第11話: 「閑話休題――派遣業界の秘密!? 」
「さて、今日も順調に依頼が進んでるな…。」
涼は朝のコーヒーをすすりながら、最近の会社の成長をしみじみと感じていた。会社の運営も安定してきたし、依頼の数も増えてきた。派遣されたスキル持ちたちは、どの現場でもしっかり活躍してくれている。だが、ふとした瞬間、涼の脳裏にある疑問がよぎった。
「そういえば、俺たちって派遣会社なわけだけど…派遣って、どこまでクリーンなものなんだろうな…」
現実世界でも派遣業界に身を置いていた涼は、派遣というビジネスモデルには多くの利点がある一方で、「中抜き」という言葉がしばしば出てくることを思い出した。派遣会社が間に入ることで、人材がもらうべき報酬の一部が会社に流れてしまうという構造だ。
「俺たちの会社も、人材にとってフェアでありたいし、中抜きなんてイメージは持たれたくないよなぁ…」
涼は考え込んでしまった。すると、そこへロイがやってきた。ロイはいつものように研究に没頭していたが、涼の沈んだ様子に気づいて声をかけた。
「涼さん、どうしたの?また何か悩んでる?」
「いや、ちょっとね。うちの派遣会社が成長してきたのはいいんだけど、ふと思ったんだよ。派遣ってビジネスモデルそのものに疑問があってさ。現実世界だと、よく『中抜き』って言葉が出てくるんだよね。」
「中抜き?」
ロイは首をかしげた。異世界の住人である彼にとって、「中抜き」という言葉はまったくの未知の概念だ。
「中抜きっていうのは、要するに、派遣会社が人材と依頼先の間に入って、報酬の一部を取ることを言うんだ。つまり、依頼先が100ゴールドの報酬を払ったとしても、実際に派遣された人材にはそのうちの20ゴールドしか届かない、とかね。派遣会社がその差額を取るから、これを中抜きって言うんだ。」
「なるほど…。それって、派遣会社が悪者みたいに聞こえるね。」
ロイは少し心配そうに言った。涼は苦笑しながら続けた。
「まあ、確かにそういうイメージを持たれることもあるけど、実際には派遣会社も運営費やサポートのための費用がかかってるから、一概に悪いこととは言えないんだよな。」
ここで涼は、異世界の状況に合わせて話を進めることにした。
「例えば、君が魔法研究をしているとするだろ?その研究には材料費や実験装置、そして何よりも時間がかかるよな。もし君が個人で依頼を受けて、その材料費やサポートをすべて自分でやらなきゃいけないとしたら、かなり大変じゃないか?」
ロイはうなずいた。「確かに、研究にかかるコストはバカにならないよ。それを全部自分で賄うとなると、たしかに難しいかもしれない。」
「そうなんだよ。だから派遣会社ってのは、人材にサポートを提供するための存在でもあるんだ。俺たちは、派遣した人が安全に仕事できるように手配をしたり、トラブルがあったときに助けたりする。そのための費用を運営費として差し引いてるんだ。」
「なるほど…。だから、派遣された人には全額が入らないわけか。それでも、サポートがしっかりしていれば納得できるかもしれないね。」
ロイは納得した様子でうなずいたが、さらに質問を投げかけてきた。
「でも、涼さんの言う中抜きって、本当に不正なことなんだろうか?それとも、ただの誤解なのかな?」
涼は少し考えてから答えた。
「本当に悪質な中抜きもあるんだよ。現実世界では、派遣会社が過剰に利益を取って、人材にはほとんど報酬が渡らないってケースもある。そういうのは間違いなく問題だよね。逆に、ちゃんとした派遣会社は、必要な分だけを運営費として取って、残りをきちんと人材に分けるようにしてる。要は、バランスなんだよ。」
ロイはその言葉を聞いて、少し考え込んだようだった。
「異世界にも、似たようなことがあるのかもしれないね。例えば、冒険者ギルドが依頼を受けて、冒険者に報酬を分配するけど、そのギルドが利益を取りすぎてるって感じの話だ。」
「そうそう!まさにそれだよ。派遣会社ってのは、人材と依頼先の間に入るからこそ、公正なやり方を守らないといけないんだよな。中抜きがひどくなればなるほど、人材が報われなくなるし、逆に派遣会社がちゃんと運営すれば、両方がハッピーになるんだ。」
涼は真剣な表情で話を続けた。
「だから、俺たちの派遣会社もちゃんとしたルールで運営して、フェアな報酬配分を続けなきゃいけない。そうしないと、いずれ不満が出て、みんな離れてしまうかもしれないからな。」
ロイはその話に大いに納得したようで、にっこりと微笑んだ。
「涼さんの派遣会社なら、そんな心配はいらないだろうけどね。ちゃんとみんなのことを考えてるし、今の配分ルールも公平だと思うよ。」
「ありがとう、ロイ。俺もみんなが満足できるように頑張っていくよ!」
◇◇◇
こうして、涼は「中抜き」という現実世界の派遣業界における問題について、異世界の状況に例えながら考える機会を得た。派遣というビジネスモデル自体が悪いわけではなく、いかにフェアで公正な運営をするかが大事なのだ。
「でも、こうやって考えるとさ…異世界の派遣会社って、意外と現実世界と変わらないんだよな。運営する上での問題も、きっとどこでも同じなんだろうな。」
涼はまた一人でつぶやきながら、次なる依頼に向けて気合を入れることにした。
「よし!次も頑張って、みんながハッピーになる派遣会社を目指すぞ!」
涼は最後にそう呟いて、コーヒーを一口飲み、再び新たな依頼へと歩き出すのだった。