表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シアの国  作者: 薄荷堂
左の国
2/106

2.浮遊霊

少年は、隣に座っている父だそうな男性に背を向けるように、私を片膝に座らせ腰を支えてくれている。


父だそうな男性を視界に入れずに済むのは有り難い、と、思っておくことができなくもないのだが。


少年は、にへっと微笑んでいて、伯父の笑いはくすぶり続けている。


「さっき拾ったんですが、ハルクさんにも浮遊霊さんが見えますか?」


「見えるねー!自分に霊感があったとは驚きだよ!」


そのわりには、私の分の茶は注いでくれないのだな、などと思っていると、少年は出された菓子を私に持たせてきたので、食べてもいいのだろう。


「食べてますね!」


「食べてるねー!」


これが最後の食事かもしれないと、現実を見つめることもできやしない。


考えることがどれだけあるのか考えないといけない、という事態なのだが。


「ルツさま、僕、浮遊霊さんを浮遊させたいので、宿舎には入りません」


「は‥‥‥?」


「だって、単身者用の宿舎に入る予定でしたから」


「そ‥‥‥え?」


父だそうな男性も、理解が追いつかない様子だ。


「それでは浮遊霊を浮遊させるのはちょっとな?所帯持ち用のが何とかならないのか?」


「え‥‥‥?」


「今すぐとなると難しいでしょうから、僕、浮遊霊さんと暮らす家を借りようと思います」


「は?!」


「いいのがあるよ!」


父だそうな男性を置いてきぼりにして、少年と伯父は、居住先について話し合っている。


安易に受け止めることはできないのだが、これも親切ということなのか。


浮遊霊、という生き方とはどういう生き方なのだろうか。






◇◆◇◆◇◆◇






伯父の紹介した先は、三人暮らし用の家だった。


錬金術と呼ばれる賃貸契約に組み込む前の新築物件。


その一室を自室として与えられ、私が生前使用していたものを丸っと伯父は移してくれた。


「あの子はもういないから、ちょうどいい処分先が見つかってよかったよ」


「浮遊霊さんの大きさな家具!」


少年は、ちんまりした家具で揃えられた室内を眺めて、ふむふむと頷いている。


三人暮らしに必要なものは伯父があらかた用意してくれたのだが、その中には私が使うのにちょうどいい踏み台がいくつもあった。


キッチンや洗い場など、必要な個所へと配置し終えて自室へ戻ると、少年は部屋の真ん中にしゃがんで部屋の中を眺めている。


「この部屋、なんだかわくわくします」


そんなに気に入ったのなら、ここを少年の部屋としてくれてもいいのだが、さすがにこのベッドは少年には小さいだろう。


館主の奥さまが贈ってくれたこのベッドを、私が使えるのは長くてもあと二年ほどだろうか。


(これらの家具が使えるうちは面倒みてくれる、ってことなんだろうか‥‥‥?)


少年はひょいと私を抱え上げると、少年の自室に移動して、元通りにベッドに寝転ばせておいた。


少年の部屋は殺風景だ。


荷物はすべて家具の中に収納済み、ということだろうか。


少年は隣に俯せで寝転び、地図を開いた。


「ルツさまは、国中盥回しとなり、僕の故郷にも流されてきました。ここです」


少年の指さしたところは、海に面している都市だ。


母からは、父は名家に分類される家の落ちこぼれだと聞いていたのだが、国中盥回しとはどれだけ持て余されているのだろうか。


「ルツさまが都に戻るのについてきたんです。これからはルツさまの副官として働きますが、浮遊霊さんはどうしましょうね?」


少年に首を傾げられ、こちらも一緒に傾げてしまう。


「あ、文字読めますか?浮遊霊さんが今いるのは、王都と呼ばれる地域です。迷子になっては困るので、僕の近くしか浮遊しないように」


なんとも背きたくなる言いつけなのだが、ここは頷いておくとしよう。


自分では同年代の中ではしっかりしている方だと思っている。


しかし幼子ではあるので、周りの目というものを気にするべきだろう。


「お世話になります」


「浮遊霊さんは享年いくつなんですか?」


これは、浮遊霊呼びが定着するのだろうか。


「四つでした。身の回りのことは自分でできます。文字も街中で見かけるようなものはすべて読めます」


「おー!僕は四つの頃は何してたんでしょうね‥‥‥浮遊霊さんのように、はっきり生きてなかったことは確かです」


(どういう意味?)


どう反応したものかと思っていると、少年は起き上がり、地図を片付けた。


「僕は、リタジオード。十二です。夕飯は何にしましょうね。買い物に出ましょうか。それとも外食‥‥‥ルツさまはぽんこつなので、徐々に馴染んでいきましょう」


少年は私の手を引いて起き上がらせると、そのまま部屋を出るようだ。


(ぽんこつ‥‥‥)


母は、随分いいように語っていたのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ