78.夕方
モーリスとジョルムは、護衛の皆と共にアンドッチを囲んでいて、マーシャは炊き出し作業を手伝っているようだ。
アンドッチの周囲は陰鬱とした雰囲気となっているのだが、何か話してくれているのだろうか。
(今何時?)
懐中時計を確認すると、お子さまとしては、まだ夜とは呼べない時間だ。
炊き出しを早い時間に始めたのは、夜間作業というものを想定してくれているのだろうか。
ポガロの腹の空き具合に合わせただけだろうか。
(そういえば、もう春が来るのか‥‥‥)
そう思うだけでうんざりして泣きたくなるのでは、夕方という空を見上げておくとしよう。
右の国も晴れているだろうか。
「あ、デューイ、高級食材のトリュフなトリュフだよ爆弾」
「あー‥‥‥れは、形を揃えなくていいようでいて、手間がかかるんじゃないか?」
「そうか、違う形となるようにという手間がね‥‥‥王太子もどきが開設したギドリンコ学術所、誰か来た?」
デューイは大変いい笑顔となって、首を横に振る。
「ギドリンコ学長によるギドリンコ学長のためのギドリンコ学長の好みの女の子解説講座‥‥‥勿体ないから、左の国の第二王子殿下が使うんだろうな。きらきら出せるようになってもらって?」
デューイは、他所の子のわがままをどうしたものかとポガロを見やり、ポガロは、そうだな母さん、と小さく頷く。
「デューイが、乾杯用の飲み物作ってあげて、左の国の第二王子殿下は、ちゃーんと耳に着地するまでピアスを持ってる手を寄せたり、ブレスレットを着けてあげるって手を犯したり、ネックレス着けてあげるって言って始めたりするんだよ?」
デューイとポガロは近所のガキ大将にいじめられている子となり、手帳を開いて歩いていくので、情報を整理するのだろう。
「手を犯すってどうやるんだ?」
「ブレスレット、着けるね?え?ほっそ‥‥‥あ、ごめん、手、持つね?ちゃーんと自分の腕が下にくるように女の子の腕の下を通っておいて、ブレスレットを自分の手の腹で押さえるためだと、手の甲側から女の子の手を持ち、えー?小さすぎない?手の平を上に向けさせて、手をにぎにぎしつつブレスレットの留め具をとめると、触れてしまっていた肘まではもう犯し済み‥‥‥手の平を合わせるように手を握り、いいね、と自分の前へと引き寄せるかのように掲げてやれば、二の腕もむふふ‥‥‥そのまま腕を下ろさせれば、とげへへ‥‥‥」
「‥‥‥どうして、すっと触らない?」
「おやおや、バンラームさんは、二人きりの密室状況でなかろうと、すっと性行為を始めてしまうようだ‥‥‥」
「どうして、二人きりの密室状況となってから、始めるようにしない?」
「店で店員さんやってるお嬢さまと、お客さまな、間の国の第二王子お殿下さま中である左の国の第二王子殿下だったり、間の国の第二王子お殿下さま中である間の国の第一王子殿下だったり、間の国の第一王子殿下なんですって‥‥‥左の国の第一王子殿下もご来店するんですって‥‥‥」
きちんと聞こえているらしく、ポガロとデューイは足を止め、揃ってこちらを凝視してくるのだが、それ以上は動かないようなので、バンラームに発言させてやってくれるのだろう。
(したくないねー。他の誰かにしてほしいねー)
だが、近くにいる皆は揃って地図を見始めてしまい、ポガロとデューイは、手帳とペンを構えてじりじりとこちらへと寄ってくる。
それを嫌そうに見ているバンラームは、重そうな口を開く。
「‥‥‥そういう関係ではない?」
「違うんだって‥‥‥人体を着飾らせている最中の様子が知りたいんだって‥‥‥そうやって購入したことにしたものの請求書だそうなベッドへの招待状的性行為実行報告書が、間の国の第二王子殿下宛に届くから、間の国としては、気持ち受け取ったよ、なものしか、左の国の第二王子殿下に送ることができないんだって‥‥‥」
バンラームは嫌々ながらという様子で手帳に書き留め、ポガロとデューイは、こちらを見て小さく頷いてくれた。
そういった手紙が送られてきていたことも、バンラームは知らなかったようだ。
木材お手紙の内容を知らずに考察の場に同席していたのでは、監視されているのだと示してくれていたのだろうが。
そんなことを考えてしまっていては、夕方の空を眺めていたくなってくる。
「炙り出しで出てくるもので、連絡を取り合ってるんだって‥‥‥」
三人は悲しそうに微笑み合い、それぞれの手帳に書き留めていく。
胸糞劇を上演させるとは、なんと虚しい行いなのかと、気が遠くなる。
(あーあ‥‥‥夕方だなー、ってさっきも思ったなー‥‥‥)
どれだけ暢気に笑っているように見えていても、私はずっと、脅威、という存在だったのだろう。
(兵器認定されてる情報は、もう持ってたのかもなー‥‥‥)
このまま地面に寝転びたいような気分となってくるのだが、心の中の灰猫を眺めておくだけとしておこう。
◇◆◇◆◇◆◇
モーリス達には食事をしてもらうことにしたので、ジョルム達だけがアンドッチの側に待機しているような状況となっている。
ポガロとデューイもアンドッチを囲む輪に加わっているということは、そのつもりでいるのだろう。
バンラームは、手帳をぱらぱらとめくって言う。
「どうだったんだ?」
「間の国は、王さまと王妃さまのご成婚の日が、まだ生まれてなくても、第一王子殿下の誕生日になってたんだよ」
「昔は、一番先に男児を生んだ女性を王妃として迎えたんだろうな」
「お一方だけをお相手とするようになっても、実際に第一子が生まれた日を、第二王子が生まれた、として、空席というものを生じさせておくことにしてたんじゃないかな?」
「一番先に結婚が決まったのがケイオスの名を継いで王位も継ぐ?」
「そうだね。王位を継いだのが第一王子だったんだ、となる仕組みだったんだけど、どこかで正すことになって、一人目男の子さんがケイオスの名を継ぐ、という今現在のような形になったのではないだろうか」
「それで、どうしても長男が先に?先頭に?というものが残っているのか?」
「私としては、王さまのお子さま方の頂点!という印象ではなく、マスコットキャラにされる‥‥‥というものなんだよね」
「昔は行いによって手にするものだったのが、手にしたもの通りとなるように?」
「あの国はケイオス大好きすぎて、伝承なんだか逸話なんだかというものから、歴史に昔話にと、ケイオスだらけで、ざっくり表現すると、ゼンマイさんのケイオシュがたーくさんいる、という。伝わる?」
「すべてが一人のケイオスの行いではないのに、みーんなケイオスという名なので、ケイオスという名を持つ人物の人物像のようなものが、もう出来上がってしまっているというものか?」
「そういうのだね。同じ現象だと思うんだよ。どばかアンドッチがどばかお殿下さまとして、あれもこれもそれもとどばかに大陸中でどばかに行っていた分がたっぷりありやがる。しかしバンラームの目の前で、私は、どばかアンドッチのどばか行いを、私のアンドッチの行いであるかのように語った。ケイオスに続き、ガーロイド・スオウも押し付けられてしまっていた私のアンドッチは、兄弟なんてどばかくくりに入れられそうになっているんだが、どうやって否定するだの立証するだのなんてことができるんだ‥‥‥と立ち尽くしているので、黙秘、という行いをしている。それによって、私の述べたどばか行いを全部、私のアンドッチの行いであるかのように思ってるよね?」
「‥‥‥思ってた」
「バ!バンラームさん?!」
バンラームがポガロの身包みを剥ぎ始めると、部隊の皆で作業を引き継ぎ、ポガロは軍の制服を取り上げられていく。
(所持品‥‥‥)
ポガロの着ていた制服のポケットを探ると、手帳とペンが見つかり、所持品を探す作業はナラヤが引き継いでくれるようだ。
私がポガロに背を向けると、バンラームも同じく私の隣に座り、背後では煩いポガロの拘束が進んでいく。
モーリス達は食事を続けながらも、嬉しそうに立ち上がっていて、俯いてはならないような、そんな気分となってくる。
「一人目男の子さんをケイオスと名付けるようになってからは、そういった出来上がっているケイオス像というものを知っている国民の目から見ても、という状況となるし、国として正式に記される歴史においても、残念長男認定されてしまうことになるから、弟達を足蹴にしてでも一番先に結婚!というものが、王となる人材の教育に組み込まれていて、そこでも、男の子さん一人の代が出てきたりして、薄れていったものの、という部分はあるんだろうと思えるけど、どうせ、はい!一番先に結婚するおまえが、今日からずっとケイオスだ!をやっていたので、それが色濃く残っている、ということだろうな、って」
「一番先に結婚する気満々どばかアンドッチが、他の兄弟はなりたがらない‥‥‥どばかアンドッチとしてはゼルガル像?」
「誰かに限らないね。誰が誰として振る舞っていようと、兄さんがー、だの、弟はー、だのと語ってしまえばいいだけ、って言い方をしたくないけど、そういうものだよね?」
「言い訳なんだが、俺の中でごっちゃごちゃだ‥‥‥」
「現状、というものだよ。思惑、という部分について、そーんなこと思ってない!極限にお腹が空いていてどうしても誰よりも一番先に用意してもらう必要があったから調理場のシェフに伝えてもらいたくて、店員さんかな、という女の子に、ちょーっと話しておこうと思っただけなのに、あ、おしぼり落っことしちゃったな、どうしようかな、ってことで、女の子の前にしゃがむことになっただけであって、みじっかいスカートはいてら!なーんてまーったく、あ、そういえばそうだったかもな、という程度であって、どうして極限にお腹が空いていたのかって、そんなのバンラームさんが、僕のお昼をちょっと少なくしたからだよね?」
「うぜー!聞いたことにだけ答えない!全然違う方向へ連れていこうとする!」
「私のアンドッチと私のジーオは」
「待って?誰?」
「ありがとねー、ありがとー、王子だよー、はははー、ありがとねー、あー‥‥‥横になるか‥‥‥ちょっと、肩甲骨の辺り、踏んでくれ‥‥‥」
「えー‥‥‥?」
「でへるのは作法というものなんだ。こういうのが好きなんでしょ?と、胸元を強調するものを着て寄ってきてくれる、これはこれはすみませんね、とでへる、それだけなんだ」
(静かになったな)
大人しく拘束されることにしたどころか、自分で着替え始めたような気配さえする。
モーリスが残念そうに座ったということは、私の背後では、そういう状況となっているのだろう。
「だけ?」
「バンラームさん抱いて!バンラームさんが抱いてくれないと!バンラームさんに抱きたいと思ってもらわないと!なお嬢さまが、手にしてくれとフォークを構え、手作りお弁当持って寄ってきたら、どうするんだい?」
「王子‥‥‥そんな勢いで寄ってくるお嬢さま‥‥‥」
「間の国では、こう、胸の下のところで、きゅっとなってるデザインが流行中‥‥‥王子のため?」
「王子次第で流行が変化してしまう‥‥‥」
「あなたのことを知りたいの!とお弁当の中はそれぞれ趣が違い、テーブルと椅子持参で寄ってきてくれるような方から、スプーンに掬ってある分だけをあーんさせて!な方もいれば、あっちのお部屋でと移動を促す方もいる‥‥‥ちょーっと胸元開けてるなー、が」
「そっかー!なるほどねー!素通りする際の作法!そういうものなんだな!」
「バンラームさんはいつも、そのような状態の女の子に寄ってきてもらえてしまう場所を通っているんだな‥‥‥」
「きったねー!」
「どっちかなんて決められないよー!なバンラームさんのお気に入りだと周囲に思われている二人のお嬢さまに通ってきてもらいたがっているお家で、そのような服ではない服を着ているのになとびきり美女が、とんでも美味しいお弁当を用意して待ってくれている‥‥‥バンラームさん、どうするんだい?」
(笑顔だねー)
「抱く!と思っているに違いないバンラームさんは、お弁当食べに通うどころではない通い方をするに違いない‥‥‥おちょろい男性器をお持ちなバンラームさんだって言うと、男性器を使わない抱き方をするに決まっているだろうがとか言うバンラームさんが、すでに染みついている習性だと言わんばかりの言い訳を始めやがったど経験済み私のジーオと、どう違うんだい?」
(もっと笑顔だねー)
「俺はつるぺた幼女を抱きたいんだから、ふっ、そういった、ふっ、まあ、ふっ、いいから、できるから、俺は幼女趣味のど変態なんだと自覚してしまえば、ふっ、そんな作法はもう除けておくことができるんだってことにも、ふっ、つるぺた幼女が気付かせてくれたんだから、ありがとう、まあ、その、違うんじゃないか?性差というのはすでにある、そうかもしれない、ちょっとくらい、ふっ、違うもんなんだろうなって思う、思ってる、から抱く、抱ける、大丈夫、お年頃なんだから、つるぺた、ふっ、は関係なく抱きたいんだよ」
「すみませんね、うちの子が‥‥‥」
バンラームに謝罪されてしまったジーオは、近所の子に上がり込まれたご老人となって、戸惑いの愛想笑いとなっていることだろう。
「バンラームさんにとって都合のいいお立場に追いやってくれるバンラームさんは、わざわざ最中に遭遇しにきたんだと判断してくれやがりまして、何をしているのかなんてわかってないってことにしてくれるよな?ってことで続行する‥‥‥あーあ‥‥‥お子さまが明るい気持ちで生きていける場所なんて、この世には無いのかもしれないなー‥‥‥超絶お便利お子さまだそうなど糞餓鬼を超絶ど便利物質としてお存在させておいてくれるほどの、どぎも男性器使いバンラームさんは、風呂の用意しておけよ!と言っていたのは、私ではなく、バンラームさんの男性器を突っ込んでいた女体に向けて言ったんだ、ってことにする‥‥‥バンラームさんがお作法なんてものをご披露あそばしていた風呂の用意なんてしなきゃよかった‥‥‥」
「おまえの!ジーオなのかは置いておこう!ジーオさん!はい、書いた!」
わざわざ手帳を持ち上げて書き込まれても、お子さまのご機嫌は傾いていくばかり。
「どぎも男性器使いバ」
「かっこ!かっこつけておこうかな!」
「どぎ」
「続けろよー?」
「どち」
「続けてください!うちの子ではない、俺のはるか遠い彼方のお天辺から見下ろしていやがるど糞餓鬼さま!」
仕方ねぇな、と笑ってやると、バンラームは、扱いにくさに吐き気がするのだと、遠くへ向けて溜め息を逃がしている。
(どっか行きたいなー‥‥‥)
そこがどこなのか、そんなものを思えば、ここではないどこかなのだと、それだけがわかるお子さまはどこを見ていればいいのかと。
(自分でここまで来た)
「右の国の王さまとしては、え?何?うちのどこかの女の子のこと?作法?輿入れさせることを検討してほしいけど、そうは頼めないことが明らかすぎる辺りにいる女の子さん?つるぺた?今じゃなくて、将来的に輿入れさせることを検討してもらいたいから、そうできそうにどうにかしたいってこと?うちを通さずに済むやり方してくんないかな‥‥‥でも、まあ、間の国の王家所属だからな‥‥‥そうするから一応耳にしておいてってことなのかもしれないけど、耳にしたくなかったな‥‥‥アンドッチもついてるし、とんでもないことをしでかしてくれやがったりはしないよね?帰って?」
「そうだっただろうな‥‥‥どばかの立場が、まあ、会ってやるか、とさせていただけ、だとしても、会ってもらえたということがな‥‥‥ナツメのじーさま?」
「誰?うるせぇ?間の国の王族?何してやがるんだ?は?右の国の王さまで、次はキリ家を足掛かりに左の国の王さまにといこうとして、間の国の王家の出張所的分家的他家だそうなキリ家の先代ご当主さまにぺいされたから、右の国の王家の出張所的分家的他家だそうなうちに足掛かりになりやがれ、と?間の国の警察に、まあ、間の国の王家にも、連絡してやれ‥‥‥え?あ、巻き込まれてる兄妹‥‥‥でも、警察で保護としておくしかないよな?そこで別々にしておいてやれ」
「お‥‥‥おまえのアンドッチと王女さまは、先に戻れたんだったな」
「王女さまと先に戻れたのは、今日は僕がケイオスだよ!を私のアンドッチにやっては、私のアンドッチの従者を強奪して連れ回し、大歓迎長男だとして楽しく女の子達と遊びまくるのも染みついた習性なのかもしれない、生まれた時からアンドッチをやってた、側近達も全員財布を持たないという方法で、ようやく主食を食するという行いを実行するようになり、真面目に働くようになったのかもしれない、私の、どぼへ、ジーオだよ」
「‥‥‥そこに転がってるアンドッチは?」
「今日はおまえがケイオスだ!を私のジーオにやって、自分の従者を置き去りにして、私のジーオの従者を強奪しては、甘えんぼ次男だとして楽しく女の子達と遊びまくっていたのは今現在もなのかもしれない、生まれた時からアンドッチをやってた、ふっかふかスリッパしか与えないという方法で、王城に幽閉同然にしてやることで、真面目に働くようになったのかもしれない、私の、どぽけ、アンドッチ」
「どぼへとどぽけかー‥‥‥」
「お二方は大型船に乗せることにしておいて、ナツメのじーさまが、なんか私に手紙送り付けてどうにかさせたいって言ってるのが来てるぞー?って連絡してくれたから、皆に靄大陸の各国王子さま王女さまとして手紙を送ってもらったし、私のジーオと王女さまにも手紙を送ってもらえるようにお願いしたし、右の国のガーロイドさんにしつこく文通しようと言い続けると、弟妹のどれかに送らせるから!ってあしらってもらえたし、ビュードノーアさまにだけ!お願いしたら、ど糞ギドリンコがゼンマイどばかと交換ノートなんてお行事を始めやがった」
「‥‥‥そのように動いた?」
「どうせ、私のせいで右の国の王さまが迷惑してるのよ!と始めてくれやがるのが見えている。私がイソトマ五人衆の一人をヨツバと呼ぶことを決めると、ゼンマイどばか娘もローレンティアだそうな部隊の一人をヨツバと呼ぶことを決めて、レンギョウ商会の従業員の中から勝手に任命していた」
「あ、そういう風に別なんだ‥‥‥忍者?」
「ど糞ギドリンコにモクレン家三男認定されてしまっていたから、ど糞ギドリンコには、下っ端から始めさせては?と言っておいて、ビュードノーアさまに桃葉桔梗茶房で働けるようにしてもらうと、じいさまが給金として私の小型船を貸し出してくれた。右の国のガーロイドさんが来て、でも、何も言わないから、ビュードノーアさまと、テオが怯えたのでヒイラギ卿も一緒にシキミに行くと、シキミのじーさま連中が、右の国のガーロイドさんに、どうにかお船を買わせてやろうと頑張っていた。右の国のガーロイドさんは、私の小型船を貸し出してもらうことにして、帰った」
「おまえって本当に!本っ当に!いっくらでも出せるのな!」
(まあな)
私が片頬だけで微笑んでやると、バンラームの口元も弧を描いていくのだが、その目は殺意に満ちていく。
「バンラームさんはじいさまの孫なんだから、桃葉桔梗茶房は実家だよね?」
「実家‥‥‥?」
「桃葉桔梗茶房にバンラームさんが女性を連れて来店するということは、家族に紹介するために、実家にお相手を連れてきた、という行いをしているということだ。バンラームさんの奥さまであるゼンマイどばかは、バンラームさんはお妾さん帝国を築いていやがる!と泣いていて、間の国に留学したはずの私のところには、パパさん達がやってきて、時間って知ってる?と聞いてきやがる‥‥‥バンラームさんは男のロマンだそうなものにつかりきっていやがる三十七のおじさんだから、五十!五十になれば、きっと、男性機能の衰退というものを予感しやがってくれて、どれほどの帝国を築き上げているのか、やっと、気付いてくれるから、刻限、というものを見てわかるようにしてやろう!ということで、時計に見立てると、十二時のところを刻限として、バンラームさんがいるのはここだよ?という場所に一つだけ違う色石を配置した、帝王ブローチをつけさせよう、ということになった!」
「‥‥‥ロマン?」
「女体というのは年頃が絶頂だとわかりきっている!年頃しか抱かない!そのような贅沢に慣れきっているじじいになってから、わっかいのを嫁さんにする!これこそが男のロマンだろうが!と熱く語るバンラームさんは三十七だから、あと十三?ということになり、パパさん達の議論が始まった‥‥‥バンラームさんはいくつになれば、もう手を出していい?」
(お?)
逃げるのかと思えば、やってやるよとこちらを睨むバンラームは、ジーオ達の方を向いて座りなおしたので、もうジーオの着替えは終わったのだろう。
私も座りなおそうとは思うのだが、どうにもそのような気が起きない。
私が続かないことにより、バンラームをさらに苛つかせることになるのだと、そんなことはわかりきっている。
(夕方だー‥‥‥って、思って‥‥‥)
心の中の燎原を見つめようと、崖に寝転ぶ灰猫を撫でてみようと、この体を動かすことをしようと思えない。
モーリスがこちらへと歩いてくるのが見えている。
勇ましい日々を生き抜いてきたどばかアンドッチを、誰がどうにかできるというのだろうか。
恋とはわからないものだ。
誰を特別に思うのか、それだけで、国というものに変化をもたらすその立場にいて、どうにかもたらすものを最小に、そう願い生きてきたのだろうか。
「これが必要かな?」
にこやかにモーリスが差し出したのは、あの日のままのブローチの実だ。
どうか、そう願うことに、何も見いだせないと思いたくないのなら。
「モーリス、二番が歯抜け伝説に笑い転げて腹筋鍛えていたせいでフユーがいなくなった、ってティファカさまとラージウに伝えてきて?ティファカさまの睡眠をどうともしないところで、従者とできる方々やお犬さまも連れたティファカさまとラージウを先頭に、今からおまえがケイオスだ!」
モーリスは、きゅっと眉間に皺を寄せ、くいと伊達眼鏡を上げる。
私は手帳を構え、続けるとしよう。
「が、西部支所の部隊長な皆さんを率いてきて、カイドウ卿に、現況の報告をして、今から書くものを渡してきて?歯の抜けない女体の搾取法で大盛り上がり二番のせいで、どす闇属性が強まる一方なので、闇に溶け込むことにします。歯が生え揃っているだけではない女体が大好き二番に気付かれないように、間の国の皆さんが、ミィアンとヨツバをお家に帰らせてあげてくれました。間の国の皆さん、ありがとう。私の素材製造者の選別見本とされただけのヒイラギ卿が私の素材製造者だなんて言っていない、という、とっておきだそうな胸糞劇をうっとりと大好調上演中三女さまが、ゼンマイどばか娘ぶってジゼットを胸糞滝壷に放り込んでくれたので、もちろんゼンマイどばか娘を泣かせてでも三女さまと一緒にお風呂に入る二番が、スオウの納屋にあったごみと同じく、三女さまも間の国の地下牢にぽいしてくれたはずですので、どうか、私こそがロシーノのアローラなのだと、そう覚えていてくれたなら、三女さまのアローラであるゼンマイどばか娘に、今からおまえがケイオスだからな!」
モーリスはさらに眉間に皺を寄せながらも、私から目を逸らさない。
「からこのブローチを贈らせることを、考えてみてください。今からおまえがケイオスなんだよ!」
眉間に皺を刻み続けるモーリスは、ついに顔を背けそうになっているというのに、それでも私を凝視したままだ。
(しかし、ブローチの実をー?ポケットにね)
「のだーい好きだったりしないでほしいフユーリンさんではあっても、決してマツリカではないゼンマイどばか娘は、辞書が読めるのかもしれません。満天の綿雪をあなたへ。リーシャ・シロツメクサ」
私が破いたページを差し出すと、モーリスはしっかりと固めた笑みを浮かべ、だが、すぐさま受け取るのでは、私も立ち上がるしかないだろう。
「デューイも検査することはできるが、形としてパミザも国境まで連れていってもらいたい。部隊長、と表現したんだが、ティファカさまの指示を受けて、西部支所の軍全体を動かすことを始めることのできる、という辺りの部隊長のことだ。ど糞ギドリンコには、ここが本部だ、と言ってやれば大人しくなり、どんなブラシでもいいから与えてやって、魔女が呪ったから一瞬でもブラッシングしないでいると将来はげると言ってやれば、狂ったようにブラッシングしているに決まっている」
さすがわかっているらしく、モーリスも笑い出す。
「ジーオの謎の部隊の皆さんだけに、ジーオを持ち帰らせてやってはどう?どういうものなのかわかっていないんだが、私のアンドッチに、私のポギャッドという名を貸し出そうか?」
「代金はジョルム?」
「そうだね。そこもどういうものかわかっていないんだが、スオウの使用料は私の絶対服従の下僕となることだと知っていてスオウを無断使用していた私のアンドッチなら、非常時、という便利な言葉を安全平和無影響で使用してくれるだろう。ディアナさんなら、どうしてあげてしまったのかと、きちんと全部見て、気に入ったのだけ受け取って、あとはごみの所有物だと認定してやってくれるだろうが、ごみがどれだけ煩く涙腺芸を胸糞く披露しようとも、ごみが何をしてきたのか、もう私には見えている、そう教えてやれば、一瞬黙ってしまい、そこからは私がいかなごみなのかを語っていてくれる。ありがとう。私はずっと、ずっと、私とあのごみがいかなごみなのかと、知らしめてやる機会を待っていた。待っていただけだった。ありがとう。頼んだよ」
モーリスは、受け取ったページをしっかりと挟んでおいた手帳を小さく持ち上げてみせると、胸元の内ポケットへと仕舞い、落ちてきたりしないのだと、上着の裾をぱたぱたとはためかせる。
「デューイ?」
こちらへと来てくれたデューイは、真面目くさった顔をしているのだが、言ってくれるだろうか。
「私のジーオは、軍を動かす権限を持っているかのように発言してしまってから、ティファカさまを先頭として待機させておく、と言っていた」
「動かないでしょうがー!さっと対処できたでしょうがー!あなたはジーオですよー!」
きちんとジーオの方を振り返って言ってくれたデューイは、楽しそうに指示を出していく。
「ジーオの部隊の皆さーん!食事を終えたら、ポギャッドの部隊の皆さんの分の食事も運んであげてー!こっちの皆さんは、ジーオの部隊の皆さんが食事を運び終えれば食事に入って、モーリスと移動を始めるよー。パミザー!食事と移動の準備をー!僕も一緒にモーリスの部隊と国境へ向かうー!」
「わかりましたー!」
パミザの声が返ってくると、動きを止めていた護衛達は食事を急ぎ始め、そこへモーリスも走っていく。
どうか、そう願うことなど無力なものだ。
だが、どうか、そう願うのならば、私は振り向かなければならないのだと、溜め息を押し込める。
私が振り向くと、皆はわたたと視線を彷徨わせている中で、丸太となっているジーオは、柔らかに微笑んでこちらを見上げている。
「ジーオ、ゼンマイどばか娘の謎の軍人ボゲチョのだそうな手帳に触れた?」
「着替える時点で入っていたものには触れていない。先ほどのは、そっちの黒い、俺はノートと呼んでいるんだが、手帳だな‥‥‥そっちの手帳で、自分で間の国から持ち込んだものだ」
「ボゲチョのだそうな手帳には、カレンダーなページに採点数字だけが書き込まれていて、自由に書けるところには、女の子達それぞれをお評価するポエムが書かれているし、女の子への贈り物候補やおデートプランや、何とか・サザンカと書いてみていたり、子供の名なんだろうね、というものがずらー‥‥‥」
ナラヤは、さっとボゲチョのだそうな手帳を手にして、見るのは自分だと大事に抱えるのだから、バンラームも頷いてやるしかない。
ナラヤは、いざ、と手帳を開き、笑って俯いてしまったので、正解したと思ってよさそうだ。




