57.クッキー
しばらくひっそり暮らそうと考えていたのだが、ミィアンとヨツバは鞄工房で大量注文に対応するための手伝いをすることになり、私はまた、休憩に使う部屋で本を読む毎日だ。
(真珠のクッキーなピアスを着けて‥‥‥)
ふふっと笑ってしまう事態なのだが、もう護衛をつけてもらわずに、ミィアンとヨツバにお守りをしてもらえることになった私は、離宮にぽいと置いておいてもらえないので仕方ない。
だがこれは、監視対象ではない、ということなのではないだろうか。
密輸に対する情報を得ることができないので、何が起きているのかさっぱりなのだが、私は関係者ではないと判断してもらえたのだろう。
(フユーは、本読んで金儲けしてればいい‥‥‥)
留学生であることを、しっかりと記憶に留めて暮らせ、と言ってもらえたのだと思っておこう。
『フユー、端材いるか?』
『ありがとうございます!』
もうピアスという商品に使えるのだが、それでも私に分けてくれるとは、本当に気前がいい店主だ。
『よっぽどクッキーな花が気に入ったんだな』
『今度は、石ではなく木材でずらっとやろうと考えているんです』
『木材?を、塗るのか?』
『そうです』
私が作りためている部材を見せると、店主は手に取って眺めている。
『ほー!こういうのもきれいだな!』
店主はレモンイエローの部材を使って、すいすいっとピアスを組み上げてくれた。
『ほらよ』
『ありがとうございます!』
仕舞っておこうとポーチを取り出すと、店主はポーチに手を伸ばした。
ポーチには、雪野原バッジだった花びらが留められている。
(‥‥‥気付いちゃった?)
『ボタンで縫い付けるのか‥‥‥これ、使っていいか?』
『どうぞ!』
『ボタンをこういう色で塗ってくれ』
『わかりました!』
『何色にするか‥‥‥』
店主は、皮や布を持ってきては、部材と組み合わせてみている。
ボタンを塗るとなれば、私もやってみたいことがある。
◇◆◇◆◇◆◇
『フユー、雪野原バッジ、僕がもらうよ』
(え?!)
『‥‥‥分解しました』
『‥‥‥君は、潔すぎないか?』
最近、ははっ!という、乾いた笑いの出番が多い。
もしかすると、雪野原ちゃんとなる別の誰かが使うことになるのかもしれない、とは考えたのだが、自分からは言い出せず、もしそうなったとしても新しく作るだろう、と思っておくことにして分解してしまった。
(どんなのだったか、残しておきたいのかな‥‥‥)
分解した部材を使ったポーチとピアスを見せると、ゼルガルのお気に召したようだ。
『おー!美味そうだ』
イチゴジャムのように照りのある赤に塗ったボタンを、クッキーな花の中心に配置してみると、そのまんまクッキーな見た目となった。
『こっちはアプリコットか!』
イチゴジャムクッキーなピアスと、アプリコットジャムクッキーなピアスを作り、真珠は、それらの金具の根本に使っておいた。
ゼルガルは、ポーチを二つ持ってくると、いそいそと中身を入れ替えていく。
どうやら分解した部材を使ったポーチと、一つポーチを交換するようだ。
(ジャムクッキーなピアスも、もらってくれる、と)
真珠の使い道を見つけ、少し顔の角度を上げることができるような気分となっていたのだが、私の手元にあるよりは、もらってもらえると有り難い。
『ちなみにこのようなものも、ございます』
ずいと、手の平サイズなハンガーラックのようなものを出すと、ゼルガルはピアスをついと掛けてみた。
木製の小さなハンガーラックには、小さな皿のような部材もついているので、そこに置いておくこともできる。
『おー、ここにピアスを掛けておけて、ここにはバッジとか置いておけるんだね?』
『そうです。外してちょっと置いておく、というような時に便利です』
『いいね。この掛けておくところに、ちょっとくびれがあって、ひょいと掛けても、見栄えがよく置いておける。白で塗ったのを二つ作ってよ』
『わかりました』
『その小さいトートバッグ、アローラの封蝋印と同じ焼き印?』
ゼルガルが気付いてくれたので、紹介しておくとしよう。
『そうです。本を持ち帰ってもらう時に売っているのは、もっと大きなトートバッグですが、それらにも同じ焼き印を入れています』
『その小さいのを二つ頼むよ。フユーは手紙を書いたりしないの?』
(手紙?)
『書かないですね』
『届けるのにかかる費用が気になるから?』
『いえ、機会が無いので』
ゼルガルは、じわっと笑いを滲ませている。
『孤独な老婆か‥‥‥』
(温かい目って、こういう目‥‥‥)
やはり、ははっ!という乾いた笑いを返しておくことになる。
ゼルガルは、小さく頷きながら去っていく。
何かを理解してもらえたようでよかった、と思っておくことにしよう。




