39.物件探し
確実に春に近付いていっているらしく、少しずつ少しずつ雪が街から減っていく。
「で、冬になったらずっと休業するのか?」
寒い季節は極力布団の中で過ごしたい私が何を言っても、と思える質問に黙るしかない。
「こっちにいる間は、給料なんて受け取れないんだから、そんなブローチ外しておけばいいのよ」
空虚な正規雇用の実態を言葉にされては、やはり黙るしかない。
(肩身が狭い‥‥‥)
留学希望のはずの姫二人が来てくれない上に、オリーブ長官に送る本が用意できないのでは、私は単なる穀潰しだ。
私が歩いていける場所にある本屋は、商売気があまり無いらしく、いつ行っても新しい商品が増えることが無かった。
雪が無くなれば、他所の街から仕入れるのかもしれないが、店に出ているのはお年を召した男性となれば、あまり期待できないように思える。
私が他所の街に出かけていくにも金がかかるので、古本屋を開業したいと考えたのだが、ヨツバとミィアンには却下されてしまった。
留学できるほどに姫に言葉を習得されてしまっては困るのだし、オリーブ長官へ本を送るのは、まあこれも仕事ってことにしておくね、な仕事なので、これでいいような気もするのだが。
(はい、煙突ー)
私は今日もせっせと魔女さまの家を作って遊んでいる。
手の平サイズな魔女さまの熊のぬいぐるみの大きさに合わせた家で、なるべく絵本に出てきたそのままを再現したいのだが、商品化となるとそれは難しい。
(家‥‥‥部屋?)
家を、すぱん、すぱんとざく切りにした一部、と呼べばいいのだろうか。
キッチンな一角であるざく切りを前にして、中庭部分でも作ろうかと考えていると、ケイオスが私を探している声が聞こえてきた。
立ち上がり、前掛けを軽くはたいて木屑を掃い、部屋を出ると居間に向かおうとしたのだが。
『よし行こう!』
(え?)
玄関で私の外套を持って待っていたケイオスは、私に外套を着せると、そのまま外へと連れ出した。
◇◆◇◆◇◆◇
(お金‥‥‥持ってるんだな)
妬ましい気持ちでケイオスを眺めていると、ケイオスは手にしていたドーナツの穴部分を私の方に差し出す。
『味は同じだ』
(知ってる)
小馬鹿にされ、心の中でぶつくさ言いながら籠の中から見つけたドーナツの穴部分をかじる。
『お!生えたのか!』
(まあね)
上の前歯が四本抜けてやっと、中央に位置することになる二本が生えてきてくれた。
『あれ?今日はバームクーヘンつけてないのか?解雇されたか?』
(解雇‥‥‥)
一度も給料を手にすることなく解雇されてしまったのだろうか。
もしかすると、現物支給ということで、山のようにお古をもらえたのかもしれないと思えてくる。
少なくともあと五年くらいは衣服に困らなさそうだということは、五年分の給料ということなのだろうか。
「ちょっと!フユーをいじめて遊ばないでください!」
ミィアンにドーナツの穴部分を手に置かれたので、それをかじる。
もうかじることが出来るのだという現実も、噛みしめておかなければ。
「いえ、真面目な話です!こちらとしても、その辺りをきちんとしたいんです。フユーのおかげで土地を確保できましたので、ここに支所を構えて、軍の支部も置くことになります。これからさらに土地を確保していって、官舎も建てますので、フユーにはそこを使ってもらいたいんです」
「国として受け入れてますよ、としてくれるということかしら?」
「そういうことです。ふらっといなくなるなよ?」
「わかりました」
ケイオスは、よし!と頷き、ミィアンの方へと向き直る。
「お二人は、あちらの国に雇われている訳ではないんですよね?」
「そうね。レンギョウ商会として、商売をしに来てるわ」
「ここを買い取って官舎として、レンギョウ商会からお二人を派遣してもらっている、という形にすることも考えているんですが、どうでしょうか?」
「あら!いいわね!そっちでお願いしたいわ」
「では、その方向で進めます」
ケイオスは今度はこちらへと向き直った。
「官舎の一室を使って、古本屋として買い取るとなると難しいんだが、いらない本を譲ってください、というのならどうだ?もし、フユーにとってもいらない本だったとしても、燃料にすればいいし、ほしいのがあったら持って行ってよし、としてもいいよな?」
「おー!いいんですか?」
「いいぞ!」
「ありがとうございます!」
「ではこれをやろう」
ケイオスが差し出した手には、きれいな石の散りばめられた細いバレッタがある。
「誕生日なんだろ?」
「え?‥‥‥あ、そうです。ありがとうございます」
バレッタを手に取って、すいと左耳の上の辺りに寄せておいた。
(どう?)
ミィアンが小さく頷いてくれたので、ミィアンに渡しておく。
(誕生日‥‥‥)
「よし!では、試しに集めてみよう!」
(え?)
ケイオスは立ち上がり、さっと外套を着ると、私の外套を構えた。
この腰の軽さは、誰かに見習ってもらいたいほどだ。




