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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
51/106

51.読書処

東部支所近くの離宮の一角を使って読書処を開店すると、この地方のお坊ちゃん方が利用してくれるようになった。


お坊ちゃん方は、まずはティファカに挨拶し、それから本を読むと帰っていく。


その程度の関わりであっても、続けていけばそれだけ伝わるものもあるのでは、と思うのだが、ティファカは、ごゆっくりと言って会話を切り上げると、奥に下がって本を読んだり、ラージウと翻訳をしたりと、お勉強ばかりの毎日だ。


対して私は、好きに本を読むだけの暢気な毎日を過ごしている。


私が読み終えた本を読書処の本棚に入れていくので、読書処にある本棚の数はまだ少ない。


「ここでお坊ちゃん方相手に、どこそこの菓子屋の菓子です、と売っていれば、お坊ちゃん方は菓子屋でも買ってくれる!」


「官舎とするための改修工事も元請けとして受注!もう、離宮はレンギョウ紹介の縄張りと言ってもいいんじゃないだろうか!」


ミィアンとヨツバの笑いも止まらないようで、何よりだ。


「本棚、色んな種類を作って、本棚の注文を受けることもできるようにしない?」


「いいわね!扉付きのものも置いて、そこにはお高いティーセットも!」


「ここを展示場としてしまう訳だな!」


「ノートや万年筆もいけそうじゃない?」


「「いける!」」


三人でじっとティファカを見ると、ティファカは半分呆れているような顔をしながらも頷いてくれた。


(いえーい!)


三人が売れ残りの菓子で乾杯している横で、ラージウは渋い顔となっている。


「‥‥‥金蔓感満載となっていいんですか?」


「ここで使わなくなったら、東部支所で使えばいいですよね?」


「そうですか‥‥‥」


この二人の微妙な距離感に、ふふっとなってしまうのは、ミィアンとヨツバもだ。


ケイオスが土地の確保から進めてきた東部支所も、もう工事が始まっているのだが。


「このままティファカが着任するの?」


「私としては、西部支所でケイオスお兄さまの補佐という形を取りたいんですが‥‥‥」


ティファカがラージウの方を見ると、ラージウは小さく首を傾げた。


まだ情報が来ていない、ということだろうか。


「第二王子が東部、第三王子が王城で、私が西部だと、こう、バランス?がいいと思いませんか?」


「ティファカとしては、王妃さまの補佐はどうなの?」


「そこは、王妃はまだまだ元気なんですし、王城にいる王子がいずれ迎える妃が、と考えています」


「将来的に、ティファカが女王、というのは?」


『無ーい!無い!』


この様子では微塵も考えていない、というところだろう。


『魔女はどこだ?!』


ばーんと入ってきたのは少年で、誰なのか予想できてしまう。


こちらへとつかつかと寄ってきた少年は、半泣き寸前となっていて、誰かを思い出す。


『おまえのせいで、僕の人生設計が!次男なんてのは、だめに決まってるんだ!だめ次男は王城でぬくぬく引っ込んでればいいんだよ!僕を国の要だそうな場所に置くということは、国を滅ぼそうとしているということだ!終わりだ!この国はもう終わり!』


終わりを迎えたそうな少年は、どさりと私の隣に腰を下ろし、ティファカが皿を渡してやると、もそもそと菓子を食べ始めた。


『美味いな‥‥‥もう一個ある?』


ティファカが首を横に振ると、少年は残念そうにフォークを口に運ぶ。


『‥‥‥ナオジー、店、聞いといて』


従者なのだろう男性が、さっと手帳を取り出すと、ミィアンが店について教えてやっている。






◇◆◇◆◇◆◇






部屋を訪ねてきたのは、よれよれしているティファカだった。


中に通すと、ティファカはクッションを抱えてベッドに倒れこむ。


『‥‥‥お兄さま達がラージウの部屋を使って、ラージウが私の部屋を使うことにした』


(そうかい、そうかい)


ティファカは久しぶりに私の部屋に泊まっていくのかもしれないが、と考えると、なんだかわくわくしてくる。


『‥‥‥私、出会いがある』


ありのままの現状報告に、ふすっとなってしまう。


『いいなって思う人いた?』


『いいな‥‥‥って‥‥‥どういうの?』


『一緒にいる時間を持ちたい、かな?』


『‥‥‥だってね?みーんな、王女が来てるってことで来て、って思うと‥‥‥とか考えてしまうんだよ‥‥‥』


『きっかけはそうだね』


『きっかけ‥‥‥』


思い悩む乙女は、クッションを抱きしめて黙り込んでしまった。


この環境は、ティファカに利をもたらさないのかもしれない。


王子が来たとあれば、これからはお嬢さま方も来るようになるだろう。


『王子さまが来たし、ティファカはケイオスさまの補佐に就いてはどう?』


『まあ、そうなんだけどね‥‥‥』


『選別した本を、西部支所近くの書庫にしてる離宮に置いてきてもらいたいんだ』


『わかった‥‥‥』


『服も道具も自由に使っていいからね』


『うん‥‥‥』


『ラージウと寝る?』


『う‥‥‥え?そういうつもりだったのかな?』


『待ってるかもしれないね』


『‥‥‥そうする』


(おお!)


ティファカは、とぼとぼと部屋を出ていった。


なんだかそわそわしてしまうのだが、お子さまはもう眠い。


灯りを消して、ベッドに横になると、何も置かれていない窓辺が目に入る。


(寂しくなるね‥‥‥)


思い出というのは、形にしない方がいいのかもしれない。

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