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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
49/106

49.誕生日

(まさか、寝込むとはね)


ティファカが耳にピアスを着けるための穴を開けるのに立ち会っていたラージウは、ふらふらぱたんとソファに横になった。


そのまま夜を迎え、夕食も口にできずにいるのだから、繊細なのだと思うしかない。


『おーい、戻ったー』


『お疲れさまです』


『え?!ピアス?!』


こちらに寄ってきたケイオスは、私の耳を確認して、ラージウの寝ているソファにそろーっと腰を下ろした。


『開いてる‥‥‥』


『どうだ、ケイオス‥‥‥衝撃的だろう?』


『そうだな‥‥‥え?もしかしてティファカも?』


『あいつは、今日だ‥‥‥』


『それでおまえはそうなってるのか?』


『望んで傷つく主を前にして、俺は無力だ‥‥‥』


そんなに深刻に悩んでいたとは。


苦笑いするのも申し訳ない気分になるのは、ケイオスも同じようだ。


『おまえの実家から言伝を預かってきた』


ラージウは、がばっと起き上がると、ケイオスに場所を譲るように私の隣に座った。


(避難?)


もたらされる情報に対して身構えたのだろうラージウの苦悩が、纏っている暗雲に表れているように思える。


『‥‥‥言ってくれ』


『弟の婚約者をお披露目したいから、おまえの誕生日もやりたいそうだ』


『俺は行かない‥‥‥』


『お披露目だから、同席してほしいんだと。で、いるんだから誕生日もやらないとだろ、ってことらしい』


ラージウは舌打ちしてケイオスを睨む。


『こんな時期に婚約しやがって‥‥‥!』


『‥‥‥すまん』


遠因であるケイオスは苦笑いだ。


弟の婚約者のお披露目の席で誕生日を祝われてしまうとなると、群がってくださいと言っているようなものにも思える。


ラージウの家族としては、そういう意図もあるのだろうか。


「もしかして、そういうお話だらけですか?」


「わーっとまとまっていってるな、という感想になる。第二王子の順番待ちが発生する前に、ってことだろうな」


「ケイオスさまの順番待ちの年齢層が、ぐっと広がったのではありませんか?」


「え?」


「おまえらの破局待ちのガキが、わんさといるってことだろうが‥‥‥娘は世代がずれたが孫がいける、な爺さん共も参加してくるだろうし、第二、第三狙いだったおっさん共も、まだ希望がある、となった訳だ」


「あー‥‥‥!」


「歯抜けの銀髪老婆が、黒いピアスしてたんだぞ‥‥‥まんま魔女じゃねぇか。ババア共まで順番待ちに加えるつもりかよ?」


ラージウに笑ってもらい、こちらも笑顔となってしまう。


(八つ当たりかい?)


すっとラージウの前にノートと色鉛筆を出してやると、ラージウは、ん?と無防備だ。


「強みを活かすデザインを考えようね?」


「え‥‥‥」


状況を理解したらしいラージウは、にっこりと微笑んでいる。






◇◆◇◆◇◆◇






「‥‥‥何の、デザインだ?」


「そこも、強みを活かせるものでいこうか?何にする?」


「そうだなー‥‥‥」


ラージウの微笑みから、考えているのは逃亡方法だろうことが明らかだ。


「誕生日だからね?」


「誕生日だからな?」


「注目されるんだろうね?」


「まあ、お誕生日さまだからな?」


「婚約かー、めでたいなー、ラージウくんの方は、どうなんだ?」


親戚のおじさま口調で聞いてみると、ラージウは、ふふっと笑っている。


「‥‥‥俺の強みって、何ですかね?」


「簡単なんだろう?」


親戚のおじさまを続行すると、ラージウは、ぐっと笑いを押し込めている。


「‥‥‥まだまだ若輩者ってことなんでしょうね」


「あれかね?酒の力を借りたくなっているんじゃないか?」


「‥‥‥一切れもらってもいいですか?」


食欲が出たようなので、残してあった夕食と一緒に、ブランデーケーキを一切れのせた皿をテーブルに用意すると、ラージウは静かに食べ始めた。


しめやかと表現することもできそうな食事風景に、ふすっとなりつつ、ケイオスに紅茶を出す。


「ラージウのご家族の皆さんは、ティファカと踊ると思っているんですよね?」


「そこなんだ。そういう場合、誰か別に従者をつけてもらうんだろうか、と相談された」


ケイオスの言葉に、え?となったラージウが時を止めたので笑ってしまう。


(お、動いてー?‥‥‥食べる、と)


何か発言するのかと思ったのだが、ラージウは眉間に皺を寄せたまま、食事を続けていく。


「ケイオスさまは、ラージウに何をデザインしてもらいたいですか?」


「そうだな‥‥‥仕方ないから、俺の真似してもいいぞ?」


「ラージウは、どんな宝石でしょうね?」


「こいつはー‥‥‥スモーキー・クォーツに、ゴールデン・ベリルを一つ、だな。そうだ」


ケイオスは立ち上がると、どこかへ行ってしまい、ラージウは、鋭すぎる目でこちらを見ている。


「‥‥‥おまえは魔女だ」


「私は、人前に出る時用に、スモーキー・クォーツだけのピアスを贈ってほしいんだけど、強み、活かせてる?」


「‥‥‥あいつは、まだガキだ」


「香水を持参して楽しむのはまだ早いかもしれないけれど、もう恋を始めてもいいのでは?」


「恋?!」


「簡単だろうか?」


ラージウは、ぎりぎりと鋭さを増していく。


「従者についてケイオスさまに相談、というのは、ラージウのご家族から王さまに、お誕生日さまはティファカと踊りますんで、と言っていいものか、となっているんじゃないの?」


またも時を止めてくれると、見ている方は面白い。


「王さまとしては、こういう機会を待っていたのかもしれないね。スモーキー・クォーツの君」


ラージウは、歯を食いしばることまでしてくれる。


(楽しいな!)


「ほら、酒の力を借りて、デザインしようじゃないか」


ラージウが拳を握りしめたそうにしていると、ケイオスが戻ってきた。


「耳のところにちょっとつけてやったら、腰でも抱いてってな!おまえもどうだ?」


ケイオスに差し出された香水を見下ろすラージウの目の冷たさは、見ているこちらを笑わせてくれる。


『私からはこれ!一緒に食べることができると、仲が深まるのよ?』


ティファカが金平糖の小瓶を差し出すと、ラージウは受け取り、じっと見ていたのだが。


ラージウはティファカの手を捕まえておいて、そこにからからと金平糖を出していく。


『‥‥‥食えよ』


ティファカは、手に出されたものが何なのかわからないような顔をして凝視している。


私達がそろそろと移動しようとも、ティファカの目は手の平に向けられたまま動かない。


(でも気になるんだよね)


部屋を出ても、こそこそ二人を見ていると、ラージウはブランデーケーキを少しちぎってティファカの手の平に置き、そこにティファカの手の平にあった金平糖をぶすぶすと押し込んでいるようだ。


(お、自分でも食べたね)


ラージウが、金平糖入りとなったブランデーケーキをティファカの口に押し込むと、ティファカは凝視していた時の顔のままでもぐもぐしている。


(いいものを見た)


無事に見届けたので、きちんと退散するとしよう。

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