72.配分
「こんなにも、お嬢は第一と恋をしてきた、というものが第一層。こんなにも、お嬢と第一は私に死んでもらいたい、というものが第二層。あれもこれも、お嬢が書いた台本通りだったんですよぉ、というものが第三層、ですね」
「それらはすべて、お嬢が書いています、というものだったんだね?」
「そうでしたね‥‥‥申し訳ありません。私が、ずっと、第一王子殿下を戦時下に立たせていました」
「こんなことしか言えないが、僕は何も見えていないままだった。こんな言葉を使いたくないとは思うんだが、第一は受け入れてきた、というよりも、甘んじてきたし‥‥‥フユーがわかってくれていればそれでいい、というような、フユーに荷物を持ってもらうようなことをしようとしていたんだろう、と、僕には思える。フユー‥‥‥ありがとう。君が、他国との力関係というものを知ってくれたおかげで、何かが大きく変わったんだと、そう感じるよ。窓口、君が設置してくれたの?」
情けなさで泣きそうだ。
「私にとって、王子、というのは、役職の一つでした。お嬢は、とんでもお嬢な生態なのだ、と考えていましたが、王子、という存在を取り巻く環境を見たことにより、よく放置してられるな、と思いました」
「そういうものだから、手傷を負うことになるのも当然、という、放置だね。そうあるものだとしてきたんだ。僕にとって得体の知れないものだったんだが、ああして、受け取る機会というのを得てみると‥‥‥僕はね‥‥‥すーげぇ見られてるし、知られてるし、皆の中に僕がいる、って怖さが勝ったね‥‥‥素直に受け止めて喜ぶ奴らの精神構造はどうなってやがるんだ、とさえ思った‥‥‥鋼だよ‥‥‥あいつらの心というものは鋼でできてやがるんだ‥‥‥王族ってやつだ、と思ったね‥‥‥でもね‥‥‥攻撃的なのもあるんだって、はい、成人、ってことで出してきやがってね‥‥‥こいつらよく王族なんてやってられるな、って思ったよ‥‥‥生まれというものを呪ったね‥‥‥君は魔女だ、フユー」
なんて真正面から文句を言ってくれたのだろうかと、笑ってしまう。
「君の嘆きが、何が起きているのかと、僕にわからせてくれたし‥‥‥おじさんが、ありがとね!ありがとね!って!」
ゼルガルが笑い出すと、ホーミッヒが食いついてくれてしまった。
「あれかな?こんっなにあったかい!かな?」
「そうなんだよ!書いてる内容じゃなくて、すんごい僕を見てるんだよ!大丈夫?精神やられてない?生きる気力まだある?って!それと、これ!こんなにお素敵なおじさんだから!奥さんも!知って!お素敵なんだって知って!って!それで、第一の時‥‥‥もう、すべてを悟ったんだと思うしかない佇まいなんだよ!うちのおじさんに、申し訳ない!申し訳ない!こいつはこんなにも汚染されてしまっている!って!」
こんなに笑ってくれては、自分のぽんこつ具合を笑い飛ばしてもらえているように思っておきたくなってくる。
「おじさんは、もう一回聞きたくなっただろうなー!」
「聞いた?今の!半分交換してやるなんて発想が出てくる?!となっていたけど、僕のは、ちゃんと、おまえはそういう奴か‥‥‥って、見限ってるんだよ‥‥‥第三を大事に守り抜いてくれ、ってうちのおじさんに‥‥‥」
ゼルガルに、文句を言っているんだ、という顔でじっと見られて笑ってしまう。
「あんこパーティーも聞きたいな!」
「あんこにつられてほいほい見にきてしまったことを後悔していると、小さいのが、職人だろう方を必死にさせていて、ババアに三角座り!‥‥‥なんてものをさせて、床にだよ?直置きさせて、餌やり同然!‥‥‥させていて、第一が、職人だろう方によって、女性従者の間に割り込まされていく!‥‥‥第三がきゃっきゃ喜んでて、ティファカはいい子ちゃんだから、喜んじゃいけないって思ってるし、第一‥‥‥って思ってるなって思ってたら、第三と一緒に引っ込むついでに、こしあんなのか教えてもらえばいいだろ、って‥‥‥教えてくれないんだよ‥‥‥僕は会話なんてできないんだって思い知ったね‥‥‥でも、ぺらんってしてくれて、一気に懐いたよね。職人なのだろう方に、指南されるままに木馬となっていく第一‥‥‥背負ってるな、って思ってたけど、流れるように射てくれて、職人なのだろう方が、お馬さんの体勢になるんだ!って一生懸命指導してて、ぺらんされたがり従者に、いえーいやってこい、ってやってと、僕はこしあん食べ放題状態で、これこそお誕生日さまだよ!って思わせてもらったね」
「全自動接待機!」
まあね、とやっていたのだが、ホーミッヒは予想してしまっているらしく、これでは私も満ちていく。
(悲しいね‥‥‥)
「お嬢、ババア、第一以外の皆さんには、こしあんなのか粒あんなのか状態で選んでもらい、他人の炊いた粒あんであっても包めたことと、自分のあんこの素晴らしさを浴びたことにより、じいさまが活力を得た一方、お嬢とババアの憂さというものは積もり積もっていた。そこに‥‥‥どあほに語ろうとするどあほが戻ってきたので、残っていた粒あんをスプーンで食っていいよ、とやってやると、きちんとじいさまのあんこを所望して、じいさまに生きる希望というものを与えやがった」
「もう面白くないなんてもんじゃないな」
「仲良しだって見えてるよ?と思いつつも、放置しておくと、どあほはお嬢に、おまえのきったない手で触ったんだから、おまえも食えよ」
「なんて言いたいこと言ってるんだ!」
「こんなきったないもん食える訳ないだろうが!こっちは屈辱にまみれてるんだよ!ババアを愛してやまないおまえが食え!と言ってしまったお嬢は、自分は所詮この程度のお嬢さまなんだよ状態となり、第一は、ママの側にいたくてやってきたんだから食えよ、と女性従者二人にやったんだが、もうきんつばでお腹いっぱーい、とやられ、残っていた粒あんに、スプーンで、よよっと床にあるものを入れていき、ぐちゃ、ぐちゃ‥‥‥」
「やってるなー‥‥‥」
「餌やりを終えたお嬢は第一に、手を洗いたいから区画に入れてよ、と発言し、察しちゃった第一が、何て言えばとなっていると、じいさまが、おまえがジャドルーオさまの愛人なんだってことはみーんな知ってる!恥ずかしいんだよ!他国の王子さまにまで愛人扱いしてもらおうとするんじゃない!ばーか!」
「いいな、じいさま!」
「鬱陶しいお嬢は、私は知っていて自分を二番に差し出していたのか、なんて聞いてきやがったんだが、じいさまが、さくっと矢で射てくれた!」
「じいさま!」
「何も仕込まれていない矢!」
「さすが、じいさま!」
「おまえが、どうしても王子さまに会いたいから忍び込ませてくれ!なんて言って地下牢生活してたら、ジャドルーオさまに自分の愛人になるなら出してやるって言われて、なるなる!って出してもらって愛人生活を満喫するようになったんだろうが!本当に性根なんてものが腐りきって消滅してる糞お嬢だよ!おまえは!」
「すかっとには足りないんだよ‥‥‥」
「ね‥‥‥ぶるぶる状態となっていたお嬢は‥‥‥餌やり続行第一の肩に手をついてやろうとして避けられ‥‥‥ババアに、立ち上がって抱えて移動してくれ、という体勢となろうとしていたようだったんだけど、第一がババアの腕を引っ張って移動させて‥‥‥お嬢のことを警戒しつつ、餌やりを続行!」
ホーミッヒも笑い出したので、ホーミッヒが前屈みとなっている体を起こせるようになるのを待っておく。
「いいな‥‥‥いい、ババアと息子だ‥‥‥」
思い出せば、微笑ましい気持ちとなることができる。
「同じ顔で警戒してるんだよ‥‥‥お嬢がついにその場に蹲ると二番が抱え、第一の馬車を差し出すように要求した。おまえは、他国の所有物をかつあげしようとしているんだが、それがどのような行いなのか、理解しての行いなのだろうな?きちんと王太后さまを始めとする皆さまに報告しておく、と言ってやると、お嬢は、喋るなって言ったでしょ?!で、二番は、お嬢がそうやって冷たくするからこんな意地悪をされることになるんだよ‥‥‥馬車を借りるよ?」
「うんざりするどころじゃないな‥‥‥」
「他国の所有物を借りることにしてしまう、というのがどういう行いなのか理解していないのだということも、きちんと王太后さまを始めとする皆さまに報告しておく、と言ってやると、トイレを使わせてもらえないだろうか、だ‥‥‥おまえらのような奴らが、トイレをどんな酷いものへと変えてくれるのか予想できるのに、それでも貸してくれるということは、トイレをどのような酷いものにでも変えてくれってことだと判断するんだろう?どうして、まず、他国の所有物である馬車を差し出させようとしていたんだ?教えてくれないのか?激烈ど腐れ穀潰し、ジャドルーオさまだそうな、第二王子殿下は、どうやってここまで来たのかとなると、ずーっと歩いてきたから、馬車なんてものは、他国の所有物しか存在しないって思ってるんだってことにしておくんだろう?おまえの馬車なのか何なのかに、きったないお嬢を乗せたくないんだって言ってるも同然な行いをしているおまえの愛人は、きったない手をしているのに、おまえはそうして抱えている!なーんておっきれいな愛なんてもので結びついているお二方なんでしょう!言っちゃえよ!愛人なんて言ったけど、恋人って言えなかったんだってことにしちゃえばいいだろ?おまえのようなきっしょく悪い性知識の宝庫は、どーせ、そっこら中のお坊ちゃん方にも、えっらそうに、天辺にいまーすって顔して、性知識を授けってやってるー!っていい気分になってるんだろ?おまえの馬車なのか何なのかをトイレだって認識しろよ!できるよな?おまえの馬車なのか何なのかを、おまえの愛人のトイレにしますって言ってくれよ、第二王子殿下だそうな、どくっそジャドルーオさまー!ここで仲違いを演出しないでくださいよー!うんざりしてるんだってわかっているから、そうして私を見下ろしているんですよねー!さっさとそのきったねぇお嬢を、おまえの戸籍のある国の王城に存在しているそうなおまえの区画とやらに連れていって、手を洗わせてやってくださいよー!まさかまさか、ここまで歩いてきたし、お金なんてものの存在も知らないので、他国の所有物を強奪することでしか、馬車なのか何なのかなんてものに乗ることができないんだ、なーんて言わないでくれますし、天辺さまだぞ!って従わせてやってるどなたかの馬車を強奪してきたんだー、なーんてこと、どうやったって認めてくれませんよねー!失せろ!歩きで帰れ!金無いんだろ!ずーっと無休憩で行けよ!迷惑なんだ!決して止まるな!ずーっと歩き続けて、おまえの戸籍のある国の宮廷に存在している地下牢に入ってから、おまえの殺処分を延期してもらう方法を考えろ!さっさと黙って歩き出せ!ど糞ジャドルーオさまとど糞お嬢のお帰りー!天辺に誰がいるのか、きちんと認識できないんだから、生きるのをやめろ!害悪なんだよ!消え失せろ!ど底辺なんだよ!おまえらのせいで、苛々する!おまえらが生きるのをやめると嬉しい!晴れやか!この世がきれいなものだって思えてくる!おまえらのせいでこの世がきったねぇ!きったねぇおまえらが生きてるせいで、私の正常な成長が阻害される!おまえらのせいだ!おまえらのせいで、この世がきったねぇって知ってるお子さまになったんだよ!と言ってやると、二番はお嬢を下ろし、二人はぴしっと気を付けをしたので、今すぐ歩き出せ!挨拶とかいらない!空気が濁る!おまえらの存在がこの世を汚していく!おまえらの殺処分は決定済みなんだよ!殺処分決定済み汚染物質を生かしておいてる理由を考えろよ!使うんだよ!いざって時におまえらみたいなど屑をぽいするんだ!ぽい捨て要員なんだって理解してるんだから、さっさと歩きだせるよな?!と言ってやると、二人は、やっと会場を出てくれたので、ボノバートに、おまえの延命を実現するためには、何を成し遂げるべきなのか理解しているんだろうな?と言ってやると、急いで二人を追ってくれたのに‥‥‥」
「‥‥‥開演?」
「あんなの酷いよ!僕は君が踏みつけられてる姿を見たかったんだよ、何それ!私と共謀してたってこと?!そういうのうんざりなんだよ!これが僕の愛し方なんだって知ってるだろう?で、痴話喧嘩ってやつでーす、を披露しつつ戻ってきて‥‥‥私が眠る呪いをかけてやると、荷物として運搬されちゃいまーす、とやっていたのが、移動を始めて休憩となれば、お嬢だけこちらに寄ってきて、馬車のすぐ外で涙腺芸‥‥‥私がいかに二番とお嬢の仲を踏み荒らしているのか、いかにお嬢の人生を踏み荒らしているのか、と語り、いかにお嬢の周囲というものを踏み荒らし続けてきたのか、に入ろうとしたところでじいさまが、他人のことぺらぺら喋るんじゃねぇ!とやってくれたので、お嬢がいかに私によってそれほどまでにな扱いを受けてきたのか、お嬢がどのようにして私のせいでこれほどまでにな手傷を負わされてきたのか、お嬢がどれほどまでに私があれほどまでに死を願われていると知っているのか、お嬢の考える最高の私の死に方とはどのようなものなのか、お嬢はこんなにも私の死を願っているのだと自覚していてそれでも仲良くしようとしてやっているんだから、と語りに語れば、次は二番‥‥‥お嬢が、もうやめて!もう聞きたくないの!と二番の転がされている馬車に戻れば移動を再開‥‥‥しばらくすれば、お嬢が叫ぶ。せっかく来たんだから右の国に行こうよー!いいでしょー?ほらー!何も言わないってことは、そうしていいってことだよー!‥‥‥私とじいさまは別行動を始めようとすると、待ってよ!ひどいよ!置いていかないでよ!私の出し物に協力してあげたんでしょ!と、私のせいで二番の愛を試すような行いを実行することになり、お嬢はどれほどまでに、どのような感情をー、さっきのは私を皆さんに紹介してやってただけだー、こんなことをするからには、どのような目に遭わされることも受け入れているということだー、ずーっと間の国で生きていくつもりなんだろうが、お嬢は害悪だと認定しているんだから、この世からいなくなってくれないことにはー、どうせ戻ってくるんだろうが、もう絶対仲良くなんてしてあげないー、ここでおそらく、ごめんねリン、僕のせいで、があり、お嬢が自分はいかな生物なのかー、と語るようになれば、私とじいさまは別行動を開始した」
「胸糞地獄巡りツアー、そう呼びたくなるほどの吐き気だ‥‥‥」
(本当にね‥‥‥)
誰も彼もを俯かせ、どうしてこんな方法でしか、と泣きたくなるばかりだった。
スオウ家当主は、私の手を握り、ずっと涙を零していた。
それにより、私は顔を上げていられたのだから、お子さまの健全な成長に、大人というのは不可欠なのかもしれないと、そう思うことができた。
あの日、馬車とリンランの間を素通りすることを何度も繰り返してくれたゼルガルは、眠れ、と口を動かして伝えてくれた。
そう願わせたのは自分なのだと、あんな行いに付き合わせていた誰も彼もに謝罪して回りたい気分になった。
弱者でいた自分を恥じた私は、同じような経路を辿っていたのだろうケイオスを気遣う余裕を持っていられる程度には、成長したのだと思えたのだから、いかにも下等生物なのだと、そう思うしかない留学生な毎日だった。
(さようなら)
どうか、と願うことなど無力なものだ。
「どうしてど屑二人を入国させているんだ、超絶怖い目に遭わされたからもう来ないでもらいたいし、手紙とか届け物とか使者とか恐ろしくて震えが止まらないよ、ぐすん、って書面、書いて?と言ってみると、書いてくれた!」
「いいなー!」
「そうして自室を地下牢に移すことに成功した二番とお嬢は、私への恨みを生きる糧として存続しやがるようになったんだね」
「そんなことだって思わなかった?」
「それだよ‥‥‥もう消え失せろとしか思わせてくれない‥‥‥そんなことだって思わないんだって自覚してるんだから、こいつは害悪であろうとして害悪として存在しているんだって言ってやったら、ホワイト!おジャドルーオさまは、あまりにもホワイトだから、そんなことだって思わないことしかできないんだ、って‥‥‥」
「いや、害悪でーすって‥‥‥」
「そうなんだよ‥‥‥もう、全員が殺処分に同意してくれ続けると、ごめんなさい!」
「もう、何もかもが消えていくな‥‥‥」
「王妃さまが、やるね?ってなって、おジャドルーオさまはど屑を全開にしてくれたんだけど、いや、三番が生まれてなかったら一番だよ‥‥‥と王さまが呟いてくれたことにより静かになって、真の回転木馬さまとして、お嬢に宮廷内を引き回してもらえたんだね」
ホーミッヒは思い出し笑いとなっている。
「凄い光景だったよなー‥‥‥台車的な板に乗ってる真の回転木馬さまと、板から伸びてるロープを背負うようにして引っ張っていくお嬢‥‥‥愛ってやつか、とね‥‥‥」
「目が肥えたそうなお嬢は、おジャドルーオさまとはきれいさっぱりお別れして、真の友愛というもので結びついた二人となって、お嬢の真の王子さまを量産して生きてきた、としてはいるね‥‥‥」
「手法をな‥‥‥」
「お嬢の母上さまは、話を合わせてくれたんだ」
「必要不可欠な手順だ。あの手順がなければ‥‥‥悲しいよ、フユー‥‥‥」
(すまん)
ホーミッヒを泣かせているのは、私が暴いたケイオスの優しさや弱さという類の美しさなのだろうと思えば、私こそがケイオスを戦地に立たせていたのだと、そればかりが見えている。
「第二はどうせ、自分はケイオシュとなることでしか、お嬢と恋をすることができなかったんだ、とでも言うだろう‥‥‥お嬢は、窓口がどのような対応をするのかとなると、差出人に、ありがとね、の手紙を送ってくるだけだろうが、それならば、受け取るべきであり、受け取ることこそが、そうあるべき姿なんだ、とでも考えて、それも二番が受け取っておいてよ、そう言っただろう‥‥‥これは送ってやらないとならない‥‥‥お嬢なら、一度窓口からの返事を受け取れば、もうお終いとしただろう。それをわかっている二番は、返事が来たよ、そう言って自分の書いたものを読ませて、お嬢に返事を書かせる。そうやって、間の国へ送り付け続け、受け取らせ続け、読ませ続けていただけではないだろう。ケイオシュからの返事というものを丸っと入れてある、宛先の書いてある、封をしていない封筒も送り付けていたのではないだろうか。宛先は、リンラン・レンギョウでも、宮廷でもなく、クローバー王国のような‥‥‥どこにも届くはずがないのだが、もしかしたら、と、醜悪な二人が笑っているのが見えている‥‥‥きっと、ボノバートは保管している」
主従とは、仕事とは、理念とは、どれだけの螺旋を巡り続けていたのだろうか、と、虚しさばかりが満ちていく。
「ババアも‥‥‥?」
「経費を無視するとしよう。招待された先で、小さな女の子が‥‥‥自分のアローラ熊さんだよ、この子も抱っこしてあげて?すると、申し訳ない、何か零してそのままにでもしていたんだろう、そうやって、別の場所へ、そこで、手紙の束を見せてやり、このようなものを残しているのは、どのような理由が?と、取り調べまがいの、交渉を始め‥‥‥いえね、うちで取り扱っているものをお土産として持ち帰ってくれるだけでいいんですよ‥‥‥逃げることなどできない。偽物の手紙の束が、いくらでも、いくらでも出てくる‥‥‥内容は、いくらでも、いくらでも、醜悪なものへと変化していく‥‥‥交渉から要求へ‥‥‥何を守っているのだろうかと‥‥‥それでも、守り続けてきたのは、王妃さまだけではない‥‥‥」
ジャドルーオを思って泣いていた方々がいることを、私は知っている。
(あんなに、見えていたのに‥‥‥)
見えていたものばかり。
それでも気付かなかった私は、そこでもまた、見ない選択をしてきたのだろうか。
「あの二人があのような二人だと、知っている者は多くいるだろう」
ゼルガルは、呆れや侮蔑のようなものを滲ませてくれているように見えて、あの日と同じ顔だと思えては、時間経過というものがわからなくなっていく。
「ババアは、きちんと自分でも、胡散臭い差出人の手紙を量産していただろうが、その差出人はクローバー王国のような場所‥‥‥第一と恋をしている誰かを量産していく‥‥‥何やってんだ‥‥‥」
「そういうのー!?」
小さく叫んだゼルガルは、そのまま天井を仰ぎそうになってくれるのだから笑えてくる。
「ババアは、やったらぁ!となって、何やってんだ‥‥‥しかし、あら、こんな方もいるのねー!最近の女の子って恋ばっか!恋ばっかしてるー!処分しておいてくれるー?とできます。そしてババアをこよなく愛する第一も、はい、これ着て精子!はい、これ着て精子!はい、これ着て精子!‥‥‥あの子、ババアのこと愛しすぎ‥‥‥!王家に対して交渉なんてものをできると思いあがらせる材料を与えてくれやがって!利用されてなるものか!とやってるババアをさらに追い込んでいるんだと‥‥‥はい、これ着て精子!はい、これ着て精子!はい、これ着て精子!ちょっと!止まんなさいよ!ということで、結婚!?もうお手紙送らない!という状況を作りたいなとババア頑張り、でへぐる生活満喫中としている第一は、俺は使用済みを量産して楽しく生きてるんだから、そういうのは第二にしろ!きちんと第二との王国も築いているババアは、まずはそっちでいいか、と頑張り始めた‥‥‥僕に手紙送ってくれてたの、君じゃない?いや、なんとなく、そうかなって、違う?」
ゼルガルは、いい笑顔となって俯きたそうにしている。
「何が人妻とならだ!あんこ売春王子!あの子がいいのね!ってならせたんじゃないのか?ちゃーんとババアが見てるなって確認してから、聞いたんだろう?」
すぐさまホーミッヒが聞いてやってくれたので、私も続けておくとしよう。
「手紙の内容を少し語ってみて、でへへ」
「でへへ!何が会話なんてできないんだ!でへってる!デヘガルさま!」
「君ならなんて書く?」
「決めてる!もう文通しよって決めちゃってる!」
「じゃあ、僕、その返事書くからどこに送ればいい?」
「うわー!手慣れてるなんてもんじゃない!あんこ売春!あんこ売春王子は、文通開始王子!」
「待ち合わせする?」
「げー!色めいてる!盛りのついたあんこ売春王子!」
「お店?」
「売春できる場所がいいんだ!」
「ゆっくりできる?」
「売春時間確保!」
「ベッドがいいな」
「ま!」
「あの子、抜け出したわ‥‥‥あいつはいつだってお手紙お持ちだしで、あんこ巡りさまなのに、僕は兄さんと違って精子与えてない!あんこを一緒に食べてるだけだ!何て名乗ってるんだ?‥‥‥僕だって女の子とあんこ食べたいんだよ!兄さんと違って、いつも同じ名を名乗ってるし、お相手をいつも同じ呼称で呼ぶようにしてる!使用済みを量産してない!一枚のどぶ雑巾を重用してるんだから、そんなの兄さんの愛しい人と同じだよね?!」
「ババアとの恋について話して、でへって、あんこ巡りさまとなることを、一枚のどぶ雑巾を重用すると表現‥‥‥」
ホーミッヒが小さく頷きながら眺めてやると、ゼルガルは複雑そうに眉間に皺を寄せている。
「こいつは、あんこ巡り用のあんこ食用宿を、そこら中で経営してるんだ」
「あ、そうやって、用意してある売春場所に連れ込む、と」
「何買っていく?」
「あんこ調達!あんこ調達してから行くあんこ食用宿!」
「苺タルト?」
「カスタード姫!」
「あんこ食用宿なんだよ?僕に食べたいと思‥‥‥カスタードかー!」
「簡単なおじさんなんだな‥‥‥」
「きらきらおじさん、あんこ食用宿で、カスタードをご賞味して、だはー!」
「きらきらおっさんのご賞味宿‥‥‥」
「きんつばってね」
「フユー!僕は精神構造がどうかしてるんじゃないし、鋼でできてないんだ‥‥‥」
慌てて止めるのに、そこで止まるのかと、よくわからないが、なんだか放置したい気分となってくる。
ホーミッヒの方を見ると、同じような気分となっているらしく、首を傾げてから、行っとこう、とやってくれた。
「宛先には、第一の愛しい人へ、と書かれている未開封の封筒。それが丸っと入れられていたものが第一宛に届いていたとしてババアが持ってきた。第一が、そんなもの処分しろと言ってやると、ババアが、第一の愛しい人宛の手紙をどう扱うのかでー、と語っていく」
「散々話し合ってますー、とやってから、どうするんだ?」
「正解!第一が読んで、誰に宛てた手紙なのか第一が判断してくれるように言うと、ババアは、自覚がー、と語っていたが、第一が開けようとすると、他人へのー、と語り、第一が開けて読み始めれば黙ってくれた。第一は、ちょこっと読んだら閉じて封筒に戻しながら、おまえ宛だが読ませることをしない、と発言し、ババアはすぐに手紙を集め始めて、そんな手紙なら全部処分しておくわ‥‥‥第一は、ババアが集め終わってから、横取りしてやって、おまえのせいで人が死ぬな?と聞いてやった。ババアは、私の判断がこのような結果にー、と語っていたけど、パエリアなんてものが運ばれてくると、自分の中での構築で手一杯となっていた」
「食らわせてやったな!」
「ババアは、どうせ、あとは待つだけ?!なんて料理が別世界だろうと思っていた!うそでしょ‥‥‥うそよね‥‥‥うそ‥‥‥って、語彙を限定させて、パエリアと向き合っていたババアを見れば、第一も、笑って聞いてやることができていたし、見張りなんて城内にいないから、手紙の部署には近付かないようにしろよ、と言ってやっていた」
「いい息子さんだ。第一のところにも来ていたんだろうな」
「そうだろうね。またも地獄をもたらされ、でも、第一を頼ろうと思ってくれたんだろうね」
「第一の判断というものを知ろうとして、追従することにしたんだろうか?」
「追従‥‥‥これまで通りを続けることにしたんだろう。交渉材料を投下されたようにしか思えない、だが、来れば読み、自分の判断を熟考し、これまでと、今現在を支えとして‥‥‥でも、きっと王国での物語を、ちょっと手抜きできるようになっているといいね」
「そうだな‥‥‥どうせ、お嬢レベルなものを!ってやってたんだろうな」
「そう思えるよね‥‥‥気が狂いそうになりつつ、息子とのきゃっきゃうふふを‥‥‥!」
私が笑い出すと、ホーミッヒも申し訳なさそうに笑っている。
「とんでも体験だな‥‥‥!」
「ゼルガルさまとは、甘いものについて語り合ってればいいだけだからね」
ゼルガルは、きちんと用意していた、テーブルに肘をついて組んだ手で、どずーんとなった頭を支えてくれている。
「僕がケイオスでね、あれは影武者なんだよ。だから僕が君のケイオシュなんだ」
ゼルガルは、はー?!となって顔を上げてくれたので、追撃しておこう。
「こいっつは、甘い物の情報を引き出すためなら、兄の愛しい人をどぶ雑巾にしやがる!」
ゼルガルは、ふふっとなって、じっとテーブルを見つめている。
「それどころか、こういう情報持って来いよとやるためなら、待ち合わせ!こういう店だとどうするのかな、と思えば、近くにいい宿がないかなー、なんて躱し方をしやがる!えー?じゃあ買って行って宿で食べるってことー?と聞いてやれば、その菓子がどんな風におすすめなのか教えてみやがってもいいよ!へー、いいねー、でもこういうの知ってる?と、とんでもな食べ方を教えてでも、てめぇは粒あん食ってろ!とやってくる‥‥‥」
「人妻って‥‥‥母親か」
ホーミッヒが、ずばり言ってくれては、ゼルガルも笑いを噛み殺そうとするしかないようだ。
「この子は、こしあんの情報をちらつかされると、ちょろいんじゃないかと心配してましたよ?」
ゼルガルは、こちらを見ることなどできないままに、そっか‥‥‥と頷いてくれた。
「あんこ売春宿を経営してないで、お嬢の婿養子になってきてくれないかな、って」
「‥‥‥どういうこと?」
「あんこ食べたいよね?あんこ食べたくなってるよね?‥‥‥この子、そんなに‥‥‥あんこ売春宿にされたのに‥‥‥本場のあんこが食べたいんだよ!‥‥‥あーんしてほしいんだとしか聞こえないな‥‥‥年俸制にしよう!‥‥‥あの子、行く気よ?とっくに手配済みだ‥‥‥どうして財布を従者が持つんだよ!‥‥‥ねえ、あの子、税金だけ払ってやってるって本当なの?所有者さまの部屋を含めて何でも自由に使えるのに、売春婦に使わせてやってたから、経営者さまに報告してみたら、宿の人員が一掃されて、所有者さまのご機嫌取りにやってきて、じいさまの孫認定してもらえたから、ミッタ・ハイドランジアとしてお嬢と文通してるんだ!って宣言するくらいお嬢にいかれてるからな‥‥‥領主の息子だって言ってるんだし、領主の息子として婿に行かせてやろうか、ということで、あなたは、領主の息子となって見合いをするか、ハイドランジア卿として婿に行くか、第一にあんこ売春宿の離れ的別館を自由に使わせるか、という選択を迫られ、あんこ売春宿をレンギョウ商会に買い取ってもらったんですね」
ゼルガルは、しっかりと笑顔となっているので、自分の中での事実確認を進めていっているのだろう。
「第二王子に手紙を出せば、ケイオスを名乗って第二王子が回転木馬さまをやりきって、気に入った子を連れ出し、今夜はここに泊まるといいよ、その子がどのような目に遭っていたのか、あなたは知っているんでしょうか?」
ゼルガルの笑みは侮蔑で満ちていく。
「あなたも受け取ったのではありませんか?」
「‥‥‥言ってみて?」
「あの二人の得体の知れない疲れなんてものを理由にされようと、自分に向けられているものを躱す方法がわからない。どれほどまでなのかと、宿を手放す選択をする、と手紙を送ってみると、なんて陳腐な指示書‥‥‥だが、あの二人の疲れの正体がわかったような気もする。きちんと送られてきた招待状を無視してみれば、次は第一とお二人で。所有者である自分に対して、宿の経営状況だのと言われ、こいつはどこの宿のことを言っているのかと調べてみれば、レンギョウ商会の偽物の宿のことのようだ。え‥‥‥ばかなの?まさか指示書の通りに、自分が所有してるのそこだと思い込んで買い取っちゃったー、あ、違うんだ‥‥‥え?こいつ、自分がお嬢をって知ってて、お相手とするのは賛成どころか大反対だな、って‥‥‥あー、そうかよ!ってことで、どうするんだろうな‥‥‥えーっと、お嬢と引き裂かれちゃったー、だから、煩いな‥‥‥もう行けばいいか‥‥‥いや、踊んないよ?‥‥‥あ、あんこね‥‥‥いや、いらない‥‥‥いや、避けるよ‥‥‥え?ほっとされてない?これ、こいつが自分を試してるのか?‥‥‥店‥‥‥おまえが行け‥‥‥宿‥‥‥おまえがいつも連れ込むのに使ってるのを使えばいいだろ、って台詞取られて、そんな‥‥‥あ、台詞通り言うつもりじゃなかったってこと?‥‥‥連れてってくださいよー、ってなるよね‥‥‥僕のせい、ではあるんだけど‥‥‥これって、丸っと用意されちゃったってことかな?帰るよー?そうだよー?ババアー?いるよねー?おまえ!何言ってんだ?!って‥‥‥おまえらがどうしてしまっているんだ?ババアー?第一連れて先帰るねー?いや、ここで、女従者、が狙い?って思わせてくれやがったんだから、知らねぇ!って一人で帰ったんでしょうか?」
ゼルガルは嬉しそうに笑っていたのだが、釈然としないのだと、私を透過しているかのような目となって、どこかを見つめている。
「どうしてって思える僕が鋼なのかな?」
「あなたが王になるのです」
(嵌められたって思ってるー!)
ゼルガルの薄目をすっかり見慣れている自分に、面白さを感じてしまう。
「いや、恥かかされたって怒ってるって、怒らせておけばいいだろ?って思えて実行できるあなたは、あの二人の希望となっているのかもしれませんし、もう本当勘弁して!お嬢の婿になって!と思われているのかもしれません」
「君が変えさせてくれたの?」
「ババアは思い詰めているんだか、実際にそういうことがあったのか、ということを第二に言ってみようと思っている、なんて言っていたので、自分がそんな目に遭って女従者を連れてきたのではない、自分と第二に娶らせようとするのをやめてもらいたいから、ババアが置いていった娘として連れ帰ってきたんだ、としたのに、それでも養子に出して自分と第二に娶らせようとしているから、養子に出した先で嫁ぎ先を見つけてやってくれ、と言っておくと、ババアがこのようなことを言っている、これでは、すべてババアの陰謀なのだと判断することになるが、分離してもらいたいのなら、これからは何もせず、王城から出ないだけでなく、人前に出ることもせずに、ひっそりと隠れるようにして暮らせ、と言ってやると、きれいに組み上げられた質問を出してきやがった。第二の分も組んでやってくれるよな?と言われ、代金を提示するように言ってみると、引き受けよう!という価格を提示してもらえましたので、組みました!ってほど組んでません!」
「ババアに知恵を与えてやって、儲けたんじゃないのか?」
「なんて素晴らしい儲け話の連鎖!残念ながら、強靭な王さま体質なあなたによって、円環とはなりませんでした‥‥‥きらきらおじさん!おじさんが次の王さまになってよ!ティファカさまが王太子だよ?」
「お子さまぶるんじゃない!ほら、強靭ってやるんじゃねぇ!」
やれやれとホーミッヒと肩をすくめて笑いあうと、ゼルガルは完全に敵だと認定してくれたようだ。
「失せろ?」
失せろ?!と無音で驚き笑うゼルガルは、誰に告げ口したものかとなっている。
「第一を利用して、絵葉書、送ってやったんですよね?女の子とお楽しむ時はケイオスなんですよね?はい、どうぞ、な鬼畜なんですよね?そーんなにお嬢と恋したがってるなんてー!となったどあほは、あなたと入れ替わりたいそうですので、どうぞ、お嬢、持って帰ってください」
「いらない!どっか行けってことだ!記憶から消去してくれってこと!」
「そーんな王さまぶって!第一はね、アイヤードなんですよ」
ゼルガルは、ぴんときていないようだったのだが。
「‥‥‥あー!そうなんだー!どこの誰だか知らねぇよ!それでナオジーを置いてこさせやがったな!教えてよ!どうして僕を邪魔者扱い!?」
「お嬢、邪魔‥‥‥」
ゼルガルは、ふすっとなる余裕があるようだ。
「嫌だ‥‥‥」
「密航お嬢を発見しても、密入国お嬢を発見しても、招待されたのよお嬢を」
「いかなるお嬢だろうが、間の国で発見すれば、この国の地下牢だ!」
私が、わー!と喜ぶと、ホーミッヒも、うんうんと喜んでいる。
「いい王さま体質だ!」
「ねー!きっと」
「もらわない!」
(ちっ!)
心の中で舌打ちしておくと、ホーミッヒは残念がっている顔を作って頷いてくれた。
「影武者はどういう?」
「第三層であるものは、まんま指示書だが、え?これを、こう、なる経緯とか、そういうの‥‥‥というものだったので、試されている?本当の狙いは?どう陥れられることになるんだ?という、いくらでも深読みすることのできる、あっさーい計画を実行するようにと、もの凄い力を持ってそうに振る舞っている小物が書いたのだと明らか‥‥‥」
「監視者だと?」
「まあ、そういう働きをしてよ!というものが来ていたからね‥‥‥」
「フユーさん?」
ホーミッヒに優しく聞いてもらい、にこっとしておくしかない。
「‥‥‥だって、私が乗り込んでいって、大人しくお勉強してるよ?なーんてことを、殺処分覚悟で怒り狂ってるあのお嬢が、そうなんだー、って思ってくれる?」
ホーミッヒは、まあな‥‥‥と苦しそうながら頷いてくれている。
「あの二人が仕事とできるようにしてやった、ということだろうか?」
(いいね)
「ホーミッヒさんは、お子さまの扱いを心得ている。金の亡者らしく、うへへへ金儲けしてるよ、って書いてもらわないとな、ってことで、私は、せっせと商品開発をして暮らしていたんですね。お嬢は、もう、そのことも怒り狂う材料としていたんだけど、ご享受さまは死にたがりですこと、って、二人の連名とさせた封筒に書き込んでやったら、ぴたっと止まったから、そこで、二番を使うことにしたんだろうね」
「使える戦力をってことか」
「そうだね。ボノバートから、何も書いてない手紙が届いたよ‥‥‥」
「‥‥‥つれぇ」
「ジゼットから、二番‥‥‥恋、しちゃったらしいよ、って手紙が来たよ‥‥‥」
「うっぜ‥‥‥利用されるんじゃない!」
「あほなんだよな‥‥‥どうせ、お嬢だってこんなことしたくないけどー!って涙腺芸を披露されて、耐えられないんだよ!ってことでやるねー!そうだねー!って、愉快に面白おかしく大噴火の大砲火の大駄作を送り付けてやり、ババアは、迷路どころか迷宮どころか地下帝国に迷い込んで、やっとく‥‥‥?となって、え?これ、らを、揃えてみると、こういうことが起きちゃうよー、ってこと?というところまで解析できたところに、同じ状態の第一もやってきて、指定された材料の中にある、いえーい従者を指定通り使用する危険性ばかりが気になってしまう‥‥‥」
「正常だな‥‥‥」
「第一は私を連れていった‥‥‥いえーいじゃない方を狙っていそうなのを見つけてくれ‥‥‥」
「あほだ!なんて、楽しいあほだ!」
ホーミッヒは、思わず、いえーいじゃない方、と黒板に書いてしまうほどに笑っている。
「どっちも父親のところに返してこい、って言ってやると、しゅっと閉じた‥‥‥」
「ババアを愛しすぎ!」
「いえーいさんにお気に入りを選ばせて、夫婦同然な自分達が一緒にいられるようにしてくれませんかって、キリ家の次男さまのところに行ってこい、って言って送り出すと、すーぐ長男さまが来た‥‥‥ちょうどいいから第一の影武者として使ってやるって言ったら、すーぐ帰ってくれた」
「不思議な人物だ‥‥‥」
「第一は、いえーいじゃない方を狙っていそうなの、わかったか?」
「あほなんだー‥‥‥」
「おまえが影武者だと認定している人物に、いえーいじゃない方を、おまえの馬車に連れ込んで盛り上がらせたいおまえが、いえーいじゃない方を狙っている、って言ってやると、え?どうしてわかったの?みたいな反応しやがったから、ご成婚おめでとうございます!って言ってやると、そういうことにな‥‥‥みたいな反応になって‥‥‥自分は馬車に一応いるから、外に立ってる私とトランプをする、って‥‥‥」
「あほだ!愉快なあほだ!」
「いいか?あほ共は、第一が指示書の通りに実行したかどうかなんて、確認することをしない。あほ共はもうすでに、きっと今頃悩んで苦しんで悲しくなって泣いちゃってるかもなー!って思って楽しんでるから、おまえは、あほ共が送ってきやがったものを全部持って、王太后さまを訪ねろ。って言ってやると、言いがかりだと判断‥‥‥しないでくれって、言っ‥‥‥てくる!となったので、指示書持参のミィアンとヨツバも連れて行かせた」
「それなのに‥‥‥」
「三番さまが横取りしておいて、保留ですって!申し訳ない‥‥‥第一を不安定どころではない状態にさせた」
「それはフユーもだっただろう?」
「申し訳ない‥‥‥いえーいさん達は、本屋に‥‥‥」
「妨害された、と感じただろうか?」
「キリ家次男は、そっちか‥‥‥ではあるが、有り難いと感じた。三番は私を処分した」
「保留なんて、取り合わなかったのと同義だ。ババアは?」
「いえーいさん達を取り上げられ、第一を不安定にさせられ、この国から敵だと認定をもらってきたと知らされたんだ。殺しに来たね」
「‥‥‥どうやってとなると、踏襲かな?」
「激泥甘やかしなさいよ‥‥‥」
ホーミッヒは、声を出せずに笑いだし、またも黒板に私が言った通りのことを書いていく。
「それは、フユーが!この国からの留学生として、国が、受け入れているフユーさんが!第一さんを意のままに操っているんですよ!と?」
「そういうことだったね‥‥‥下等生物な扱いしかできない、って言ってるのに、飼育しなさいよ‥‥‥」
「飼育!下等生物理論を適用しての共同生活を開始!」
「歩く財布を手に入れた!」
「フユーさーん!とっても下等生物ー!」
「力があるから、シフォンケーキとか焼ける!」
「有効活用してるー!」
「菓子でもパンでも、ずらーやっても、悪くなる前に無くなる」
「消費!消費させてやってる!」
「浴室をどれだけ占拠しようと文句言わないどころか、温めなおしてくれる!」
「いいなー!」
「寝てるのに灯り点けてても、文句言わないどころか、起こしても、すぐに解説してくれるし、栞として活用されたままでいてくれる!」
「気が長い!なんて便利!」
「朝出かける時寝てて、夜帰ってきても寝てても、一切!私をかちんとさせない!」
「なんて優雅に下等生物!」
「私のごはんも置いておいてくれるし、残しておいたらなくなってる!」
「最高の下等生物環境だ!」
「さらにだよ!ババアの期待に応える第一は、あの通りの演技を完成させやがった!」
「演技!溶かされる演技!」
「従者が、演技以外は、ババアに見合い虐めをされる前に戻った!と認定をくれたのに、ババアは、激泥甘やかしてみせなさいよ‥‥‥」
「みせなさいよ、はないよ‥‥‥」
「でしょ?第一に、ババアの思い描く激泥甘やかされを聞き出させた」
「どうせ、膝枕だの言うんだろ?」
「正解!第一の体現する激泥甘やかされが、どういうものなのか説明させた」
「わー!どうなった?」
「自分は激泥甘やかされてない、と言いやがった‥‥‥」
「なんてことだ‥‥‥」
「自分は私の成分を摂取して生きてるから、このようにすくすく育ったんだと体現している、と言ったら、なぜかババアが納得して、ババアが着目するべき点はそこだったんだ、激泥甘やかしなんてものを見たがったババアがどうかしていた、とまで言っていた‥‥‥」
「何が起きたんだ?」
「私がその辺にいれば、それで激泥甘やかされてることになるので、私は何もしなくていい、という理論らしい」
「上手いこと言うー!」
「ね!なんて楽ー!しかし‥‥‥下等生物生活を失った私は、毎日朝起きて、夜寝るなんて生活を‥‥‥」
「掃除もしないとだし、出してもらえるなんて有り難いことこの上ない食事を、美味しいなって思うんだもんな?」
「どうして皆して真面目に生きて、この世を回してやがるんだ‥‥‥」
「‥‥‥金がな?」
「あんなに出してもらった金で私は、食べて出すことしかしてこなかった‥‥‥」
「言語化してー?」
「生きるなんて行いをするのは、酔狂な連中であり気狂いの集団だ‥‥‥どうして生きているなんて行いをするのか、そんなものは何もかも放棄しているのと相違ない‥‥‥どこに行こうと生きている‥‥‥誰も彼も、生きるなんて行いをやってのけて存在している‥‥‥この世というものを構築して、構成して、毎日なんてものを生きている‥‥‥どこまでも続けてきた、その結果の集合が事象となって存在している、存続している‥‥‥あるのだから、あり続けてきたということだ‥‥‥そうあってきた‥‥‥それがここまで続いてきた‥‥‥生きるなんて事象は消えていく‥‥‥消えていく‥‥‥どこにもありはしないのならば、それは‥‥‥生きることをやめないのは、まだごみではないからだ‥‥‥だがごみだ‥‥‥死のう」
私が傾いていた頭を真っ直ぐにして、にこっとすると、ホーミッヒも、にこっとしてボロニア室長の方を見た。
「室長、間違いなく、どす闇属性です。変数が闇。これぞどす闇。真髄というものです‥‥‥死のう、ですから、ね?でも、辿り着いちゃった‥‥‥けど、まだ、ね?別離、と」
黒板に別離と書き終えたホーミッヒが、きりっと微笑むと、ボロニア室長は、微笑み顔のまま、ゆっくりと瞬きをしている。
「あ、ババアが、第一は婚約証明書を王城にー、な情報を出してきたから、てめぇは婚約証明書が飾ってあるのに見合いさせようとしたのか?!ってことがあった、という報告だったのかもな?」
「あー‥‥‥そういう仕組み‥‥‥だと、こっちが、何言ってんだ?となっていても、第一としては会話?が成り立ってる、のか‥‥‥」
「二番からこんなん来た‥‥‥どうしよう?というような、ババア報告の形なのかもな、とも?」
「そういうねー‥‥‥まあ、私に、二番どうにかしてくれ、とは言わないだろうし、第一に、二番どうすんの?とは言わないだろうね」
「お嬢は、殺意を承認していたのだと自認。醜悪な、死んでくれないか、という殺意。フユーの、殺してやるよ、という殺意との大きな違いは?」
「お嬢の考える私の意思というものを、殺意を承認する根拠としていたところだろうか?」
「そこは胸糞発生源でもあるね」
「自分で歩いて行くのだ、という選択肢を与えてやっているのだから、その結果お嬢の望む死を迎えてくれる、かもしれない、という、私の行動というものが不可欠だった」
「そこは、ぐっと醜悪さを生産しているね」
「お嬢は、どうするの?という範囲が用意されていて、私は、こうするよな?という地点しか用意していない」
「そうだね。俺はそこだ。お嬢は、最終目的地を示す。フユーは、ここに足を置け、と示す。どちらが上手かなんてものでは比較することが無駄だと思えるほどに、フユーが魔女だ」
私が、ふふんとなると、ホーミッヒは、ひひっと笑っている。
「このように、お嬢の恋心バーニングは、え?そうなの!?という状況で発生する事象だと、私は認識していて、さらに、お嬢の判断によると、もう絶対そういうことしまくってないと、あーんな風に溶かせないんだよ!絶対そう!そうに決まってる!言って!お嬢大丈夫!お嬢そういう知識満載だから!聞ける!胸に仕舞っておくってことがちゃーんとできる!きりっ!と待たれると?」
ホーミッヒは、思わぬところを射抜かれてしまったことを面白がるように笑っている。
「可愛いな‥‥‥!」
「そうなんだよ。あの方は、そういった意地悪心とか乙女が爆発しない限りは、明るく素直で可愛い、凄烈なお嬢さまなんだね」
「お嬢‥‥‥そういうお嬢‥‥‥に、受け止めさせてくれよ、と待たれて‥‥‥」
ホーミッヒは、溜め息どころか俯きたそうになってしまったように見えて、これまでを思うしかない。
「ちょっと期待を膨らませてあげようかしら?なんてものではなく、あんたのあの理論、確かに採用するしかないわ」
「いくつかあるようにほのめかすことで、期待を煽っているようでいて、がっかりさせている」
「そうなんだね。お嬢は、ここでもう、なんだ‥‥‥と、態度の最悪なおっさんさながらになって、がっかりを示してくれる。どういうことかしら‥‥‥だって、溶かしてたって‥‥‥この子がそう判断したのに‥‥‥」
「そこに?」
「認定をもらいにきたのに、もらえなかった憤りをどこにぶつけるのか、となると、お嬢の想定するようなどべぐちゃりではないから、あ、大丈夫ですか?遅いんだけど‥‥‥」
ボロニア室長は、放心しつつあるのだがという様子で笑ってくれている。
この場にいるのだから、と判断したくなるのだが、そういう判断で殺される誰かもいるのだと、私は知っているような気になっている。
自分を殺したいだろうか、そう言葉にできたゼルガルは、え?うん平気と、小さく頷いてくれただけでなく、護衛の皆にも小さく目礼をさせてくれた。
仕事だの上下関係だのを考え出せば、わからない。
だが、私にとって、必要な手順ではあるのだと、医局員達を見回すと、皆は、早くして?とでも言いたそうで頼もしい。
「どべぐちゃり内容に原因があることにする。だが、まず、どうして認定をもらいたがるのか。そこが、これまでと違うように思える」
「他人の認定など必要としない」
「そういう、強さなんてもので表現されたがっているのだと思われようと振る舞っていた。本来の自分、なんてものが作用していたんだろうか、と思いたくなるような行動だが、協力者を見つけたのだ、としか思えない」
「目撃させてやって、そこでも?」
「そうなんだよね‥‥‥以前は、私もいればリンランも、という関わり方をすることもあったり、リンランが来てみればいたけど、リンランもいる、というものだったりはしても、含まれてしまうと、飲食に徹したり‥‥‥こう、知らなかったなー‥‥‥」
私が悩みだすと、ホーミッヒが予想してくれた。
「自分の中で情報を整理しているんですよ、か?」
「整理‥‥‥確認?自分の守りたいものを守れるだろうかと‥‥‥」
「とん、とん、とん、着地、なんてことになりそうな?」
「それだ。そういう、予測できないことになりそうな予感?不安、心配?な対象を思い浮かべてしまって、それにより、着地されてしまったら、と恐れているような。関わらずにいられたら、という私にぶつけることが道理であるものをぶつけないようにしてくれている、というものだね」
「慎重なんだな。自分から寄っていくとなると、そういう爆発‥‥‥目撃?」
「見られちゃったかー、とやるので、製作所の門前?とは思うんだけど、リンランが、となると、さくらんぼ‥‥‥」
「罠だと明確すぎるのに、ということか?」
「そう‥‥‥あの堅物ちゃんさまが、ってことで、侵入しようとか言われてるのを、だめよ、鍵なら借りてくることができるんだから‥‥‥」
みるみるうちに泣きたくなるのでは、お子さまだなどと片付けておけない腹立たしさだ。
「よわよわがんがんか?」
「わからないんだ‥‥‥確かな危険性だ、そう判断したのに‥‥‥それでもそちらへ、というのは、私の殺処分を回避してくれたんだろうか」
「フユーの判断というものを証明している、ということか?」
(証明‥‥‥)
「認定を得てしまっては、認めざるを得ない、というような、諦めではなく、こうなんです!でも、使い道あるよね!使えるようになってみせますよ!」
「‥‥‥しっくりきた」
「そうかもしれないなって思う!でも知りたい!気付いてるよね!治療したいって言ってない!知りたいって言ってる!知って満足しない!でもあるよね!用意できるよね!私がやるよね!」
「‥‥‥言ってみて?」
「殺そう。さくっといらないのは殺す、無駄だ。お偉い皆さまならできる!死刑、終身刑、懲役が余命を明らかに超えている、そういうのはもう即時刑を執行する。そして分解だ。私もやる。法医学なんてものではない。あの子に人体を与えたくない。だが、あの子は、必ず医療水準というものを変えてくれる。だから野に放つ。ぼこって潰して、潰しまくって、成型する勢いでぼこり続けられようと、がんがんさまなら、より強固にがんがん‥‥‥と願うのは、身勝手というものだ」
「利用法は?」
「そういうのに牢とか執行場所の掃除とかさせればいい。何言ってんだ?殺すぞ?の精神をもう持ってる。いける」
ホーミッヒは、一応頭の中に書き留めてくれているようだ。
「人体ではない?」
「そこは、ファーゼさまが提案してくれますぜ」
「ずるいなー。恋?」
「リンランをおびき寄せる‥‥‥なんてものではない、ということが、お嬢なのだと物語っている。貴様!‥‥‥」
「そういう見下し要素を見えるように?」
「見下し‥‥‥こう‥‥‥肘でうりうり‥‥‥お嬢心を刺激してくれる‥‥‥え?泥甘やかされてたのかな?」
「俺‥‥‥あんころ餅の聞くまで、泥甘やかされてるのはフユーなんだと思ってた。ね?」
「思ってた‥‥‥泥っ泥に甘やかして溶けてるんだと思ってた‥‥‥さっきも、ね?」
「溶けてたな‥‥‥溶かされてたな‥‥‥愛しい!愛しい!」
「五感?のどれかで知覚すると、溶かされだすんだと思えたね‥‥‥好きー!」
ゼルガルがリンランを思わせる言い方で、小さく小さく叫んでくれては笑えてしまう。
「それ!見えてるんだよ‥‥‥甘やかさせてほしいのにー!かと思ってた」
「甘やかしてくれよー!違うな‥‥‥俺、甘やかされてるんじゃないのにー!」
似ているのかわからないのに、似ている、と感じて笑ってしまう。
「それ!もう自分で自分に、にま、なんだなー、成分摂取!」
「フユーが何しようが、何言おうが、溶けてく!」
「成分を摂取しているとしか‥‥‥にま」
「だからこんな溶かされて‥‥‥にま」
(やはり、似ているんだよな‥‥‥不思議だ)
「あほだな!という感想になるほどに、成分摂取を楽しんでいる」
「あんころで、行ってくるとなって、どうなったの?」
「風呂の準備に!と情報が追加されました」
ゆっくりと頷いているゼルガルは、眉間に皺を寄せそうになっているように見える。
「フユー‥‥‥泥甘やかされてるのはフユーだと認識していると、どうなのかな?」
「お嬢は泥甘やかされ願望が、どぎつい濃さで内臓されているので、泥甘やかされを検知すると、素早く寄っていくんです」
「え‥‥‥二人でいても、って、それで思惑通りなのか」
「そこは、一応、念のため、形としては、こそこそなんですね。そうやって、見られちゃってるね?そうみたいね、な泥っとした甘さの供給を喜んでいると‥‥‥どの程度かな身体接触を試み‥‥‥がっつりしてて、得しちゃったな‥‥‥?そういう、いいんですか?じゃなくて‥‥‥やり遂げた!‥‥‥?」
「そういった、満足、とできそうな状態、ということだね?」
「そうです。そういった、上って到達状態になっている男性に対して、てめぇ‥‥‥!感を出そうとしつつ‥‥‥とんでもなく傷付いているのが見えていては、お嬢は、あらゆるもので自分の背中を突き破る勢いで押してでも、言って!とやるのではないでしょうか」
「でも‥‥‥こう、前向き?に受け止めたことをってことだよね?」
「そうですね。おそらく身体的な快楽というものではなく、楽しい‥‥‥というものではないでしょうか。連れてきてやっている、というような、優位な状態だと認識していたのにー、という‥‥‥乙女なんだよな‥‥‥きゃ!というものを感じた自分に対して、おまえ‥‥‥そこがどのような絶海の孤島なのか理解していて上陸しようというのか?という、非常事態に対する身構えと、よくも、このファーゼロッテさまを、きゃ!を目撃されるなんて目に遭わせてくれやがったな‥‥‥!という屈辱に耐えて‥‥‥だけではなく、よくも!‥‥‥初めて‥‥‥何かされて、そんなことしやがったな!という敵意、裏切り?自分との反省会‥‥‥?そして、知りたい!が発動‥‥‥ということは、匂いのような、ファーゼさまがそれまで気にしてこなかった部分を侵食されたんでしょうし、腰を抱き寄せられて、向かい合って抱きかかえるように‥‥‥匂い‥‥‥ファーゼさま‥‥‥嗅いで、顔上げて、するのか、せんのかい、でしょうか?」
「楽しい‥‥‥優位が違って、また優位、反応してたのかな?」
私が、じっとボロニア室長を見ると、ボロニア室長は、言ってよ‥‥‥?と悲しそうに微笑んでいる。
「以前同じようなことが別の誰かと‥‥‥そこまでは無いな‥‥‥ゼルガルさま、楽しすぎ‥‥‥帰ったらしよう‥‥‥いや‥‥‥ファーゼロッテさまだ‥‥‥いい匂いのする石鹸ですね!」
どうよ?とホーミッヒを見ると、ホーミッヒは、それだー!となってくれている。
「ファーゼロッテさまは、絶対的な自信をお持ちなのに、ぴがしゃーん!なので、自分の素晴らしさの一点として挙げることのできる部分は、石鹸によりもたらされていただと!?自分の匂い?どうやって知ればいいんだー!」
「嗅いで?」
ゼルガルにずばり言われ、やばいものを飲み込んでいそうなのは、マヤリーとキッカだけではなさそうだ。
「まずは石鹸を変えてみますね。気付くんだろうなー、どうせ、家の中ではべったべた触りまくってるくせに、外でなんて!ということなんですよ‥‥‥」
「あ、そういうのをやんないようにしていれば、というのも?」
「あったでしょうねー、これまでの自分の選択のせいで、しくじることになったんだ!そうやって、これまでの自分の行いを検分していく作業をしていると、なるほど確かに認定してもらえそうにないようにも思えてくる。ここまでくれば、もうファーゼロッテさまは、リンランの認定なんてもんを欲していませんが、ぎゃふんと言わせてやりたい、なんて崇高な精神をお持ちなので、あれはー、そういうのじゃないのー、あんたの理論、いや、理念ね、を採用してやってもいいなって思ってるのは、あの方なのよー」
「え?普通に、あれより好きってことだよね?」
「そうですね。ファーゼロッテさまはうかつですので、あれ?自分、今、あの方とそういう仲になりたいって言ってるな‥‥‥絶海の孤島に辿り着くなんて、そんなことは、夢の中ででもやってればいいのよ、無意識ってことよ?ということで、大海原のど真ん中に違いない!と確信できる場所に、どっさり錘をつけて沈めておいたのに‥‥‥自分、俗物じゃないの‥‥‥」
「そういう高さなんだね。これはきったなく頑張りそうだな。どうにでもして高さを保とうとしそうだ」
「ファーゼロッテさまは乙女であり、強固な無意識論者であり、自分ってかなり計算高いどころじゃなくて計算しつくして毎日ってのを予定調和で生きてやってるのよね、なので、落ち着いて?ファーゼロッテ?いい?これは無意識からの警告というものよ、間違いないわ、ここ!もう異常事態です」
「間違いない、なんて確定の仕方をしないということ?」
「そうです。ファーゼロッテさまは理論大好きっ子なので、何でもかんでも、理由、因果関係、結果、事象の集合体、というものでこねくりまわして、自分の中での収納場所に押し込める形に仕上げる手間が必要なんです。もう沈める選択をしてた自分を指さして笑ってやってるほどに、何が起きているのか理解しているのに、自分は一方で、あれと一緒に暮らす選択をした」
「もう思考停止だね」
「もう何から考えていいのかわからない事態ですが、ファーゼロッテさまは、直観というものを重んじますので、もう嫁に行く気にくらいなってますし、添い遂げるのなんて当然決意してます」
「あの日あんなに悲しかったのは?」
「そうですね。そうやって、添い遂げる前提で行くことにして、自分の体臭なんてあれに嗅がせておけばいいのよ!と除けておいて、自分にどうにか毎日を生きさせていくしかありませんし、ファーゼロッテさまは嘆きも大層なので、好きとかじゃないんです。そんな選択肢もいいわよねー、って思ってしまって、沈めておいたほどに、あっちなお方の妻になってやらないと、と気負っていたので、あっちなお方より優!ってことであれを選んだんだってことにするわよ!と行軍を開始したんですね。標的がホーミッヒなのは、ちょうどよかったからです」
ここでホーミッヒが、どっと安堵しているということが、どれほどな毎日だったのかと思わせる。
「何もかもファーゼロッテさん好みなホーミッヒさんと同じ職場にいるというのに、あれは少しも気にしていないどころか、まさかホーミッヒさまのことを知らないのでは?と心の刀を抜いてしまうほどにお好みな、それほどまでに好ましい人物なんです。好きすぎてどうやって呼吸をしていたのかわからなくなっている自分どうした?そう思っているように見えました」
「呼吸の仕方を意識しているようでは、ずっと異常事態だね」
「まさか自分はホーミッヒさんの体臭を嗅ぎたいのか?」
「気にしてるなー」
「嗅ぎたいんだな‥‥‥」
「好きって何?」
「あれと添い遂げる!でもホーミッヒさん好き!好き度、ここ!」
「訳のわからない尺度を適用するとはね」
「好き度では絶対!ホーミッヒさん!どうしてあれと添い遂げるのかしら‥‥‥でもしちゃったしってほどって思っちゃっては、誰とでもするようになるんだろうけど、それでもいいのか‥‥‥あれって自分のこと‥‥‥」
「悲しいねー‥‥‥直観は?」
「はい、ここで、運命なんて考え方を採用したくなってます」
「初めて添い遂げようと思ったんだから、ってこと?」
「でも、違うなって思って、次は違うの買ってみたら、ってこともあるわよね?一生もの‥‥‥別れればいいのか‥‥‥別れよ、って思ったら別れればいいのか‥‥‥そうよね。その間はあれだけってことでいればよくない?一人‥‥‥ちら」
ホーミッヒを見てやると、ホーミッヒは、きちんと嫌そうに肩をすくめつつ首を横に振っている。
「まず、一人ってとこから入るのがね?」
「そう思います。あれといる自分と、あれといない自分、という対比だと思うんです」
「そこ、僕は、一緒にいることになる誰かとなると、というものだと思える」
「俺もそう!あれとの二人、俺との二人、という対比ではなく、あれの代替人物が俺、ということだ」
「あれと一緒にいないのならば、がつくってこと?」
「そう!あれが最高位なんだ」
「婿養子」
「あ、よさそう。一生面倒見てあげるわよ」
私とホーミッヒがじっと見ると、ボロニア室長は、いいな、となっている自分を意外に思っていそうだ。
「どうせ、ファーゼの思惑が読まれてたことが恥ずかしくて、ファーゼの思惑に沿ってくれたのに、ファーゼに触れたくなくても触れるんだって悲しくなったんだって、まだ気付いてませんよ」
ボロニア室長は、ゆっくりと呼吸してから言葉を引っ張り出す。
「‥‥‥そうかもしれないね」
「どうせ、製作所に侵入しまくってます。ボロニア室長が所有してもらえませんか?」
「いいな‥‥‥いいね。買う」
「ありがとうございます。ばーちゃんと話してみてください」
「そうするよ。ありがとう、フユー」
「どういたしまして。あいつ、ドンちゃんって呼んでやりますよ」
ボロニア室長は笑い出し、徐々に前屈みへとなっていく。
「なんて秀逸なんだ‥‥‥!何でも詰め込まれている!」
「ドンちゃんは、国の認定なんて欲しくなかった、とか思ってるでしょうから、派遣調査官なんてちらつかせてみてください。何を調査するかって?」
ボロニア室長は、しっかりと躊躇してから言ってくれた。
「‥‥‥体臭?」
「ドンちゃんに嗅がせなさいよ!と、大陸中歩き回るんでしょうね」
「どこまでも行ってくれそうだ‥‥‥!」
「調査結果をきちんと文書で提出してくれますよ?」
「‥‥‥ちょっと読みたいな」
「どうせ、気になったの片っ端から嗅いだんだって理由の集団です」
「やっぱりいいや‥‥‥」
「分析対象は若い男性だけ」
「気になるんだよな‥‥‥」
「麻薬を酒に溶かせば、それもまた、兵器というものだとは思いませんか?」
瞬時に室内の空気はひりつき、ボロニア室長はすぐに立ち上がった。
「僕が行こう。ファーゼロッテ・ボロニアを派遣調査官として採用することを提案し、試験薬や試料、試験法の確立を急がせて」
「ボロニア室長、ゼルガルさまは、右の国とこちらの国で、移動中に私が気になった酒を、すべて購入してくれました。私の実行する優先順位は、この国、そして右の国であり、間の国は私が蹂躙することにしています。間の国の東部支所へと、購入してくださったものは集まる予定になっています」
「ゼルガル第二王子殿下。速やかな協力関係の構築をお願いいたします」
「速やかに実行しましょう」
「私が小型船でお送りしますので、船の中で、情報の確認と精査をお願いしたいです。忍者をもらってきてください!」
「俺はシノブを選ぶ!」
(あ、いいんだ)
ゼルガルの護衛達と合流していた忍者は、シノブとなることにして、同席してくれていたのかと、喜ぶのだから現金なものだ。
「キッカ、本体もだ」
「本体って、額縁とか?」
「絵具を削って、額縁を削って、キャンバスを燃やして、と」
「もうそれでできてるってこと‥‥‥!」
「もちろん塗料だの、絵具だの、色鉛筆だの、と疑いだせばきりがないが、がちがちパンを浸して水分調整、だとかも気になるし、こう、手袋使うでしょ?」
「あー!そうね!そういう自衛として‥‥‥調度品なんかも」
「釉薬?っていうの?」
「あ、まんまね」
「染物だとか、刺繍なんてのまで疑いだせば、というものだ。ルージャン、王家の皆さまの使用している手紙に使うもの、封蝋印の本体だとか、インクや、便箋だね。ナナセさま関連のものも、耐えるために泣かれようと、端っこ切って全部調べて。マツリカ領の本屋にあるものは、すべて、何者かが持ち込んだものであり、マツリカ商会が納品した品ではない」
「色インク‥‥‥」
「そこは、提出、ということになるだろうから、任せるよ。本屋にいるもちもちさん達は、近親相姦の疑いで間の国にぽいしておいて、本屋の管理もルージャンに任せたい」
「お任せあれ!王家の皆さまは、手紙なんて書かなきゃいい!」
「ぽいもやっておいて?」
「ぽい‥‥‥」
ルージャンは誰に助けを求めたものかとなっているので、連携に割り込む隙がありそうだ。
「ガーロイドの部隊と、ヒオネアの部隊と、シェンムーの部隊と、レギアロッテの部隊に招集をかけて、ルージャンはシェンムーの部隊を使ってください。キッカはレギアロッテの部隊を使って、シキミ領の制圧と調査を、できればレンギョウ商会所有の大型船から順にお願いしたいです。ホーミッヒはヒオネアの部隊を使って、ネズを制圧したら、調べるのはまずネムからで、キリはデュカジオードにさりげなく包囲させてください。すべての船をその港で停泊させて、流通をぶった切りますが、主導権は完全にこの国です。トイレの中身だろうが、何も船外へ出させない、持ち込ませない、人は船内で着替えと穴の中まで調べてから、レンギョウ商会の宿ででも拘束しておくことを提案します。馬を死守、それが大前提です。ガーロイドの部隊には、観葉植物の中にあるものは偽物だと事前に教えておいてやって、スオウの制圧と調査を始めさせておいてください」
「僕にも何か頼めるかな!」
ボロニア室長も手帳に書き込んでいるということは、調査にも関わってくれるということだろう。
「身の回りのものから予想していくことをおすすめしますが、私がおすすめしたい商品は、目薬、洗濯したおしめ、蝋燭、燃えない石炭ですね。流通方法だとか、運搬方法や使用法というところから、その国で売れそうなものを優先することを、私は試みたいです。必ず、すべての人員が手袋を着用してください。最悪なのは、井戸のようなものに溶かされてしまう、馬糞として畑に混ぜ込まれてしまう、海に撒かれて海産物ですが、夢のような商品だとも言えます。麻薬に負けない馬を使ってばらまき、混ぜ込み、できたもので人体に家畜に馬です。草木も可能ならば、燃やせばいいだけの薪に松ぼっくり、燻製なんて最高ですね。サウナ、お風呂に溶かす、足湯に清拭、いくらでもとなれば、流通経路というものを割り出すのは容易なようでいて、簡単に切り捨てられてしまうのかもしれません。申し訳ありません。情報とは呼べないような使い勝手どころではない、闇雲というものです」
「いいや、目薬、最高だよ!粘膜からの吸収であり、日常的にじわじわと!そうだ。そういう用途として最高じゃないか!馬!絶対だ!」
「山羊とかそのまま出ますから、栽培地にいそうに思うんですが、広げてしまえば、とも思いますので、その後は除草の役割でしょうか?」
「なんて錬金術師さま!もぐもぐで摂取してくれれば、なんて楽ー!肉にして、あ、牛乳とかもか。赤子のおしめに生理用品もだね」
「錠菓、どうです?」
「なんて使い勝手だ!」
「穴に突っ込んで使うんですよ?船内なんて最高の市場です。お客さん、どの子にします?錠菓はどのお味にしましょうか?まいどありー!」
「脅威の錬金術!」
「絵葉書なんてものをお土産として、さらに船室にある絵はご自由に、お持ち帰りは別途料金でございますー!」
「儲かるー!」
「あの子気に入っちゃいました?仕方ないなー!お客さまだけですよー?」
「やべぇ商売し放題だ!」
「夢の流通!あの子、あんなだった?ゼルガルさまにご賞味されたくないんですって!」
「フユー!君は魔女だ!」
ゼルガルが睨んでくれては楽しくなってしまうのだから、魔女なのだと思っておくことにしよう。
「偽物大好き間の国では、ポノレイ、テミドラ、メイリーン、マーシャが、私にとってのレンギョウ商会の偽物を、ぼっこぼこ潰していってくれてるはずであり、流通経路というものが見えてきているはずです。そのような宿や、これ宿なんだーな宿や、へー実は個人宅ねー、なものを調べる準備もしてくれているはずで、私のおすすめ商品は、やはり錠菓!そして、いい香りー!なもの全般ですが、蝋燭、香水、入浴剤、石鹸、酒、コーヒーや紅茶と一緒に出す砂糖です。香を焚いておく、カップやスプーンに塗っておいて乾燥させておく、観葉植物として置いておく、壁に絵として掛けておく、壁に塗料として塗っておくのもいいでしょう。部屋、暖めておいてくれてるー、わー、あったかい飲み物飲んでるうちにお風呂ー、いい香りの浴室でうっきゃきゃ楽しんで、洗濯しておいたタオルにバスローブ、水分補給に錠菓もお一つ、もちろん枕カバーにシーツも洗濯済みです。ウイゼを従者としてメグノアードさまがいいでしょうね」
「そうだね。本物のレンギョウ商会に手伝ってもらうよ」
「ぜひともに。ケイオスさまには、宝石関係と手触りのよさそうなぬいぐるみを生産から、ずあっと調べてもらうのはいかがでしょうか?」
「そうしよう。軍はそこで使うことにする」
「ジョルムは第二席として、ゼルガルさまがもらっておくのはいかがです?」
「そうだね。ナオジーがさくっと休む選択をできる。いいね。ティファカは軍の頭として待機と流通経路で、僕は他国との連携に統括かな」
「素晴らしい采配となりましょう」
「フユー!うちの軍は?」
マヤリーに聞かれ、一気に行えそうだと楽しくなる。
「では、カイドウとヤマフジとヤマボウシの制圧を!ガーロイド単騎を先頭にして、ヤマボウシから入らせて制圧、ヤマフジ制圧、カイドウのじーさまには調査に協力するよう話してから制圧!それから調査開始で、カイドウ、ヤマフジ、ヤマボウシの順!あと、レンギョウ領で分岐する奴らを根絶やしに!すべての人員が手袋を着用することを徹底!馬を絶対に守れ!以上!」
「お金ならあるわ!」
(知られてるー!)
「陸路の整備!どこに敷いてあげようかなー!と、畑や牧場や養殖場を徹底的に把握しよう!とにかく馬!領主からは、敷地の利用を厳密に!海産、畜産、農業、資源!荒地だの草原だのわかんないだの言いやがったら、ぜーんぶ没収して私にください!」
マヤリーが書き留めていると、パミザがそおっと立ち上がった。
「‥‥‥あの、抜いて調べたいな、って」
「おお!そうだよね!そうだよ!それだよ!診療は外の医者に任せておこう!全員転院可能だ!」
ボロニア室長の言葉を聞き、ふはははは!となって立ち上がったのは、ネアドだ。
「室長!お馬さまは俺!ですよね?」
「まあ‥‥‥そうだけど、二度と乗せてもらえないだろうね」
「あ‥‥‥ポポア!おまえはぽあぽあっとしてりゃ大丈夫だ!お馬さまをぽあつかせてやれ!」
「え‥‥‥作っていいってことですか?」
「ポー!ポア!おまえはパミザの班だ!あ、馬医いる‥‥‥室長!馬医いる!連れてっていいですよね?」
「そうだね。皆それぞれ、あ‥‥‥ファーゼが王家の皆さまでよくない?」
皆が皆、にまっとしてしまったのでは、もう総意ということでいいだろうとボロニア室長も思っていそうだ。
「何かあれば、呼び出すように進言しておくのと、局員は全員配置に着きました、と報告しておくのはいかがでしょうか?」
「いいね!それでいこう!皆、仕事を始めよう!マヤリー、製作所のことも頼む」
「わかりました」
「マヤリー、キリ卿だそうな胸糞お化けを、手足を切り落としてでも拘束してもらえないでしょうか?って王太后さまに!」
「「誰?!」」
ボロニア室長も知りたいのでは、そこも知られているのだろう。
「ぬべっちゃー‥‥‥!っとしてません?」
「「してる!」」
この表情では、相当苛つかせてもらったのだろう。
「リタジオードさんが演技だの変化だの成長だのと、そんなもので覆える方ではありません」
「‥‥‥胸糞お化けは何て?」
ゼルガルは、すでに胸糞を予想しているようだ。
「僕、おっさんみたいな声になって、こんなに背も伸びちゃって‥‥‥僕が誰だかわかりますよね?」
ゼルガルは、胸焼けしていそうに傾いて肩を落とす。
「おえ‥‥‥」
端的に感想を示してくれて、笑ってしまうのは、ボロニア室長とマヤリーもだ。
「もう、見つけたら拘束していいですかね?」
「そうだね。調べたいってことでいこう。よし!行動開始だ!」
皆それぞれに移動を始めると、シノブがこちらに来てくれた。
「フユー、俺はシノブだが、ハオジャオだ。小型船をシキミに注文してあるので、もうできていると思うんだが、使用することをどう考える?」
「最新?」
「‥‥‥旧型」
(金が無いってのはつらいね‥‥‥)
「注文を請けたのは?」
「‥‥‥明番街」
若干なのかどうなのか、おそれているのは、シノブも国を背負っているからだろうか。
「室長を頼みたいのと、ゼルガルさまはどうします?」
「僕も乗せてもらいたいな。間の国の北部の港で下ろしてもらえないだろうか?」
「船に乗ってしまえば、私は護衛の任を外れます」
「よろしく頼む」
これで私は、自由行動となるようだ。
「ゼルガルさま、買っていただいたものを差し出した私は、あなたの敵ですが、私に間の国の軍を壊滅させてくれるのでなければ、私を侵入者だと認識しないでいただきたいのです」
「アズサの名を君に贈りたいので、マツリカの前に置いてもらえないだろうか」
(アズサ!)
私にとってのアオバとなるだろうか。
「確かに受け取りました。私は、フユー・アズサ・マツリカとなれたらなります。ここからしばらくは、リーシャとお呼びください」
(ん?)
シノブは香水の小瓶を取り出して蓋を外したのだが、出す?となっているようだ。
「指先で塞いで、傾けると、指先にちょっとだけつくでしょ?」
塞いで?傾ける?お!となっているシノブは、蓋をして小瓶を仕舞うと、ゼルガルに腕を掴まれた。
「君‥‥‥何するの?」
「俺、忍者」
端的な自己紹介に、ゼルガルも笑ってしまっていたのだが。
ゼルガルはシノブの指をシノブの首についとやらせてやると、シノブにシノブを抱きしめさせてやった。
(あらま)
シノブは、不満顔を通り越した苛っとしてます顔となっていたのだが、腕を下ろすと、私の前に片膝をついた。
「おまえが好きだ。生きて待っていろ。必ず戻る」
(生きて‥‥‥いられるかね‥‥‥)
「そうあろうとできればしよう」
「俺をまた彷徨わせないよな?」
「流離うといい」
「おまえが拾ったんだから、俺が死んでも面倒みるんだよ!」
なんともその通りだと思える理論ではあるのだが。
(そんな偉そうに言うー?)
「フユー、忍者の面倒みてきたのは僕だ。君の骨も僕が面倒みてやるよ、オジャオ」
(オジャオ!)
「オジャオ‥‥‥ヨハンだね」
「‥‥‥俺、シノブ」
「皆さん、閉めますよー?」
マヤリーに促され、落ち込むシノブも立ち上がると、シノブは護衛として配置についた。
(行かないと)
私は一人となって行くのだと、前を見据えようとしていると、ゼルガルは小箱を差し出してきた。
「僕、本物かどうかって見抜けないんだけど、きれいだと思ったんだ」
小箱の中にはピアスがあり、それは、中央にある楕円形のロードクロサイトの周りを、スモーキー・クォーツとパパラチア・サファイアの小さな丸い粒で取り囲んでいる。
「まんま桜餅‥‥‥でも好きなんだ。着けるね?」
ゼルガルは小箱を持った手を、私の肩を抱くようにして置いておくと、ピアスを手に取り、私の耳に着けていく。
(うわぁ‥‥‥って思ってる)
思えば他人の耳にピアスを通すというのは、中々できない体験なのではないだろうかと、ゼルガルの顔を見ていると笑えてしまう。
「外すのはありだけど、仕舞うのはない。すいすいして?」
(お‥‥‥いいんだ)
私が眉間をすいすいしてやると、ゼルガルは、おお、と自分の身体に起きた現象に笑っている。
目を開けると、今度はゼルガルがすいすいしてきたので、私も目を瞑ってしまって笑ってしまう。
目を開けると、ゼルガルは楽しそうに笑っていたのだが、若干のむすとなってしまった。
「ロードクロサイトは僕のものだ。砕けて?」
「そっか」
ゼルガルは、気に入らないのだと首を捻る。
「ロードクロサイトは、僕のものだ」
「そうだね?」
ゼルガルは、まだ違うなと首を傾げる。
「ロードクロサイトは?」
「僕のものだ!」
「いいね」
ゼルガルは小箱をポケットに仕舞うと、部屋を出ようと移動を始め、ふぁー!顔で固定されてしまっているマヤリーに見送られて部屋を出た。
私が前に来ると、マヤリーは改めて、ふぁー!と顔面でやってくれて楽しい。
「浮気者!」
(えぇ?!)
部屋を出ると、先に部屋を出ていた皆さんに取り囲まれていたマナジオードに罵られ、思わずのけ反ってしまった。
これもギドロイの采配なのだろうと思えば、うんざりするしかないのだが。
(八つ当たりというものだ‥‥‥)
「僕ですよ?リタです!」
「‥‥‥ん?好きですよ、お、好きです、あ、目が合いましたね、好きです、挨拶してくれましたよ!好きー!」
「フユーは、わかってるなー!」
「あなた、お嬢の魔界で暮らしているリタジオードさんを知っているようですね?」
「‥‥‥リタです」
どうか、そう願ったところでと、涙なんてものが溢れてきそうだ。
(嫌なんだよ‥‥‥)
「生きようとして‥‥‥?」
マナジオードは、情けない顔となって頷きたそうにしているようにも見えるのだが。
そこにあるのは、矜持というものなのだろうか、と見つめてみたところで、マナジオードの目に涙が溢れていくことしかわからない。
「ヨモギリ家から来た?」
マナジオードは、ふっと笑ってしまいそうになり、口をぐっと閉じておく。
「アンコス・ヨモギリ」
アンコス!と無音で言ったマナジオードの肩に手を置き、ゼルガルは声を出さずに笑っている。
「好きになっちゃったんでしょ?ヒイラギ卿のこと‥‥‥」
聞いた?と指さしてしまっているマナジオードに、ゼルガルは小さく頷いてやっている。
「胸糞お化けを成敗する旅は、一旦お休み‥‥‥正規雇用お官吏さまって、毎日食堂なんてところで、プリンが食べられるんだ‥‥‥でも、毎日は目立っちゃう、でも、ヒイラギ卿も食べるから、そういうことにして、毎日プリン‥‥‥飽きないんだよな、プリン‥‥‥プリンが日替わりって、僕をこの地に足止めするのが目的なんだとしか考えられない‥‥‥え?水ようかん?プリン枠だよ?‥‥‥え?混ぜる?」
「おまえ!そんなことしてるのか?!」
ゼルガルが勢いよく問い詰めてくれては、マナジオードも笑いを押し込め頷くしかないようだ。
「アンコス‥‥‥徐々に寄せていかれて、好きになっちゃった?」
ここで、きちんと首を傾げたそうにしてくれるのだから、マナジオードだ。
「お椀の大きさに納得‥‥‥しかし、配分‥‥‥しかし、僕の配分というものも狂ってきているのは間違いない‥‥‥狂っている?だって、テオは‥‥‥いや、あんなのは邪道だ、僕の腕力を搾取するナツメ小僧ぶりには頭が下がる‥‥‥だって、僕ってご長男さま‥‥‥ヒイラギ卿の部下で、テオより上‥‥‥最高な野郎環境‥‥‥リタでいいか」
「おまえ‥‥‥きちんと自己紹介しないから‥‥‥でも、ヒイラギ卿とテオは、きっと気付いてくれている。そうだろう?フユー」
(横取りしやがった)
私が顔面で告げ口すると、マナジオードは、舌打ちするように一瞬の瞬きをしてゼルガルを軽く睨む。
「一旦お休み中なんだから、マナジオード・キリとして、ヒイラギ卿に、胸糞お化けから偽物の家督を取り上げたいよー!部下にして?僕が首席!ってやって?」
「フユー‥‥‥もうなってるに決まってる。ナツメ小僧の手下っぷりを知ってるだろう?」
(腹立つ!)
マナジオードも同じ心境らしく、な!としっかりと頷いてくれてから、ゼルガルを邪険にしている。
「アイヤードのことを知らないそうなキラベチャさまが、知ったふうなことを言ってる‥‥‥どうしてだろう?」
「キラベチャさまは、搾取し終えた女の子のことは記憶消去する機能を内蔵しているんだよ」
「それで、知らない女の子だらけなんだ‥‥‥僕、君のこと知ってるような気もするんだ、どうしてだろう?」
「キラベチャってるなー‥‥‥搾取できるとなれば、思い出すんだー‥‥‥」
「思い出せそうなんだよな‥‥‥知ってる?成分を摂取するという理論を生み出したのは僕なんだよ?」
「あほだな‥‥‥そんなもん人類の男性機能は、みーんな持って生まれてくる理論なのに‥‥‥恥ずかしいキラベチャさまだ‥‥‥」
マナジオードが鼻で笑ってやると、ゼルガルは、微かな瞬きで苛っとしているのだと示す。
「キラベチャさまによると、僕が時を止めてるのは、摂取する成分が足りなかったせいだと思うんだよ」
「好きだよな‥‥‥時を止めるの‥‥‥いくつって言ってた?」
「十二になるって」
「わーお‥‥‥なんて微妙な時の止め方なんだ‥‥‥まあ、野郎にとって、身長というのは重大案件だからな‥‥‥搾取しまくって、すくすく成長‥‥‥今、何人くらい?」
「そんなもん、ババアと妹以外の、ぜーんいんが搾取済みで記憶消去済みどころか、右の国でもそうだし、すでに左の国でも取り掛かってる」
「取り掛かってるかー‥‥‥キラベチャさまだもんなー‥‥‥今、いくつ?」
「二十一」
「キラベチャ盛りってやつだー‥‥‥搾取し放題、順調に記憶消去を繰り返し、残るはババアと妹だけ‥‥‥」
「マナは二十三」
「二十三かー!」
「ちょっと深みが増して、男って感じになっていくんだね」
「男かー‥‥‥いいな。いい、野郎観だ‥‥‥二十三」
勝ち誇った笑みでゼルガルを見下ろしてやるマナジオードは、それでも悲しみで満ちている。
(悲しいね‥‥‥)
「ホーミッヒさん‥‥‥親分が悲しんでる‥‥‥」
「え?あ、俺、親分さーん!俺も子分認定してくれてるんだー!今度、飲み行きましょうね!奢ってください」
マナジオードは、悲しみを残しながらも嬉しそうで、首を横に振っているのだが、ホーミッヒは頷いている。
「ちょっと多く出してくれますよね?」
こいつ!となったマナジオードは、親分顔となって頷き、キリ家の頭領となっていくのだと思わせてくれる。
「じゃ、ゼルガルさまから、アンコス・ヨモギリなんだと説明して、ヒイラギ卿に、自分は、ミッタラ・ヨモギリだったんだとも説明してください」
「僕、違うのがいい」
「えー‥‥‥?じゃあ、どら焼きみたいで可愛いね、のテミドラに、こしあんのどら焼きだよ?って言ってきてください」
「キラベチャを悪用しない!」
私がピアスを外すと、マナジオードは髪を耳にかける仕草をしてくれたばかりか、耳に寄せてほしがってみせてくれたのだから、胸糞悪さではないものも満ちてくる。
「おまえは私を見失うように生きている。きったないピアスを受け取ることが、おまえにはできない」
私がピアスを持つ手を差し出そうとも、ゼルガルは動かない。
(さようなら)
「マナジオード、ヒイラギ卿の部下となってくれるだろうか?」
「仰せのままに」
恭しく手を胸に添えてくれては、微笑んでこの場を立ち去ることができてしまう。
(ありがと)
マナジオードは、目礼という形で別離を惜しみ微笑んでくれるのだから、有り難い。
何もかも消し飛ばすのだ、そう思えば、自分はお子さまなのだとうんざりするしかないだろう。
私が背を向けて歩き出すと、ゼルガルの声が響く。
「シアのばか!」
(そうかい)
顔を上げれば、マヤリーが先回りして、さっと窓を開けてくれるのを見ていることができた。
(前を見ていないとね)
「ありがとう、マヤリー」
「気を付けてね」
(行ってきます)
私が窓から飛び降りると、そこには、ガーロイドの部隊が待っていてくれた。
きちんと私の馬が用意されていないのは、ギドロイの指示なのだろうが、ちょうどいい。
「ガーロ!一人は全部隊に招集をかけて、マヤリーに確認を!馬は私が使う!」
ガーロイドが指示を出すと、私はすぐに空いた馬に乗り、馬に合図を出す。
「今は、ガーロイドのみ、続け!」
すぐに並んでくれたガーロイドは、予想通りの反応だ。
「何が起きてるんだ?!」
「おまえが当主だ!じいさまとジーディンには、糞坊をこしあんに漬けさせろ!」
「糞坊?!」
「スオウに部隊が到着すれば、おまえは伝達を受けて動け!私はカイドウでの合流を目指す!宮廷を出れば行け!」
「行く!」
ガーロイドが下がってくれたので、私は前に出るとしよう。
どうかと願うことなど無力なものだ。
自分のこれまでを笑ってやるしかない事態に、すでに零れそうなのだから、何もかもが嫌になるのはお子さまだからとしておこう。
「リーシャ・シロツメクサ!以下二騎!このまま出る!」
門番達は兵器が通るのだと理解し、急いで道をあけてくれたのだが、後方から聞こえてきたガーロイドの声は間の抜けたものだ。
「リーシャなのかー!?」
「失せろぉー!」
「行きますー!」
「行ってこーい!」
「はい!」
懐かしい景色も、目線の高さが違えば違って見えるとは思うのだが、それは馬に乗っているからだけではないような。
(背、伸びたかも?)
宮廷を出てしまえば、この国はまた遠くなる。
そのことにほっとするのだから、ゆっくりと呼吸するしかない。




