54.預け先
「つまり、お使いに出て遭遇した猫に、ふぎゃー!とやられないかと警戒していたら、ご婦人にぶつかって、転んで、歯が抜けて、きゃー!病院に!となられて、いや菓子屋を、と言ってみたら、案内してくれて、そこの菓子を手土産にして保護者に話をと言われてしまったので、レンギョウ商会と取引のある店で修行中なんだと言っておき、そこの店主が話を合わせておいてくれた、と?」
「お愛想かもしれませんが、また来るって言ってたので、明日からその店で本を読ませてもらいます」
「‥‥‥こいつは、ちょっと、あれなのかな?」
ゼルガルに聞かれ、ミィアンとヨツバは無念そうに頷く。
「こんにちはー、歯が抜けたので口を濯がせてくださーい、とやるのは恥ずかしいから、外にある洗い場を使わせてもらった?」
「‥‥‥そうです」
「ぶっ転んで歯が抜けたのはアクアマリンの君だ、と気付かれたくなかったから、護衛のバッジを外させた?」
「‥‥‥そうです」
「街の端まで連れ出してしまったご婦人が、きちんと帰れるのか心配だったから、護衛達にそっと見守らせた?」
「‥‥‥そうです」
ゼルガルは見たくないものを見ている顔となり、じっと私を見ている。
「取引のある店って?」
「鞄の工房です。本を沢山入れても、びくともしない鞄を作ってくれます」
見たくなさが増したらしく、ゼルガルは薄目となってしまっている。
「僕をこんなところまで引きずり出した魔女‥‥‥案内された菓子屋というのは?」
「ここで扱っていたこともある菓子を買っていましたので、もしかすると、ここにお坊ちゃんかお嬢さまが来ていたのかもしれませんね」
にこっとしておくと、ゼルガルは、すっと目を瞑り、眉間に皺を寄せていく。
「‥‥‥ナオジー」
すでに手帳を開いていたナオジーは、報告を始めた。
「ティファカさまに一度だけ、挨拶に来たお坊ちゃんがいます。が‥‥‥」
ナオジーが一旦止まると、ゼルガルは、ずーんと沈んでからゆっくりと顔を上げた。
何かに別離を告げた様子となっているゼルガルが微かに頷くと、ナオジーも微かに頷く。
「君は王女だったのか?!とやりました」
「‥‥‥よくあるやつ?」
「そうです。持参していたリボンを見せて、あの夜の忘れ物だ、と」
「‥‥‥え?‥‥‥あの歳に向かって、関係を持ったことがあるよね?とやったということ?」
「そこが‥‥‥取り押さえて連行し、取り調べてやると、あの方とお連れさまのことを隠しておきたいから、ティファカさまは認めてくれないだろう、と‥‥‥」
「ティファカと引き合わせてくれる奴を登場させないとだからな‥‥‥」
「そのような役割でしょう。一貫して、あの方、お連れさま、という呼び方をしました。あの方から、自分の暮らす邸を訪ねる日時を知らせる手紙が届くと、自分はお連れさまに連絡しておく。あの方は自分を訪ねて、自分の暮らす邸でお連れさまと一緒に過ごす。あの夜、あの方はティファカさまを連れて来たので、自分はティファカさまと一緒に過ごして、将来を誓い合った。だが、このような騒ぎになってしまっては、あの方もティファカさまも、自分の言った内容を認めてくれないだろう。あの方とお連れさまのことを隠しておきたいことなど、わかりきっているのに、ティファカさまに会えたことに舞い上がってしまった。これからも会いたいと、ティファカさまに伝えてもらいたい。と供述しました」
「でも、読書処には来ようとしない、と。どうせ、手紙は全部処分してるー、とか言ったんだろ?」
「言いました。あの方とお連れさまというのが誰なのかは、絶対言わない。きちんと責任を取りたいので、国王陛下に話をさせてもらいたい。とも言いました」
ナオジーが手帳を閉じると、ゼルガルは、またも薄目となって、私をじっと見ている。
(もうこの街には、いないのかもしれないけど‥‥‥)
にこっとしておくと、ゼルガルの鼻に皺が寄ってしまった。
「行ってきましょうか?」
「は?」
「あの方って誰よ?!探せばあの方とやらの忘れ物も残ってるんじゃないの?!全員から話を聞けるまで、この街は封鎖!です」
「あー‥‥‥まさか第一王子のことではあるまいな?と‥‥‥ナオジー、頼んだよ」
「承知致しました」
ナオジーは、すぐに部屋を出て行こうとしたのだが。
「待って!ナオジー!これを使って!」
私がバッジを差し出すと、ナオジーは、着けようとしていたアイオライトのバッジを仕舞ってくれた。
ナオジーは、私の差し出したバッジを受け取り、主に許可を請う。
「ゼルガルさま」
「いいよ」
ゼルガルの許可がもらえたので、これで雪野原ちゃんのバッジを使ってもらえる。
「ナオジー、お願いします」
「行ってまいります」
ナオジーは、雪野原バッジを着けながら、急いで部屋を出て行った。
いったいリンランは、何を聞かされていたのだろうか。




