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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
68/106

68.大広間

「おまえ‥‥‥何やってるんだ?」


私が、すっと忍者の本を差し出すと、王太后は受け取って、きちんと全部読んでくれている。


(こんな並ぶ?)


大広間には、さすが王太后!と言うしかない人数がずらりと控えていて、きょろきょろしたくなってしまう。


賜ったブローチの存在をすっかり忘れていたので、宮廷内に入れてもらえるか心配していたのだが、門番が私を覚えてくれていたようで、私もゼルガル達と一緒に入れてもらうことができた。


大広間なのだが、応接間のように長椅子やテーブルが置かれているのは、お子さまに配慮してくれたのか、休暇中であるゼルガルに配慮してくれたのか。


王太后は読み終わったらしく、本を閉じてテーブルに置いた。


どうやら受け取ってくれるらしい。


「‥‥‥で?」


「池にですよ?」


私が忍者発見について語っていくと、王太后は徐々に半笑いとなっていく。


「ざばー!忍者だー!です!撒菱、持ってるよね?」


忍者は、さっと撒菱を取り出してくれたのだが、手が震えているような気がする。


「今は変装してますが、忍者なんです!」


「‥‥‥で?」


私がトートバッグから取り出そうとすると、忍者が、がっと押し込めさせてきた。


(だめ?)


池を歩いてはくれないようだ。


「忍者は慎重なので、誤った情報を伝えてしまわないように、声を出してのやり取りをしてくれません‥‥‥オリーブ長官に通訳してもらいたいんです」


王太后が、ちらりと目でやると、すぐに動いたのはディードだ。


(やった‥‥‥!)


これはもう、オリーブ長官なら人情でどうにかしてくれるはずだ。


出してもらった菓子に手を伸ばすと、ゼルガルがそっと私の手を取り、私の膝へと着地させた。


(だめ?)


「‥‥‥で?」


(え?)


「忍者、ギドロイさまの忘れ物じゃないですよね?」


半笑いを通り越した王太后が目を向けた先には、どことなく青っぽいギドロイがいた。


声を出せないのか、口だけが動いているように見える。


どうやら、違う、と言っているようだ。


ちらっとゼルガルを見ると、ゼルガルは、にこっとして微かに頷いてくれた。


これでもう、忍者の所有権は私が得たと思っていいだろう。


「おまえ、何を、やっているんだ?」


(え?)


「どうしてもあんこを炊きたいって言ったら、ゼルガルさまが小豆を買ってくれることになったので、ついでに忍者を見せびらかしに来ました。見たことありました?」


「‥‥‥無い。おまえ、ブローチは?」


「‥‥‥今って、仕事中、ですか?」


王太后が笑い出すと、大広間の空気が張り詰めた。


王太后が、さっと手で下がるように示すと、皆は波が引いていくように大広間を出て行く。


練習済みなのかというきれいさに見とれていると、残っているギドロイは、口をぱくぱくさせている。


(何?)


「ギドロイ、こちらへ」


王太后に呼ばれ、ギドロイは青みを増しつつこちらへ来た。


王太后は、ギドロイを示して私に聞く。


「こいつ、何て言ってた?」


「え?‥‥‥何て‥‥‥何て‥‥‥何て言ってました?」


王太后が、ふすふすしつつギドロイを見ると、ギドロイはさらに青みを増したようだ。


王太后は、小さく溜め息をついている。


「‥‥‥おまえ、旧モクレン領と、旧センリョウ領、いるか?」


「ありがとうございます!」


「頼んだ」


ふすふすしていた王太后は、はーやれやれと大広間を出て行った。


ギドロイは、すいと目で示してくるので、私は小さく首を横に振る。


(嫌だ‥‥‥)


どうせ、歯抜けの活躍でも笑われるに決まっている。


ギドロイが若干顔を歪めつつ示してきても、やはり首を横に振っていると、オリーブ長官がやってきた。


「長官!本物の忍者です!」


オリーブ長官は、戸惑いながらこちらへ来てくれたのだが、忍者の顔を見ると、すあっ!と口を開いてから閉じた。


「読んだわ!ぜひ話を聞きたいから、こっちに案内してちょうだい!」


「はい!行きましょうゼルガルさま!」


ゼルガルが立ち上がると、忍者を含めた護衛達も動き出した。


捕獲を試みようとしていそうなギドロイを、するっと抜いておくことはできたのだが、ディードに立ち塞がられてしまったので、ずいとトートバッグを差し出しておいた。


「長官!この方、池を歩いて見せるそうです!」


「あとで見てあげるわ!」


ディードは微かに口元を緩めてトートバッグを受け取り、小さく頷く。


(よし!)


無事に大広間を出ると、どうやらあの宿舎には向かっていないようだ。

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