5.宝石飴
「浮遊霊さん‥‥‥」
リタは私の手をふにふにと動かしてくるのだが、お子さまはもう眠い。
「僕は兄じゃないですよね?」
(兄‥‥‥?)
買い物先で店員に兄妹なのかと聞かれて肯定しておいたのだが、そのことを言っているのだろうか。
リタのおかげで、私は宮廷内の店では浮遊霊として買い物ができるようになった。
街中の店でまで浮遊霊として買い物したくないのだと、理解してもらいたいものだ。
◇◆◇◆◇◆◇
浮遊霊として宮廷の店を利用するようになり、職場に存在する店の品揃えというのはこういうものなのかと首を傾げたくなっていた。
宮廷にはおじさま方だけではなく、リタやテオのような少年もいれば、お嬢さん方だっているのだから、と思ってしまう。
もっとも、店と言っても、食堂の隅っこに設けられている、こじんまりとした売店なのだが。
(あんなに人がいるのに、勿体ない)
売っているものは、サンドイッチ、パン、以上。
食堂で食べて、もう少し何か、ということで買っていくのだろうか。
ぜひとも利用客について観察したい。
だが、私は目立つ‥‥‥。
迷子と思ってもらえるのならまだいいのだが、中には、こんなところに入り込んで!となる人もいる。
紛れるには成長を、と思いはするのだが、成長してしまっては、とも思う。
三人暮らしにも慣れ、リタの助手という仕事にも慣れた。
ルツにはかなりの距離を取られているのかと思っていたのだが、その距離は一向に変化しそうにないので、こういう距離感の人なのだろうと思っている。
「ノーラだそうよ」
館主の奥さまは悲しそうに微笑む。
母だった女性は、使う呼称を改めたそうだ。
ルツにとっても私は、愛する人の娘、という存在なのかもしれない。
「そっか」
「ずっと浮遊霊なの?」
これから先というものを考えようとすると、どうにも地面を見つめてしまう。
「んー‥‥‥特に不自由してないからね」
「不便じゃないの?」
「すっかり浮遊霊だよ」
館主の奥さまは、やれやれと肩をすくめている。
「浮遊霊さん!何ですかこれ!」
工房から出てきたリタは、手にしている小瓶をずいと差し出してきた。
「ああ、飴だね」
「飴?これがですか‥‥‥宝石みたいです」
「本当ね!いただくわ!」
すぐさま採用となったので、館主の奥さまと工房へと移動する。
製法を説明し終えると、館主の奥さまは小瓶を手にして蓋を取り、からんと飴を取り出して口に含んだ。
「美味しい‥‥‥売れるわ!」
「宝石飴でどう?」
「いいわね!」
「宮廷に出店しない?」
館主の奥さまの顔が険しくなったので、頭の中で算盤を弾いているのだろう。
「まずは宝石飴を納品しましょう!」
リタの提案に、館主の奥さまは悪い笑みで頷いた。
「宝石飴‥‥‥奥さまやお嬢さまへの、ちょっとしたお土産に‥‥‥ふふっ!」
館主の奥さまは、林檎を詰めた籠に宝石飴の小瓶も足すと、大事そうに抱えて帰っていった。
「林檎飴を作りましょう」
いつの間にかリタも林檎を収穫してきてくれたらしく、机の上の籠には林檎が詰まっている。
脚立をひょいと持ち運べる背丈が羨ましい。
日常の中で、背が低いということは不便で仕方ない。
脚立を必要としないほどまで、にょきにょき伸びたいものだが、私の知り得る親族達は皆、それほど背が高くないので望みは薄いかもしれない。
リタが林檎を一口大に切っていくので、私は飴の準備をするとしよう。
林檎を飴にくぐらせたら、あとは飴が固まるのを待つだけというお手軽さだ。
「きれいな艶めく赤ですね」
並べた林檎飴を眺めて微笑むリタは、穏やかだ。
どうもこのところ、リタはご機嫌がよろしくない。
気付くと、ぬーんとなってこちらを見ていることがよくある。
これといったやらかしはしていないと思うのだが、私の料理や洗濯や掃除について不満を順調に溜めこんでいるのかもしれない。
ルツの家に置いてもらえるのなら、置いてもらいたい。
だが、置いてもらうためにと、普段通りではなくなるつもりはない。
(やる気がな‥‥‥無いんだよな)
はっきりと指摘してくれたとして、そこを改善するために、普段通りから外れることができそうにない。
衣食住というものを与えてもらえる生活を手放したくはない。
それなのに、置いてもらおうとすることをできない。
私が私のままでは足りないのなら、それを失うことは道理だとさえ思える。
怠惰、という言葉で片付けておきたいところだが、幼さというものの生きづらさに嫌気がさしている、とも言えそうだ。
「もう固まりましたかね?」
リタは指先で触れてみた林檎飴を、ひょいと私の口に押し込んできた。
噛むとぱりぱりと飴が割れるのが楽しい。
こくりと頷いておくと、リタも一つ口に含んだ。
甘さと酸味が実に私好み。
ルツにも持って帰ろうとは思うのだが、残しておけるだろうか。




