34.心当たり
「ケイオスさまのお母さまは、お妃さま業に向いてる方を選んだんでしょうか?」
「そこは‥‥‥俺と合いそうだってこと、なんじゃないかと思う。どっちも、幼馴染ではあるんだ。王妃が選んだ方は、吹雪の中で一緒になって雪遊びして、一緒になって熱出すようなので‥‥‥もう一方は、寒い時はずっと暖炉の前で編み物してるようなの‥‥‥」
そう聞くと、息子のことを思っての選択なのかとも思えてくるのだが。
「私には、王妃さまの対応は、編み物さんがお妃さまでは困るのではないか、と思えるものです」
「おまえって‥‥‥」
(この目‥‥‥見覚えがある‥‥‥)
「‥‥‥老婆ですか?」
黙って何度も頷いているケイオスは、何かを理解したらしいのだが、何かを除けておこうとしているようにも見える。
「王妃は、そういう人なんだ‥‥‥」
「今でも、雪遊びさんを選ばせようとしているんですか?」
「そこは‥‥‥」
首を傾げるケイオスを見ていると、聞きたいことを見つけてしまう。
「‥‥‥ケイオスさまが婿に行けそうな家格のお嬢さまの中で、毎日王妃さまにいびられそうなのとなると、それは雪遊びさんだったりします?」
「え‥‥‥それって‥‥‥結婚を急かされた俺は、手近なのを出してきた、と思われたのかもしれない、のか?」
「見合いへと追い込んでみると、見合いを潰すために出してきた編み物さんも幼馴染‥‥‥」
「え、でも、俺は選んで‥‥‥」
「後宮に入れると言われるとケイオスさまは引っ込み、留学の話が出ても引っ込んだままで、ついには私とお付き合いをと言い出した‥‥‥」
「えー?!そこで、いや、俺が、って‥‥‥?」
ケイオスはもう、狼狽、と言えそうな状態だ。
「‥‥‥そのような家格のお嬢さまなら、どちらの方も順番待ち状態なのでは?」
「さっさと退けってことか?!」
「王妃さまは、そのお嬢さま方の幸せというものも、考えているのかもしれません」
「あー‥‥‥そんな相手に娶られたくない、って‥‥‥思うよな‥‥‥」
(そしてこの顔も、見たことがある)
ケイオスは、お相手にとっての、自分以外の候補者というものが視野に入ってきたのだろう。
「散歩に誘ってはどうです?」
「‥‥‥散歩?」
「寒いのに一緒に出掛けてくれたなら、そのまま王妃さまのところに連れていって宣言です」
「えー‥‥‥?それだけでか?」
ケイオスの表情は、背中を押してほしそうにも見える。
「俺はこの子と文通したいんだ!」
「それをか‥‥‥」
ケイオスは苦笑いしながら立ち上がり、ぐーっと伸びをした。
「後宮へやることなどさせない、とはっきりさせてやらないとな」
ミィアンが外套をさっと構えると、ケイオスは外套を着て深呼吸した。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
季節はすっかり冬だ。
寒い中出かけていこうとするのだから、そこには熱意のようなものを感じ取るのだが、それは私が怠惰すぎるからだろうか。
◇◆◇◆◇◆◇
雪が降ってくる。
深い深い濃紺の夜空から、満天の綿雪が降ってくる。
(きれい‥‥‥)
だが、寒い。
でも、きれい。
地面に寝転ぶ私をガラスで覆ったとしても、雪はガラスに降り積もってしまうので、降ってくる雪は見えなくなってしまうだろう。
(起きて、雪を退かすのは面倒だな‥‥‥)
ずっと降ってくる雪を見ていられたなら、その願いは自殺願望というものなのだろうか。
(人生に付き合わせている‥‥‥)
これからもずっと生きていく気があるのだろう、と読み取れる言葉だ。
腹が空けば、何かしら食べて腹を満たし、眠くなれば、布団に入って眠ることのできる毎日は、確かに私の体に変化をもたらす。
私はこれからも生きていくのだろうが、私は生きていく気があるのだろうか。
「おい、そんなにショックだったのか?」
ヨツバにずぼっと雪から抜かれ、地面に立たせてもらうと、現実というものを実感することになる。
「‥‥‥雪がきれいだったから」
「風呂入れ」
「わかった」
服についている雪を掃おうとすると、手がかじかんで思うように動かない。
ずっと雪が降ってくるのを見ていられたなら、ただそれだけなのだが。




