画面を見せる。
あの虫入り写真を拡大して検証し、フェイクニュースだと暴いた投稿が次々と拡散されてる。
信じられない気持ちでスマホを見ていると、妻が笑った。
「私が投稿した」
「はあ⁉」
「お母さんたちの餃子を馬鹿にするなんて、許せないもの! バズっているから、お客さんは戻ってくるよ」
妻は大きなおなかをなでながら言う。
「ここの餃子は日本一だから、大丈夫!」
妻の笑顔と言葉に、なんだか無性に泣けてきた。
その後、あの騒動が嘘のように客足が戻ってきた。
子どもも生まれ、俺は変わらず餃子を作っている。
今日は小学生になった息子のために弁当を作った。
「ほら、弁当」
「また餃子が入っているの?」
不満そうな息子に、俺は笑った。
「お弁当の中身といえば、餃子だろう?」
ギリギリでも、なろラジ大賞に投稿できて感無量です!
よいお年を!!!