99.夜食
(ん?)
目星を付けておいた建物へと向かっていると、不審者がいることに気付いた。
白衣を着て盆らしきものを持って歩いているのは、おホワイトさま中のジャドルーオだろう。
(ということは‥‥‥)
ジャドルーオから遠ざかる方向へと通りを移動すると、やはりボノバートがいた。
「おーい」
私が小声で声をかけながら寄っていくと、ボノバートは盆を私に預け、腰を伸ばそうと小さくのけ反る。
「つい腰を屈めてしまうんだよ‥‥‥」
ボノバートは腰に手を当て、ぐいぐいと体を左右に捻る。
盆には塩だろうものが広げられているので、丸が四つの広場からずっとこうして歩いてきたのだろう。
「お疲れさま。一匹で歩いてる犬、見なかった?」
「見てないね」
「山羊って解剖する?時間をおいて尿か血液で検査すれば、一時的な摂取だったね、とできる?」
「そこもね‥‥‥どういう状態の山羊が出てくるんだと思えて‥‥‥」
「生まれてからずーっと摂取させているとなると、慣れてはいそうだけど、健康に育つのか?って思えるし、検査すれば陽性だとなる程度を見極めて摂取させ続けるのも面倒だ」
「いつでも調べに来てくださいねと、ずーっと摂取させ続けてきた、という胸糞も持ってるんだろうなー、とは思う。おじさんが出してくるとなると摂取させてると思えるし‥‥‥」
「可能であれば、生かしておいて私がもらいたい」
「山羊‥‥‥?」
「二頭ならどう?」
「‥‥‥とりあえず、広場にまとめて、血液で検査‥‥‥するにも山羊って?まして麻薬摂取済み」
「どのくらい制御できるのかがね」
先ほどの犬が牧羊犬的に動いてくれるのであれば、とも思うが。
(いつも通り山に向かわれるとな‥‥‥)
犬を制御できるとなると、べたべたさんかヤマフジ家当主だろうか。
「あ‥‥‥」
急に山羊の騒ぐ声が聞こえたと思えば、建物の隙間から、ジャドルーオが走り去ったのが見えた。
(速いな)
「山羊だ」
「山羊だね」
建物の隙間から、山羊が走っていくのが見えているということは、ジャドルーオを追いかけているのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
(ふいー!)
ベッドに寝転んでみると、広々なのだと身に余る。
ジャドルーオが近衛部隊を連れていなかったということは、王子として動いていないということだろうか。
(でも、ボノバートは連れていた)
権限とは何だろうかと、わからない。
(役所に配置している、というだけかも?)
胸糞沼地とは滞在してみると、疲労なのか何なのかが凄まじい。
ギドロイは今も、自分がどのように見えているのか、それを気にしながら動いているのだろうが。
ベッドから下りると、服を着て、身支度を整える。
キッチンに行き、オーブンから取り出すと、皿に移して一品完成だ。
誰か来ているだろうかと応接間へ行ってみると。
「あ、シアいた」
ソファーでくったりしていたシュイージは、私に気付くと体を起こす。
「食事は?」
「あー‥‥‥食べたような食べてないような、だー‥‥‥」
私が盆ごとテーブルに置くと、シュイージも皿に手を伸ばす。
「さくさくエビフライもいい‥‥‥」
「くったりエビフライもいい‥‥‥」
食パンに斜めに置かれたエビフライには、私独自にチーズもかけられていて、千切りキャベツとの一体感というものが生じている。
エビフライに合わせて、食パンを斜めに半分に折ると、がぶりとかぶりつく。
(エビフライ!)
「ぬぁー!俺の!分が!」
ダドアーロは入浴を済ませてきたところだったらしく、勢いよく部屋を飛び出していく。
残り物となっているものを色々ともらってきてくれそうで、期待してしまう。
「俺も風呂ー」
「はいー」
あっという間に食べ終えたということは、ほとんど食べていないようなものだったのだろう。
ずっと見回っていたダドアーロは、何も食べていないような程度のみならば、だったような気がする。
私も食べ終わると、キッチンに戻り、オーブンに追加で入れておく。
チーズというのは悩ましい。
これでもかと盛りたくなるのだが、だからといって、チーズのみでは足りやしない。
(私にとっては、主役になれない食材‥‥‥?チーズケーキは?)
心の中では、眷属達も、悩ましいのだと顔を見合わせ考え込む。
紅茶の用意を応接間に運んでおくと、キッチンに戻り、お湯をさらに沸かす。
(偏ってないかな?)
寝室に置いてあるリュックから桃葉桔梗茶房の包みを取り出すと、キッチンに持っていき、盆にのせておく。
男性用の靴はヒューガがもらってくれたので、リュックにはその分余裕が生じた。
そこに着替えを追加しておけば、使い捨てる余裕もできる。
(どうかな?)
オーブンの中では、チーズが程よく溶けている。
入浴を済ませた二人に出すものではないような気もするのだが。
(ま、残れば朝ごはんにするからね)
◇◆◇◆◇◆◇
「ハンバーグ!」
入浴を済ませてきたシュイージは、ソファーに座る前に皿を手にしたのだが。
(ダドの分だね)
もう一方の手で盆から包みを移動させた先は、ソファーの置かれていない辺なので、戻ってきたダドアーロは、床に膝立ちとなって、テーブルにある包みに向かうと読んでいるのだろう。
(お?)
ちょうど戻ってきたダドアーロは、見るからに悲しみに暮れているのだが、ワゴンを押してきたのでは面白い。
「ばあー!」
包みに気付いたダドアーロは、テーブルへと駆け寄ると、床に膝をつき、はわはわしながら包みを開く。
(食べるのは、きちんと座ってなんだね)
悲しみを減らすことに成功したらしいダドアーロは、包みを手にして立ち上がると、緑茶を配置されている場所に着席し、大事そうに食べていく。
(ソファーの方でいいよね)
ワゴンで運んできたものをテーブルに並べていくと、まだ置けそうだ。
寝かせておいたことによりくったりした唐揚げとフライドポテトもキッチンから持ってくると、シュイージは、さっと手を伸ばす。
くったりの良さを知る存在は、少数派であるそうなのだが。
(美味い!)
「出てきた山羊は丸が四つの広場にまとめておけた。べたべたさんが見張りをしていそうだなー、って思ってたら見つけて、ボノバートが拘束してくれて、ヤマフジのおじさんは山羊が出てきた知らせをジモルルさんのお姉さんのご自宅で待とうとか考えてそうだなー、って思ってジモルルさんのお姉さんのご自宅に向かってたら見つけて、ボノバートが拘束してくれた」
「おお!役所は消滅希望お荷物さまが陣取ってる‥‥‥」
「ジゼットの夜は長い‥‥‥レザリナはどう?」
「シアがヤマフジを別の呼び名としてザリガニッチを領主に、と言っているので出すように、という伝達だそうなものをぽいしておいて、そのままどこへとなると、なんだろうな‥‥‥というのが来たので拘束してやると、シアの手順を邪魔するのか?!と大盛り上がり‥‥‥」
「こーんなことするからには、左の国の第二王子殿下なんだろう?!左の国の第二王子殿下というのは死ぬべき王子に指示書をー!あれあれー?左の国の人員なのに左の国の第二王子殿下を守ろうとしないのかー?さては、このど御曹司さまなのではないのかー?どうなんだー?聞いていた通りの人物のようだな、警戒するのは評価したいくらいだが、厳重すぎるのではないか?と、い、う、の、はー?あれあれー?気付いてた?気付いてたってことにしてあげてもいいんだよ?死ぬべき王子がこうして直々さまにお動いている理由を知りたくなっちゃってるんだろう?そうなんだろう?私が次女さまツアーをしてこい、なんて言うんだ‥‥‥嫉妬深いだろう?ヤマボウシに次女はいない、ということでいいよな?いるなら出して?見て、あ、げ、る!」
「そのまんま!そのまんまのお盛り上がりだった‥‥‥」
「ちゃーんと来てた消滅希望お荷物さまが、だから私の指示なんてもんに従ってやらなくていいって言っただろ?なお語りをしながら連れていった?」
「そうなった‥‥‥」
「守るも何もではあるんだが、ルイザをどうしておこうね‥‥‥」
「登場させられると、ややこしくも何ともないんだが、なんだよな‥‥‥」
「すでに動いている縁組みが、とかそういうのに影響させたくないんだが、今のところ、長男さまの思惑というものなのかな?」
「あらー、持ってるのかー、というのがヤマボウシ家の認識だ、ってことでいいと思うー」
「そっか」
盆を一つ手にして立ち上がると、キッチンへ向かい、オーブンを開けてみる。
甘い香りがあっという間にキッチンに満ちるのでは。
「シア!俺もー!」
「わかったー」
オーブンから出して皿に移し、応接間へと運んでいくと、シュイージは盆ごと受け取ってくれた。
「作ったな!」
「作ったね!ちまっとした食パンに、十字に切り目を入れて、そこにチョコを!」
「バターとかもよさそう‥‥‥」
「やろう!」
私がキッチンへと戻ると、もごもごしているダドアーロの声が聞こえてきたので、ダドアーロも食べるのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
バターの溶けたちまっと食パンを運んでいくと、今度はダドアーロが盆を受け取ってくれた。
「しみ込むかとなると違った?」
シュイージは気にしていなかったらしく、十字の切り目を少し開くように食パンをたわませる。
「しみ込む‥‥‥俺はこういう分離してる?かかってる?なのの方が好き」
「そっか」
空いた皿をワゴンに戻しておくと、テーブルには、甘いものばかりとなっている。
私がキッチンからコーヒーミルを持ってくると、シュイージが受け取り笑っている。
「この持ち手!」
「こう、掴むのではなく、握ってしまうだろう?」
「握っちゃう‥‥‥」
シュイージは、猫が後ろ脚だけでしゃがむようにして背筋を伸ばし、片手を出しているデザインの取っ手を握り、ごりごりと豆を挽いていく。
コーヒーを淹れる道具をのせた盆を運んでくると、ダドアーロが受け取ったので、任せていいのだろう。
マグカップをのせた盆も運んでいくと、ダドアーロが湯を注ぎ始め、部屋にはコーヒーの香りが広がっていく。
贅沢というものを享受できる、それが今現在の私なのだと、どうして悲しくなるのだか。
恩知らず、それを言われて、私はそれでも私を生きてきた。
さようなら、いくら唱えても、唱えても、悲しい。
(それなのに、いい香りだ)
「ガーロイド・スオウなる役職者がいるとすると、ギドロイさまとガーロイド・スオウの指示を受けないのは、ダドや俺くらいってことだよな?」
「どべぐちゃおじさんが呼び出すとすればあなた方、ということだね」
シュイージは少し考えてから、コーヒーに口をつける。
「どべぐちゃおじさんとダドのどっちの言うことを聞くのかとなると、みたいな使い方だろうか?」
「そういう薄っぺらい責任者だと主張するのは、やるだろうね。まずは大規模演習の責任者をギドロイさまだとして、わかりやすく私を踏みつけさせたいのではないだろうか」
「準備万端で待っていた訳だ‥‥‥」
「どうせ、デューイだけでなく、今日は軍の人員として動けな警察の人員がいたのでは?」
「いたな‥‥‥混ぜ込まれてしまって、警察なんだか軍なんだかみたいになってた部隊もあったようだ」
「実際にギドロイさまが指示を出した人員だけでなく、となっていそうだね」
「ギドロイさまはなー‥‥‥そういうのもぜーんぶ自分の責任だとするからな」
「ギドロイさまが指示を出した皆さまだと、消滅希望お荷物さまがしているのは、みーんな胸糞お化けにされているし、死ぬべき王子の着ぐるみにもされていて、でも私がすでに組み込んでいたので、実際にギドロイさまが指示を出したとなるとデューイだけ?」
「そういうのだと思えるなー‥‥‥消滅希望お荷物さまとしては、よしよし、なんだ‥‥‥」
「どうせ、調べてもらって構いませんよ?な船も用意しているに決まっているし、死ぬべき王子は指示通りにそういった船を選んだだろう。じゃあ、ってことで調べようとしてみると、機関室には入れてくれなくて、でも操舵室には入れてくれた」
「お子さまを接待的に?」
「そうだったね。やらせてくれって言ったら渋られたんだけど、第二王子殿下の従者もやらせてやってくれって言ってくれると、やらせてくれた。女の子を売春船やヤマフジに家出させてやる、とかもやってそう」
「そうやって組織を構築」
「誰も所有していない馬車とかあった?いえ、それ、あのお家の馬車です!とか、いえ、自分はあのお家の息子じゃなくて、馬車の手入れを頼まれただけです!とか、いえ、自分は移動させておいてくれって言われただけです!とか」
「あった‥‥‥」
「売春船所有だとか、港所有だとか、停車場所有なんてことにしてるんじゃないかな?」
シュイージは小さく頷き、手帳に書き留める。
「一番や二番所有なんてことにしてるのもありそうだし、ソアさま所有とか、キリ領内のあの店の所有、とか、今運航中の船の馬車だから港に来るのに合わせて戻るんだ、とか、この馬車を納品に向かうんだ、とか、畑の隅に捨てられてたんだ、とか、知らないおじさんに押し付けられたんだ、とか、赤ん坊を乗せたまま家の前に捨てていきやがったんだ、とか、道で立ち往生してるのかと思ったら素っ裸の女性がいたんだ、とか、野良犬が住み着いて子犬を生んだんだ、とかも?」
「胸糞劇がすごいんだ‥‥‥」
「店主に確認してくれ!自分のものにしたと思われたら解雇されてしまう!」
「そういうの‥‥‥」
「馬車も客室なんだろうね」
「それで所有者ではないの胸糞か‥‥‥」
「シュイージが待ってたところの地下空間、非常時に備えて色々入れておけるだろう?とかって?」
「今のところ、ヤマボウシの領主はそのような言い分だ‥‥‥」
「いつもの、ソアさまもそうしてるー、だの、ソアさまがそうさせていってるー、だのなんだろって思ってた?」
「そういうので、あのはっきりしなさ‥‥‥?」
(はっきりしない‥‥‥)
「この下はお高いのだらけのワインセラーだって、ヤマボウシの領主さまから聞いてたので近付かないようにしてたんですよ!とやって、違うのが、となれば、自分は信用してもらえてなかったんだー!」
「そういうの‥‥‥そういう、強制胸糞観劇が終わらない‥‥‥」
自分で言っていて笑ってしまうのでは、シュイージもお疲れなようだ。
「どうしてヤマボウシの領主さまなんだ、と聞いてもらってからの台本も、たーんまり用意してあるんだろうね‥‥‥ヤマボウシって言ってるんだからとシュイージの部隊に?」
「そうだった‥‥‥どんどんヤマボウシにぽいぽいされてくるから、何やってんだ、とやると、手が回らないからヤマボウシで確認する分だということを確認したら旧モクレンに移せって言って、ヤマフジで確認する分だと確認したそうなのを移動させようとしている‥‥‥何言ってんだ、とやると、ヤマフジでは領主も領主補佐も見つからず奥さまでは対応しきれない‥‥‥逮捕してから領主が何を確認するんだ!」
「誰の指示なのかと上っていけば、ギドロイさまの指示ってことに?」
「そうなんだろうな。ばっと上から流してない、って言うのか?部隊ごとに散ってから指示を、というやり方のようだった」
「逮捕者は、ヤマボウシの領主さまのせいにできると、自分の罪をなかったことにしてもらえるかのように?」
「そういうのだよ‥‥‥自分じゃない!誰なのか探すのがおまえらの仕事だろ!って‥‥‥」
「きちんと黒幕を用意しているんだろうとは思わせてくれるんだけど、黒幕だそうな誰かだけが悪いってことにできるものを何かとなると、何を?って思えて、守ってもらえることになってるんだろうなー」
「みーんな事前にそういう台本受け取ってたんだなー、って思わせてくれやがってるよ‥‥‥」
「どうせ、客となったことがある人員もいるんだろう?お試し体験だの、日帰りコースだの、グループ割引だの、若い客層向けのものとしているが、そんなものは、その都度支払いをするので、身元を特定しようとされない客、というだけで、知られていると認識しているから申告したんだ」
「俺には、そいつらも全員台本読んでるように見える‥‥‥」
背の高いシュイージは、背もたれに埋もれるようにずるりと体をすべらせ、頭を背もたれに落ち着ける。
(疲れたね‥‥‥)
「ちょーっと女の子と食事するってことだったのに、あれやこれや買わされて、がっかり‥‥‥だの、女の子をその気にさせたとかじゃなくて、自分としてはお付き合いを始めるんだと思ってたんだ、だの?」
「そういうの‥‥‥」
「おまえらそういう商売をしている女の子と遊ぼうと思って、こそこそ金払って、堂々と女の子と遊んでたのに、麻薬は口にしていないはず!だの、肉体関係までは!だの、シュイージ先輩にはわかりませんよ!だの、でもそういう商売の客になってた!」
「そうだよ!そこから先なんて‥‥‥」
「金払って女の子と遊ぶのを、買春だなんて思ってなかった!っておまえら、どういうのを買春だと認識しているんだ?レストランに入って注文してコース料理並べられたけど飲み物しか飲んでないから食事はしてない!注文しちゃったんだから領収書ではそうなってるし、店員だって全部食べたって言うに決まってるけど、飲み物だっけ!」
「そういうのだよ‥‥‥とにかく違う!そこまでじゃない!ってことにしようと‥‥‥」
「おまえら、シュイージ先輩が暴いたみたいに言いやがってるが、おまえらが買春してなかったら、暴かれるなんてことにならなかった!」
シュイージは力なく笑っていたのだが、やはり溜め息となってしまうようだ。
「ぬるぬるしてるんだよ‥‥‥」
「どうせ、こういう職に就いてたから職場で暴かれるなんてことに‥‥‥とか思ってるんだよ‥‥‥どんな職だろうが、暴かれれば逮捕だが?ってまさか知らないのでは、どうして雇用していたのかって考えたいから、留置所にいて?」
「そうなんだよ!損したみたいに‥‥‥」
「人員整理のいい機会だったんだ、なんて思えないが、そういうものだとしていこう。そいつらみたいなのが、ちょっとくらいって軍の火薬で花火作って女の子と遊ぶんだ。面のいいだけじゃないシュイージ先輩を妬んで、シュイージ先輩から女の子に花火の構造なんてもんを教えてあげてもらっても、シュイージ先輩は火薬を元通り戻しますもんね!とか言うんだよ‥‥‥」
「そういうぬるっとだよ‥‥‥」
「こういうことになるって知ってたシュイージ先輩は、コース料理頼んだんじゃなくて、飲み物買って馬車で飲んだだけですもんね!シュイージ先輩に教えてもらえなかった俺は、飲む場所が店だったってだけでこれですか?!」
「そういうのも!俺も客だったかのように‥‥‥」
「うんざりするね‥‥‥御曹司さまというのは生まれのことだけだと思ってるんだよ、どうせ‥‥‥」
「えー?そんなことあるー?」
(信じてないね?)
「絶対そう!どうせ、そういう家に生まれて、美味しいもの食べて、きれいなもの着て、遊んで生きてきたから御曹司さまとなってるんだって思ってる‥‥‥どうしてあいつらの知ってる御曹司さま方が、強くて賢いのかなんて、そんなもん持って生まれた頭の良さなんてものだけで成立している賢さ!血なんだよ!金を守るには誘拐対策を万全にってことで、専門の護衛なんてもんをつけられてて、子守りしてるそいつと一緒にいるだけで自然と身についたんだ!遊びの一環としてな!勉強?性行為についてだけだろ?」
「そんなー?!」
「本当に、そうだから!御曹司さま方がこれまでずっと、湯水のように摂取してきた恩恵だそうなものを、ちょーっとお金払って体験したかっただけなのに、こんな扱いする?!って思ってる!絶対!そのくらい違う意識の低さで官吏という職に就いていやがるから、金を使って女の子と一緒にいられるようにする!お付き合いや結婚と何が違うんだ?って思ってるから、買春とお付き合いの区別ができない!」
「納得ー!」
(どうよ?)
何がなのかわからないが、得意な気分となっているのだと、ダドアーロに顔面で語りかけると、ダドアーロは、ふすっとなりそうになっている。
「どうせ、あいつに誘われて来てやったのにあいつは逃げやがった、とか、あいつは上手いこと抜け道を利用したんだ、とか言って引きずり込もうとしてるのもいるんでしょ?」
「そういうのもいるー‥‥‥」
「ど糞餓鬼に会いたくないなら、正義だそうなものについて私を黙らせることのできる作文を提出するように言って?尊敬に類する単語を登場させないものか、友情に類する単語を登場させないものか、擬音を登場させないものか、どれにするか選んでいいから、って」
こんなものも書いてくれるということは、胸糞の滝に打たれていたような一日だったのだろう。
「暴力夫をぶっ殺して略奪してくれて嬉しい、って言われて、俺も嬉しい!って思ってる犯人が、殺人犯とどう違うんだ?って聞いても、すらすら語るだろうね」
「そういう部分のぬるっともあるんだよ‥‥‥追い込まれて逃げ場なんて無い状況で買春するしかなかったんだ!みたいに語られても‥‥‥そこで領主に同情してもらえると無罪、ってことなのかもな‥‥‥」
「確認ね‥‥‥女の子が喜んでくれるから金を払ったんだ!それのどこが買春なんだ?!性行為を成し遂げていない俺達は、支払った代金の対価というものを、ほんの少しも受け取っていない!」
「それ‥‥‥会計作業というものをしてくれただけ、としている」
「万引きしたけど食べてない!で、万引きしたことをなかったことにしてもらえるのか?警察に、と言ってやれば、それだけの力を持っていればー、と暴かれていないだけだそうな人物について語っていくだろう。おまえの実行した犯罪について供述しろ、と言ってやっても、自分は情報提供を!と語っていくね」
「そうして、自分の犯罪行為については、なかったことにしてもらえましたよね?だろうな‥‥‥」
「聞いていられないと思わせて、旧モクレンに移してしまおうと判断させる、というのにも胸糞劇を活用、という胸糞多重構造‥‥‥おホワイトさまがルージャンに押し付けたそうな木材お手紙によると、旧モクレンには私の作った本屋があるんですって」
「本屋‥‥‥?」
「フユーの留学中に一番が間の国に連れていったどんちきババアが、リタジオードなる誰かに言い寄られているんだけど結婚とかそういうのは、だそうな最高位お嬢さまの身代わりとなるのでと、私の本屋だそうな場所にケイオスさまが匿ってやっているそうだ‥‥‥」
「何が何だかな構造だ‥‥‥言い寄られてるなんて最高位お嬢さまの思い込みだったのよー、な展開?」
「残念‥‥‥リタジオードなる誰かはどんちきババアと恋しちゃってるだけなのに、リタジオードなる誰かが間の国の最高位お嬢さまに言い寄ってるなんて早とちりした一番の失態をどうにかしてやろうと、留学なんてしやがっている私の本屋だそうな場所を国際的な距離に離れ離れな二人に使わせてやるようになったんだー」
「そういう詰め込み胸糞かー‥‥‥どんちきババアは医局に戻れずにいたらしいからな‥‥‥あちこちにそういう、シアが用意してやったそうな物件があって、そこではどんちきババアが次男さまだそうなど御曹司さまと、ってのをたーんまり持っていそうだよな‥‥‥」
シュイージは書き留めながら溜め息となっていて、ダドアーロも心配そうだ。
「店員の女の子さんに見送りしてもらえただけだ?」
「いるな‥‥‥雨だったから傘をさしてる女の子が店から迎えに来てくれたんだー、だの‥‥‥」
「有名職人の作った材料を使っているそうなケーキだの、貴重な成分を使用しているそうな香水?」
「いるー‥‥‥じゃあ、どうして申告したー?もしかして自分も買春したことにされているのではないかと思ったんですよ!」
「傘さしてもらって一緒に歩いてれば仲良くなるもんでしょうが!」
「そういうのだよ‥‥‥」
「そーんなにはっきり覚えているんだから、どこからどこまで迎えに来てくれたのか、どこからどこまで送ってもらったのかも覚えているし、女の子の顔や名も、商品の金額も、商品をどうしたのかも教えてくれるんだよね?」
「覚えてないんだってー!」
シュイージがやけくそ気味に言うと、私も笑ってしまう。
「申告する、移動する、無罪にしてもらう、という手順になっているので移動なのかな?」
「これまで問題なく働いてきた申告者達の数、というのを見えるようにしたいので、自分から申告?」
「また来てね!なお手紙が届いて恐怖!とか、女の子が自分の名を知っている!恐怖!では、言いそう‥‥‥」
「そういう風に、おまえのこと知ってるぞ、とやられていれば、それも申告すると思えるな」
「ありがとうのメッセージカード書きたいー、愛称なのー?その愛称だと、こういう名?」
「自分で教えてしまっていたのでは‥‥‥」
「こっちの方教えてくれないー、お付き合いしてる方がいるってことー?」
「引きずり込み合いが起こっていそうにも‥‥‥」
「ねえ、ダドアーロ」
ダドアーロは食事の手を止め、手帳を開いてから言う。
「‥‥‥何かな?」
「お見合い気分で軍の制服着て行って、え?手土産にケーキ?たっか!でも、これを今日紹介してくれる女の子のママさんがね‥‥‥買うよ‥‥‥え?領収書見せて経費で落としますからって言わないと払おうとしてくれてしまう?まあ、そうしてほしいくらいな価格ではある‥‥‥え?馬車まで送ってくれる?まあ、それくらいしてくれそうな価格ではある‥‥‥女の子と別行動となれば、残念だったな、と言われてしまい、あれがお見合いだったの?!と、振られ野郎として悲しく帰宅したようなのもいたりして?」
「そういうのを言いたがらずに、買春したことにされてないかなってだけ言う‥‥‥?えー‥‥‥?こんな事態にそんなこと思って実行する‥‥‥?ってところで、とりあえず旧モクレンに移動してろってことにしてもらおうと?」
ダドアーロに首を傾げられ、シュイージも首を傾げて言う。
「とりあえず移動しておくので話聞いてくださいね、と移動することにしてしまい、ギドロイさまの指示に従いましたよ?」
「それで話を聞いてもらえると、そういった出来事だったんだ、なーんだ、と思ってくれますよね?とやるつもりでいる?」
「ので、申告して移動‥‥‥自分の階級では経費で落とせないと言ってしまったから上司の名を言うことにー、というような、自分以外の誰かの名で金を使ったと言い出すのもいそうだな‥‥‥」
「そうやって引っ張り出し合いもやるってことか‥‥‥」
言葉とは虚しい。
生きていくのは虚しいのだと、お子さまはいつまでもお子さまなのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
「座敷牢」
「絶対あるんだよ!」
「地下にあるの以外はダミーだ、くらいに思わせてくれるよね」
「そうなんだよ」
「ああいった梯子、上って調べるのを止めたのがいれば拘束だ。梯子の近くに留まろうとしているのがいない?」
シュイージはコーヒーミルを気に入ったのか、豆は入っていないのだが、握って回しつつ何か考えているようだ。
「何か、こう、すっきりしないんだよ」
「繋がっているそうな場所に繋がっていないのではないだろうか」
「‥‥‥ここに繋がると判断している場所ではない場所に出る?」
「そうだね。同じく、ここはあの地下にと判断した、というのを実際に下りてみても、同じようなのだと気付かないよね?」
「そうだ‥‥‥そうやって、上と下で分断したまま?上と下を組み合わせてる?ような気がしてるんだ」
「隠し扉だの、隠し戸棚だの、隠し箪笥だのもあると思う」
「箪笥?」
「すべての段を一気に引けて、中には通路があるとか」
「そういうのかー!」
(好きそうだね)
「棚に見せかけて窓みたいにぱかっと開くことができるとか、こういう壁の意匠なんだね、と思ってたらこの部分は通路に、とか、額縁を壁面にそってくるんとやると穴が、とか、階段下の、収納なの?ってところからしか行けない部屋がある、とか、屋外にある、庭作業の道具入れ?みたいな見た目や扉の大きさなのに、開けるとそこからしか行けない部屋への出入り口になってた、とか、開けても壁だけど額縁とか作り付けっぽい棚があって、その額縁や棚が通路になってて、犬とか山羊なら通れそうであり、子供や大人も通れちゃうって通路から行ける空間があった、とか、屋根裏に上がってみると、お手洗いや脱衣場なんかも含む全部屋に行けるねってくらいの数の出入り口があって、でもどれかは、そこからは行けて、屋外にも出ることができるような空間への出入り口になってた、とか、地下空間の梯子を上がれば、どこかのお手洗いへの通路がある空間があった、とか、いっくらでもありそう」
「いっくらでも潜伏できる!」
「厄介だよねー‥‥‥申告、移動、無罪というのも私が用意した手順であり、その手順に組み込むための人員をヤマフジで遊ばせておくために、ガーロイド・スオウを動かしていた?」
「ヤマフジで遊べると誰に聞いたのかと辿っていけばガーロイド・スオウでギドロイさまに‥‥‥警察と軍を混ぜたのは、シアに対抗するため、なんてことにもできそうだな」
「売春も仕掛けだらけの建物も、私が思いついてジモルルさんに始めさせたのをヤマフジのおじさんが見つけただけなんだー、とやって、ここ数年だけの行いだったんだー、とする予定だろう。店としての営業許可はきちんとしたものなんだ!それなのに私が客を寄こすせいで!私一人が買春客だとしているんだよ!」
「えー?それで、シアにはそう言っておこうねってことになってるから旧モクレンを特区にしてあげようね?」
「こっちがお子さまだと思って、平気でそういう言い分を言いやがるのがヤマフジのおじさんであり、どべぐちゃおじさんだよ‥‥‥どうせ、ヤマフジのおじさんは、カイドウのじーさまやヤマボウシのおじさんに、私がまーたジモルルさんのところに遊びに来て、って話してるし、私が店の備品として昼寝してたのが私と死ぬべき王子の出会いだ、とか言う用意があるんだよ‥‥‥せっかく仕掛けを作ったんだから使えって強要してくる私が来てると知ったので、みーんなで仕掛けを使用していたんだー」
ダドアーロが微かに口元を緩めて頷いては、シュイージは口が開いてしまっている。
「私が使えって言ったら、全部使ってみせてくれるかな?」
「それはそれで‥‥‥」
(探してみたくなってるね)
「私も馬を使っていい?」
「俺も出る」
ダドアーロも立ち上がるのでは。
「ダドは寝てて?」
「えぇ?!」
「今だってロモンが部隊長やってるんでしょ?」
「そうだけど‥‥‥」
「ルイザと同じく、じっとしている、その時間を持つことで、私達はあなたを取り上げておくことが可能となるのではないか?」
「‥‥‥ギド坊に一緒に寝ようって言って?」
「言っておく」
判断力、それの不在を確認させてもらえたように思っているのは、シュイージもだろう。




