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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
48/106

48.アローラハウス

すっかり木材加工にはまったラージウは、今日も魔女さまの家を拡張していく。


器用に家具も作っていくので、ティファカは、あれもこれもとノートに書いては、ラージウの作品を監修するようになった。


(もう作品なんだよな)


『どこかに展示したいくらいだね』


ティファカはラージウと顔を見合わせ、少し躊躇ってから聞いてきた。


『絵のこと‥‥‥知ってる?』


『どんな絵?』


『お兄さまが押さえてるハンカチに、フユーが砂をのせていくところ。お母さまが描いたそれを、ばーんと‥‥‥』


ふふっと笑ってしまう。


『おまえの通称は、アクアマリンの君とか、砂浜の君とか、銀雪の君だ‥‥‥』


へー、と頷くことしかできない。


『お兄さまがアクアマリンの一つ入ってるブローチを着けて夜会に出たことを書いた、お母さまの手紙の厚みが‥‥‥!』


『そんなブローチ着けてれば、一目で、あ!となるもんな』


『お母さまは、フユーのこと雪野原ちゃんって呼んでる』


『ここの支所は銀木犀で、東部に置く支所は金木犀をシンボルとするんだと』


『王城には薄黄木犀を植えたんだって』


『おまえが来て、あいつの王子さま業が変わったと評判だ』


『王子を惑わす魔女は、国境を移そうとしている、なんて言われてるわね』


押し寄せる情報に、ふふっと顔のまま固まりそうだったのだが。


『そうなると、カイドウ領に出る場所へ?』


『そうね。ここの支所の正門前を通る道路を引いてしまうんですって。今使ってるのはもう開かない予定』


『今使ってる道より距離としては伸びることになるが、傾斜は緩やかになるし、道幅もしっかり確保できる。それで、おまえの里帰りを容易にするためだ、魔女が王子を、となった』


『カイドウ家のお嬢さまを迎えに行くんだ、とはならないの?』


『‥‥‥まあ、そういうのは、カイドウ家に限ってないな。おまえの年齢だけ聞くと、魔女は王子を姫のところへ、なんて話にもなるだろ?』


『こっちに嫁がせたい姫ね‥‥‥』


王子がそのような動きをしているのでは、あちらではお嬢さま方を王都へという動きが強まっていそうだ。


国境の移設はレンギョウ商会としては大歓迎なのだろうが、ギドロイの腰が重くなっていそうで、皆の苦労も予想できる。


(それも込みでの計画なのかも‥‥‥?)


『おい‥‥‥おまえって何者なんだ?』


『え?ああ、そういう目的でこっちに送り込まれたんじゃないよ』


『マツリカ家ってどういう家だ?』


『どういう‥‥‥?』


『その歳で下っ端官吏として留学、それはおまえ個人の力なのか?』


『ちょうどよかったんだね』


ラージウが苛っとしていることが明らかで、ティファカは、はらはらしながら話していく。


『こちらには情報が無いの。家柄だとか家格というところが、どうしても気になってるのよ。お兄さまの女性問題を早急にどうにかしたかったところに雪野原ちゃんが来てくれたから、こちらとしても、ちょうどよかったー!で、この状況なの』


『あちらに問い合わせたりしてないの?』


ティファカはラージウと顔を見合わせ、譲り合っていたようなのだが、ラージウが発言するようだ。


『あいつが押し切ったんだ。国として寄越してるんだから、身元が確かなのは間違いない。下手に情報を得ようとして‥‥‥まあ、交渉材料とされたくない、ってことだ』


(交渉材料‥‥‥)


国境が開かないのだから、まだごたごたしているのだろうが。


『お兄さまは、国境の移設も、あっちが開けてくれないならフユーがずっといてくれるから、それでいい、って』


『‥‥‥あっちと交渉してないの?』


『さすがに、開けてくれなかったら港湾整備を進めよう、とは考えてるみたい』


『‥‥‥道路や新しい門は?』


『そこは資材の確保ってことで、道路や門の整備まで一気にはやらないのよ』


『あいつとしては、おまえときちんとしてしまってから開けたいところだが、おまえはまだそんなで、おまえの戸籍はあっちにある。あっちにも聞こえてしまうだろうが、穏便におまえをこちらへといきたいので、個人的な付き合いを、とこちらからあちらに言いたくない、ということだ』


『でも、フユーの立場によっては、こちらはフユーを人質として交渉しているようなもの、となってしまうでしょ?』


(あえて通称を、ということか)


場合によっては、別の誰かを雪野原ちゃんとすることも可能、とあれば、確かにちょうどいい存在なのだろう。


あちらに問い合わせていないとなると、どこまで話していいのかの判断がつかないのだが。


『ティファカは、留学希望の姫としてここに?』


『え‥‥‥?あ!私、王女だった!え?そういうつもりで、ここにいさせてくれてるの?』


『私は主についてきただけですが?』


(むっとするんだね)


ラージウに従者となられ、ティファカは不満そうだ。


『‥‥‥それって、お兄さまは私に会いにここに来ている、としているのかってこと?』


『そうだね』


ティファカが探るような目を向けると、ラージウは小さく溜め息をつく。


『‥‥‥ゆっくりいきたいところではあるんだろうが、そうできるようにするために、どうするのが最善なのかとなると、わからん、というところなんじゃないか?』


『雪野原ちゃんは、フユーじゃない誰かだってことにしておく、なんてことになったら‥‥‥そんなの‥‥‥』


『そっちが正妻として表に、なんてことになるかもしれませんね』


ラージウを睨むティファカは、次第に俯き、悲しそうに目を伏せた。


(どうするの?)


私の無言の問いかけに、ラージウは、え?と微かに戸惑う。


(どうするの?)


笑いが滲んでしまうのをどうにもできないのだが、無言で再度問いかけると、ラージウは舌打ちでもしたそうにしつつ、棚から小さな宝石箱を二つ手に取った。


『これ‥‥‥』


『え?何これ!可愛い!』


ラージウから受け取ったティファカは、二つを見比べ、一つは膝に置いておき、もう一つの蓋を開いた。


中には、ラージウが木材で作った小さく軽いピアスが、色違いでずらりと並んでいる。


『‥‥‥石がついてるのは、普段使いに向かないのでは?』


『普段はこっちをつけるね!』


(非の打ち所がない可愛さだ!)


こういう二人を絵にして残しておけたなら、とご婦人への届かぬ願いを抱いてしまうのは、ラージウがどこか満足そうで、なんだか切なくなってしまうからだろうか。

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