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シアの国  作者: 薄荷堂
左の国
9/106

9.図書庫

昼食の準備を終えてディードを訪ねると、何も言わずともディードは図書庫へと向かってくれる。


「おまえ、使えるな」


唐突に褒められたということは、ファーゼを釣り上げたということだろうか。


二人にばったり遭遇となると、なんだか気まずいので、こそこそしてしまうのだが、ディードがこそこそしないのだから意味が無いと気付いた。


考えてみれば、二人で図書庫となると、それではお相手だと言っているようなものなので、さすがに別の誰かに案内してもらうのだろう。


「行儀見習いに、宮廷内での研修も組み込んでしまったらどう?」


「なるほど‥‥‥お妃さま業だけではない人材を、ということか。だがな‥‥‥」


「あからさまではあるよねー‥‥‥いっそ、読みに来てくれるといいよね」


「仲良く‥‥‥」


ディードが遠い目となっているのは、あの二人が仲良く過ごすところが想像できないからだろうか。


「宮廷内での研修に行儀見習いを‥‥‥ではなくて、さくっと夜会出席を?」


「ギドロイさまはまだ‥‥‥だが‥‥‥」


「のんびりしてると、すぐお年頃にね。王妃さま主催でお茶会は?今なら色々見てみて好みを自覚したり、可能性を熟考する時間を持てるよね?」


「そういう機会や時間を持っていただきたいんだが‥‥‥それこそ年頃となれば、その‥‥‥着眼点というのか?変わってくるだろ?」


「そういうものらしいけど、そこはずっと変化していくものなんじゃない?国の情勢も、今現在とお年頃となった時では違うかもしれないし‥‥‥って考え出すと、相応しいお相手というのは、その都度異なることになってしまうんだよね。側室という制度を採用している国があるのも頷けるけど、バランスなんてものを考え出せば、大変そうな制度だ」


ディードは深い溜め息をついている。


「候補者か‥‥‥」


「そこを知るには、夜会のようなものを催すのが手っ取り早いけど、ご本人としてはもう決まってるなら、そんなの開催しない方がいいしね」


ディードの溜め息はさらに深くなってしまった。


「あの方が、聞いて教えてくださると思うか?」


「‥‥‥お披露目の場をとなれば、教えてくれるんじゃないかな?」


ディードは、ふふっと笑ってくれたのだが、すぐにまた溜め息をついている。


持ち出す許可をもらって、リュックに本を仕舞っていると、ぽつりとディードが聞いてきた。


「おまえ、いくつになった?」


「五つ」


「でかくなったが、小さい。それなのに、中身はずっと老婆のよう‥‥‥しかし五つ‥‥‥十年経つと‥‥‥」


ディードの表情が険しいのは、結論が出ているからだろう。


「老婆だろうね‥‥‥」


「そうか‥‥‥」


本の入ったリュックを持ってくれるディードは、老婆に優しい。


五つになってみて、中身がそんなに変化したように感じないのは、生まれた時から老婆だったからだろうか。


(一生老婆か)


変化せずともよい、というのは安らかだ。






◇◆◇◆◇◆◇






「おまえ、ちょろいなー‥‥‥」


憐れみしか感じ取れない目でギドロイに見下ろされ、リュックを人質としているディードを無言で見上げるしかない。


「すーぐ誘拐されそうだ‥‥‥菓子をやると言われても、ついていくなよ?」


ふふっと笑っておいて、リュックに手を伸ばしてみたのだが、ディードはさっとリュックを肩にかけたので、返してくれる気はないのだろう。


「‥‥‥何かご入用でしょうか?」


ギドロイはお疲れ顔で窓辺に移動して、くいと顎で外を示した。


私も窓辺へ移動し、背伸びして窓から外を見てみたのだが、見えるのは空ばかり。


ギドロイは、ふふっと笑ってから、ディードに指示を出した。


「おい」


ディードが、さっと私の両脇に手を入れて少し浮かせてくれたので、地面の方を見ることができた。


中庭でお茶を飲んでいる人達がいる。


行儀見習いのお嬢さま方だろうか。


(ん?)


お嬢さま方に一人混じっている青年は、リンランと修羅場だった青年に見える。


あの時は庶民のような恰好をしていたのだが、今日の身なりは、いいお家のお坊ちゃんだ。


ディードが下ろしてくれると、ギドロイは長椅子に移動して、私にも向かいの椅子に座るように促した。


(‥‥‥嫌だ)


意思表示としてディードの横に立つと、ギドロイは鋭い目となっていく。


「座れ!」


(嫌だ!)


幼子らしくディードの後ろに隠れると、はあー?!となって立ち上がったギドロイを、ディードが落ち着かせてくれた。


「まあまあ。お座りください、殿下。そこに菓子があるではありませんか」


ギドロイは菓子の皿を手にしてこちらを見たのだが、思いとどまったらしく、菓子の皿はテーブルに戻していた。


部屋の中を見回していたのだが、応接間とあっては、お子さまの気を引けるようなものは無い。


ギドロイは長椅子に腰を下ろして、カップを持ち上げ、一口飲んだ。


「‥‥‥あいつ、知ってるか?」


「いいえ」


ギドロイが扉の方を気にすると、ディードはさっと扉の前に立った。


人に聞かれては困る話をするのであって、私の逃亡を防ぐためではないと思いたい。


(‥‥‥どっちもか?)


嫌な予感しかしない。


「モクレン家の三男坊。領地を拡大して、そこを治めると言い出したそうだ」


「は?‥‥‥え?領地って‥‥‥どう?」


「隣国!隣国の土地!」


「そっちですかー‥‥‥」


「隣の領地だったとしても問題行為だが、とんでもない悪餓鬼で、国境警備の連中に騙ったんだ‥‥‥」


「どのように‥‥‥?」


「まず、中央から指令を受けて隣国を警戒することになったそうだ‥‥‥」


「へー‥‥‥」


「そして、軍備の確認をするだの、隊列を組み直すだの言って、軍の‥‥‥敷地ではあるが、モクレン領ではあるだろ?」


「‥‥‥立ち入らせろ、ですか?」


「そうだ‥‥‥あの悪餓鬼が統率するそうだ‥‥‥」


「うわー‥‥‥混乱が?」


「生じた!俺が!あんな辺境まで出張らされて、さらに隣国との友好関係を示すためにと‥‥‥」


ギドロイの失速に私がちらりとディードを見ると、ディードは微かに頷いた。


これ以上聞きたくない。


「あちらの姫の留学をうちが受け入れるという案が出た‥‥‥どうなると思う?」


ギドロイは微かに涙目なのだから、笑ってしまいそうになるのだが、ここで笑ってしまっては面倒なことになる。


「‥‥‥国の力関係としては、留学生として扱うだけで問題無いのでは?」


「そうだが!‥‥‥前例というものを作りたくない」


周辺国に、ではうちの国からも!となられては堪らない、ということだろう。


「あの糞餓鬼が、あちらの姫を中央まで護衛してくれるそうで、その下見だと言ってやってきた‥‥‥」


「それで、ああしてお嬢さま方とお近付きになろうと?」


ここで、ぱっと明るい顔となるのだから、ギドロイはわかりやすい。


「そうなんだ!あわよくば、ということだろう?」


「‥‥‥そんなのを隣国の姫とですか?」


ギドロイは、すーっと目を逸らしたので、為政者としての判断では却下している案だということだろう。


「だが‥‥‥どうせああして近付いていくのを、止めることまではしなくていいよな?まずはモクレン領で歓迎することになるから、あいつのおかげで、姫はそのままモクレン領で学ぶことになるかもしれないよな?」


ディードが私を連れてきたのは、何とか言ってやってくれ、ということだろうか。


「‥‥‥この機会を棒に振るような姫がやって来るとは思えませんが?」


ギドロイは、がくんと項垂れてしまった。


「‥‥‥悪餓鬼が力尽くで姫を、とならないように、姫を保護する必要さえ感じます。モクレン家としても頭が痛いでしょう。受け入れたくないのは、モクレン家も同じなのでは?」


「だから、姫が中央に入るまで、あの悪餓鬼をこっちで預かっててくれ、だと‥‥‥」


「あー‥‥‥」


(らまー‥‥‥)


「だが、どこだってあんなの預かりたくないし、俺に監督責任があるようなものだから、どこにも預けたくない‥‥‥帰ってくれー!」


ギドロイは、ぼすんとクッションに顔を埋めるようにして動かなくなってしまった。


このような面倒事を抱えているのでは、ぜひともファーゼとまとめてしまいたくもなるだろう。


ギドロイとしても、まとまりたい相手がいるからこのような状態となっているのだろうか。


「軍を率いる気でいるんですから、下っ端から始めさせてはどうです?」


ギドロイが、がばっと上げた顔は笑顔だった。


「いい子には菓子をやろう!」


ギドロイは、菓子を私の手に持たせると、ばしばしと私の肩を叩き、そのまま応接間の外へと背中を押していった。


ディードがリュックを背負わせてくれたので、さっさと立ち去ることにしよう。

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