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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
65/106

65.船旅

『ラージウさんの言ってた通りなんだな‥‥‥』


『え?』


『きゃっきゃきゃ生きてない、って』


『あー‥‥‥ゼルガルさまは、お子さまの頃はきゃっきゃきゃ生きてたんですか?』


『そう聞かれると‥‥‥ではあるけど、船の中見に行こう、とかくらいなら‥‥‥』


『行きます?』


『いや‥‥‥いい』


ゼルガルは、疲れた顔でベッドで伸びをしている。


私達は馬で港を目指しつつ、ふらっと店に寄っては買い物をしてきた。


買った物は追いかけてくる馬車に詰め込むという方法を取ったので、右のお隣さんな国として荷物を丁重に運んでもらえはしたのだが、ゼルガルは素通りすることに成功した。


池から出てきた青年は、護衛として馬車の方につけておいたので、きちんと見せびらかしてこれたはずなのだが、何事も無かったと聞いている。


(逃走しようとしないのは、あちらの国に向かっているから‥‥‥?)


馬車は港に向かうものと、東部支所の官舎に向かうものとがあり、私の買ってもらった酒や本も東部支所の官舎に運んでおいてくれるそうだ。


(そういえば、買い物できてたな)


私はこうしてゼルガルの部屋に入れてもらえているが、信用されている訳ではないのだろう。


『ティファカにローズ・クォーツを取られた‥‥‥』


『モルガナイトはどうです?』


『‥‥‥他にある?』


『ヘリオドール、カナリー・トルマリン、ブラック・スピネルはどうですか?』


『‥‥‥林檎、元気いっぱい、兄さんとお揃い‥‥‥赤って難しいよね?』


王子さま業中は気を張っていて、いつもはふにゃっとしているのがゼルガルなのだろうか。


『真珠はどうですか?』


『‥‥‥どういう意図?』


『ラージウが、白は何にでも合うって言ってました』


『ラージウさんは、ローズ・クォーツだよね?』


『知ると、そう思いますね』


『じゃあ、僕、ロードライト・ガーネット、真珠、スモーキー・クォーツにしようかな』


『いいですね』


『ピアス、着ける?』


『そうですね』


メグノアードに負けたので、もうタミーラを抱っこすることもないのだろう。


『君は、レンギョウ商会の何なの?』


(何‥‥‥?何‥‥‥?何‥‥‥?)


首を傾げ続けても、ぼんやりとしか見えてこない。


『‥‥‥勝手に入ってきて寛いでいく野良猫、でしょうか?』


『それっぽく寛いでみて?』


(それっぽく?)


ゼルガルにベッドをぽんぽんとされたので、ベッドに移動して、本を読み始めておいた。


『猫‥‥‥本、読む?』


(そうだな)


枕元に本を置いておいて、上掛けをゼルガルにも掛けてから横になると、ゼルガルはすぐに寝息を立て始めた。


(おやすみ)


池から出てきた青年は、あまり眠れていないらしく、隈はずっと濃いままで、食欲もあまり無いようだった。


あの風貌では、ティファカに挨拶をさせてもらうことなどできないだろうと考えると、ティファカにリボンを見せたのは、別の誰かなのだろう。


(ヨアンナって、偽名だよね‥‥‥)


情報をちらつかせるような行いは、心身の消耗を加速させるだけだろうと判断して、何も話してあげていない。


自分の命よりも優先するということは、どういうことなのだろうか。


(双子‥‥‥従兄妹だって似てる人達はいる‥‥‥他人の空似ということも‥‥‥)


夫婦とは言わず、双子と言っておいても、一緒に暮らすことはできそうだ。


池から出てきた青年は、しっかりとした体つきをしていて、誘拐されそうには見えない。


わからないことばかりだが、きっとヨアンナを探している。


離宮で女性が暮らしていた痕跡とされそうなものを消して回り、ヨアンナが連れてこられるのは、どちらの国境なのか、それとも港か。


立ち尽くすしかないような状況で、それでも探し続けていたのではないだろうか。


(ヨアンナを殺そうと探しているのかもしれないのに‥‥‥)


池に潜むことになったのは、王族の乗るような馬車がずらずらとやってきたことを知って、ヨアンナが連れて来られたのではないかとやってきたのかもしれない。


(モクレン家三男に仕立て上げられた‥‥‥)


商売人として荷物を運ぶような仕事をしているので、どちらの言葉も話せるのかもしれない。


引き受けた荷物が何なのか知ってしまったせいで、モクレン家三男とされてしまったのかもしれない。


(でも、行儀作法は‥‥‥?)


あの離宮の区切られた区画で女主人と隠れ暮らし、麻薬の原料となるものを運んでいたのかもしれないが。


(離宮に連れてこられることを考慮したとすると、それは‥‥‥)


この国の王族が関与している可能性を考えたくないのは、すべて演技だったのだと思いたくないからだろうか。

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