4.助手
「家事は分担すればいいんですよ」
リタは楽しそうに私も連れ出し、そのまま宮廷へと向かっているようだが。
何が起きているのかとルツを見ても、ルツは何やら悩んでいるらしく、すーっと目を逸らした。
「この子は僕の浮遊霊です」
リタに浮遊霊を紹介された門番は、どう反応したものかと戸惑っている。
(無反応でいいよ?)
にこっとして念を送っておくと、門番はリタとルツを気にしながらも、にこっとしてくれた。
宮廷というのは息が詰まる場所だと思うのだが、リタは足取り軽く進んでいく。
対してルツは、一歩進むごとに暗さを増していくような気がするのだが、どうしたことか。
宮廷で幼子を抱えて歩いていることで集める視線が、ルツをこうさせているのだろうか。
宮廷は広く、王族のいる城となると遥か彼方に位置しているように思えていたのだが、リタに抱えられ、リタの歩幅で進んでいくと、遥か彼方は言い過ぎだったな、と感じることができる。
(どこまで行くんだ?)
城に近い配置にある建物ほど、お偉いおじさまが使用している建物となっていくのだが。
真っ直ぐ城へと向かっているようにも思えていたリタは、かくんと角を曲がると今度は城から遠ざかっていく。
宮廷を囲む外壁近くに位置する建物に入ったということは、やはり下っ端なのだろうか。
「ここがルツさまの執務室です」
ルツの執務室だそうな部屋に入ると、ルツは既に満身創痍なのかという勢いで長椅子に倒れ込み、舞い上がる埃に顔をしかめてしまう。
「ルツさまはぽんこつなので、生きてる人間が苦手なんです。浮遊霊さんが浮遊霊でよかったー!」
きりっと微笑まれても、こちらは首を傾げたくなっている。
室内には、乱雑に積まれている書類や本があちこちで山となっているのだが、その中で整然としている執務机はリタの席ということだろうか。
「ということで、まずは掃除をお願いします。この建物全域」
それは、この建物を出るな、ということだろうか。
とりあえず一階をぐるっと見て回ってみると、どうやら、一階を使用しているのはルツとリタだけのようだ。
(持て余されてるから‥‥‥?)
掃除用具を見つけ、ルツの執務室に戻ると、ルツは長椅子にだれんとなったまま書類を見ている。
もう仕事を始めているのだろうか。
「窓を開けますね?」
「ああ‥‥‥」
窓を開けると、外気が入り心地良い。
さて、どこから手を付けたものか。
◇◆◇◆◇◆◇
「おー!空気が違う!」
書類の山を抱えて戻ってきたリタは執務机に山を下ろし、続いて入ってきた少年も執務机に山を下ろした。
「今日から僕の助手の浮遊霊さんです!」
リタに、ばばーんと手で示され、ふすっと笑ってしまうのだから、浮遊霊生活が板についてきたな、と思っておかないこともない。
少年は薄っすらと呆れ笑いを浮かべてリタを眺めていたのだが、こちらを見下ろすと、同情しているかのような笑みとなっていた。
「俺はテオドール。テオでいい。リタの‥‥‥幼馴染だな」
その間は何なのか、と思っていると、リタが説明してくれた。
「僕の父はテオの父とは、元気かー?げっしー、最近どうなんだー?げっしー、な間柄なんです。僕が宮廷勤めとなるということで、テオも送り込まれたんですよ」
「俺も所属としてはルツさまの副官だ。リタが首席で、俺が第二席」
テオはルツが床に積んでいた書類を集めると、ルツがだれんとなっている長椅子の向かいに置かれている椅子に腰かけた。
「この部屋で俺の座る場所がようやくできた。ありがとな」
テオは書類に視線を落とし、リタも執務机で仕事を始めるようだ。
執務室の掃除は切り上げて、他の個所に取り掛かろう。
そっと執務室を出て、三階まで上がると、廊下の窓を開けていった。
三階にも部屋があるのだが、扉には施錠されているので、掃除をするのは廊下や階段だけでいいのだろう。
働く場があるということは有り難く、こんなに埃が積もっているのでは、働いた成果というものが目に見える。
◇◆◇◆◇◆◇
(お、開く)
どうやら二階は休憩に使う場のようだ。
四人掛けのテーブルが三つもある、食堂として使えそうなキッチンや、ゆったりとした長椅子でテーブルを囲んでいる広い居間がある。
だが、鍵がかかっている扉もあり、二階を使う予定なのは昼休みだけということだろう。
リタは助手と言っていたが、これからはここで掃除や昼食作りをするように、ということだろうか。
これでこの建物をぐるっと見て回ったことになるのだが、どうやらこの建物に執務室を置いているのはルツだけのようだ。
以前は使っていなかった建物なのだろうが、建物を一棟ぽんと使用しているということは、どういうことなのか。
(森の中に、ぽつーん‥‥‥)
窓から見えるのは木ばかりで、近隣の建物というのは存在しない。
木を見ていると、製作所に行きたくなってしまう。
一人で置いておくと、一人で出かけてしまうので、こうして仕事を与えてもらえたのだろうか。




