31.来客
『俺の嫁はどこだ?!』
(何言ってんだ?)
『げっ!子持ち?!』
ずかずかと居間までやってきた青年は、じっとミィアンの全身を眺めて、にこっと微笑んだ。
『いける!』
『ケイオスさま!黙ってください!』
ヨツバに案内されて居間に入ってきた青年に睨まれても、ミィアンに熱い視線を送っているケイオスは気付かない。
(こいつが王子かー‥‥‥)
なんとも決めることをしなさそうな人物に思える。
「突然の訪問をお許しください。こちらはケイオス王子、私は従者のモーリスです」
(すらすら喋ってるー‥‥‥うちの国の言葉喋ってるー‥‥‥)
通訳なんだが従者業も、ということなのだろうか。
そんなのごろごろいるだろうが、とは思っていたが、姫に言葉を教える人材がいます、と早速見せつけてくれては気が滅入る。
「私がマツリカです。姫さま方には、こちらのことをもう伝えてくれましたか?」
『喋った!こいつ、こんなにちびなのに喋れてるぞ!』
この王子は、若干あれなのかもしれない。
モーリスはケイオスを肘で押しのけておいて、こちらを見下ろす。
「殿下は、マツリカさんは輿入れのつもりでこちらにいらしたのだと、思っているようでして‥‥‥」
「きちんと理解するまで説明してください」
どうぞ?と手で示すと、モーリスは溜め息でもつきたそうにしつつ、この国の言葉で話していく。
『‥‥‥違うんですって』
『何がだ?』
『姫と言葉を学ぶために来たそうです!』
『そんなの建前だろ?』
モーリスは目線だけで私を示してはいるのだが、丸わかりだ。
このうんざり加減からすると、もう何度も言い聞かせているのかもしれない。
『あちらからの留学生は、この方です』
『はあ?!このちび?!え?俺って、あっちの国では幼女趣味のど変態だと思われてるのか?』
モーリスが心の中で溜め息をついているのが透けて見えそうだ。
『‥‥‥姫と言葉を学ぶために!来たんです』
『だから!そういうことだろ?』
(がんばれ!)
『‥‥‥この方がここで待ってるのは、姫さま方だけなんです』
『そういうことにするんだろ?わかってるよ!お忍びってやつだ』
モーリスが歯を食いしばりたそうにしているように見えてしまう。
『‥‥‥殿下はここに来ないでください!』
『通ってこいって、言ってるんだろ?』
『それは姫さま方だけなんです!』
『おまえも少しは男女の駆け引きというものを学んだらどうだ?そんなのは俺に言ってるってことなんだよ!』
待つ形態にしたことが、なんだか申し訳なく思えてくる。
ギドロイは、かなりまともな王子なのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇
長引く二人は、今では椅子に座って話している。
『‥‥‥殿下はここに近付かないことで、幼女趣味のど変態ではない、ときちんと示しましょう』
『きれいなお付き合い、というもので示せばいいだろ?』
『‥‥‥お付き合いしたい、ってことですか?』
『わざわざ来てくれてるんだから、そんなもんするだろ?』
(こいつ‥‥‥すごいな‥‥‥)
笑ってしまいそうになるのだが、私は言葉を学ぶために来ていることになっている。
『この方は、殿下に用が無いんです!』
『俺はある!』
『はあ?!』
ケイオスは哀愁を撒き散らして、遠くへ微笑む。
『俺はもう疲れたんだよ‥‥‥きれいなお付き合いがしたいんだ‥‥‥』
『あ、では文通しましょう』
『わかってるな!そういうのだ!』
にかっと笑うケイオスに肩を叩かれ、モーリスは揺れている。
(抜け殻ってこういうのなんだろうな‥‥‥)
『はい、では馬車に戻ってくださいねー』
『おう!じゃあな!フユー!』
ケイオスは足取り軽く居間を出ていき、モーリスはやっと溜め息をついた。
「実は‥‥‥ケイオスさまは選ばせようとされた方を選ばず、選ぼうとしていた方と引き裂かれ、あのように、来てくださるのなら大歓迎となっているんです‥‥‥」
(あらー‥‥‥)
「そのお二方が、留学の話が出ているお二方ですか?」
「そうなんです‥‥‥」
どちらも国外にやってしまって、さあ選べ、ということだろうか。
「あの‥‥‥引き裂かれた方とここで遭遇、なんてことは避けたいのでは?」
「そうなんです‥‥‥ん?あ!それを狙ってるのか?!」
モーリスは慌ただしく居間を出て行った。
(大変そうだな‥‥‥)
「あちらから挨拶に寄ってくださるなんて、きちんとした方みたいね」
「そうだね」
「でも、どうするの?フユーの歳では、便利に使われてしまいそう‥‥‥」
「あー‥‥‥そういえば、そうだね。そうやって誰も選ばないのかもね」
ミィアンは困ったように微笑む。
ケイオスも演技していたのだろうか。
人の本心なんてものを、どうやって推し量ればいいのかと、途方に暮れてしまいそうだ。




