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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
63/106

63.所持品

『おまえは、あほだ!』


『絶対、忍者!だって、これ見てください!竹筒で呼吸を確保して、池に潜むって!』


私が本を見せても、ゼルガルは視界に入れようとしない。


『そんなのお子さま向けの作り話だ!』


『だって、本当に!ね?』


私に聞かれ、竹筒を引き抜いた護衛は、曖昧に頷く。


『撒菱、持ってるよね?』


池から出てきた青年は、すっと撒菱を取り出して見せた。


『それは池に生えてたのだろ?!』


『いつも持ってるんだよね?』


池から出てきた青年は、しっかりと頷く。


『ほら!忍者ですよ!スカート丈の君と戦わせましょう!』


ゼルガルは笑い出し、悔しそうに頭を抱えた。


『おまえ‥‥‥』


『だめですか?』


『だめだ!』


『スカート丈の君が負けちゃうからですか?』


『そういう‥‥‥聞き方は‥‥‥連れていけ!』


ゼルガルが指示を出すと、池から出てきた青年は、護衛に囲まれて別室へと移された。


ゼルガルは、深い溜め息をついて傾いていく。


『で、おまえもその場にいたのか?』


『凄かったんだよ!ざばー!って!ね?』


『はい!』


私がしっかりと頷くと、第三王子のメグノアードは私から本を受け取って、ページをめくっていく。


『見てよ!これ!忍者は水の上を歩けるって!』


『沈んでたんだろ?!』


『本当に歩いた!フユーがこういうの作ったら、ぱしゃぱしゃぱしゃ!って!』


『何をやらせてるんだ‥‥‥説明!』


『ふと池の方を見たら、あそこにも竹筒ぶすってなってた?と思い、まさか忍者?!と竹筒を抜いてもらうと、ざばー!です!』


ゼルガルは、呆れ顔の見本のような顔でこちらを見ている。


『兄さん、フユーは兄さんがどこぞの女性と馬車でぐるぐるしてるから、生きるのがつらいんだよ‥‥‥』


『あー‥‥‥そういうことか‥‥‥』


ゼルガルは、憐れみというもので満ちていくかのようだ。


『お使いはどうしたんですか?』


『ミィアンさんは自分のだから、どこぞの女性と馬車でぐるぐるしてるのが行くとさ‥‥‥』


それで戻ってきたということか。


『ミィアンさんって、どんな女性?』


『かなり好みなんだろうな、って女性です』


『へー、どうやってわかるの?』


『でへでへ具合ですね』


『あー‥‥‥わかりやすいね』


メグノアードは、ゆっくりと何度も頷いている。


『で、どうして、侵入者をここに置いたままにしてるんだ?』


『私にください』


ゼルガルは、さっとナオジーに視線を向け、ナオジーは微かに頷いた。


『‥‥‥侵入者なんだが?』


『ゼルガルさま‥‥‥池があれば潜んでしまう‥‥‥忍者の性というものです。馬車でぐるぐるさまが、でへでへするのと同じです』


『おまえ‥‥‥』


ゼルガルが、くっと口を閉じて固定しておきつつナオジーを見ると、ナオジーも同じような口元となりつつ小さく頷いた。


『うちの長官が絶対喜ぶので、この本持たせて連れていきます』


『は?』


メグノアードが本を入れたトートバッグを持たせてくれたので、びしっと肩にかけておいた。


『うちの王城の池で、ぱしゃぱしゃしてもらいます!』


『やめてやれ!』


『えー‥‥‥でも、うちの王太子、忍者のこと言いに来たのかもしれません‥‥‥』


『‥‥‥あっちの王太子殿下が潜ませたってことか?』


『見せびらかしにきて、忘れていったのかもしれないですよね‥‥‥?』


ゼルガルはご機嫌を害されたらしく、ナオジーに顔面で訴えかける。


『うちの王城の池に潜ませておけば、うちの王太子も、すっと受け取れると思うんですよ‥‥‥』


『それは、まあ‥‥‥ナオジー』


『‥‥‥身の回りのことは、何でも自分で行うことができるようですが、何も話さず、声を発することもありません』


『え‥‥‥こいつ、何をさせてるんだ?』


『家事を‥‥‥させています』


『え‥‥‥侵入者の部屋の掃除と洗濯‥‥‥ということか?』


『あとは、フユーの分の食事も用意させています‥‥‥美味しいそうです』


ゼルガルは、そこにあるはずのないものを見つけたような顔で、こちらをじっと見ている。


(これは‥‥‥また、あれだと思われている‥‥‥)


『うちの長官なら、通訳できるかもしれません』


『さっき、通じてただろ?』


『身体検査の時に見つけて、撒菱、撒菱、言ってたから覚えたのかもしれません』


『おまえ‥‥‥立ち会ったのか?』


『いいえ。ざばー、でしたので、脱いだものから所持品を確認しただけです』


『‥‥‥どうして、撒菱持たせたままでいるんだ?』


『忍者なんですよ?』


ゼルガルは、ふっと笑って、溜め息をつく。


『ゼルガルさま、来ちゃった、の姫、実は気に入ってるんじゃないですか?』


『え?‥‥‥いや、第二だし、そうなるのかもなー、とは思ってるが、気に入ってはないな』


『見せびらかしてきてもいいですよ?』


『え‥‥‥忍者を?』


『どれにしようかな、もできますね?』


ふふっと笑っておくと、ゼルガルは、すいーっと目を逸らした。


『では、素通りしてやりますか?』


ゼルガルの目がこちらに戻ってきたのは、興味あり、ということだろう。


『海流の影響で、右のお隣さんの港湾から出た方が早く着く、というのは本当なんでしょうか?』


『ここの港からは?』


『レンギョウ商会へのお土産を送るのはいかがです?』


『ほー、何がいいだろうか?』


『東部支所の金木犀で作った香水もいいでしょうし、この国はチョコがやたら美味しいです。服もあちらとは少し趣が違うので喜ばれそうですし、アクセサリーやバッグ、お酒ももちろん含みたいですね。子供服や玩具も気になりますし、生活用品もお洒落なものが多くて目移りしますので、ナオジーと奥さまに見立ててもらってはいかがでしょうか?』


『頼めるか?』


『はい。お任せください』


『あとは素通りついでに、お隣さんで調達すればいい訳だ』


『そうですね。忍者は何に変装させましょうか?』


『護衛だろうな』


ゼルガルは何かを諦めた様子で笑っている。

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