19.接待
「は?」
「だから‥‥‥おまえが接待しろ‥‥‥」
「は?」
ギドロイが睨んだ先にいるディードは、笑顔を安売りする。
「まあまあ、殿下。お子さまですから」
ギドロイは、ぐいと紅茶を飲み干すと、がちゃんと雑に置きたそうにしていたのだが、そっとカップを置いて、宝石飴の小瓶を手にした。
「この宝石飴!安価ながら、このお子さま染みた美しさで、大人の女性もうっとり!奥方やお嬢さんへのちょっとした土産に最適!これを手土産に持って行け!」
「‥‥‥私、暗くなる前に帰宅していないといけないんですよね」
ギドロイは片頬をひくっとさせていたのだが、急に悲しげな顔となって俯いた。
「‥‥‥俺のどこが、そんなにいいんだと思う?」
「立場」
ギドロイは片頬をひくひくっとさせたのだが、悲しげな小芝居を続行するようだ。
「おまえのような自由気ままな商売人が、ふらっと迎えに行って、面倒見てやれ‥‥‥」
そおっと扉の方へと移動すると、そのまま部屋を出て逃亡を試みる。
(ん?)
瞬く間に追いついてきたディードが並走しているということは、逃げてもいいようだ。
◇◆◇◆◇◆◇
(違ったねー‥‥‥)
ディードの持ち上げているリュックに吊られている状態となって登場した私に、ぶふぉっ!と笑っておきながら、咳払いで誤魔化せると思っているのだろうか。
オリーブ長官は、髪を耳にかけて、きりっとした表情を作る。
「作りのしっかりしたリュックね」
(まあね?)
ディードが着地させてくれたので、腕を抜いておくと、やはりリュックは人質とされてしまった。
「聞いた?」
「はい‥‥‥」
「あいつ、あほか!」
なんとも小気味よい感想を言葉にしてくれては、私も笑顔になってしまう。
「学術所の入所試験を受けることができるようになるまで、どんだけかかると思ってんだ?!辞書は読めるって‥‥‥何言ってんだ?!」
心の中で拍手を送っていると、オリーブ長官は、くいと眼鏡を上げてディードに詰め寄る。
「図書庫が暇だとでも思ってんの?!」
「長官の能力を高く評価しているんでしょうね」
「あちらの姫さまの能力は?!」
ディードがにこっとするだけということは、そういうことだろう。
「そんなもん自国で家庭教師でも探しなさいよ!」
(そうだー!)
「読み書きさえできるようになれば合格するの?!そっから先もよろしくね、でしょ?!」
(そうだろうな‥‥‥)
「どうしてそこまでして受け入れようとするのよ?!」
(ここでも、にこっとするだけなの?)
ディードの何よりの返答に、オリーブ長官はうんざり顔となっている。
◇◆◇◆◇◆◇
「で、どう思ってる?」
(ここまでくると、誘拐じゃないかな‥‥‥)
リュックはディードに背負われ、広い会議室にぽつんと二人。
人手のいらない人払い、ということなのだろうが。
「‥‥‥そんなに来てほしいんだな、って」
ディードは、ふっと笑って言った。
「で、どう思ってる?」
(嫌だ‥‥‥)
引き出したい言葉は予想できる。
決して言いたくない。
「‥‥‥試験は、予定通り行うんだよね?」
「そうだ」
(静寂‥‥‥)
広い会議室に、ぽつーん。
(誰かー?)
心の中で助けを呼んでみても、ぽつーん。
「俺個人の感想なんだが、金の亡者はどうしたんだ?」
どういう感想なのだろうか。
(わからん‥‥‥)
うっかり迷い込まないように、慎重に会話を進めるべきだろう。
「どう、と言うと?」
「レンギョウ商会の買い付けがてら迎えに行って、語学留学として受け入れてもよさそうだろ?」
(もっと詳しく言ってくれよ‥‥‥)
国同士のやり取りに、どのようにして混ぜてくれるつもりなのだろうか。
まさか、レンギョウ商会で何から何まで負担しろ、ということだろうか。
(帰りたい!)
「まあまあ。そんなに警戒するな」
ディードの笑顔の安売りに、警戒を強めたくなる。
「俺は、ああして一蹴してくれて助かったと思っている」
(そこで、止まる‥‥‥)
じりじりと追い込まれている気がしてならない。
「ギドロイさまは、おまえという人材を手放したくないとお考えだ」
「え‥‥‥私をあちらへ?」
ディードがリュックを下ろしたのは、聞く気があるか、という問いかけだろうか。




