28.宿舎
「あー!そっか、あの二人はヒイラギ卿のってことで来てたんだっけ‥‥‥」
オリーブ長官は何やら落ち込んでいるようだが、そんなに気にしてもらって申し訳ない。
やはり四人部屋となった先にはオリーブ長官がいたので、オリーブ長官も待機ということだろう。
(身の潔白を証明するためには、手っ取り早いもんね)
「あの女性は、ヒイラギ卿の前は、妃候補筆頭を自称していたんですよね?」
「あー‥‥‥知ってるのね‥‥‥あの子、どう見ても十代後半以上よね」
「あの女性とは話したんですか?」
「え‥‥‥?」
「通訳が必要な子と一緒にいたってことは、話せるのかな、って」
「あー‥‥‥そういうのは調べようがね‥‥‥」
「おー!大きくなったなー!ちびー!」
ライリは、入ってくるなり、私を高い高いしてくれるのだから力持ちだ。
「偉いなー!今日も、坊にやる気を出させてやったんだろ?最短でも三週間はかかる予想だったんだが、まさか日付も変わらなかったとはな!」
ライリは私を下ろすと、あの女の子に椅子を勧めた。
「はい、どうぞー。この子はヨアンナでーす」
ヨアンナは、びくびくしつつ椅子に腰かけたのだが、どうやら私を警戒しているようだ。
(どうして?)
「生理用品とか、困ってないですか?」
「‥‥‥困ってないです」
やはり、流暢、と分類できるように思えてしまう。
(幼いうちにあちらに渡ったのに、生理用品という言葉は知っている‥‥‥?)
「あ、風呂入る?トイレも教えておくねー」
ライリは宿舎内を案内しようと、ヨアンナを連れて行った。
オリーブ長官はひそひそと聞いてくる。
「何かしたの?」
「いやー‥‥‥?心当たりは‥‥‥」
首を傾げるしかないのだが。
「さっきのって、会話を打ち切ろうと、困ってないって言ったんだと思いますか?」
「あ、生理用品?脱衣場の棚に着替えが用意してあって、そこにあったから、まあ大丈夫じゃないかしら」
(いい人なんだよなー)
なんだが自分は薄汚れているように思えてきてしまう。
◇◆◇◆◇◆◇
眠れないので、ハーブティーを淹れようとしていると、オリーブ長官もやってきた。
「何でもできるのね」
火の扱いを心配して、起きてきてくれたのだろうか。
掃除用なのかもしれないが、踏み台があったので、高い棚にも手が届く。
棚を物色してみてハーブティーを見つけたのだが、オリーブ長官はクッキーを見つけてくれたので、深夜のお茶会となり、なんだか楽しい。
(お?)
ヨアンナも起きてくると、オリーブ長官がヨアンナの分もカップを取り出し、ハーブティーを注いでやった。
(これは怯え‥‥‥?)
ヨアンナの様子は、化け物でも見ているような、と表現したくなるのだが。
(どうして?)
「あの‥‥‥フユーさんは、どうしてここに?」
(ん?)
オリーブ長官も首を傾げたそうにしている。
ヨアンナは私に向かって言っているようなので、私がフユーということでいいのだろう。
「ヨアンナに料理を教えてもらいたくて」
ヨアンナは、化け物だと確信したような態度となってしまった。
(どうして?)
ヨアンナは何やら思い詰めていたようだが、意を決したように聞いてきた。
「あの‥‥‥わからない、です。フユーさんは、女性の格好をしている人に、男性かと、聞きました。この国では、そのように過ごす人も、多いんですか?」
オリーブ長官は凍りついている。
これは、この国での去勢とはどのような行いなのかと聞こうとしているのだろうか。
どう答えたものか。
「あれは、不躾な質問でしたね。あのような場でするべきではない質問ですし、面と向かって聞くべきではないと考えます」
「‥‥‥フユーさんは、怒っていた、ということですか?」
(あ、それで?)
ヨアンナには私は、自分の考える常識の外側にいるように思えているのだろうか。
(笑ってたしね)
「いえ、怒っていません。するべきではない質問だと認識していながら、面と向かってあのような質問をしたんです。双子というのは、誰と誰のことなんですか?」
ヨアンナは、ぐっと俯き、小さく震えているようにも見える。
これでは取り調べ目的だと思われてしまいそうだ。
(でも‥‥‥言えないってこと?)
四人部屋に入れるのだから、女性だということは確認済みなのだろうが。
「ヨアンナは、私の姉なんですか?」
(‥‥‥これも?)
ヨアンナは、俯いたまま、何も言ってくれない。
「この子は五つよ。角ばった話し方をする子なのね」
オリーブ長官の言葉を聞いて顔を上げたヨアンナは、明らかにほっとしている。
人体改造された老婆だとでも思わせてしまっていたのだろうか。
(すまんね‥‥‥)
謝罪を思い浮かべつつも笑ってしまうのだから、私というのは軽薄なのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
「姉かどうかは、わかりません」
(そうくるか‥‥‥)
「結婚するんですか?」
「逃げられてしまいました・からね」
(流暢‥‥‥?)
ヨアンナは悲しそうなのに、そんなところばかり気になってしまう。
どうも私には、探り合いな会話しかできそうにない。
「あ、片付けならやっておくから、いいわよ?」
悩んでいると、眠いと思われたようだ。
(優しい‥‥‥)
片付けをお願いし、歯を磨いてからベッドへ戻ろうとしたのだが。
暗闇ではライリが仕事中だ。
「どうだ?」
「双子とは誰と誰なのかと聞くと、俯き震えていたようにも見えた」
「今になって、モクレン家三男がここにいたことを知ってると言ったも同然と気付いたのか‥‥‥」
「私の姉なのかと聞くと、わからない、って」
「そうだけど‥‥‥って思うよな?」
「そうなんだよね‥‥‥あの女性を庇おうとしているような気もするけど‥‥‥」
「おまえはいい仕事をした。あの質問、そしてさらに通訳だ。情報が増えれば、その分手間は増える。だが、あの子があちらの言葉がぺらぺらなのが明らかになった」
はぐらかされたような気がするのだが、知らなくていいんだ、ということだと思っておくべきだろうか。
(でも‥‥‥)
「双子ってあの女性?」
「お?」
「双子をこちらと、あちらで学ばせてから入れ替え、教育係として使用。入れ替えるなら、女性性に合わせてしまうのが手っ取り早い。見た目は同じサイズの服に合わせて調節、行動についてはあのような目立つ人物をテンプレートとしてしまえば、もう一方が演じるのも容易となる‥‥‥かも?」
「あの頃のあの女性と、今のあの女性は別人、ということか?」
「あの女性は、あの子については語っていたが、あの子の片割れについては語っていない」
「自分が双子だと暗に認めていた?」
「あの女性は、あの子に自分を捨てさせたんだろうか?」
「全部演技?」
「‥‥‥わかんない。何しに来たんだと思う?」
ライリは笑いを押し殺している。
「フユーを押しのけに来たんじゃないか?」
「それ、私?」
「フユー・マツリカ。ヒイラギ卿の副官のおかげで、名を知られていないから、これ使えって王太后陛下が」
(そっちのフユー‥‥‥?レイでよくない?)
王太后のセンスがよくわからない。
「わかった」
「もう、寝ろー?」
「おやすみ」
「おやすみ」
一人で使う大人用のベッドは広い。
お子さまはお子さまの領分を出ないべきだろう。
(ずけずけ聞くお子さまでいいのかな?)
フユー・マツリカとはどんな人物なのだろうか。




