40.古本集め
ケイオスはここの領主とよいお付き合いをしているらしく、頼んでみるとすぐに広場を貸してもらえることになった。
事前に告知しておいて、いらない本を譲ってくださいとやってみると、皆さんそろそろと持ってきては、こんなのでもいいのか、と見せてくれたので、本に飢えていた私としては、笑いが止まらない量の本が集まったのだが、こんなに集めてしまってどうしようか、となっている。
ずけずけと厚かましい質問をしてみよう。
「処分したい離宮扱い物件はありませんか?」
「‥‥‥そういうの、あっちにもなのか?」
「商人とはそういうものです」
「そういうルートか‥‥‥だが、おまえが俺の愛人みたいだろ?」
そんなことは誰も思いつかないと思うのだが、本人が気にしているのでは、気にしておくべきだろう。
「しかし、離宮扱いとなるような物件を、ばーんと買ってくれる相手は見つかりそうですか?」
「‥‥‥そうなんだよ」
「国中のそのような物件を書庫としてしまえばいいのです!そうすれば国中のいらない本が読み放題!」
「他所にあるのを使って、本を集めるのはいいだろう。だが、ここのは軍の官舎として使っている」
「あ、ちょうどいいですね」
「そうだろ?ということで、物件は探さずに、他所にあるのに運んでおくのでいいか?」
「お願いします」
「こう、きちんとしてる本が集まったのは、おまえが集めているからだと思わないか?」
(きちんと?)
ケイオスは、お子さまが読むのに適さないものが集まらなかったことを言いたいのかもしれないが、それは、王子であるケイオスがいるからではないだろうか、とも思う。
しかし、私というお子さまがいることで、低年齢向けなものも集まったのだろうと考えると、そこには私がいる利があるように思える。
「そういう面もあるように思いますね」
「一緒に集めて回らないか?旅費はこちらで持つ」
「行きましょう!」
まさかの提案に飛び上がりたいほどだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「本っ当にちょろいわね!この子は!」
(え?)
「だが、処分したがってる離宮を商館や高級宿にしてしまおうというのは、いい案だ。職人希望者を育てる工房として使うのもいい」
(でしょ?)
「行儀見習いに来るようなお嬢さまを集めて、寄宿舎学校!この案は絶対あっちに持ち帰るわ!‥‥‥わかるわよね?これは会長の判断を仰ぐような案件なの!私達はフユーのおかげでこっちに潜り込めただけなの!会長がこっちに来られるようになるまで、何としても!離宮を書庫にしておいてもらうのよ?」
「お子さまを全力で使っていけ!」
古本集めの旅行について話してから馬車に乗り込むまで、ミィアンとヨツバは何かを我慢しているな、とは思っていたのだが。
ずけずけお子さまの活躍により、離宮を買い取る道が見えてきたので、商売人としてうずいているということだろう。
曖昧に頷いておくと、二人は、ふうと息をついて落ち着いた。
「‥‥‥フユー、この国の王族の皆さまは、お一人お一人が特定の宝石を御印としているの。ケイオスさまの御印は、アイオライト。フユーがもらったバレッタにもついてるわよね?」
「‥‥‥お子さまには、どれが何だかわからない」
ミィアンは、くっと何かを抑え込んで続ける。
「‥‥‥そういう気遣いだと思うのよ。特定の宝石だけで構成すると意味を持ってしまうから、複数の宝石で構成しているんじゃないかしら?」
「一緒にいて、アイオライトばっかりな何かを身に着けていると、ケイオスさまの側近だと思われるってことだよね?」
「モーリスはそうね。雪だるま祭りの時の王城から来た料理人の皆さんは、小さなバッジを着けていたわね。そして、今、私達も着けてるわよね?」
ケイオスは私達三人に、身分証明として着けてくれと言って、石で輪となっているブローチを渡してくれた。
「これがアイオライトで、これは真珠だよね?」
「そうね。私とヨツバのは、アイオライトと真珠の円環。でも、フユーのは?」
「これは‥‥‥アクアマリンかな?」
「そうだ!」
正解できた私にヨツバは笑顔なのだが、ミィアンはやはり何かを抑え込もうとしている。
「‥‥‥フユーのは、真珠が一つアクアマリンになってるわ。どういう意味を持つのかしら?」
「二人は派遣先がケイオスさまで、私は留学生」
「‥‥‥そうなのよね」
ミィアンは難しい顔で窓の外を眺める。
私達の住んでいる街は、山の中腹辺りに位置しているので、山を下っていくことになる。
戻ってくる頃には、街から雪が無くなっているのだろうか。




