58.移動
東部支所の完成が近くなったので、ゼルガルは官舎に移ることになり、私達も次の離宮へと移ってきた。
「あそこには、王女さまや王子さまがいたから、お客さまとなるお坊ちゃんやお嬢さまが来てくれていたけれど、今度は読書処を開店しても来てくれないでしょうね‥‥‥」
「離宮となると、一般庶民は近寄りがたいよな‥‥‥」
「私が店番として、一応開けておく?」
ミィアンとヨツバが顔面で訴えかけてきているのは、却下とする理由だろう。
(だめか‥‥‥)
「できそうなのは、広場で、ほしいのあったら持っていっていいよ、かな?」
「そうなるわね‥‥‥」
三人でじっと見ると、ゼルガルは少し考えてから言った。
「広場ではもう寒いし、どこか物件を用意するよ」
「「「いいんですか?!」」」
ゼルガルは三人の勢いに、ふすっとなりつつ指示を出す。
「そこで、広場でやってたように商売もするといいよ。フユーは店には出ないようにね?」
「「「わかりました!」」」
「じゃあ、僕はもう行くよ」
「「「お気をつけて!」」」
王城へと向かう道中であるゼルガルは、ナオジーを伴い、部屋を出ていった。
今日からは、ここでまた三人暮らしだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「フユー!」
(えー?!)
ばたーんとやってきたのは、半泣き状態のギドロイだ。
(‥‥‥何やってんの?あ、ディードもいるんだ)
「おまえー‥‥‥!ちゃらちゃらピアスなんて開けやがって‥‥‥!」
(え‥‥‥?怒ってるの?)
ギドロイの状態がわからず、ディードに目だけで問いかけると、ディードは、ふっと微笑んだ。
(いや、わからんがな‥‥‥)
三人暮らしな家具しかないので、ギドロイを座らせていいのかというような椅子しかないのだが。
「‥‥‥どうぞ?」
ギドロイが私の勧めた椅子に腰かけると、ミィアンとヨツバが、慌ただしくお茶やお菓子を用意していく。
「おー!大きくなってるなー!ちびー!」
(えー?!)
部屋に入ってきたライリは、首が座ったばかりだろうかという赤ちゃんを抱えている。
「はい、この子、タミーラ。女の子ね」
ライリにひょいと渡され、うぉい!と思いつつ抱きとめると、タミーラは泣こうかどうしようかという顔をしている。
「こんにちは、タミーラ」
タミーラは、まあ泣かずにいてやろうかな、と思ってくれたようで、私のピアスをじっと見ている。
(危ないね)
ピアスを外してポケットに入れておくと、タミーラは私の肩に頭を預けた。
これまで抱っこしたことのある赤ちゃんは、ランセンとザイロンだけなので、女の子の赤ちゃんを抱っこするのは始めてだ。
(やわらかい)
赤ちゃんの頃から男女の違いというのはあるものなんだな、と体感していると、ティファカがラージウを伴って部屋に入ってきた。
『ギドロイさま!私を置いていくなんてひどいです!私の馬車に乗ってください!』
(えー?!)
ギドロイが、もの凄く何かを目で訴えかけてくるのは、そういうことなのだろうか。
『マツリカさんは、本に囲まれて勉強に励んでいるようですね』
(マツリカさん?!)
ラージウに、さん付けで呼ばれ、反応を示してしまいそうになるのだが、私はどの程度勉強できたことになっているのだろうか。
護衛達に混ざって、ケイオスとモーリスも大荷物を運んでくると、ライリが私の前に片膝をついて、きりっといい顔を作った。
「フユー、タミーラを頼む」
「‥‥‥え?っと‥‥‥死んでも、そっか、で済ませてくれますか?」
ライリは、ふっと笑って、ちらりとディードを見る。
ディードも、ふっと笑い、じっとギドロイを見ると、ギドロイは、がたーん!と立ち上がって首を横に振っている。
(なんて、プレッシャーに弱いんだ‥‥‥!)
ティファカも、目をぱちぱちさせて驚いている。
(あ‥‥‥幻滅した‥‥‥?ってことはない、と)
『ギドロイさま!早く私の馬車へ!今夜も宿を用意しますので、そちらに移動しましょう!』
(あら、大人ー)
「フユー!手紙くらい毎日書け!」
ギドロイが走り出したそうに歩いていくと、皆もそれに続いて出ていった。
残されたのは、タミーラのものなのだろう大荷物とタミーラ。
(だけじゃなかった)
タミーラの反応からするに母親なのだろう女性が、ナオジーに支えられてよろよろと入ってきたのだが、この部屋には横になれるような場所が無い。
ナオジーに言われて見に行くと、玄関広間にも荷物がどっさり置かれていた。
その中から布団を見つけ、私達三人の部屋の中で、トイレに一番近いということで、私の部屋のベッドの布団と交換し、女性に横になってもらうと、女性もナオジーも、ふーっと息をついた。
『すみません。こちら、私の妻と娘です。ゼルガルさまが東部支所に戻るのに合わせて、私達も官舎に引っ越すことになっていたんですが、妻が腰をやってしまいまして‥‥‥こちらで療養させてください』
『申し訳ありません‥‥‥』
『お気になさらず。このまま、この部屋を使ってください』
『ありがとうございます。ゼルガルさまには別の者がついていますので、私もこちらに滞在させていただきます。荷物を運んでしまいますので、もうしばらくタミーラをお願いできますでしょうか?』
『はい。さっきの部屋にいますね?』
『すみません‥‥‥お願いします』
ナオジーの奥さまは、ひどく疲れているようだ。
ここまで来るのも大変だったのだろう。




