30.別行動
「ん?この国の軍がいるな。連絡を受けて向かうところなのかもな」
こちらが入国した知らせを受けて、すぐに動いたのだろう。
そうなると、中央からお偉いさんも向かっているはずだ。
「それなら、ここからは私だけ向かうよ」
「そんな?!」
オリーブ長官はもう、今生の別れを予感しているとしか思えない。
「下っ端官吏なので、そのように行動しようと思います」
「でも‥‥‥でもね?」
「レンギョウ商会から派遣してもらってますから、安全な移動が可能です」
「そうかもしれないけどー‥‥‥!」
「話を聞くことにはなりますんで、一旦休憩となりますし、フユーのことも言ってみれば、先導してもらえるかもしれません」
「そうね!」
(有り難い)
オリーブ長官と一緒にいると、人情というものを感じずにはいられない。
◇◆◇◆◇◆◇
私の荷物ばかりの馬車で出る準備をしていると、ライリがやってきた。
「違った」
ライリが半笑いで、察しがついてしまう。
「私を案内しに?」
「姫って、先王の妹の孫なんだって。それを現王の息子が気に入ってるから、お妃さま候補として留学させたいそうだ」
(んー?)
どうにも首を傾げてしまうのだが、ライリも同じく首を傾げて笑っている。
「現王の息子のお気に入りは二人いて、どっちかに決めないから、どっちも留学させて様子をみよう、ってことらしい」
「何それ‥‥‥」
「って思うよな?坊のお相手になんて、そーんなことまーったく思ってませんよー、ってことだろうし、二人いるんだけど、どっちにするのかなんて選ぶの?ってことだよな?」
「じゃあ、通ってきてもらうよ」
「あー!いいな!そうしよう!」
レンギョウ商会から派遣してもらったミィアンとヨツバも交えて居住先を決めると、さっさと移動を始めてしまうことにした。
歓迎されないだろうとは思っていたが、帰ってくれと言わんばかりの応対をされるとは。
排除だったのだと、思わなくてもいいのだろうか。
(でも、フユー・マツリカ‥‥‥)
どこに行けばいいのだろうかと、立ち尽くすしかない。
◇◆◇◆◇◆◇
レンギョウ商会に家を用意してもらったのは、二人の姫の居住先の中間地点辺りだ。
荷下ろしもさくっと終わらせてくれたので、これからは、ここで三人暮らしを始めることになる。
「フユー、買い物行くー?」
「んー、頼むー」
「わかったー」
ミィアンとヨツバは、買い足すものを相談しながら出かけていった。
(広いな‥‥‥)
下っ端官吏とは言え、留学させてもらえるとなれば、そこそこいい家で暮らしておくべきなのだろうが。
(姫も来るんだしね‥‥‥)
ミィアンとヨツバもここで暮らすので、ここはレンギョウ商会の宿舎扱いとなるそうだ。
私はそこに間借りさせてもらう形となる。
(家賃、食費‥‥‥衣服はしばらく大丈夫‥‥‥)
お古には、まだ私には大きいサイズのものも含まれていて、どのくらいの滞在を、と考えると、ギドロイがお相手をお披露目するまで、ということになるのだろう。
あの様子では、十年くらいかかるのかもしれない。
(十年後‥‥‥)
ファーゼは立派に医師として活躍していそうだが、リンランのカフェは存続しているのだろうか、と失礼なことを考えてしまう。
ランセンはまだ三つだ。
私のことなど忘れてしまうだろう。
十年も経てば、私もまた別人となっているのだろうか。
(フユー・マツリカ‥‥‥)
ブローチを胸から外しても、窓から入る明かりに透かすことなどできやしない。
(でも、きれい)
煌く金は、まっさらだ。




