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シアの国  作者: 薄荷堂
左の国
20/106

20.経緯

(宝石飴を手土産に‥‥‥)


レンギョウ商会所属の一商人として私があちらへ渡ることで、受け入れる姫をその程度の存在だと認識している、と示すことができるだろう。


私の帰国に合わせて姫を送り返すことも可能かもしれないが、同じく私がいつまでも帰国できない可能性もある。


(留学‥‥‥なんだよね?)


疑問が積み上がり、どうしたものかと途方に暮れてしまう。


ディードは安売りを続行中なのだが、そこに憐憫が滲んでいるように思うのは気のせいだろうか。


そおっと立ち上がろうとすると、ディードはリュックを私の膝に押し付けるようにして座らせてきた。


これは、このまま立ち去ると、ディードは話そうとしたのに私が逃亡した、ということになるのだろうか。


ぐるぐると悩んでいると、ディードに溜め息をつかせてしまった。


「まず、言っておく。ギドロイさまは、自信が無い‥‥‥」


(知ってる‥‥‥)


「ご自身の判断でどのような言いがかりを、なんて考えだすと、誰であっても雑に扱うことなどできない」


(誰であっても‥‥‥?)


私は、適任者ということだろうか、排除されるということだろうか。


(厄介払い‥‥‥)


こみ上げてきそうになっては、お子さまはこれだから、と自分に悪態をつくしかない。


「ヒイラギ卿がどうして国中回ることになったのか、知っているか?」


「‥‥‥知らない」


「国王陛下がまだ王太子だった頃、妃候補者筆頭を自称していた女性がいたんだ。だが、選ばれず、ヒイラギ卿の婚約者を自称するようになって、周りはそのように見なすようになった。周りというのはヒイラギ家も含まれているが、ヒイラギ卿は、そろそろきちんとしろと言われ、おまえの母君ときちんとしようとしたところ、その女性に妨害されて‥‥‥酷いものだったそうだ」


「そうだったんだ‥‥‥」


「その女性が王太后陛下の遠縁ということを笠に着てヒイラギ家に押しかけ、ヒイラギ卿の婚約者を自称し、ヒイラギ家では、そうなんだー、と。その女性が自称候補者筆頭だったことを知っているヒイラギ家としては、ヒイラギ卿が選んだ相手なら仕方ない、ということでその女性と関わっていたんだが、ヒイラギ卿が選んだのはおまえの母君だと知って、なーんだ、できちんとしようとして、その女性の苛烈さと言うんだろうか‥‥‥そういったものを知ることになった」


ヒイラギ家というのは、なんともゆるそうな家だ。


「‥‥‥それで王太后さまが?」


「そういうことだな。ヒイラギ卿は、誰だそいつ状態だったそうだ」


「面識が無かったってこと?」


「ヒイラギ卿は、付き合いのような場には出て来ない方だった。さらに噂話のようなものにも疎い方とくれば、その女性のことを知りもしなかった。その女性は、そういうヒイラギ卿だから利用することにして、好き放題に吹聴していたんだろう、と俺は考える」


「そういうね‥‥‥」


「王太后陛下としても、誰だそいつ状態だった‥‥‥」


「遠縁というのは、もう他人だよね?な遠さだったってこと?」


「いや‥‥‥自称遠縁、という他人‥‥‥しかし、ヤマブキ家のお嬢さまだった」


「‥‥‥自称するならそっちじゃないの?って思ってしまう」


ディードは小さく首を捻る。


「ヤマブキ家によると、その女性は夢見がちなお嬢さまだそうで、金髪がだめなら銀髪の隣に立ちたい!だそうだが‥‥‥」


「‥‥‥はー?って言いたくなるね」


ディードは苛つきながら頷いた。


「夢見がちだそうなお嬢さまの苛烈さが露見して、王太后さまの遠縁を自称していることが発覚したにも関わらず、ヤマブキ家としては、そのような理由でぜひともヒイラギ家へ‥‥‥」


「そして領地没収?」


「そうだ。ますます、ぜひともヒイラギ家へ!となったヤマブキ家は、その女性はすでに腹に子がいるのにー!と騒ぎ、宮廷医師に確認させるように言えば、心労で流れてしまった、だ‥‥‥」


「そこで家名剥奪?」


「ヤマブキ家当主夫人の実家である、センリョウ家に引き取ってもらった形となった」


「何を隠したんだろうね?」


ディードはこちらをじっと見ていたのだが、私からリュックを取り上げて肩にかけると、何やら考え込んでいる。


(舌打ちでもしたそうだ)


「‥‥‥俺は、階段どころか階層を上ろうとしての転落、と認識していた」


ディードは、ぶすっとして頬杖をついた。


「それをおまえはどうだ?」


(ここは大事だぞー‥‥‥)


もう迷いの森が間近に見えるように思える。


「旧ヤマブキ領を賜ったレンギョウ家の躍進は、商会によるものだと認識しているが?」


「‥‥‥私も、そうだね」


ディードは忌々しそうに私を見ていたのだが、頬杖をつくのをやめてくれたので、話を戻してくれそうだ。


「王太后陛下は、それ以前からヒイラギ卿に国内を回らせようとしていたんだが、ヒイラギ卿はあのような室内好きな方なので渋っていた」


(室内好き‥‥‥)


物は言いようではあるが、そういう風に言うと、何かが薄まるような気がする。


「そのことを知っていたヒイラギ家は、その女性の希望通り、その女性にはヒイラギ家で暮らして待っていてもらえばいいので、きちんとしてから出発するように、とヒイラギ卿に働きかけた。そのような手順だったので、すでにその女性の荷物が運び込まれていたんだ」


「それを引き取ってもらえずに?」


「そうだ。ヒイラギ卿が出発してからも、そういう方法でセンリョウ家は粘り続けていた。とも言えるが‥‥‥モクレン家当主の長年の愛人であるその女性の丸見えな隠れ蓑として、という見方が一般的であるように、俺は思っている」


「ああ、あの、モクレン家の子供達の本当の母親なのではないか、な女性か」


「そうだな‥‥‥ヒイラギ卿はちょっと遊んでやっただけなのに、本気になられて雲隠れ、なんてことも言われていたが、厄介事と時期が重なった、と言えばいんだろうか‥‥‥これが、ヒイラギ卿が国中回ることになった経緯の詳細だ」


(詳細、ね‥‥‥)


「母君のご実家はどうだ?」


「今のところ、何も‥‥‥だと思ってる」


「レンギョウ家もついているんだ。おまえに気付かせないようにしている、という訳ではないのではないか?」


「‥‥‥そうかもね」


お子さま故の配慮なのかもしれないと考える私は、見えるはずのものを見ていないのだろうか。

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