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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
50/106

50.ピアス

官舎に戻ると、待ち構えていたティファカに畑な敷地の木陰へと連れていかれた。


口を開いては閉じることを繰り返すティファカは、言葉にしようとしているのだが、どうにも出すことができないらしく、ついに草取りを始めてしまった。


あの後、もっと色々あったのだろうかと勘繰りたくなってしまう。


私も草取りをしていると、ティファカの深刻そうな声が聞こえてきた。


『‥‥‥何が、起きているんだと思う?』


『仲が深まった?』


『‥‥‥フユーは、どうして平気なの?』


(平気?)


『何が平気?』


『あいつ、私と仲を深めたがってる!』


なんともそのままな報告に笑ってしまう。


『びっくりした?』


『びっくり‥‥‥?びっくり‥‥‥?私‥‥‥年相応な仲の深め方ってあると思うの‥‥‥あいつは、私相応な仲の深め方ってどんなの?ってなるんだけど、できるの?』


わかりやすく混乱していて、なんだかほっこりする。


『これまで通りでいいんじゃないの?』


『これまで通り‥‥‥?で、え?それで、恋なの?』


『お子さまには、恋仲を深めていくとなると、身体接触というものが浮かんでくるんだけど、ティファカはどう?』


『どう?!まあ、そういうことになるんだろうな、とは思う‥‥‥』


『そのうち、そういうことになるんじゃないの?』


『そのうち、そういうことになる?!‥‥‥世の中の恋仲だの夫婦だのな人達って、私達そういうことしてまーす!ってことよね?』


『まあ、そういうことになるね』


『凄くない?!』


『あれこれ詮索されたくない、ってこと?』


『そこは私もするから、凄くない?!ってこと』


(面白いな)


『二面構造?』


『それ!見えてない世界があるのよ‥‥‥でね‥‥‥あっちはもう十九になるの。こんなのとする恋と、同じような歳の女性とする恋は違うでしょ?』


『そういうことをしたがられているのか、ってこと?』


『それは無いと思うんだけど‥‥‥あっちにとっては恋じゃないんじゃないか、ってこと‥‥‥』


『ラージウはお付き合いしていたことあるの?』


『‥‥‥無い、んじゃないかな?』


『それなら、ラージウも、自分にとって仲を深めるとは?なのかも?』


『‥‥‥どうすればいいの?』


『一緒にいるだけでいいんじゃない?これまで一緒に暮らしたことあったの?』


『無い‥‥‥』


『確実に仲が深まっているね』


『‥‥‥何か違う!もっと、こう‥‥‥こう‥‥‥あるのよ!』


これが、理想と現実の違いに悩む乙女というものなのだろうか。


『お付き合いするの?』


『お付き合い?!』


『ラージウはティファカと仲を深めたいって示してくれた。ティファカはラージウではない誰かと恋をしたいのなら、そこは話をしないとなんじゃない?』


『な、るほどー‥‥‥』


草取りを再開したティファカは、真剣に悩んでいるようだ。






◇◆◇◆◇◆◇






「こいつ、出席しないと言ってるんだ」


「お誕生日さまはどうしたんでしょうね?」


「どうしたんだ?」


ラージウは、つーんと明後日の方向を向いていて、ケイオスの問いかけに答えない。


「スモーキー・クォーツの君は、強みを活かすデザインが浮かばないんでしょうか?」


「おまえが作ってやったのと同じでいいだろ?」


ラージウは、つーんを続行している。


「ドレスは短いのがいい、って言えないのかもしれませんね」


「短さにもこだわりがあるんだろうな」


ラージウは、うぐぅ‥‥‥!と俄かに顔を歪めている。


「香水を忘れずに持っていけるか、心配で眠れないんじゃないですか?」


「角灯と蝋燭全種も持って行ってもいいんだぞ?」


ラージウに睨まれ、言ってみろと顔面で語りかけると、ラージウは溜め息をついて、つーんを再開した。


「ブランデーケーキの君は、おまじないが上手くいかなかったのではないかと、思い詰めているのでは?」


「そういうことか‥‥‥一緒に食べることはできたが、自分から食べてほしかったんだろうな‥‥‥」


予想が当たったらしく、ラージウは、ん?とこちらを睨む。


「木材加工の君は、やっぱり香水の方にすればよかったかな、と思い悩んでいるのかもしれません」


「楽しそうだと思ってるんだもんな‥‥‥これからは、いつも持参しているようにして、そっちのおまじないもできるといいな?」


ラージウの目の鋭さが、理解したのだと物語っている。


「きっと、香水や金平糖を使って、どこぞの女性と仲を深めてくるように言われたんだと思ったんですね‥‥‥」


「ティファカが一緒に行ってくれないなら行かない、ってことだったのか‥‥‥」


「ここだ!って短さのドレスを渡して、一緒に行ってくれって言うんでしょうね」


「そこは、強みを活かすデザインのピアスにしたらどうだ?」


ケイオスが、すっとノートと色鉛筆を前に出してやると、ラージウは、じっとそれらを見下ろし、何かを断念するかのように呟いた。


「‥‥‥同じのにする」


(そんな顔で‥‥‥)


「お誕生日さまのケーキは、ブランデーケーキに金平糖ぶすぶすがいいんですって」


「仕方ないな!俺から希望を伝えておいてやるよ」


二人で大いに笑っていると、ラージウは射殺す勢いで睨んでいたのだが。


(‥‥‥落ち込んでるの?)


選択を提示しておいて、急いでほしくないと思うのだから、お子さまというのは手に負えない。


「ケイオスさま、私、本を巻き上げてしまったのかもしれません」


「え?どういうことだ?」


「ケイオスさまが集めているとなれば、何か出さないと!と出してくれたのかもしれません」


「‥‥‥そう言われてしまうと、否定はできないがな?」


「まず私が全部読みますので、その間、読みたい本があったら読んでいって、とやるのはどうでしょうか?本を読むための場所を用意して、そこでお茶やお菓子を売りたいです」


「フユーが全部読み終えると、ほしいのがあったら持っていってよし、をやるのか?」


「そうです。そこでは栞や、持ち帰るのにも使える鞄を売りたいですね」


「まずは東部支所近くのものからだな。あそこも軍の官舎にしたい」


「では、ティファカにゴールデン・ベリルとスモーキー・クォーツのバッジをねだります」


ラージウは威嚇しているとしか思えない顔で睨んでくる。


「おまえ‥‥‥!」


「ラージウがおねだりする?」


ラージウは舌打ちして、ノートと色鉛筆を睨みはするのだが。


「じゃあ、私は真珠にするから、ティファカとラージウはローズ・クォーツでどう?」


「‥‥‥用意してやる」


(いえーい!)


これから忙しくなりそうだ。

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