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シアの国  作者: 薄荷堂
魔女
69/106

69.見せびらかし

オリーブ長官が案内してくれたのは、ルツの使っている棟だ。


長官は執務室には向かわずに二階へと上がっていく。


「ちょっと待っててね?」


長官が二階の扉を入っていくと、ゼルガルが、ぽんと私の肩に手を置いた。


『‥‥‥何者なのかな?』


私が首を傾げていると、オリーブ長官が戻ってきた。


「皆さんこちらへ」


すでに涙ぐんでいるのでは、忍者も予想できているだろう。


二階への扉を入っていくと、居間へと案内され、そこにはすっかり痩せてしまったヨアンナがいた。


二人はお互いを見たまま立ち尽くしている。


「ゼルガルさま、あの子はヨアンナです。きっと忍者の話を聞きたいので、同席してもらってもいいですか?」


オリーブ長官が通訳してくれると、ゼルガルは快く同意した。


(来ちゃった、の姫ではないのかな?)


ゼルガルも戸惑っているように見えるのも、演技なのだろうか。






◇◆◇◆◇◆◇






私が忍者発見について語り終えると、ヨアンナと忍者の口元が緩みそうになっているようにも見える。


(恐怖体験ではなかった、んだよね‥‥‥?)


「撒菱、持ってるよね?」


忍者が、すっと撒菱を取り出すと、オリーブ長官は、手に取ってじっと見ている。


「本の通りだわ!」


「間違いありません!」


私がノートを開いてテーブルに置くと、オリーブ長官とヨアンナも見てくれている。


(ここからも、人情でどうにか!)


忍者とのやり取りを辿ってくれたのだろう二人は、忍者のここまでを察してくれたようだ。


「長官、私、次は王子を見せびらかしてきますね!」


「いいわよ!」


「ゼルガルさま!行きましょう!」


私が立ち上がると、ゼルガルもすぐに立ち上がってくれたのだが、すでに身構えてくれてしまっている。


普段通りでとお願いしたいところだが、とんでも体験させているような気もするので、そこについては考えないようにしておこう。


二階を出て、ルツの棟も出ると、医局へ向かう。


いつもより人通りが多いようにも、さり気なく人払いしてくれているようにも思える。


(いるかな?)


「失礼しまーす、フユー・マツリカですー、見せびらかされてもらえないでしょうかー?」


医局の扉を開けた状態で、中へと向けて言ってみると、廊下に出てきてくれたルージャンは、ぎょえ!となって、すぐに引っ込んでいった。


「先輩ー!フユーが!フユーがー!」


ルージャンの叫びが聞こえると、他の医局員達も何事かと廊下に出てきてくれたのだが、皆が皆、小さく口を開いて驚いてくれている。


(あ!)


「ホーミッヒ!きらきら王子さま!」


一足遅れて廊下へと出てきてくれたホーミッヒは、わー!となりつつ駆け寄ってきてくれた。


「とりあえずこちらへ!」


ホーミッヒが促してくれたので、ゼルガルと護衛達にも建物内へと入ってもらう。


屋外で配置につく護衛に扉を任せ、私も中に入ると、ホーミッヒは喜びに満ちた様子で、ゼルガルの周りをぐるぐるしながら観察している。


「すごい!きらきら!本当に絵本に出てきそうな王子さま!このような王子さまが実在したのでは、この濁世に、夢や希望なんてものを抱いてしまうに決まってる!わー‥‥‥!どうしてこうも‥‥‥遺伝子ってやつは‥‥‥!素晴らしいな‥‥‥最高傑作、そう表現するしかない‥‥‥物質ではない何か‥‥‥成分、そうだ‥‥‥確かにそう表現したくなるものが表出しているように思えてならない‥‥‥どうして‥‥‥」


「出てくるんじゃないでしょ?纏っているでしょ?」


「そうだ!そういうのじゃない!漂いでもない‥‥‥こう、包まれているというのでもない‥‥‥表出したものがごく周囲にのみ‥‥‥消えたりしない‥‥‥減ったりしない‥‥‥どっか行ったりしない‥‥‥でも停滞しない‥‥‥何なんだ!この王子さまは!きらきらしている!きらきらしている!」


語彙が限定されてしまったホーミッヒは、目に焼き付けておこうとするように、ゼルガルの周りをぐるぐるし続けていて、なんて見せびらかし甲斐のある反応を示してくれるのかと、満足感で満ちていく。


(いい日だ‥‥‥!)


ゼルガルが困って笑ってしまうと、皆が皆、ほう‥‥‥!となって感嘆の声をもらす。


「うわー!きらきらが増してるー!このまま留めておきたいが、そんなことが叶わないー!」


ホーミッヒの喜び具合に、ゼルガルが照れを滲ませては、マヤリーは深刻そうな顔で白衣を持ってくるしかないようだ。


お願いよ!と顔面で語ってくれては、受け取るしかないだろう。


「ゼルガルさま‥‥‥」


私が白衣を構えると、ゼルガルは、観念したように笑って白衣を着てくれた。


マヤリーは、ぷるぷるしつつ、ボロニア室長の首から聴診器を手にすると、そんなに?と笑ってしまうほどにハンカチで拭いているのだが、その目はゼルガルに釘付けとなっていて、これではゼルガルはきらきらを増量させてしまうことになる。


「もう輝いている!なにか放出されているとしか思えない!待って!俺も!」


ホーミッヒは急いで部屋の中へと走っていき、何か持ってくるのだろうと予想していると、マヤリーが、行って!と鬼気のようなものを背負って聴診器を差し出してきた。


「ゼルガルさま‥‥‥」


私が差し出すと、ゼルガルは、もー‥‥‥!となりつつ頭を下げるように少し屈んでくれたので、首にそっとかけてから、マヤリーをさっと引き寄せると、ゼルガルはきちんと顔を上げたそのままでマヤリーを見つめてくれた。


「きゃー!」


堪らず叫んだのは、取り巻いている医局員達の中にいたキッカだ。


無音で叫んでいたマヤリーは、今や、うっとりに移行してお医者さまゼルガルを堪能している。


(好きだね!)


「はい!ここ来て!」


戻ってきたホーミッヒは、キッカを呼んでやり、キッカに試験管立てを持たせると、マヤリーにはバインダーとペンを持たせてやった。


試験管の中には、ミルキーな色合いの夢可愛いとでも表現したそうな液体が入っていて笑ってしまう。


(すぐ作ったな!)


ホーミッヒに、どう?とやられたので、ふっと笑って小瓶を差し出す。


「フユー!最高だよー!」


ホーミッヒは小瓶を受け取ると、お願いします!とゼルガルにやる。


ゼルガルが期待も放出させてくれては、医局員達の輪が、ゼルガルのもとへと小さくなっていくのも仕方ないだろう。


ホーミッヒがゼルガルの手に金平糖を出してやると、ゼルガルは、笑ってしまいながら、何も言われずともキッカの方を向き、はわー!となっているキッカの持っている試験管の中へと、ぽとん、ぽとんと金平糖を落としていく。


「きゃー!」


今度はマヤリーが叫び、キッカは試験管を見つめて、涙を零してしまいそうな笑顔となっている。


(とんでもなく喜んでるね!)


私がさらなる小瓶を差し出すと、ホーミッヒは、もう期待しすぎで狂気のようなものを感じさせる笑顔となっている。


ホーミッヒがそちらを向けば、ゼルガルは、ちょうだい?と手を出してくれていて、ホーミッヒは、こちらに顔面で喜びを伝えてくれている。


(堪らんのだね!)


ホーミッヒがゼルガルの手に出したのは錠菓で、小瓶から出てきたそれを見たホーミッヒは、もうだめだ‥‥‥となって、何かを抑え込もうと耐えている。


(お!)


ゼルガルが一粒ぽりっと食べてみてくれては、マヤリーとキッカは、口元を覆うようにして、叫ぶ気持ちを抑え込もうとしているのが明らかであり、ホーミッヒは両手で覆ってくれていて、見ている皆も楽しそうだ。


(わかってるな‥‥‥!)


どうなるのか予想できたのだろうゼルガルは、悪戯っぽく笑おうとしてくれていて、そんなところがまた三人の心を刺激しているようだ。


「最高王子さま!」


思わずホーミッヒが断言すると、皆が皆、反射のように小さく頷き、ゼルガルの手元を見つめている。


ゼルガルが、いくよ?とやれば、キッカは叫びたい気持ちをどうにもできない様子で、どうにかほんの少し試験管をゼルガルの方へと差し出す。


ゼルガルが、ぽとん、ぽとん、と錠菓を落としていくと、試験管の中では、しゅわわと小さな気泡が昇っていき、皆は聞こえないのだが心の中で歓声を上げていることだろう。


もう感情をどうすればいいのやらとなっているらしいキッカの腰を、しっかりと抱いてやったのはマヤリーで、二人は、感涙ものの感情を顔面だけで伝え合っている。


(腰砕け、ってこういうのか)


いいもん見たな!となっているのはホーミッヒもだ。


「どう?この世のあらゆるきれいなものを組成に組み込んでいないと、こうはならない!」


「そうだ‥‥‥間違いない!美しい!素晴らしい!この世にきれいなものがあるんだって証明してくれている!夢みたいな王子さま!なのに実在する王子さま!最高王子さま!俺‥‥‥この世界に生きてる‥‥‥」


「そうだね。世界ってものを体現してくれてるんだよね」


「そうだ!世界とはこうある!俺‥‥‥泣いちゃうな‥‥‥」


「しかも、こしあん派」


「なんだって!わかってる!最高でわかってるなんて!夢みたいな実在を、俺はこの目で見ている‥‥‥」


「自分だって女の子とお喋りしたいなんて言っちゃうのに、中がこしあんなのか確認してからでないと手にしたくないほどの慎重派であり、どうしても確認したくて聞いてみるのは、人妻だろうと判断した女性!」


「なんて最高さの素晴らしさを有しているんだ!」


「え?ちょっと食べて、その食べかけを見せてくれなんて、ちょっとあれな要求をしてくれちゃってるのかしら!なんてなられてしまっても、知らないのか‥‥‥調理人に聞いてきてもらえないかな?と、すぱっと分断してくれる!」


「素敵!好き!」


「しかし、こんなにきらきらさまに夢を見てしまった女の子は‥‥‥」


「そんなもん、そいつが脆弱だったんだ!失せろ!」


「そうよね‥‥‥いいもの見せてもらった、って思って心の中の宝石箱に仕舞っておくのよ、私‥‥‥」


「そういうのが質が悪いんだ!そんなもん、所有してるような気分となって犯罪者育成中なんだよ!」


「そして、その女の子の脆弱パパさんも脆弱パパさんで‥‥‥」


「使用人扱いしたんじゃないってわかってる!難癖つけてでもお喋りしたかったんだ!娘を利用する悪徳商人同然パパが取引できないものなんだって理解‥‥‥できないんだろうな‥‥‥」


「好きだ‥‥‥!もらってもらっちゃう、ということにしてしまいたい‥‥‥」


「なんて迷惑でしかない野望を!立場というものを振りかざさないと寄っていけないほどの小物は引っ込んでろ!」


「でも‥‥‥でもやりたくない!」


「そうだ!断念しろ!」


「ほしい!」


「そっちか‥‥‥!」


「ちら‥‥‥ちら‥‥‥絶対こっち!」


「そういうことをすることが、どれだけ無意味であり、どれだけ野放図な行いなのかと‥‥‥しかし人という生き物は‥‥‥」


負い続けた手傷を、どうにもできないままでいるのだろうホーミッヒは、いくらでも、いくらでも苦悩する領域を広げていそうで、その姿を見て悲しくなるのでは、自身という生物に対する認識を深めていくしかないだろう。


ゼルガルは、それが何なのか、いくらか察してくれているようで、俯くホーミッヒの視界に入ろうと移動してきて聞いてくれた。


「夜会‥‥‥来て?」


「うわー!‥‥‥逃げてー!」


ゼルガルの心遣いというものに元気をもらえたらしいホーミッヒは、小さく叫び終えると、どうにか笑ってはいるのだが。


(悲しいね‥‥‥)


「兄さん、ご指名だよ」


私がいい笑顔で言ってみると、ホーミッヒは、あー!となっている。


「兄弟間のそういうのまで有しているなんて‥‥‥あらゆるものだ!あらゆるものを組み込んでいる!」


「え‥‥‥こっちじゃない‥‥‥だめってこと?でも、これはいいってこと?これか‥‥‥これね‥‥‥これはこれで、って思‥‥‥これ?‥‥‥あっちが‥‥‥これ?‥‥‥これ‥‥‥これか‥‥‥これね‥‥‥これ‥‥‥じゃあ、あれ。はい、これ、うちの、どう?」


「卑怯!手口は卑怯!でも気持ちの巡っていく経路は理解できる!相応なとできそうな見栄えのを差し出したんだろうな」


「しかし回転木馬野郎は、その日はあんこに魅せられた振りをしやがった!」


「くっそ野郎だ!見えてんのか?見えてるのあったのか?」


「無い‥‥‥じいさまがそんなお楽しみを放棄する訳がない‥‥‥食えよ、とやってやると、おすすめなんてものを聞いてきやがった!」


「じいさまが、こしあんをすすめないはずないだろうが!じいさまの人間性を見抜きやがったのか‥‥‥?」


「弟はこしあんが好きみたいなんだが、どうして粒あんというものの存在を求める客層も存在しているんだろうか?なんて聞いてきやがった!」


「卑怯!手口が卑怯!出張してまでどっちも用意しているじいさまの心を鷲掴みにしたに決まってる!」


「こいつ儂の孫ですわ!儂のあんこ食いたがってますもん!」


「じいさま理論!その理論が発動してしまっては、脆弱パパは‥‥‥?」


「出やがった‥‥‥じじいのあんこコントロール製法‥‥‥ちょっと思った‥‥‥それでもいいかな、って、ちょっと思った‥‥‥ちょっと‥‥‥でも‥‥‥これだって‥‥‥まあ‥‥‥でも‥‥‥」


「用意しておいたのは、最高王子に自分が振られた場合の心の保険だったのにな?」


「そのはずだったのに、こんなんが来やがって‥‥‥」


「もう落差というもので、一気に評価がど底辺だ」


「これだってなのに、あんこ‥‥‥あんこじじいを喜ばせてまで拒絶‥‥‥?」


「八つ当たりなんて可愛い言葉で処理しようにもできないほどに渦巻いている‥‥‥」


「えぇ?!そんなまさかの私が主役だったっていうの?!」


「あー‥‥‥脇役だと思ってたのに、はい、君、と来たからね‥‥‥」


「仕方ないわね‥‥‥披露してあげるわ、私のテクってやつを!」


「やる気すぎるぞー?予感がするぞー?」


「お父さま!私、どうしても回転木馬さまに踊っていただきたいの!うるせぇ‥‥‥え?お父さま?」


「早いぞー!これは相当見栄えだけな立場にいさせてやっていることも不本意だな」


「君は、どっちがどんなあんこなのか見抜けるんじゃないか?」


「お?以外にもそういう可愛さをね。こういうすかし方はもてるな」


「お父さまやっちゃって!私ー、これとこれから選んでほ、うるせぇな‥‥‥」


「おー!なんて素晴らしい坂道なんだ!どうせ、こしあんは入ってないんだろうな‥‥‥」


「おまえ、あのどちゃくそ可愛いのに、もらってくださいって行ってこい。え?私、をお嫁にー!行く行く行くわ!行ってくる!」


「すんごい気に入ってるんだな‥‥‥すんごい来てほしかったんだな‥‥‥あんこ呼んじゃってるんだもんな‥‥‥すんごい楽しみにしてたんだろうな‥‥‥あーあ、あんこに負けちゃったな、なんて思いたかったんだろうな‥‥‥勝手だな。でも、もてそう」


「お兄さまも一緒に行きましょー?」


「うわー‥‥‥あれもこれも引き出しそうだ‥‥‥」


「回転木馬野郎は、じいさまの後ろに隠れ、じいさまが、おまえだけ行ってこい!と言ってやると、もー!そんなつれないことしないで!妹になるんですから可愛がってくださいな?と腰から首を傾げる‥‥‥」


「もう、だめだな‥‥‥」


「おまえ、モージャン‥‥‥一人で行け」


ホーミッヒは声を出せずに笑い出し、ルージャンを近くに呼んでやると、約束していた通りに、ゼルガルの隣に並べて見比べてやっている。


「放出、表出‥‥‥きらきらだ」


行っていいよ、とやってもらえたルージャンは、心を荒ませこちらを見てきた。


「あれ、ホーミッヒの奢りだから、乾杯して飲んでいいよ?」


「乾杯してからな?」


ルージャンは、ふっと笑うと、キッカとマヤリーの方へと向かっていく。


すでに待ち侘びているキッカとマヤリーと、三人で試験管の奪い合いを経ると、ルージャンはきちんと二本確保することに成功し、同じく二本確保できたマヤリーは、一本はボロニア室長に勧めている。


ボロニア室長は、キッカとマヤリーを見て悩んでから受け取り、きちんと四人で乾杯してから飲み干した。


四人はそれぞれな満たされた顔となって笑っていて、なんだか世界は平和なんだと思えてくる。


「どうなった?」


「一人でなんて行けないわよー、もー、お父さまってば意地悪ー!」


「応援したくなっちゃうな‥‥‥」


「お兄さまからも何とか言、おまえは儂の孫じゃねぇ!儂の孫にたかろうとするな!おまえがたかっていいのは、おまえが財布代わりに使ってやってる奴だけだ!いるんだろ?そっこら中に、どうせ!ほら!いた!あいつ!おまえの財布!あいつに何でもかんでも用意してもらえってことだ!違いますけど、用意してくれるー?ほらー、困ってるー、お兄、だから!おまえは儂の孫じゃねぇんだ!あいつはどうなんだ?だから、違いますってー、用意してくれます?あ!ほら!さっきと違うじゃねぇか!さっきのがおまえの財布だ!いなくなれ!回転木馬だの兄だの言ってるおまえは気持ち悪いんだ!おまえなんて国境越えられる訳ないだろうが!いらねぇ!って言われるだけだ!え?こっ、国境ってどういうこととか言うなよ!おまえ!気持ち悪い!お兄さまって判断しやがったんだろ!大迷惑によぉ!さっさと行けよ!おい!絶対国境越えられないよな!なーに言ってんだ!こんなんが来たら、はい、どうぞ、となるに決まってるだろ?な?そうよ!お父さまの言う通りよ!だから、ね?‥‥‥おい、用意してやって、受け取るまで送っていってやってくれ、すぐ動けよ」


「格好いいー!連携の構築というのが信頼なんてものに見えそうだが、経験の蓄積と思うと胸糞悪いな‥‥‥」


「えー?嫌よー、私はこちらのお孫さまがいいのー」


「素早い適応が、数々の胸糞を振りまき続けているんだとしか‥‥‥」


「俺、このあんこ弟に持って帰ってやろうかな」


「卑怯‥‥‥じいさまの心を弄ぶつもりだと断言したっていいほどの発言だ‥‥‥」


「儂も行こう!店じまいだ!じゃあな!並べていた菓子を残さず包んでいくじいさま‥‥‥ほしい!」


「そっちも!掴まれちゃってー」


「もう少しゆっくりしていったらいいじゃないか、なあ?とっておきの特上娘を‥‥‥!」


「葛藤か‥‥‥ここで出すには惜しいってことか?」


「弟にあんこ!聞いた?」


「あ、特上娘がね」


「どうして‥‥‥そりゃ思った、特上娘が気に入っちゃったらな、って、ちょっと思った‥‥‥でも‥‥‥いいよね?もらっていいよね?だって特上娘が気に入っちゃったんだから、これはもうもらっていいよね?」


「そういう計画か‥‥‥って思えるほどの切り替えの潔さ」


「ちらっ‥‥‥どうして‥‥‥」


「え?何‥‥‥特上娘‥‥‥のお相手かな?」


「どうして極上娘は一切興味を示さないんだ‥‥‥!死んでんのか?感性が‥‥‥どうしてなんだ‥‥‥どうして‥‥‥」


「あれかな?妹が示して、まだ確保しておく時間が長そうで、ってことかな?」


「極上娘はこしあんで染め上げられてるんだけど、特上娘はあんこ不必要教の信者なんだね」


「あー‥‥‥いるんだよな‥‥‥周りの餅な部分だけ食べたいとか言うのが‥‥‥」


「ゼルガルさま、あんこという存在を知っているのに、あんこを排除しようとする生物というのが存在するんです‥‥‥」


ゼルガルは真剣に悲しんでくれていて、そんなところがまた、心を掴んでいくようだ。


「儂の孫ですわな特上娘は、じいさまからあんこの入っていない特製の餅を受け取り、もしかしてと察知した‥‥‥?」


「あいつそうなのか?!」


(そんなにね)


「ゼルガルさま‥‥‥ゲヘゲヘゲヘオスなんですよ?」


「ゲヘオス特性‥‥‥分けて?」


私が勿体つけるように首を横に振ると、ゼルガルはきちんと悔しがり、ホーミッヒは得意顔だ。


ゼルガルが、どうぞ、とやると、ホーミッヒは、では、と述べていく。


「自分はあんこだけでもばくばく食べたいから、ちょうどいいな!」


私がさらに勿体つけて首を横に振ると、ホーミッヒは、え‥‥‥どれだ?となって予想するのを楽しんでいるようだ。


「‥‥‥いいかな?」


ゼルガルに聞かれ、ホーミッヒは手ぶりもつけて言う。


「どうぞ!」


「あんこを少しのせるのはどうだ?」


「正解!じいさまが、もう絶対離さない!って顔で笑ってました‥‥‥脆弱パパママは、怖い‥‥‥こんなにも自分の心を熟知しているとしか思えない言動の数々ってほど知らないけど、絶対好き!特上娘をやろう!ってなってました」


「でも、あそこの信者は拒絶と言ってもいいほど‥‥‥にわかだったのかな?」


「あんこ断ちしてたんです‥‥‥」


「あんこ断ち‥‥‥?!」


ゼルガルの中には存在していなかった選択肢らしく、ホーミッヒも楽しそうに笑っている。


「順調すぎてあんこに狂わされているように感じてしまい、あんこ断ちを実行してみると、私ってあんこが無くても生きていけるのね‥‥‥と悲しみに暮れ‥‥‥自分にとってのあんこについて真理を掴もうと考え続け、バイバイあんこ‥‥‥となっていたところに、泥甘ったるーく心を射抜いてくれてしまっては、もう恋は始まっちゃってるの!となりそうにも思えるんだけど、これってあんこを求めているの?それとも、こ‥‥‥これ‥‥‥これ‥‥‥これぇ?これ‥‥‥これ‥‥‥これ?これ‥‥‥これ‥‥‥本物の王子さまに会いたい!何言ってるの?そんなのは敵前逃亡本能が働いてしまっているだけ!あんこのせてもらいなさいよ!そんな!あんこをのせてもらったりしたら、そんなのもう何にもわかんなくなる!のせてやろう!そんなのってー!」


「泥甘‥‥‥すごくちょっとから、徐々に増やす?」


私がやれやれと笑ってやると、二人は二人なりの泥甘を考えているのだと見えて面白いのだが、そのことに気付いたらしいゼルガルが、若干のむすを出して言う。


「‥‥‥言って?」


「のせてやるって言って餅だけ餅を出させると、そこにどばー敷き詰めてやって、泣かせました」


「そういうのか‥‥‥調節しろ?」


「言いましたね‥‥‥絶対がばー取って食いたくなるし、あんこだけでも食いたくなるんだから、って。そしてもちろん?」


ゼルガルがきちんと嫌そうに顔を歪めてくれては、嬉しくなる。


「‥‥‥食べた?」


私が、ふふっとやりながら首を横に振ると、ゼルガルはますます嫌そうにしながら床を見つめてくれている。


「‥‥‥食べさせた?」


「ほら、食ってみろって!絶対嬉しくなるから!」


「‥‥‥ゲヘオス」


何もかも乏しい様子となってぽそりと呟いてくれたのでは、ホーミッヒはまたも口元を覆うことになるようだ。


「とても食べることなどできなかった特上娘は、極上娘に食べてもらって笑顔‥‥‥」


「糞野郎だよ‥‥‥」


ここでマヤリーとキッカが喜ぶのだから、二人の何かはとても一致しているのだろうと微笑ましい。


「ゲヘゲヘゲヘオスは、自分も食べていいかと特上娘に聞き、全部あげると言われると?」


「‥‥‥また今度、餅だけ餅を持ってくる」


「そう言って特上娘に家出させました‥‥‥」


ゼルガルは堪えずに笑いだす。


「わかる‥‥‥」


「同行‥‥‥」


ゼルガルは信じられないのだと顔面で語ってくれている。


「どこ行くんだよ?そんなに嫌だったのか?と笑顔‥‥‥」


「ゲヘオス‥‥‥」


「送っていってやるから、じいさまのところにしろよ」


「どこまでゲヘオス‥‥‥」


「そうやって行き先が宮廷勤めな兄のところであることを聞き出すと、同行し、この国の王太子にお目通りを願い出た‥‥‥」


ゼルガルは、眉間に皺を寄せ、首を傾げては傾げていく。


「だめだって、諦めて帰ったらどうだ?」


「‥‥‥は?」


「王太子狙いでいくことにしたんだろ?」


「はぁ?!」


「ゲヘオスに対して言葉を閉ざした特上娘に、そんなに落ち込むなよ、うちの弟がいいんだろ?」


「はあ!?」


「紹介してやるから、一緒に来いよ」


ゼルガルは、言葉にできない感情をどうにかしようと苦しんでいる。


「私はゲヘオスを排除して、王太子のところに連れていきました。ゲヘオスの蛮行をこれでもかと語り、でもちょうどいいから特上娘をもらっておこうと、特上娘に、学術所の入所試験に受かるための勉強を教えてくれる学問所の入所試験を受けさせました。さくっと合格。頭脳も特上なのかもしれない。ゲヘオスに泣かされた特上かもしれない頭脳に、特例として、学術所の入所試験を個別で受けさせてくれ!と言ってみると、推薦者となれるのか、てめぇが合格してみせろと‥‥‥性悪‥‥‥しかし!私は学問所と学術所の開設に関わっているので、試験問題というものを知っています!合格!しかし性悪は、それでは足りないと‥‥‥学術所の一次生から五次生までの認定試験を受けろ、医局での研修を受けるための認定試験を受けろ、と‥‥‥私は知っています!合格!それなのに性悪は、どこまでも性悪‥‥‥宮廷内のあらゆる試験に受かるくらいでないと推薦者とは認められない‥‥‥こいつ、特上娘をほしがってやがる‥‥‥私は知っています!ぜーんぶ合格してやりました!そして、てめぇを王太子だと私に認定してほしければ、おまえもぜーんぶ受かるんだろうな?とやってやりました!性悪は、私の認定などいらんと‥‥‥そうでしょうな‥‥‥性悪はそれでも私を推薦者だと認定してくれました‥‥‥特上娘は、学術所の入所試験にさくっと合格!やはり特上!入所すれば、あれよあれよと三次生の認定を獲得!」


「ちょっと待って?どうして知ってるのかって、宮廷内のも全部作ったの?」


「おっさん共が、家名をがっつり着込んでわちゃわちゃやってるので、てめぇらが仕事をやる気がないことはわかってる!仕事をする能力があるのか調べてやるよ!とやってみると、あれ?人、足りる?という事態に‥‥‥やるって決めたのはお偉い皆さまなのに‥‥‥仕事をする技能を修得させろと‥‥‥そんなもん、わちゃわちゃしてるだけのおっさん共には無理!わちゃわちゃ上手なおっさん共には、子供や孫を提出させてやりました!よーし、仕事だ!と初歩から入らせ、認定試験、次の段階の仕事をさせて、認定試験、そうして仕事をする人材を確保していきましたので、壊滅的だった部署もどうにか機能するようになりました。もちろん医局のようなびくともしない部署もありましたので、腐敗、ということで処理されましたね」


「びくともしない部署に、そのような部署なのだという認定を与えることにもなったんだね」


「そうです!いつも通り仕事をしているおじさま達は、きれーいに残ってくれましたし、層で見れば、上層部というのは、ある程度厚みを保っていましたので、いかに上から支えてきたのかというのが、見てわかりました。上に行けないおっさん共が滞留していたような状態、と表現することも可能でしょう」


「それで、こちらの宮廷は、こういう表現になるんだけど、若々しいんだね」


「そうですね。空気が変わりました。誰もが、王家の皆さまが求める仕事をするために滞在しているのだ、というものに近付けたのではないでしょうか。宮廷内に仕事をする女の子が増えて、皆が幸せです」


「うちもやろうかな。気を付けることある?」


「おじさん達は家名を大切に思っています。どうして、あなたはこの部署にいるの?と言いたくなる方々が、本当に、山ほどいました。こちらが受けてほしいと思う部署を受けようと思ってもらえないと、というのが難しいですね。もらっておきたいのは、移動、という手段で強制的に試験を受けさせて認定したいところでしたが、意欲ですとか、家の中で潰されるようなことになってはですとか、それこそ他家に、なんてことを思えば、家名というもので分類するのは効率的と言える部分もあるんでしょうし、面子というものも大事ですし、力関係というのは便利なものです」


「難しそうだな‥‥‥採用の部分から始めようかな」


「そうですね。どうせ先に死にますし、いたらいたで使い道というのがあるかもしれませんが、腐らせずに給料分働かせるというのも、また難しいようです。他国が始めやがった戦で殺してもらってきてくれないかなー、とか言ったら、だいたいのおじさんは移動しようかなって言ってくれましたが、お偉い皆さまは、おまえの人間性をどうにかしろと言って、私を精神的にどす闇属性の即死多用お子さまだと分類しやがったので、自分は魔女なんだと開き直ったつもりの恥ずかし発言をしてしまうと、医局で診てもらえと‥‥‥私は医局からも、精神的にどす闇属性の即死多用お子さまだと認定を受けたことで、お偉い皆さまの見立てというのは正しいんだと証明してやりました!」


ゼルガルは笑って聞いていてくれるので、有り難い。


「魔女‥‥‥」


(言っちゃわないで?)


「フユー、生まれながらの魔女なんだと証明してくれ!」


ホーミッヒが面白がってくれているので、魔女として述べておこう。


「ゼルガルさま‥‥‥桜餅のあんこだけ先に食べて、自分は餅な部分に薄っすら残っているあんこだけで十分なのではないだろうか、むしろこの葉っぱでくるくる感のある食べ物となったこれを好いているような気もする‥‥‥しかし、先にあんこを食べておいたことによる満足感でふわっとされてしまっているのかもしれない‥‥‥あんこ‥‥‥自分にとってのあんこを見つめ直す時間になった‥‥‥もうお行儀の悪いことはしないでおこう、それが自分にとって必要なことだ、そう学んだと同時に、桜餅の葉っぱって‥‥‥と苦悩することになったんですね?」


ゼルガルはきちんと恥ずかしさのようなものに耐えてから、悔しさを滲ませて言ってくれる。


「あの体験が無ければ、僕は桜餅というのが甘じょっぱさを楽しむものなんだと知ることがなかった‥‥‥」


「柏餅の葉っぱは食べないのに、桜餅の葉っぱは食べることができるって、どうして知ることができるんだ!」


「‥‥‥思った」


「ちまきは無理だよね‥‥‥?」


「‥‥‥思ったね」


「ちまきって言ったのに!」


「‥‥‥あったね」


「お赤飯‥‥‥?!」


「‥‥‥でも好き」


「ゼルガルさま‥‥‥あんこなんて、炊けばスプーンで食べ放題です」


ゼルガルは、何かを振り切れた笑顔となっている。


「‥‥‥炊こう!」


「常備しておけば、食パンでもパンケーキでも、たい焼きだって焼き放題です」


「‥‥‥言って?」


「しっぽに決まっています!私は誰ものたい焼きからしっぽを奪ってやりますから、謙虚さを間違える魔女とも呼ばれています」


「いいね。それも焼こう」


「この王子さまはどこまで行くんだろうな‥‥‥こういうほわっと感もあって、どうすればいいんだ‥‥‥」


ホーミッヒが真剣に苦悩しているのが面白い。


「ずっと知っていたい?」


「そう!俺はずっとあなたを知りたい!また会いたい!見せびらかしに来てくれてありがとう!」


ゼルガルを嬉しがらせておくだけおいて、と笑ってしまう。


「嬉しいです!」


ホーミッヒは、そうだろう!と笑っていたのが、意地悪そうへと変化していく。


「あんころ餅、まだ知らないんだろうな」


「団子にでものせてみようかな、とか思いはしても、実行しないんだよ」


「ずーっとそれを眺めてるんだろうな」


「うっかり出会って、それに後ろめたいような気持ちで生きていくんだよ」


「そうやって、ずるずるずるっとだな」


「持っていくね」


「切ないんだよな‥‥‥もうそういう生物なんだよ」


「ぱちぱちぱちって消えていくもわもわに取り巻かれてる」


「ぱちぱちぱち‥‥‥ちりちりじゃないんだよな‥‥‥そういう、目に見えて消えていくのに減っていかないのが切なさを発生させているのかもな‥‥‥どっかであんこ敷き詰めて笑ってるんだろうな、って思わせてくれやがるんだよ‥‥‥特別に思うなんてことを絶対してない、と思わせてくれる」


「ぜーんぶ特別なんだろうね」


「うわー‥‥‥自分に出会ったものはぜーんぶ特別、だからぜーんぶ特別扱いなんだけど、何にでも誰にでもそうだ、とか思ってるんだよ‥‥‥」


「だって特別なんだもーん!」


「そういう気分にさせてくれやがるんだ‥‥‥もうあっち行って、ってやりたくなる」


「おまえのことも特別なのに‥‥‥」


「入れんな!そこから排除しておけ!フユーさーん!」


「道端で猫に遭遇、近くにしゃがんで、あぁん?となられようとも、俺はおまえを撫でたいんだよ!‥‥‥道端で烏に遭遇、近くに寄って、何だてめぇ?となられようとも、俺はおまえをよく見たいんだよ!‥‥‥道端で狸に遭遇、林檎でも手にして寄っていき、人間さまが与えてくださいますんで?となられようとも、俺はおまえに林檎を食わせたいんだよ!‥‥‥道端で狐に遭遇、当然油揚げだよな、と寄っていき、殺す!となられても、絶対食いたいと思ってるのに‥‥‥」


「素晴らしい‥‥‥!なんて素晴らしいんだ‥‥‥!もうちょっと出して?」


「俺、あんころ餅なんてものを知ってしまったんだ‥‥‥あれ、全然違うのな?知ってんのかな‥‥‥にま‥‥‥持ってってやったら、一緒に食べることに、なるかもしれないよな?‥‥‥泊まっていって、なんて言われちゃうかも、しれないよな?遠いし‥‥‥行ってこようかな?」


ホーミッヒは愕然としていて、言葉を引っ張り出すのに時間を要しているようだ。


「なんって糞な詰め合わせ!知ってしまった!積極的ではなく能動的!避けることのできない運命的出会いだとでも認識しているに決まってる!知ってんのかな!教えてあげたいな、知らないなんて、そういう自分のためじゃないんだけど、何よりも自分のためなんだと知ってくれているだろう?と!にま!反応なんてものを楽しんでやがる!一緒に食べることになる相手となると、と予想してもらえましたかね!そういうことに持ち込んでこようと思っているんだが、そうなるのは必至だとでも思ってほしいと思ってる!ほーら行かせてくれたんだから、そういう自分を受け入れてくれてるってことー!でうっきうきでお楽しみだ!とでも思ってるんだろ?な糞!おまえの考えることなんてお見通しなんだよ!な糞!出して?」


「いや、一人じゃなくて、おまえも‥‥‥」


「あー!嫌!そうやって一緒に行かないってことは、自分が食べられちゃってもいいんだな!として、食べてもらってこいよって思われてるんだと再確認して、そうだよな、行かないとな、って!他の誰かとお楽しむことを選ぶ自分を送り出すための準備運動なんてものに付き合わせやがって!さっさと行け!糞が!」


「ホーミッヒは、わかってるなー!」


「出して?」


「違うだろ?俺は、おまえと一緒に行きたいんだよ、わかるだろ?」


「苛っとする!」


「一緒に行きたいんだ‥‥‥じっ‥‥‥」


「腹立つ時間!」


「俺はおまえなんだってことだ」


「失せろ!」


「一緒に行くってことはそういうことだろ?」


「行ってこようかなって言った!」


「俺はそうやって、おまえと一緒に行く、楽しく食べる、じゃ、それがしたいだけだ」


「だけ!って言ってる!」


「すぐ凝縮する‥‥‥」


「ばっか!自分わかられちゃてんな大満足ばっか!」


「そこまで言う‥‥‥?」


「言われたがってるから、言ってやってんだ!」


「そういうの‥‥‥」


「はー?そこでようやく自分がきったねぇ行いをしてるんだって気付いたふりか!」


「ここで中断しないでほしい‥‥‥」


「どこまでてめぇを楽しませてやればいいんだよ!」


「どーせ、こいつは俺に行っちまえって思ってるんだ」


「思わせてくれてるんだ!」


「一人か‥‥‥ふっ‥‥‥行ったら行ったで楽しいんだろうな」


「あー‥‥‥嫌‥‥‥どっか行けよ‥‥‥」


「行ってくる」


「はー‥‥‥嫌だー‥‥‥なんて糞みたいな時間なんだ‥‥‥フユーを雑巾にして、きれいになった靴でお出かけ‥‥‥糞みたいな体験だ‥‥‥いつもいつも、フユーを雑巾にしようと寄ってくるんだ‥‥‥どうして笑ってるのかって、面白いからだ、楽しいからだ‥‥‥口説いてるようなつもりになれて、相手にしてもらえないような気分になれて、送り出してもらえたような心持ちになって‥‥‥雑巾なんだ‥‥‥どうせどっかで汚れてきたんだ、なんて思ってやるな。靴磨きしてるだけだ。フユーをハンカチだとは思ってないんだ。性交渉を持つことで特別中の特別としてやれる、とでも思ってそうだ‥‥‥」


「雑巾の大きさが変わるだけ」


「そうだ‥‥‥うんざりだ‥‥‥どうせ、雑巾使ってきたのね、って優しくしてもらってお楽しみだ‥‥‥」


「中断されれば性交渉」


「だな‥‥‥ずーっと雑巾」


(自分にとっての真実‥‥‥)


そんなものを確立させていかなければならないのかと、怠惰な私はうんざりするばかりなのだが、リンランのような別世界の住人にとっては当然の行いなのだそうだ。


言葉もまた兵器、そう思えば、私は何をしてきたのだろうかと、私にとっての真実というものの存在を認識せざるを得ない。


どうか、と願うことなど無力なものだ。


「女性用のトイレで鍵を締めずにいて、ばったり遭遇。緊急事態だったので鍵を、遭遇してしまったのがあなたのような人でよかった」


「‥‥‥女性用だと述べてやりそうだ」


「女性が使っている最上階なので、その階のトイレを女性用として使っているのだと考えていたが、二階の脱衣場の側にあるトイレは男性用だと限定していない」


「‥‥‥自分の判断を批判しそうだ」


「自分が誰だかわかるだろうか?」


「‥‥‥許容範囲に収めてやりそうであり、視野の広さの優劣というものを実感することになるだろう」


「同居人のいる家には戻れなかったんだ」


「‥‥‥力になる、なんてことを実行しようとするだろう」


「でも、一人暮らしも快適だ。え?女性が住んでいる?ああ、そういう意味では同居人だが、そうだな、移ろうか、よかったら一緒に暮らさないか」


「‥‥‥上手すぎないか?」


「同居人は寝に帰ってくるだけみたいなものなんだ。君も暮らしてくれると、その分、家が傷まない」


「‥‥‥あれま、と言うしかない」


「それなら二人で暮らそう」


「‥‥‥惚れ惚れするよ」


「室長、寮を利用する、と?」


ボロニア室長は、蒼白という顔色となって言った。


「‥‥‥確認してくれ」


「していませんよ‥‥‥?」


泣き出しそうになっているマヤリーに言われ、ボロニア室長は、くらんと倒れそうになって医局員達に支えられた。


(まだ、だめだ‥‥‥)


大局なんてものを見るのならば、まだ、そう判断することになる。


(リンランにとっては、横取りされたくないだけ、だそうだけれど‥‥‥)


言葉にして伝達してきた情報をどう扱うのか、そんなもので、と思ってしまう私は、リンランとの関係性というものを手放そうとしている。


(惜しむ気持ち、か)


それでも自分を選んでくれたなら、そんな思いが作用していたのが、母の死亡というものだったのだろうかと考えてしまった自分に嫌になる。


私はそのような手法を受け入れない、それが私の真実なのだと、心の中では眷属達が私に寄り添うのだから、私はリンランを殺す判断をするのか、とこれまでなんてものを手放す思いだ。


恩知らず、リンランのその声が聞こえてきそうで、すでに泣きたくなっている。


「レンギョウ家所属、レンギョウ商会会長ご夫妻のご長子さま、リンラン・レンギョウ。本物は殺したい。殺したくて仕方がない。誰も彼ものその中に、おまえが含まれていないだろうか?」


ホーミッヒは急いで、マヤリーからバインダーを受け取り、マヤリーも手帳を構えてくれた。


「おまえの望み通り、狙い通り、予定調和の自殺行為を披露してやっている。おまえこそが魔女なのだという、自負、なんてものを胸に仕舞い込んで、高らかに、その名を轟かせて楽しむ、おまえ。これからの活躍で、おまえは私を殺してくれるんだろうが、おまえは私がいかな兵器なのか、掌握、できているつもりになっているんだろうか?おまえの愉快な出し物で、きっとおまえの王子は泣かされることになる。私ではない。泣かせる、泣いている、涙を零し、嘆き、悲しむおまえの王子。おまえは最低の魔女として、最悪で最底辺な恋の魔法なんてものをかけてやればいいだけだ。実に愉快で最低な出し物となり、おまえはやっと、おまえの王子の涙を止めてやることになるのかもしれないが、おまえの王子が恋する相手は、おまえ?それとも、おまえの嫌いな本物だろうか?いいや、きっと、おまえが愛してやまないあの子なんだろうな?おまえのこれからの活躍というものが、どのようなものになるのか、そんなものは私の知ったことではないが、おまえは最低で最悪など底辺性悪女として、その本領なんてものがあれば、いいや、そんなものは荒唐無稽というものだ。おまえは、悲しみ、嘆き、悲しむなんてことをしやしない。おまえの人生なんてものは、橙色の薔薇で彩られていないのだと、おまえはもう知っている。おまえは失うのではない。私のものを横取りし損なったのでもない。もしかして‥‥‥?」


歯を食いしばって聞いているだけとなっているリンランが見えてきそうだ、と思えるのだから、私というのは一人上手なお子さまだ。


「橙色の薔薇、それさえも本物の所有物だったのだとすると、おまえの悲しみは本物となるのかもしれないが、おまえはこれから、コーヒーにぽちゃん、なんて面白おかしい嫌がらせを、自分に対して実行しては、どうして?どうして私の指がきったないんだって知ってるの?そう思いながら、おまえの初恋なんてものを手繰り寄せてみようとしても、残念。誰も彼も本物の所有物なのだと、いつになれば、見てわかるようになるのだろうか。そんな日はすぐに来る。おまえはもう、恋をしない。おまえはとっくに、許嫁、という婚約者がいるんだろうが、四葉、のクローバーを持っている、おまえ、を彩るもの。アイオライト、それはおまえのための、約束されている席への招待状。おまえのその、自負、確かにおまえの王子に届いているのかもしれないが、おまえの掌握していない、おまえの、乙女、なんて未知の領域へと突入するための相棒めいた恋仲のお相手、は、おまえのよくは知らない、あの、おまえの理想をぎゅっと抱きしめて固めてくれたような、あの、第一王子殿下、の、軍服姿なんてそんな‥‥‥!違うの!軍服じゃなくて!あの腰!だけじゃない!全体のフォルムなの!なーんて誤魔化してみているおまえ、の、頭の中で囲っている、だーい好きな、あの、おまえとどべぐちゃを繰り広げてくれている、あの、水着姿のケイオシュ、なのだと私は知っている。いやー、まさか、無人島で野生暮らししてるところに、見つけに来てくれた水着姿のケイオシュとのどべぐちゃを、野心の塊と煌めきの王子さまに隠れて見られていて、そこに二人が乱入して、各々で体位を独り占め!なーんて願望をお持ちだとは!俺は海水はちょっとだから、湖に行くぞ、で湖に移動してどべぐちゃを再開すれば、そこは満天の星空なの!でもね、海水はちょっとなケイオシュは、優しくリンランを抱きしめて、あの、リンランの大好きなあの体位となって、湖へ入っていくの!あの湖はそういう湖だから、もうリンランのだよ!勝手に入んないでね!リンラン専用のどべぐちゃ湖なんだって看板でも立てておけば、おばかなあんただって、さすがに湖に浮かんで本読んでて、燃えて、ちゃぽんで消火してまた読むなんてことしなくなる!動じないなんてものじゃないの!あんなの怖い!見てる方はあんたの対処の流れるようなところが怖い!いい加減に野生暮らしなんてものはやめて、あんたもケイオシュに飼ってもらえばいいでしょ?毎日朝から晩までどべぐちゃ三昧なんて夢のような暮らしだよ?ケイオシュはど変態だから大丈夫!あんたのようなど幼児体型が相手だって、ちゃーんとどべぐちゃってくれるから!ほら!抱いてもらってきて!だーいじょぶだから!ちゃーんとあんたが寝てたって朝まで無休憩で励み続けてくれる!あんたはきちんと性奴隷として生きていけるように、ケイオシュに教育してもらって、ケイオシュ好みの性奴隷になってみせてくれればいいだけだから!そう言っておまえがケイオシュとして差し出したのは、本物だったのだが、おまえは気付いていて、そうやってど幼女との性行為に持ち込めばいいんだ、と教えてやっていたんだよな?」


片目を開けておくのがようやくであるらしいリンランが、まあな、と笑っている姿まで思い浮かべることができては、マヤリーから呪いの内容を聞くことになるのだろう皆の反応が予想できてしまう。


必要な情報だけ書き出したのだろうホーミッヒは、嬉々として考察を始め、マヤリーは、うおー!という勢いで書き留めていく。

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