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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
38/106

38.呼び出し

(おー!豪華ー!)


ケイオスの滞在先は、立派なお邸かと思いきや、温泉宿の一室だった。


『おいー‥‥‥こっちに座れ』


ベッドに横たわるケイオスに呼ばれたので、露天風呂への扉を閉めて、ベッドの近くにある椅子に座ると、ケイオスは溜め息ながらに愚痴り始めた。


『俺にはわかってた‥‥‥絶対筋肉痛になるって‥‥‥目が覚めたらもう痛かった‥‥‥それでも雪だるまの審査をして、表彰して、戻ってきて、やっと横になって、だ‥‥‥』


『お疲れさまでした』


『おう‥‥‥俺はあんなに‥‥‥あんなに滑りまくって‥‥‥』


『数多の女性のベッドを、ああやってぐーるぐーる周回してるんですか?』


『うっわ!‥‥‥何このお子さま‥‥‥きっつ‥‥‥!きっつい‥‥‥!』


「否定しないね」


「そういうことみたいだな」


ヨツバと頷き合っていると、モーリスは、くっ‥‥‥!と眉間を指で押さえている。


『待ってくれ‥‥‥?え?こいついくつ?俺は、こいつにベッドなんて話をしていいのか?』


「はぐらかそうとしてるよ?」


「お子さまを便利に使われているな」


「ヨツバさん?俺はこのような状態なんですし、信用してもらって二人にしてもらいたいんですが?」


「数多の幼女のベッドもぐるぐるしているのでは?」


ケイオスは笑ってしまっているのだが、モーリスの目は真剣だ。


「殿下‥‥‥?」


「いや、だからな‥‥‥?まずは二人で話をさせてくれよ‥‥‥モーリスはヨツバさんと、そこの露天で足湯でもしててくれ」


「足だけですか?」


「‥‥‥大浴場行ってこいよ」


「温泉だけですか?」


ヨツバが要求したいのは、王城料理人の料理だろうか。


「え、まあ、お好きに寛いで待っててください。モーリス、部屋用意できるか?」


「何をするつもりなんですか?!」


「話だ!足湯してろ!」


モーリスとヨツバは、不満そうにしながらも部屋を出て行った。


ケイオスはがくがくした動きで起き上がると、時間をかけて隣の椅子に腰を下ろしたので面白い。


(筋肉痛は全身か)


『‥‥‥俺って、ぐるぐるしてそうなのか?』


『してましたよね?』


『スケートでなー?‥‥‥って思ってたんだが、日頃の行いってことだよな?』


『いつも楽しく、ぐるぐるしてるんですね』


ケイオスは、くっと顎に皺を寄せて何やら考え込んでいる。


『‥‥‥俺に恋愛経験なんてものがあると思えるか?』


『性欲というのは感情に起因するものなんですか?』


ケイオスは、ぐっと眉間にも皺を刻んで考え込んでいる。


『‥‥‥こういう話するの嫌だな、と思ったら止めてくれ』


『わかりました』


『‥‥‥俺は、感情に起因する性欲で、そういうことになりたいな、と思う。から、そういうことになったことが無い‥‥‥』


『手だの腰だの触ってでへでへしてるのには、性欲は影響していないんですか?』


ケイオスは困り笑いをしていたのだが、ゆっくりと真面目な顔つきとなっていく。


『気分はいい‥‥‥が、そのままベッドへとは思わないし‥‥‥今のところ、俺の性欲って、そういうことになりたいっていうのじゃなくて、出してすっきりしたい、ってのなんだ』


『知れば、ベッドをぐるぐるになるのかもしれませんね』


『って思えるのが、今の俺ってことだよな‥‥‥触れられたくないと思うのか?』


ケイオスがこちらに手を差し出してきたので、じっと見てみる。


(え?こんなでかい?)


思わず自分の手と見比べてしまうと、ケイオスはまたも困り笑いだ。






◇◆◇◆◇◆◇






『俺は、気分がよくなりたくて、スケートあんなに滑ってたんじゃなくて、あれも仕事のようなものだと思ってたんだが、そう言うと、寄ってきてもらえるとそういうことになりそうだと思えるか?』


『それはそれは快く受け入れそうですね』


『って思われたくないんだが‥‥‥』


『お酒を断ることはできるんですか?』


『俺、飲めないってことにしてる‥‥‥のは‥‥‥そうか‥‥‥王妃は、俺のこういうのを‥‥‥』


ケイオスは、複雑そうに小さく息をつく。


『お金もお酒もきちんとしてるとなると、あとは女性、ということかもしれませんね』


『‥‥‥感情だけでは成り立たないよな?』


『どこに重きを置いて選びましょうね?』


ケイオスを疲れた顔で俯かせ、なんだかこちらも気分が落ち込む。


(お相手選び、ね‥‥‥)


選び放題な環境に身を置き、国を背負うような仕事を任せることのできる人材で、さらに夫婦としての相性も、と探していくことなど、想像しただけでも立ち尽くしてしまう。


『ケイオスさまは、ケイオスさまを知って選んでもらいたいと思ってるのに、ベッドに連れ込んでないんですね』


『そう言われるとそうだが‥‥‥え?俺って男として死んでるのか?』


『出してすっきりなんですよね?』


『そこはそうなんだがな‥‥‥?俺は、妃は奥さんなんだってことが抜け落ちてるのかもな、と思えてきた‥‥‥』


『ケイオスさまの奥さまにお妃さま業はやらせない、とはできないんですか?偉い方なんて、いーっぱいいますよね?』


ケイオスは、小さく口を開けてぽかんとしていたのだが。


『‥‥‥俺って王子なんだ!』


(そうだね)


ケイオスは、ぎぎぎっと立ち上がると、よたよたと歩いていく。


『モーリス!料理人達はもう戻れるのか?』


露天の方から、モーリスの声が返ってきた。


『すぐに確認します!』


どうやらケイオス達は、このまま王城へと向かうようだ。


いつものように、政治の外側から言いたい放題言ったのだが、こちらの国でも私は、王子を唆す悪い友人のような立ち位置となりつつあるのかもしれない。

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