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シアの国  作者: 薄荷堂
左の国
22/106

22.試験

「お疲れ、ファーゼ」


「ありがと‥‥‥」


「ファーゼは小心者だから、当日お腹が痛くなったら!とか思ってたんでしょ?」


「‥‥‥思ってた」


ファーゼの消耗は激しいらしく、リンランは心配そうだ。


「こういう日は、お風呂にゆっくりつかるのがいいよ」


「そうする‥‥‥」


三人でお茶でも、と思っていたのだが、今日のところは解散となり、ファーゼは俯いて歩いていく。


ファーゼの毎日は停滞していた。


目指すものがありながら、本を読んではボロニア室長と話す程度のことしかできない現状に嫌気がさしていたようだった。


これからの毎日を変えるために挑んだ試験であんなに消耗とあっては、よくない予想ばかり浮かんでくるのは、リンランも同じようだ。


「‥‥‥ノーラも、あんな感じ」


モクレン家当主の愛人の苛烈さを向けられたことばかり、思い出してしまっているのだろうか。


(わかんないな‥‥‥)


ルツを待っているのではないか、と思う自分に疲れてしまう。






◇◆◇◆◇◆◇






「‥‥‥どうなんだ?」


(えー?)


ギドロイはこちらに背を向けて中庭を見下ろしているので、堂々とディードと笑い合う。


ふらっと自宅に会いに行くことなどできない二人は、ファーゼが医局に出入りするようになれば、そこも変わっていくのかもしれない。


二人のこれからというものを思えば、隣国の姫は異物なのだろうか。


(わかんないよね‥‥‥)


人の心というものは、簡単に変わってしまうらしい。


わかるのは今現在、それのみとは。


「おい‥‥‥そうなのか‥‥‥?」


ギドロイを不安にさせてしまったようだと顔を上げると、あまりの表情に笑ってしまう。


「おい‥‥‥!何なんだよ?!」


「ギドロイさまは、一人以外に冷たくできないのなら、一人を特別丁重に扱うのはどうです?」


「‥‥‥何の話だ?」


ざばんざばんと目を泳がせてくれては、提案しようと思わせてくれる。


「ファーゼが合格した場合には、医局の近くの食堂で、ファーゼの好きなタルトを扱うようにする、というのはいかがです?」


「‥‥‥どうせ、レンギョウ商会の菓子屋のタルトなんだろ?」


鼻で笑われたので、予想しておこう。


「こういった嗜好品についても、見識を広めようと思ってな」


どうぞ?とディードを見ると、ディードも予想してくれた。


「ここの席‥‥‥空いてるぞ」


「似てるー!」


ディードと笑い合っていると、ギドロイはどすんと長椅子に腰かけた。


「お子さまは、タルトなんてものを食べに行くのか!」


「大人なギドロイさまに、タルトなんてお事物さまは不必要!しかしファーゼに虫除けは不必要でしょうか?」


ここで、はっとしたということは、そういった可能性をまったく考えていなかったのだろうか。


「あいつ‥‥‥そうなのか?」


「除けておきたいですか?」


ぐっと何かを飲み込んだギドロイは、どこを睨んだものかとなっている。


「虫だと思ってはいるんですね?」


ここでも、はっとしてくれては、もう笑ってもいいだろう。


「ギドロイさまも虫‥‥‥?」


その可能性もまったく考えていなかったらしいギドロイは、真剣に悩みだしてしまった。


(面白いな)


「選んでもらえるといいですね」


ギドロイはすっと顔を上げ、頷きそうになった顔をぐっと止める。


「タルト、どうします?」


ギドロイは、うんー?と首をどう動かしたものかとなっているので、考えてくれるのかもしれない。






◇◆◇◆◇◆◇






「何これ?」


「ギドロイさまが嗜好品についても見識を広めようと、まずはタルトから、って」


ずらりとタルトの並んだテーブルの向こうでは、ギドロイがすました態度で紅茶を飲んでいる。


「どれ食べる?」


「え‥‥‥あ、自分で」


ファーゼは皿を受け取ると、気に入りのタルトを一つ皿に取った。


(見てる)


ギドロイは、どれがファーゼの気に入りのタルトなのかきちんと確認できたらしく、若干余裕が生じたように見える。


(まあ、キッシュはお子さまは食べに行かないかもね)


ギドロイを眺めるディードの目の温かいこと。


キッシュを食べ終えたギドロイはフォークを置くと、カップを手にして口をつけつつ、ファーゼをちらちらと見るのに忙しい。


(聞いちゃえば?)


時間をかけて紅茶を飲んでいたギドロイは、カップを置くとついに口を開くようだ。


「あー、そのだな、どうだったんだ?試験は」


ファーゼは、どんよりともぐもぐしていたのだが、かなりの鋭さに尖らせた目で私を見てきた。


(どうした?)


私が隣に座ると、ファーゼは声を詰まらせた。


「私‥‥‥増えるのは雑用だけ‥‥‥」


「あー‥‥‥!」


「‥‥‥おい、どういうことだ?」


ファーゼが、くいと顎でギドロイの方を示すので、私が説明しておくとしよう。


「試験が簡単すぎたから、学術所で学ぶような内容はとっくに、って予想してるんだよね‥‥‥?」


ファーゼはこくんと頷き、零れた涙を拭っている。


「あー‥‥‥研修に入るか?」


「いいの?!」


ファーゼの立ち上がる勢いで、テーブルの紅茶は波打ち、ギドロイは若干のけ反っている。


ギドロイは勿体つけるように、こほんと咳払いをするのだから、さっさと言え、と思ってしまう。


「ただし、入所はしてもらう。入所後すぐに一期生全員の実力を確認し、その成績次第で研修に入る道を用意しよう」


「ありがとう!」


(あ‥‥‥)


ファーゼは私の手を取って喜んでいる。


ギドロイの方は見ないようにしておこう。

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