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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
54/106

54.預け先

「つまり、お使いに出て遭遇した猫に、ふぎゃー!とやられないかと警戒していたら、ご婦人にぶつかって、転んで、歯が抜けて、きゃー!病院に!となられて、いや菓子屋を、と言ってみたら、案内してくれて、そこの菓子を手土産にして保護者に話をと言われてしまったので、レンギョウ商会と取引のある店で修行中なんだと言っておき、そこの店主が話を合わせておいてくれた、と?」


「お愛想かもしれませんが、また来るって言ってたので、明日からその店で本を読ませてもらいます」


「‥‥‥こいつは、ちょっと、あれなのかな?」


ゼルガルに聞かれ、ミィアンとヨツバは無念そうに頷く。


「こんにちはー、歯が抜けたので口を濯がせてくださーい、とやるのは恥ずかしいから、外にある洗い場を使わせてもらった?」


「‥‥‥そうです」


「ぶっ転んで歯が抜けたのはアクアマリンの君だ、と気付かれたくなかったから、護衛のバッジを外させた?」


「‥‥‥そうです」


「街の端まで連れ出してしまったご婦人が、きちんと帰れるのか心配だったから、護衛達にそっと見守らせた?」


「‥‥‥そうです」


ゼルガルは見たくないものを見ている顔となり、じっと私を見ている。


「取引のある店って?」


「鞄の工房です。本を沢山入れても、びくともしない鞄を作ってくれます」


見たくなさが増したらしく、ゼルガルは薄目となってしまっている。


「僕をこんなところまで引きずり出した魔女‥‥‥案内された菓子屋というのは?」


「ここで扱っていたこともある菓子を買っていましたので、もしかすると、ここにお坊ちゃんかお嬢さまが来ていたのかもしれませんね」


にこっとしておくと、ゼルガルは、すっと目を瞑り、眉間に皺を寄せていく。


「‥‥‥ナオジー」


すでに手帳を開いていたナオジーは、報告を始めた。


「ティファカさまに一度だけ、挨拶に来たお坊ちゃんがいます。が‥‥‥」


ナオジーが一旦止まると、ゼルガルは、ずーんと沈んでからゆっくりと顔を上げた。


何かに別離を告げた様子となっているゼルガルが微かに頷くと、ナオジーも微かに頷く。


「君は王女だったのか?!とやりました」


「‥‥‥よくあるやつ?」


「そうです。持参していたリボンを見せて、あの夜の忘れ物だ、と」


「‥‥‥え?‥‥‥あの歳に向かって、関係を持ったことがあるよね?とやったということ?」


「そこが‥‥‥取り押さえて連行し、取り調べてやると、あの方とお連れさまのことを隠しておきたいから、ティファカさまは認めてくれないだろう、と‥‥‥」


「ティファカと引き合わせてくれる奴を登場させないとだからな‥‥‥」


「そのような役割でしょう。一貫して、あの方、お連れさま、という呼び方をしました。あの方から、自分の暮らす邸を訪ねる日時を知らせる手紙が届くと、自分はお連れさまに連絡しておく。あの方は自分を訪ねて、自分の暮らす邸でお連れさまと一緒に過ごす。あの夜、あの方はティファカさまを連れて来たので、自分はティファカさまと一緒に過ごして、将来を誓い合った。だが、このような騒ぎになってしまっては、あの方もティファカさまも、自分の言った内容を認めてくれないだろう。あの方とお連れさまのことを隠しておきたいことなど、わかりきっているのに、ティファカさまに会えたことに舞い上がってしまった。これからも会いたいと、ティファカさまに伝えてもらいたい。と供述しました」


「でも、読書処には来ようとしない、と。どうせ、手紙は全部処分してるー、とか言ったんだろ?」


「言いました。あの方とお連れさまというのが誰なのかは、絶対言わない。きちんと責任を取りたいので、国王陛下に話をさせてもらいたい。とも言いました」


ナオジーが手帳を閉じると、ゼルガルは、またも薄目となって、私をじっと見ている。


(もうこの街には、いないのかもしれないけど‥‥‥)


にこっとしておくと、ゼルガルの鼻に皺が寄ってしまった。


「行ってきましょうか?」


「は?」


「あの方って誰よ?!探せばあの方とやらの忘れ物も残ってるんじゃないの?!全員から話を聞けるまで、この街は封鎖!です」


「あー‥‥‥まさか第一王子のことではあるまいな?と‥‥‥ナオジー、頼んだよ」


「承知致しました」


ナオジーは、すぐに部屋を出て行こうとしたのだが。


「待って!ナオジー!これを使って!」


私がバッジを差し出すと、ナオジーは、着けようとしていたアイオライトのバッジを仕舞ってくれた。


ナオジーは、私の差し出したバッジを受け取り、主に許可を請う。


「ゼルガルさま」


「いいよ」


ゼルガルの許可がもらえたので、これで雪野原ちゃんのバッジを使ってもらえる。


「ナオジー、お願いします」


「行ってまいります」


ナオジーは、雪野原バッジを着けながら、急いで部屋を出て行った。


いったいリンランは、何を聞かされていたのだろうか。

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