25.応接間
あの女性と女の子は別室で待たせておくことになり、私達は応接間へと移動した。
(美味しそうー!)
「説明!」
ルツと館主に挟まれて長椅子に座っているギドロイに指示を出され、仕方なくフォークを置く。
(宮廷の料理人が作るキッシュ‥‥‥気になってたのに)
「‥‥‥そう考えると、ヤマブキ家が自滅したのも納得だな、って」
「あー、あそこは断絶寸前だったのに、若いのがあの女性しかいなかったんだよな?」
「そうです」
ディードも私の隣に座っているのだし、非公式の場ということでいいのだろう。
「必要数を確保する困難さを思えば、輸出品は女の子、と、男の子だった子供、となります」
「魔女ー‥‥‥!え?あの女性‥‥‥は去勢されている、ということか?」
「跡継ぎのいないヤマブキ家へ戸籍通り女の子として侍女付きで引き渡し、ヤマブキ家がその子を社交界に出してから事実を教えてやれば、ヤマブキ家は婿など決して迎えることができません」
「なるほど‥‥‥実行可能ではあるだろう」
「あの夢見がちと評される女性は、女性として生きてきたのかもしれないですよね?」
「あれもこれもと隠されて、そうだと言われて育てば、あのように‥‥‥?」
「センリョウ家は、モクレン家当主とあの女性の子だと言って押し付けられれば、隠して育てるのではないでしょうか?」
「子供の生まれ方も、ということか?」
「何もかも、もしかして、の域を出ませんが、女性の身体構造を確認する機会なんてそう無いでしょうし、出産の場に同席してどのようにと目視確認なんてことも、と、実行可能と判断するための要素はいくらでも挙げられるように思います。子育てなんて洗脳だと分類することもできますよね?」
「‥‥‥おまえは、本当にな‥‥‥」
ギドロイには呆れられ、ルツを怯えさせているような気もする。
(でも、これが私なんだよね‥‥‥)
「あの子をヒイラギ家でリタジオードさんと暮らさせて、あの女性は今確保できている輸出品つきであちらへ、となれば、証拠をすべてあちらの国へ持ち出せることになりますし、あの子はリタジオードさんと夫婦として生きていくかもしれません」
「‥‥‥あの子の成長を知って、自分が女性ではないと気付いたのかもしれないよな?」
「何を守ろうとしているのか、それもわかりませんね」
ギドロイは背もたれに体を預け、ゆっくりと息を吐く。
「まあまあ、殿下。魔女さまは、まだもしかしてがあるのではないでしょうか?」
さっきの女の子への質問といい、ディードが私に言わせようとしている感じがするのは、気のせいではないだろう。
「隣国も同じような目に遭わされて、通り道とされてしまっているので、こちらの国で引き取ってくれ、ということかもしれませんよね?それを妨害しようと、モクレン家は口出ししてきて、あの女性と女の子は私と入れ替わろうとやってきたのかもしれません」
ギドロイは、最早何か抜けていっているのではないかという様相となって天井を仰いでいる。
「センリョウ領では、死産として母親から取り上げた子を、全員女の子として戸籍を作って、隠して育てているのかもしれません。必要なことだけ教え込み、輸出すれば死亡手続きです。モクレン家三男ってまだ生きてます?」
「まあまあ、魔女さま。ここで一旦、金の亡者となろうか?」
「でも、私への単なる嫌がらせかもしれませんし、ギドロイさまが、そこを調べるためにも、ギドロイさまはきちんと契約書を交わしてくれればいいんですよ?」
「俺‥‥‥かー‥‥‥」
ギドロイは天井を仰いだまま動かない。
(もういいかな?)
フォークを手にすると、ディードは横から安売りしてきた。
「で、錬金術師さまはどう思ってる?」
(ん?)
作り笑いで首を傾げてみたのだが、ディードは安売りをやめてくれない。
「置け」
ギドロイに指示を出され、フォークをまたも元の位置へと戻す。
「‥‥‥実家で女の子を生んだと言って戻り、婚家の誰も手出しできないほどに手厚く育て、去勢も実家で行う。お嬢さまのお付きとしてセンリョウ家の手のものも同行して頻繁に隣国へ。お嬢さまは、隣国では妾腹の姫として離宮暮らし。ヤマブキ家へ戻る際には、通り道であるモクレン領で、医師が調達した輸出品を引き取る。輸出品の育成はセンリョウ家で。お嬢さまが育てば、社交界に出してモクレン家当主との繋がりを作らせる。隣国では、妾はとっくに飽きられているので、離宮は密輸の中継地点として自由に使えていた。だが、留学という形で離宮から追い出されそうになっているので、こちらへ渡ったことにしたい。でしょうか」
「あの子は?」
「あの女性がモクレン家当主にぺらぺら喋って、今ではモクレン家主導となっている。センリョウ家を乗っ取るために、モクレン家が送り込んだお嫁さま。となります」
「嫁?!」
「すでに妊婦なお嫁さまです」
ギドロイは、すうっと態勢を変え、またも天井を仰いでいる。
「まあまあ、殿下」
「もういい!錬金術師さまは経費を削減するためならいくらでも‥‥‥」
「あの子、隣国の姫なんでしょうか?」
「「はあ?!」」
ギドロイとディードの声が重なったのだが、館主はげらげら笑っていて、ルツも面白がっているようだ。




