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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
60/106

60.散歩

ふらっと外に出てみると、すっかり冬が来ていたようだ。


(もう一年経ってるな‥‥‥)


言葉を学ぶための留学ということになっているのだから、妥当な期間なのかもしれないが。


ギドロイがはっきり拒絶を示さなかったということは、特定のお相手というのはまだいないのだろう。


(帰ってくんなと思われてるよな‥‥‥)


しかし私がこの国にいても、ティファカが留学するのを阻止することはできないだろう。


(すでに行ってたりして‥‥‥)


それで、ナオジーはやんわりと伝えてくれたのだろうか。


西部の国境を通れないとなると、海路を使って帰国するか、東部の国境から、さらなるお隣さんへと移動することになる。


(船か‥‥‥いくら必要かな‥‥‥あ、給料もらってない)


せっかく来たのなら、給料を置いていってもらいたかった。


やはり、あのお古の山が給料なのかもしれない。


(蛇‥‥‥は、もう活発には動いてないかな‥‥‥)


さすが離宮という広さの敷地のようだが、手入れされていないので、荒地、という印象だ。


長く使っていない離宮なのだろうか。


先王の妾と言っても、ずーっとお付き合いが続いていた訳ではなく、お別れして出ていってもらうようなこともあったのかもしれない。


(先王の妹の孫は姫‥‥‥王城での第一王子が出席する夜会にも招待されるくらいの‥‥‥)


そもそも、妾とはどういう扱いなのだろうか。


この離宮の所有者は妾ではない。


先王はここに妾を呼び出していたのか、妾はここで働いていたのか、妾を女主人として暮らさせていたのか。


徐々に関係は薄れていき、ついにはただの近隣住民や使用人や女主人となった、ということもあるのかもしれない。


(そうやって、所有しているだけの離宮となっていたものを処分しようと‥‥‥?)


私のように離宮に住み着き、暮らし続けることも可能だろうが、そうなると、そこで産まれた子が先王の子や孫にあたるのかなど、論外だ、ということになる。


(それどころか、侵入者として追い出されることに‥‥‥ん?)






◇◆◇◆◇◆◇






「フユー!あんたどこ行ってたのよ?!」


いつの間にか、ミィアンとヨツバが戻ってくるような時間となっていたようだ。


「ここの敷地の中を散歩してたんだけど、ナオジーは?」


「あんたがいなくなったと思って、ヨツバと一緒に‥‥‥」


ミィアンが急速に口籠ってくれては、ふすっとなってしまう。


「‥‥‥迷子?」


「‥‥‥そういうことね。あ、私、あんたが見つかったって、奥さまに伝えてこよー‥‥‥」


ミィアンは、すすすと奥へ行ってしまった。


(迷子であって、指名手配じゃないよね‥‥‥?)


聞けなかったことを、今になって心の中で聞いてみても、誰も答えてくれやしない。






◇◆◇◆◇◆◇






「敷地内を散歩していたら、敷地が区切られていることに気付き、区切られた向こう側には、いかにも怪しい建物があることと、麻薬の原料となる植物なのではないか、というものが生えていることにも気付いた、とはどういうことかな?」


「草、凄いなー、と思いながら歩いていると、敷地の端なのかな、というところまで来たんですが、こんなに広い敷地なのに、正門しか出入口無いの?と思ってよく見てみると、なんだか、ここの壁って周りの壁とちょっと色味が違うような、と思いました。そこで、よじ登って見てみると、あっちもここの敷地なんじゃないのかな、という眺めだったんですが、離宮?な建物があり、これって本に載ってたやつじゃない?なものが生えていました」


ゼルガルは、眉間をぎゅっと指で押さえる。


「お子さまぶりやがって‥‥‥!ナオジー‥‥‥!」


「敷地を区切った記録も、いかにも怪しい建物を建てた記録も、こちらにはありません。建物内は、最近まで人が暮らしていたのではないか、という状態でもあり、放棄されていたところに入り込んで暮らしていたのではないか、という状態でもあります。植物は、麻薬の原料となるものです‥‥‥」


ゼルガルは、眉間を押さえていた手をどかすと、だれんと項垂れた。


(疲れてるな)


迷子の連絡を受けてすぐにこちらに向かってくれたそうなので、昨夜は馬車の中で寝ることになったのだろう。


「この建物内も、建てた当初とは違うところがあったりするのかもしれませんね?」


ゼルガルは、ばっと顔を上げてこちらを見たのだが、ぎゅっと目を瞑るようにして顔を逸らした。


「怖いよー‥‥‥こいつ、怖いよー‥‥‥でも、これでは、離宮全部調べるしかない‥‥‥」


「右のお隣さんから、こちらの第一王子殿下に輿入れの話が出ませんでしたか?」


ゼルガルは、すっと顔を上げて、じっとこちらを見ていたのだが。


(‥‥‥薄目になっていくー‥‥‥教えてくれないかー‥‥‥?)


「‥‥‥出た」


「こちらからも後宮に誰かください?」


薄目となっているゼルガルは、小さく首を傾げる。


「‥‥‥言われた」


「なめやがって!」


「‥‥‥そういう内容だった」


「しかし、真正面から国として申し込まれてしまっては、いえー、うちのお姫さま方は、左のお隣さんで学ばせたいなって思ってるんですよー、とやんわり断ることに?」


ゼルガルの目が開いたのだが、今度は眉間に皺が寄っている。


「‥‥‥そういう対応をした」


「来ちゃった!とやられ、帰ってもらったのでは?」


ゼルガルは私が見えないかのように、目を凝らそうとしている。


「‥‥‥そういうことがあった」


「第二王子殿下であるゼルガルさまとしては、そうなったらそうなったで、いずれ自分がもらっておくことになってもいいよ?なので、その出来事をきっかけにして、お隣さんとのやり取り担当となっているのでは?」


ゼルガルは私の予想する内容を察してくれたらしく、また、薄目となって私をじっと見ている。


「うちの国のどこかから、第三王子殿下を招待されて、第一王子殿下は全員と踊ったのではありませんか?」


見えているのかというほどの薄目となっているゼルガルの眉間に、ぐぐぐと皺が寄っていく。


「レンギョウ商会にも、大事なお姫さまがいるんですよー!素直で可愛いですよ?」


ゼルガルは、かっと目を開き、口まで開いて、ミィアンとヨツバに顔面で告げ口していたのだが、ミィアンとヨツバも商売人の笑みとなっていては、ナオジーに訴えるしかないようだ。


「こちらの国の言葉がぺらぺらなお嬢さんを、通訳としてうちのお姫さまの供に着けてもらえるように、うちの王太子殿下に依頼しておいて、こちらの第三王子殿下が王城に招待するのはどうですか?こちらのお姫さま方も一緒に、皆さまでお茶会というのも素敵ですし、うちのお姫さまのドレス姿を見せてあげたいような気もします。うちのお姫さまには、ダンスも踊れるヨツバを秘書としてつけることもできますし、レンギョウ商会の会長ならば、こちらの国と結ぶ道を新しく敷くことなど、容易なことです!」


ヨツバとミィアンは、すっと背筋を伸ばして商売人の笑みを続行中なのだが、こちらをじっと見るゼルガルの顔からは、危機感というものが感じ取れる。


(‥‥‥伝わったかな?)


「いやー、うちのお姫さま方がこちらでの留学に興味があるようなんですよー、と言って、うちの王太子殿下が開設した学術所をゼルガルさまが見学、というのはいかがでしょうか?ついでに、うちの図書庫に本を届けてください」


ずけっと要求を足しておくと、眉間に深い皴を刻んでいるゼルガルは、じわりと笑いを滲ませつつも、歯を剥こうかどうか悩んでいるかのように口元をもぞもぞさせている。

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