61.食べ放題
ここの離宮でしっかりと休むことのできたゼルガルは、この辺りの菓子をずらりとテーブルに並べられて、ミィアンとヨツバに接待されている。
きちんとすべての菓子を眺めてから、一つ皿を手に取ったゼルガルは、こちらをじっと見たまま、もぐもぐしていたのだが。
『フユー‥‥‥腹を割って話そうじゃないか』
『どんな話します?』
ゼルガルは、ふっと笑って、フォークを口に運ぶ。
(考えてるなー)
私が、すっと取り出したのは、梅を酒に漬け込んでいる瓶と、金平糖の入っていた小瓶だ。
(見てるなー)
瓶の中を底からしっかりかき混ぜると、梅がころんころんと舞い上がるように転がっていく。
微かにとろみを感じる見た目は、実に美味しそうで、お子さまの心をがっちりと掴んでくれる。
小瓶にそおっと梅酒を注ぎ、蓋をすると、ゼルガルに向けてふふっと笑っておいた。
(怯えてるのかなー?)
私が、すっと小瓶を差し出すのに合わせて、ミィアンが、さっとゼルガルの前に紅茶を置く。
『一滴から、どうです?』
ゼルガルは、卑劣な二択を迫られているかのような態度で、私と小瓶の間で視線を動かすのに忙しい。
『ナオジー‥‥‥こいつは魔女だ!』
『そうかもしれませんね‥‥‥』
ここでヨツバが、チョコの並べられた皿も前に置いてやると、ゼルガルは悪い気はしないという顔となっている。
さらにミィアンが、ブランデーケーキをどーんと出してきて、すっとブランデーの瓶を手にして微笑むと、ゼルガルは、ふふんと微笑んで頷いた。
ブランデーケーキの皿を前に置かれたゼルガルは、いざ!とフォークで口に運び、難しい顔でもぐもぐしている。
(どうなの?)
ゼルガルは、んー‥‥‥?となりつつも食べ進め、首を捻りたそうにしているように見える。
私がパンケーキを手掴みで食べ始めると、しばらく眺めていたゼルガルは、観念したように微笑んで手を差し出してきた。
パンケーキの皿を渡してやると、ゼルガルも手掴みでぱくぱく食べていく。
(もう、持ってるかもしれないけど)
「こちらの殿下を招待した家と会場となった場所、出席していた全員の情報を、内密に、うちの王太子殿下へお願いします。パンケーキのお代です」
「!!」
ゼルガルは叫びだしたそうにしながらも、もぐもぐし続け、ナオジーに顔面で訴えかけている。
私がすっと取り出したのは、アローラの封蝋印だ。
ヨツバが用意してくれた封筒に押してみせると、きれいに押せて、にまっとしてしまう。
(どうです?)
ゼルガルも魔女さまのシリーズが結構好きなのではないか、と予想している。
「販売する予定は、ございません!」
ゼルガルが何かに屈した様子でこちらに手を伸ばしてきたので、アローラの封蝋印を渡してやると、ヨツバがさっと封筒を用意した。
ゼルガルも押してみて、ふふっと笑顔となっている。
◇◆◇◆◇◆◇
『フユー‥‥‥君は、あちらの王太子殿下の何なんだ?』
(何‥‥‥?何‥‥‥?何‥‥‥?)
いくら首を傾げても、わかってこない。
『‥‥‥知り合い、です』
ゼルガルが笑顔となってナオジーの方を見ると、ナオジーは優しく頷いてやっている。
『君は、レンギョウ商会のお姫さまという方を、うちに輿入れさせたいのか?』
『いいえ。会長をこちらに呼ぶついでに、レンギョウ商会のお姫さまだよー!ってやりたいだけです。美味しいコーヒーを淹れてくれますよ?』
ほう!となったのは、コーヒーに食いついたということだろう。
『あちらの王都の菓子屋にも詳しいですし、カフェをやっていて、そこではコーヒーゼリーも出しています。私は、あれにどかっとアイスをのせて食べるのが好きなんですよ。見た目が残念なことになるので、店ではそういったことはしていませんが、ゼルガルさまが来てくれたとなれば、こそっとアイスをのせてくれるでしょうね』
こいつ!と笑うゼルガルが、ちらっとナオジーを見ると、ナオジーも笑顔となって頷いている。
『じゃ、行ってきてください』
こいつ‥‥‥!と睨まれようと、商売人の笑みを崩してはいけない。
(行ってきて!)
『トートバッグ使ってください』
ゼルガルは、またも、こいつ!と笑ってくれていたのだが、ゆっくりと息をつくと、真面目な顔となってしまった。
『僕が君のお使いに行ってくるのか?』
『モーリス‥‥‥どうなってます?』
ゼルガルは途端に、ナオジーへ顔面での告げ口を開始する。
『‥‥‥魔女!おまえの指示なのか?!』
『すっごい好みだろうな、って思ってました。ゼルガルさまが連れていく従者は、お姫さま方の留学を検討するってことで、ティファカのブローチ着けたラージウがいいんじゃないですか?』
ゼルガルは険しい顔で少し考えてから、小さく頷く。
『‥‥‥そうだな』
『トートバッグ、使ってくださいね?』
『え‥‥‥?』
『たぶん、持ってくれます』
『え?どういう‥‥‥?』
ゼルガルが目で問いかけても、ナオジーも情報を持っていないようだ。
(行ってきて!)
『ゼルガルさまは、誰とも踊らないでくださいね?』
『‥‥‥どういう意図だ?』
『遊びと本命を明確にする方法として、とっておくと便利かと』
ゼルガルは、うぅん?となって、じっとこちらを見ている。
『‥‥‥フユーを、レンギョウ商会のお姫さまの通訳としてほしいのか?』
『いいえ。通訳はヨツバができます』
ゼルガルは、眉間に皺を寄せたまま、にこっと微笑んだ。
『‥‥‥フユー、腹を割ってくれよ』
『早く行ってきてください』
『冷たい!』
『妹の従者を連れまわして隣国で遊んでくる兄、実に、だめ次男なのではありませんか?』
『そうだな‥‥‥!』
ここで嬉しそうにされては、ふすっとなってしまう。
『あなたの優しさは、特別な誰かのためだけにしておかないと、いくらでも引き寄せてしまいますからね』
ゼルガルを、むっとさせてしまったので、ついでに怖がらせておこう。
『えー?あなたは、右のお隣さんのお姫さまだったんですかー?』
『‥‥‥何だ?それは』
『来ちゃった!をやったばかりに、あちらの国へぽいっとやられてしまった姫を発見!ということにして、この国の言葉も話せる女の子を登場させます。右のお隣さんがその子は姫だと認めてしまえば、この国の王子はどうするでしょうか?』
『‥‥‥迎えに‥‥‥行くかもな』
『そこに、私こそが王子のお相手なのに!と左のお隣さんの、正真正銘のお嬢さまが登場した場合、この国の王子はどうするでしょうか?』
『‥‥‥そっちを、選ぶかもな』
『そうなってから右のお隣さんは、その子だよ、として、右のお隣さんの正真正銘のお姫さまを、こちらの他の王子に輿入れさせようとするのもいいでしょうが、その子だった子はこの国の王家が処分します』
『‥‥‥どうやって?』
『この子は、この国の離宮で見捨てられていた姫だったんだ!とやればいいだけです』
『‥‥‥先王の血筋ではない、とうちが認めれば‥‥‥』
『モクレン家三男として騒いだのは、おまえは先王の血筋だ、と吹き込んでもらったので、俺は先王の血筋になる!となった、こういった離宮で育った誰かなのかもしれません。姫に仕立て上げられた女の子は、この国の王子の愛人として、離宮で麻薬の原料となる植物を栽培していたんだ、なんてことにもできそうです。右のお隣さんとは第二王子、左のお隣さんとは第一王子、離宮で栽培した麻薬の原料をどうしていたんでしょうか?』
『‥‥‥僕達が、と』
『西部にある国境を封鎖し、西部支所近くの離宮を官舎としたのは第一王子、東部支所近くの離宮を官舎としたのは第二王子、とも言えるでしょう』
『‥‥‥証拠を』
『申し訳ありません。私の行いが、物証というものを隠させたのは明白です』
『おまえは‥‥‥』
ゼルガルの目は、もう疑いとは言えないほどに、私を警戒している。
(‥‥‥死ぬかな‥‥‥)
『経費削減のために一人の人物を使うとしましょう。モクレン家三男として活躍させて、モクレン家三男として顔を覚えてもらってから、こちらの国へ。西部の国境が封鎖される。ティファカにリボンを見せる活躍によってこの国に居づらくさせると、次に向かわせる先はどこでしょうか?』
『‥‥‥右のお隣さん?』
『そこで処分でもいいのですが、またも活躍させてから、えー?君は、来ちゃった!の姫を迎えに来てくれた先王の孫なのかいー?なんて使い方もできそうです。また、海路で左のお隣さんの国に行かせて、港を有する領主のお嬢さまを迎えに、なんてこともできますね』
『‥‥‥そこでも、来ちゃった、を?』
『来ちゃった、だけではなく、あなたの子よ、もできそうです。国境を閉じさせ、港湾を整備させて、陸路ではなく海路を。港を有しているのならば、ぜひ実現させたい事案です。この国の対応のせいで、うちの娘が第二王子を自称したどこぞの男に!と強気に出ることもできるでしょうし、第一王子と踊ったことのあるうちの娘が、第一王子を自称していた男を捕まえました!なんてこともできてしまいますし、お愛想かもしれないけれどと、第三王子に会いに行ったうちの娘が帰ってこないんです!と、他の娘を連れて押しかけることだってできてしまいますよね?』
『それで出席者か‥‥‥』
『また、移設させることにより、新しく国境の門を有することになった領地は確実に潤いますし、こちらの国とのお付き合いが密になることは間違いありません。隣の隣の領地で問題が起きることを願っている誰かが唆した、ただそれだけの結果が今現在かもしれませんし、いくつもの思惑が重なっているのかもしれませんし、誰かが誰かを迎えに行くために画策したことなのかもしれません。第一王子狙いで来た姫を気に入った第二王子がそのように画策した、とするのは容易だと思いませんか?』
『他の誰だとしても、いくらでも‥‥‥』
『左のお隣さんには、もうあと一人だけ。しかし、こちらにはまだ四人。非常に優秀な誰かが自分こそが第二王子だと言い出した場合、入れ替えることも不可能ではありません。第二王子として見た目を覚えてもらっておくことは、あなたにとって利をもたらすのかもしれませんね』
『おまえ‥‥‥』
『ということで、早く行って来てください』
ゼルガルは、憤然としてナオジーに訴えかけ、あぁん?!とミィアンとヨツバを睨む。
『会長に第二王子殿下だと信じてもらわないといけませんから、ミィアンとヨツバも連れて行ってください』
ゼルガルは、はあ?!と言いたそうに口を動かすのだが。
『‥‥‥おまえは?!』
『本読んでます』
ゼルガルは、歯を剥きたそうにしつつ、こちらを睨む。
『何も売らずに、ほしいのあったら持って行っていいよ、だけ行うのなら、私だけでも読書処を開けてもいいですか?』
『だめだ!』
(だめか‥‥‥)
『ブランデーケーキ、どうでした?』
『あんまり!』
(あんまりか‥‥‥)
『モクレン家三男として活躍した人物は、この国を守ったんでしょうか?』
『‥‥‥それは‥‥‥』
『きちんと挨拶に応じるティファカに、選ばないと危ないんだ、と教えてくれたんでしょうか?』
『それは‥‥‥』
『ここの壁の色味が違うのは、わざとそう塗ったんでしょうか?』
『それは‥‥‥ないんじゃないか?』
(ないか‥‥‥)
『これ、どうですか?』
私が、バッジを取り出すと、ゼルガルは手に取ってよく見てくれている。
『あー、バッジの部材か。アローラの封蝋印な焼き印入りクッキーなバッジ。いいんじゃないか?』
(これはありか)
私が同じようなピアスとポーチも見せると、ミィアンが寄ってきて、すっとポーチを指さした。
『これ、ほしい‥‥‥』
『いいよ』
ミィアンはポーチを手に取ると、にへっとして眺めてくれている。
ヨツバは、ピアスに使われている木材な部材を指さす。
『ここ、チョコレート色、いいな』
『チョコの型に、封蝋印な模様を入れられないかな?』
『できそうな気がする‥‥‥焼き菓子の型もできそう‥‥‥』
『こんなのもあるよ?』
私がアローラの封蝋印な焼き印入りクッキーな鏡を出すと、ミィアンは無言で手を差し出してきた。
ミィアンの手にのせると、ミィアンは鏡を開け閉めして、にへっとしている。
私がアローラの封蝋印な焼き印入りクッキーな小箱を出すと、ゼルガルが受け取って蓋を開け、中にバッジをすべて収めて蓋を閉めると、すっとポケットへと仕舞った。
(これもありか)
先ほどの小箱よりは厚みの薄い小箱を取り出して蓋を開け、中にあるベルトにピアスをかけていると。
(おお!)
すっと手を出してきたのはナオジーだ。
ココアクッキーな小箱も出して、どちらも手にのせると、ナオジーは、ココアクッキーな小箱の蓋を開けた。
『イチゴチョコ!』
『そうだね』
ココアクッキーな小箱に入っているのは、ピアスもココアクッキーなので、木材な部材はイチゴチョコな色で塗っておいた。
え‥‥‥?という顔をしていたミィアンに、ココアクッキーなポーチと鏡も渡しておくと、にへっという顔に戻って眺めている。
ゼルガルには厚みのあるココアクッキーな小箱を渡しておくと、ゼルガルは蓋を開けて、中にあったクッキーな時計とココアクッキーな時計をテーブルに並べた。
どちらの蓋も開けると、ゼルガルは、ほー!となって蓋を開け閉めしている。
『もしかして、ある?』
ふふっと私が、木材な部材をイチゴジャムな色で塗ったピアスが収められている小箱と、アプリコットジャムな色で塗ったピアスが収められている小箱を二色ずつ渡すと、ゼルガルは、よし!と頷いてくれた。
『フユーは、本読んで、こういうの作ってればいい!』
『ありがとうございます!』
どうやら、お使いに行ってきてもらえそうだ。




