75.アンドッチ
ヤマフジ領の制圧に時間を要することは、予想してはいたのだが、どうにも腹立たしい。
部下達から報告が上がってくるポガロも同じような心境らしい。
もう炊き出しを始めたということは、これは明日もヤマフジの制圧作業となるということだろう。
「がっちがち蒸しパンある?」
(は?)
恨んでいるのだろうが、これから小出しにしていくのだと予告されたようなものなので、苛っとする。
リュックの中にあった蒸しパンを渡してやると、ポガロはかじりながら炊き出し作業を行っている方へと歩いていく。
(パンケーキ焼くなら、私の分も)
念を送っていると、こちらに来たガーロイドは嫌そうに眉間を摘んで言う。
「ドジオ周りをいいだろうか?」
「周りって?」
「何かあったから、おまえのところに来たんだろう?」
「これ、拘束して?」
「えぇ?!おい!」
待ってましたとデューイが取り押さえてやると、周りの皆も盛り上がる。
(さすが手際がいいね!)
丸太状にされたガーロイドは、必死に何かを考えていそうに見えて、吐き気がする。
「胸糞お化けドジオを便利に使役しているおまえが、ドジオはモッコク領追加の理由を知りたがっているものとする情報を私に寄越したよな?ぷきゃきゃきゃきゃ!どうして知っていたんだ、と聞いたところで、予想しただけだ、と言うに決まっているおまえは、そーんなの、なーんにも知らなかったんだよー?と主張しに来たんだろう?ゼンマイ娘好きすぎアンドッチ」
「おまえがアンドッチなのかー!好きすぎアンドッチだったのかー!パンナコッター!」
「地下牢まで転がっていって?途中で生えてる雑草だけは食べてもいいよ?おまえの犯罪歴が処刑するのに足りないと、私は考えていない。おめでとう!左の国の王太子もどき認定!間の国のお殿下さま!」
「おめでとう!アンドッチお殿下さま!」
「いや、何言ってんだ?」
胸糞劇を続行されては吐き気がせり上がってくる。
「紫色に固執してるんだから茄子を描けよ!ばーか!」
「下等生物さまは、茄子の皮を食さないんだ!ばーか!」
「どうせ、堤防ねー、ってところから馬で乗船したり、下船したり、積み荷とか人の入れ替えとかしてる」
(お!)
さっと手帳を構えるのだから、デューイというのは仕事をする気がある。
「‥‥‥実験、してきたね?」
「堤防ねー、っていうのがある場所全部で実行可能。操舵についても、忍者にやらせるって言ったら、すんごい丁寧に教えてやってたから、堤防ねー、っていうのに寄せるのに慣れてるよね?」
「海底というような部分についても、船を傷つけることにならないと知っていたんだろうな」
デューイも手帳に書き留めていると、バンラームとニーニトッセは地図を広げ、ガヤディーが堤防的建造物付近での船の軌跡を指で示していく。
(ボウルを置いてこんか‥‥‥)
かなりの空腹なのだろうポガロは、ボウルの中身を混ぜながらこちらへ来て、ちょっとどいてとガーロイドを足で転がす。
「おい!堤防なんてそんなもんだろ?!皆してこいつの、何だ?何を始めているんだ?!」
ガーロイドに騒がれ、うんざりする。
「堤防、というのは、潮流を制御するためのものであるはずなのだが、まさかそんな言い分と言いやがるのだろうもので、おまえを無罪にしてもらえるなんて考えていないよな?私はもう決めている。おまえを戦時下に立たせてやるよ!」
「下等生物さまを苛つかせただろうがー!左の国に対してとんでも弱者だそうな第二王子お殿下さまをお楽しみやがって!」
「堤防ねー、ってところに合わせて停船してみせることさえ、できていたし、馬での乗船も下船も、モーリスー?」
モーリスは、側近達にマーシャを紛れさせて、こちらへ来てくれた。
ガーロイドの視線の先にパミザが立ってやると、マーシャは、ガーロイドの顔を確認しようと、立ち位置を探っていく。
(次だね)
「タヤナンー?」
タヤナンは、さっとパミザの隣に立ち、二人がガーロイドの視界の中で向かい合うように、パミザが向きを変えれば。
(わっかりやすーい‥‥‥)
確信を得たマーシャは、こいつだ!と小さく何度も頷いてくれた。
(ありがと)
モーリスが側近達も連れて、ガーロイドの視界の外へと移動し終えると、パミザとタヤナンも、ガーロイドの視界の外へと移動していく。
「アンドッチであることを確認!」
モーリスにも認定してもらえたということは、もうアンドッチということでいいのだろう。
「こいつは右の国にも、どこの国のなのかは明言せずに、第二王子お殿下さまとして入国しやがっていた」
「常習犯だな‥‥‥」
「私を間の国として引き受けている左の国からの留学生だとして前に立たせ、里帰りしたいと言っているので、休暇というものだとして扱ってもらえると、大変助かる、馬と馬車を用意してもらいたいんだが、頼めるだろうか」
「まるで、左の国から差し出されてしまった迷惑な存在を、左の国に知られないように帰してやるのだとでも‥‥‥上から目線で、間の国のお殿下さまとして右の国に要求する際に、左の国を利用‥‥‥右の国も共犯だとしている言動であり、どちらの下につくのか、という言動でもある‥‥‥」
「何を言っているんだ?!そのような解釈をするおまえの危険性を理解しているのか?!」
(モーリスの、危険性か)
「お殿下さまブローチをつけて、馬に乗って集団の先頭を走る、休暇中だそうなアンドッチお殿下さまをまいてやると、国境に戻って、お殿下さまが選んで命じていたお兄さんと、お兄さんのパパさんと、お兄さんのパパさんの息子達を、ナツメ家の御曹司さまへの手土産にもらってきた」
「ヒイラギ卿の副官さまだよね?」
「そうだね。サーベルタイガーぶってたそいつによると、キリというのは、間の国の王家の出張所的分家的他家で、ナツメというのは、右の国の王家のそういうのだそうで、そいつは、押し入って居座っていたナツメ家のじーさまを、右の王さまとして扱ってやがった」
モーリスは大きく目を見開いてアンドッチを見下ろし、ペンを握りしめている手を下ろすことができずにいるようだ。
権力というものを手にしているのだと、自覚しているが故の行いを、誰がどうしてやれただろうか。
「ナツメのじーさまは、おまえを守っていたんじゃない。おまえから守っていたのだと、そのくらいは理解してくれていないことには、誰もが、おまえが生きているのが嫌になると、そう、思うことさえも、できないんだろうな‥‥‥胸糞いおまえは間の国の金を使って、おまえを右の国の隣に立たせてナツメに謝罪を、だのと胸糞く実行させようとするんだろうが、迷惑なんだ。おまえに関わられたくない。おまえ、他家として排出されたそうじゃないか。スオウは私の所有物なんだが、間の国は私の所有物を、おまえに与えた、そういうことだろうか?おまえが今現在、左の国でのおまえの犯罪歴というものを並べていく作業をしてもらえているのだと、理解しているんだろう?」
待ってみたところで、アンドッチは何も言わないようだ。
「特権なんてものだと解釈していれば無罪、だとでも思っているんだろうが、そんなものは実現不可能というものだ。おまえは間の国の王家に所属している犯罪者だ。おまえの行いは、左の国に私の所有物だと認められている私の所有物を、間の国が盗み、間の国の所有物だとしておまえに使用させている、そう証言した、というものであり、左の国では、私の所有物を、おまえがおまえのものだとして使用しているのを確認済みなんだ。言った言わないだの、言葉選びだの、線引きだのと聞きたくない。おまえが犯罪行為を実行したのを、私に誘導されただの、私の言った内容はそうするようにとしか聞こえなかっただのと、おまえの解釈というものによるものだと供述したとして、それでおまえが無罪なのだと立証できるのか?間の国が間の国を、間の国の王家を守る判断をするのは、当然というものだ。おまえは守らない。おまえは利用するだけ。おまえによって間の国の王さまは、どのような立場に立たされているのか、おまえは今でも気付いていないということにするんだろうが、迷惑なんだ。誰かに守ってもらおうとするな。間の国の王さまはおまえを守っていない。おまえから、守っているんだ。おまえにずたずたにされようと、間の国が今も国として成り立っているのは、王さまの命というもののおかげだろうか?おまえ以外の皆さまが、どれだけの吐き気を堪えて生きてきたのか、おまえにわかるはずがない。おまえによると、間の国で他家として排出されたおまえは、リンラン・レンギョウに拾われて、ギドロイ王太子殿下によって、左の国の宮廷に存在するそうな軍事局局長という職、それに付随する権利だの役得だの保障だの、ガーロイド・スオウという名、さらに私の監督責任、というものを与えられたそうだ。おまえがリンラン・レンギョウとギドロイ王太子殿下を犯罪者に仕立て上げた。間の国の王さまの命なんてものを差し出せば、それでおまえを無罪とできるんだろうか?おまえによると、左の国の第二王子殿下は、間の国で、間の国の第二王子殿下として引き籠もって暮らしているので、ギドロイ王太子殿下により、おまえが左の国の第二王子を任されたそうだ。おまえによると無能だそうなギドロイ王太子殿下のことを、おまえがおホワイトさまと揶揄していたことを知ったギドロイ王太子殿下が、おまえにおホワイトさまとしての医局勤務を命じたそうだ。おまえが無能だとするギドロイ王太子殿下に、おまえはどれだけの、許可、だそうなものをもらっていたんだ?おまえが左の国をどのように扱っているのか、間の国の王さまの命だけで足りるだろうか?おまえによると、左の国の第一王子殿下は、ギドロイ王太子殿下と同じく、仕事なんてものをせずに遊び惚けていて、女性関係に汚く、その毎日は胸糞にまみれているそうだ。誰も信じていない、なんてことになっていないのだと、おまえが、そう言っていた。雪野原ちゃんを務めた代金というものをまだもらっていない。私は、間の国の西部支所を置いている領地、ティファカさま、ティファカさまの側近の皆さま、西部支所を置いている領地に暮らす皆さん、西部支所に所属する職員、それらが代金に相当すると判断している。代金を受け取ろう」
笑顔となっているデューイは、同じく笑顔となっているポガロと顔を見合わせ固まっていたのだが。
(混ぜるんかい‥‥‥)
ポガロは、ボウルの中を混ぜつつ言う。
「‥‥‥フユーにあーげる!ってことで、銀木犀を植えてくれた?」
「うん!」
イノセントお子さまで返しておくと、モーリスと側近達も笑顔となってこちらを見ていたのだが、アンドッチを見下ろして何やら考えているようだ。
「おまえに勝手に隣に立たれてしまった右の国が、おまえの犯罪にどれだけ関与しているのか、その判断をするのに、おまえの解釈なんてものは邪魔なんだ。おまえに犯罪者に仕立て上げられてしまった、ギドロイ王太子殿下とリンラン・レンギョウが、何をしてきたのか、その判断をするのに、おまえの解釈なんてものは邪魔なんだ。おまえに仕事をしていないものとされてきた、左の国の第一王子殿下と、左の国の第二王子殿下が、何をしてきたのか、その判断をするのに、おまえの解釈なんてものは邪魔なんだ。キリ卿だそうな人物が、何をしてきたのか、その判断をするのに、おまえの解釈なんてものは邪魔なんだ。ナナセ・オオデマリが、何をしてきたのか、その判断をするのに、おまえの解釈なんてものが存在している、そのことをまずはどのように解釈しているのか、左の国の管理下に置かれている、殺処分未実行生物である私を登場させずに、聞かせてもらおうか」
アンドッチは沈黙したままで、モーリス達の表情というものはとっくに霧散してしまっている。
(うんざりするね‥‥‥)
「ファーゼロッテ・ボロニアが、何をしてきたのか、その判断をするのに、邪魔なおまえを殺したい。スオウは私のものだ。おまえというごみの生存を、私は許容しない。おまえを焼き払う、その理由を用意してくれたのはおまえだよな?ミカシュー?」
名指しされてしまったのではと予想しているらしく、ミカシュは物凄く嫌そうな顔をしながらも、こちらへと来てくれた。
「シュミルが診療所を焼失させる役目だ。決して、医師を逃がすな。日記については押収してやろう」
ポガロはボウルの中を混ぜる手を止めて、ミカシュに指示を出す。
「医師は拘束してからも、ヤマフジの領主達とは別にしておくように。シュミルも拘束だ。すぐに向かえ」
「動きます!」
ミカシュは、すでに馬の準備に取り掛かっていた部隊の皆と合流し、すぐに移動を始めた。
夕食が出来上がる頃には、戻ってくるといいのだが。




