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シアの国  作者: 薄荷堂
間の国
31/106

31.来客

『俺の嫁はどこだ?!』


(何言ってんだ?)


『げっ!子持ち?!』


ずかずかと居間までやってきた青年は、じっとミィアンの全身を眺めて、にこっと微笑んだ。


『いける!』


『ケイオスさま!黙ってください!』


ヨツバに案内されて居間に入ってきた青年に睨まれても、ミィアンに熱い視線を送っているケイオスは気付かない。


(こいつが王子かー‥‥‥)


なんとも決めることをしなさそうな人物に思える。


「突然の訪問をお許しください。こちらはケイオス王子、私は従者のモーリスです」


(すらすら喋ってるー‥‥‥うちの国の言葉喋ってるー‥‥‥)


通訳なんだが従者業も、ということなのだろうか。


そんなのごろごろいるだろうが、とは思っていたが、姫に言葉を教える人材がいます、と早速見せつけてくれては気が滅入る。


「私がマツリカです。姫さま方には、こちらのことをもう伝えてくれましたか?」


『喋った!こいつ、こんなにちびなのに喋れてるぞ!』


この王子は、若干あれなのかもしれない。


モーリスはケイオスを肘で押しのけておいて、こちらを見下ろす。


「殿下は、マツリカさんは輿入れのつもりでこちらにいらしたのだと、思っているようでして‥‥‥」


「きちんと理解するまで説明してください」


どうぞ?と手で示すと、モーリスは溜め息でもつきたそうにしつつ、この国の言葉で話していく。


『‥‥‥違うんですって』


『何がだ?』


『姫と言葉を学ぶために来たそうです!』


『そんなの建前だろ?』


モーリスは目線だけで私を示してはいるのだが、丸わかりだ。


このうんざり加減からすると、もう何度も言い聞かせているのかもしれない。


『あちらからの留学生は、この方です』


『はあ?!このちび?!え?俺って、あっちの国では幼女趣味のど変態だと思われてるのか?』


モーリスが心の中で溜め息をついているのが透けて見えそうだ。


『‥‥‥姫と言葉を学ぶために!来たんです』


『だから!そういうことだろ?』


(がんばれ!)


『‥‥‥この方がここで待ってるのは、姫さま方だけなんです』


『そういうことにするんだろ?わかってるよ!お忍びってやつだ』


モーリスが歯を食いしばりたそうにしているように見えてしまう。


『‥‥‥殿下はここに来ないでください!』


『通ってこいって、言ってるんだろ?』


『それは姫さま方だけなんです!』


『おまえも少しは男女の駆け引きというものを学んだらどうだ?そんなのは俺に言ってるってことなんだよ!』


待つ形態にしたことが、なんだか申し訳なく思えてくる。


ギドロイは、かなりまともな王子なのかもしれない。






◇◆◇◆◇◆◇






長引く二人は、今では椅子に座って話している。


『‥‥‥殿下はここに近付かないことで、幼女趣味のど変態ではない、ときちんと示しましょう』


『きれいなお付き合い、というもので示せばいいだろ?』


『‥‥‥お付き合いしたい、ってことですか?』


『わざわざ来てくれてるんだから、そんなもんするだろ?』


(こいつ‥‥‥すごいな‥‥‥)


笑ってしまいそうになるのだが、私は言葉を学ぶために来ていることになっている。


『この方は、殿下に用が無いんです!』


『俺はある!』


『はあ?!』


ケイオスは哀愁を撒き散らして、遠くへ微笑む。


『俺はもう疲れたんだよ‥‥‥きれいなお付き合いがしたいんだ‥‥‥』


『あ、では文通しましょう』


『わかってるな!そういうのだ!』


にかっと笑うケイオスに肩を叩かれ、モーリスは揺れている。


(抜け殻ってこういうのなんだろうな‥‥‥)


『はい、では馬車に戻ってくださいねー』


『おう!じゃあな!フユー!』


ケイオスは足取り軽く居間を出ていき、モーリスはやっと溜め息をついた。


「実は‥‥‥ケイオスさまは選ばせようとされた方を選ばず、選ぼうとしていた方と引き裂かれ、あのように、来てくださるのなら大歓迎となっているんです‥‥‥」


(あらー‥‥‥)


「そのお二方が、留学の話が出ているお二方ですか?」


「そうなんです‥‥‥」


どちらも国外にやってしまって、さあ選べ、ということだろうか。


「あの‥‥‥引き裂かれた方とここで遭遇、なんてことは避けたいのでは?」


「そうなんです‥‥‥ん?あ!それを狙ってるのか?!」


モーリスは慌ただしく居間を出て行った。


(大変そうだな‥‥‥)


「あちらから挨拶に寄ってくださるなんて、きちんとした方みたいね」


「そうだね」


「でも、どうするの?フユーの歳では、便利に使われてしまいそう‥‥‥」


「あー‥‥‥そういえば、そうだね。そうやって誰も選ばないのかもね」


ミィアンは困ったように微笑む。


ケイオスも演技していたのだろうか。


人の本心なんてものを、どうやって推し量ればいいのかと、途方に暮れてしまいそうだ。

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