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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
46/106

46.仕事

『はい、そこ違いまーす』


『さっきはこう言ったじゃない!』


ティファカはラージウと一緒に、狼さまの絵本を翻訳しようと奮闘している。


魔女さまとは別のシリーズである狼さまのシリーズのお話は、魔女さまの熊のぬいぐるみの登場に関わってくるものだ。


あれこれ買ってくれたラージウに、おまけとして渡してみると、ラージウはすぐにティファカに渡してやったのだが。


狼さまの絵本はこちらには来ていなかったようで、ラージウから受け取ると、ティファカはすぐに辞書を引くことを始めた。


ティファカは誰かに読んでもらおうとせずに、自力で少しずつ読み進めていくので、勉強を始める機会を探していたのかもしれない。


二人が翻訳を進めていくのを見ていて、気になったので聞いてみよう。


「ラージウは、いつも丁寧な話し方をしてきたの?」


「あー、気になるんですか?」


ラージウに聞かれ、ティファカは、ん?となりつつ、聞かれたことをそのままノートに書いてみている。


ラージウが頷いたということは、正しく書けたようだ。


ティファカは、まずはノートに言いたいことを書いてみて、ラージウを頷かせることができれば、自分で声に出して読む、ということをするようになった。


(勉強熱心)


ティファカが採用した、丁寧な話し方で覚えてしまえば切り替えが不必要、という考え方を、そういった話し方が必要となる場面で使っていくつもりなのだという、仕事への意欲だと受け取っているのは、皆もなのではないだろうか。


「今は、仕事中なんですか?」


「従者とは、主と一緒にいれば、仕事をするものなのではないでしょうか?」


ティファカは、辞書を引きつつノートに書き、ラージウが頷けば声に出して読み上げる。


手間をかけ、ラージウを知ろうとするその姿勢は、もう立派に主だと思える。


(あ、ティファカも頷くだけなんだ)


ノートに視線を落とすティファカは、変わっていくことを寂しいと感じているように見えてくる。






◇◆◇◆◇◆◇






ケイオスは、お隣さんの自宅だった敷地の側に、畑だった敷地を少しだけ囲んで残してくれた。


お隣さんの所有していた土地全体から見れば少しなのだが、製作所と変わらないほどの広さがあり、私の食べ放題のための土地としての広さは十分にある。


(今年の夏は食べ放題!)


ティファカも私と同じ影の中に入って、草取りを手伝ってくれている。


『そんなに喋らなかったのに‥‥‥』


(ん?)


自分の中の老婆ではなく、おばちゃんがうずいてしまう。


『ティファカと一緒にいると喋らなかったのかも、ってこと?』


『仕事だと、言いたいこといっぱいあるみたい‥‥‥』


『私も、喋らないよね?』


『あー‥‥‥そういう人ってことなのかも?』


『仕事中という一面が見えてきたんだね』


『もうずっと、いっぱい喋るんだろうね‥‥‥』


自嘲気味に笑うティファカには、息抜きが必要なのかもしれない。


『ラージウのブローチ、取っちゃえば?』


『あー!私が着けさせたい時だけにするのね?』


『そうだね』


『でも‥‥‥従者でいたいのかも‥‥‥』


こういうところが、ケイオスとよく似ている。


『それなら、ティファカはブローチ着けてないでしょ、というのは?』


『‥‥‥話しかけるな、ってこと?』


(そうなる?)


ティファカはお古の服に穴を開けたくないと言って、幅の広いリボンを腰に巻き、そこにブローチを着けている。


容易に実行できる方法だと思いついたのだが、主心というものは私には難しい。


『人前に出ない時のブローチって無いの?』


『人前に出ない時のブローチ‥‥‥?』


『ラージウの仕事ぶりについて、一緒に翻訳している時と、一緒に人前に出てる時で、ちょっと違ってもいいな、って思わない?』


『あー‥‥‥私が、人前に出ない時のブローチと使い分けることで、あっちにもってできそうかも。ブローチ‥‥‥ピアスがいいな!』


『いいね!』


『一緒に開けない?』


『それなら、私は、ちまっとしたのを作ろうかな』


『私はどんなのにしようかなー!』


元気が出たようで何よりだ。

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