63.所持品
『おまえは、あほだ!』
『絶対、忍者!だって、これ見てください!竹筒で呼吸を確保して、池に潜むって!』
私が本を見せても、ゼルガルは視界に入れようとしない。
『そんなのお子さま向けの作り話だ!』
『だって、本当に!ね?』
私に聞かれ、竹筒を引き抜いた護衛は、曖昧に頷く。
『撒菱、持ってるよね?』
池から出てきた青年は、すっと撒菱を取り出して見せた。
『それは池に生えてたのだろ?!』
『いつも持ってるんだよね?』
池から出てきた青年は、しっかりと頷く。
『ほら!忍者ですよ!スカート丈の君と戦わせましょう!』
ゼルガルは笑い出し、悔しそうに頭を抱えた。
『おまえ‥‥‥』
『だめですか?』
『だめだ!』
『スカート丈の君が負けちゃうからですか?』
『そういう‥‥‥聞き方は‥‥‥連れていけ!』
ゼルガルが指示を出すと、池から出てきた青年は、護衛に囲まれて別室へと移された。
ゼルガルは、深い溜め息をついて傾いていく。
『で、おまえもその場にいたのか?』
『凄かったんだよ!ざばー!って!ね?』
『はい!』
私がしっかりと頷くと、第三王子のメグノアードは私から本を受け取って、ページをめくっていく。
『見てよ!これ!忍者は水の上を歩けるって!』
『沈んでたんだろ?!』
『本当に歩いた!フユーがこういうの作ったら、ぱしゃぱしゃぱしゃ!って!』
『何をやらせてるんだ‥‥‥説明!』
『ふと池の方を見たら、あそこにも竹筒ぶすってなってた?と思い、まさか忍者?!と竹筒を抜いてもらうと、ざばー!です!』
ゼルガルは、呆れ顔の見本のような顔でこちらを見ている。
『兄さん、フユーは兄さんがどこぞの女性と馬車でぐるぐるしてるから、生きるのがつらいんだよ‥‥‥』
『あー‥‥‥そういうことか‥‥‥』
ゼルガルは、憐れみというもので満ちていくかのようだ。
『お使いはどうしたんですか?』
『ミィアンさんは自分のだから、どこぞの女性と馬車でぐるぐるしてるのが行くとさ‥‥‥』
それで戻ってきたということか。
『ミィアンさんって、どんな女性?』
『かなり好みなんだろうな、って女性です』
『へー、どうやってわかるの?』
『でへでへ具合ですね』
『あー‥‥‥わかりやすいね』
メグノアードは、ゆっくりと何度も頷いている。
『で、どうして、侵入者をここに置いたままにしてるんだ?』
『私にください』
ゼルガルは、さっとナオジーに視線を向け、ナオジーは微かに頷いた。
『‥‥‥侵入者なんだが?』
『ゼルガルさま‥‥‥池があれば潜んでしまう‥‥‥忍者の性というものです。馬車でぐるぐるさまが、でへでへするのと同じです』
『おまえ‥‥‥』
ゼルガルが、くっと口を閉じて固定しておきつつナオジーを見ると、ナオジーも同じような口元となりつつ小さく頷いた。
『うちの長官が絶対喜ぶので、この本持たせて連れていきます』
『は?』
メグノアードが本を入れたトートバッグを持たせてくれたので、びしっと肩にかけておいた。
『うちの王城の池で、ぱしゃぱしゃしてもらいます!』
『やめてやれ!』
『えー‥‥‥でも、うちの王太子、忍者のこと言いに来たのかもしれません‥‥‥』
『‥‥‥あっちの王太子殿下が潜ませたってことか?』
『見せびらかしにきて、忘れていったのかもしれないですよね‥‥‥?』
ゼルガルはご機嫌を害されたらしく、ナオジーに顔面で訴えかける。
『うちの王城の池に潜ませておけば、うちの王太子も、すっと受け取れると思うんですよ‥‥‥』
『それは、まあ‥‥‥ナオジー』
『‥‥‥身の回りのことは、何でも自分で行うことができるようですが、何も話さず、声を発することもありません』
『え‥‥‥こいつ、何をさせてるんだ?』
『家事を‥‥‥させています』
『え‥‥‥侵入者の部屋の掃除と洗濯‥‥‥ということか?』
『あとは、フユーの分の食事も用意させています‥‥‥美味しいそうです』
ゼルガルは、そこにあるはずのないものを見つけたような顔で、こちらをじっと見ている。
(これは‥‥‥また、あれだと思われている‥‥‥)
『うちの長官なら、通訳できるかもしれません』
『さっき、通じてただろ?』
『身体検査の時に見つけて、撒菱、撒菱、言ってたから覚えたのかもしれません』
『おまえ‥‥‥立ち会ったのか?』
『いいえ。ざばー、でしたので、脱いだものから所持品を確認しただけです』
『‥‥‥どうして、撒菱持たせたままでいるんだ?』
『忍者なんですよ?』
ゼルガルは、ふっと笑って、溜め息をつく。
『ゼルガルさま、来ちゃった、の姫、実は気に入ってるんじゃないですか?』
『え?‥‥‥いや、第二だし、そうなるのかもなー、とは思ってるが、気に入ってはないな』
『見せびらかしてきてもいいですよ?』
『え‥‥‥忍者を?』
『どれにしようかな、もできますね?』
ふふっと笑っておくと、ゼルガルは、すいーっと目を逸らした。
『では、素通りしてやりますか?』
ゼルガルの目がこちらに戻ってきたのは、興味あり、ということだろう。
『海流の影響で、右のお隣さんの港湾から出た方が早く着く、というのは本当なんでしょうか?』
『ここの港からは?』
『レンギョウ商会へのお土産を送るのはいかがです?』
『ほー、何がいいだろうか?』
『東部支所の金木犀で作った香水もいいでしょうし、この国はチョコがやたら美味しいです。服もあちらとは少し趣が違うので喜ばれそうですし、アクセサリーやバッグ、お酒ももちろん含みたいですね。子供服や玩具も気になりますし、生活用品もお洒落なものが多くて目移りしますので、ナオジーと奥さまに見立ててもらってはいかがでしょうか?』
『頼めるか?』
『はい。お任せください』
『あとは素通りついでに、お隣さんで調達すればいい訳だ』
『そうですね。忍者は何に変装させましょうか?』
『護衛だろうな』
ゼルガルは何かを諦めた様子で笑っている。




