18.お子さま具合
コーヒーを気に入ったリタが、コーヒーを淹れる道具を揃えたので、今日も朝からコーヒーが飲めてしまう。
(いい香りー!)
湯を注げば、キッチンに香りが満ちていく。
三つのカップのうち、一つにはコーヒーを少しだけ、もう一つには半分くらいで、最後の一つは八分目。
そこにそれぞれの分量で牛乳を足すと、三人分のコーヒーの出来上がりだ。
リタが買ってきてくれたケーキの残りも、盆にのせて運んでいく。
「ルツ、コーヒーどうですか?」
声をかけると、ルツはすぐに扉を開けて、コーヒーを盆から取ってくれた。
「ありがとう、いただくよ」
しかし、ケーキは取らずに扉を閉めてしまった。
こういう時、もやもやと考えてしまう。
朝食を食べたばかりなのだから、ケーキはもう入らないのか。
今はケーキはいらないよ、なのか。
ずぼらな私が、ケーキが一切れの皿と二切れの皿というのせ方にしているので、自分の分は含まれていないと思ったのか。
(でも、聞かないんだよな‥‥‥)
寝室と呼ぶようになった、元私の部屋に行くと、きちんと少しだけ扉を開けたままにしてくれている。
そこに肘を入れて、体で扉を押し開けて入っていくと、ベッドに寝転んで本を読んでいたリタは、嬉しそうに体を起こした。
小さなテーブルに盆ごと置くと、リタもベッドを背もたれにして床に座り、コーヒーを手に取る。
リタはカップを掲げるように少し持ち上げた。
「これは僕のコーヒーです!」
「そうだね」
リタは実は牛乳を少しでは苦すぎたらしく、コーヒーの道具を揃えると、コーヒーと牛乳の比率を変えていき、ちょうどよい配分を見つけていた。
ルツも一緒に試していたということは、ルツもコーヒーだけでは苦すぎたということだろうか。
「ルツさまに聞いてきますね」
リタは、ケーキが一切れのせられた皿を手にして部屋を出ていった。
(助かるな)
リタのおかげで、次のもやもやが生じずに済みそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「それ、お気に入りですね」
「そうだね」
ハザンの手土産の山にあった砂時計は、寝室の窓辺に置いて、すぐに手に取れるようにしている。
窓から入る光に透かすと、その時によって、朝日の砂浜、日中の砂浜と、ガラスの中の砂浜の景色が変わっていく。
(さらさらさらさら‥‥‥)
ベッドに寝ころび、窓から入る夕闇に透かそうと砂時計を持ち上げていると、徐々に手が疲れてくる。
隣に寝転んでいるリタは、すっと手を伸ばしてくると、砂時計を受け取って窓辺に置いてくれた。
「ありがと」
「今日はのんびりする日だったんですか?」
「雨だからね」
「ああ、雨‥‥‥ファーゼロッテさんも知ってるんですか?」
「そうだね。待ちぼうけ、とはなっていないよ」
「雨だとのんびり。いいですね」
リタは私のずぼらさをそのままにしておいてくれるので、有り難い。
「僕、ぼんやり生きてきて、今もぼんやり生きてます」
「そっか」
「細かい分類ってよくわかりませんが、僕はシアと一緒がいいと思っています。先のことなんてわからないのは、いくつになっても同じだと思いませんか?」
「そうだろうね」
「‥‥‥僕はシアを洗脳しようとしているんでしょうか?」
首を傾げているリタは、どこか不安そうだ。
「洗脳というのは、強い言葉だね。リタがコーヒーを気に入ったのと同じだと、私は思う」
「それは、強いてはいない、ということですか?」
「リタは、いつでもコーヒーを飲めるようにして、リタのコーヒーを私にも教えてくれた。リタのコーヒーは、これから変わっていくかもしれない。私は、今現在のリタのコーヒーが、どういうものなのかを知っている」
リタは小さく微笑んでくれたので、そんな風に思わないでほしいのだと伝わっただろうか。
「酒を飲めるようになったら、カクテルもやってみたいです」
「楽しみだね」
「はい!」
リタは一足どころではなく、先に大人になる。
(はずなのに‥‥‥)
湯たんぽを抱えるリタは眠そうだ。
「こんな時間に眠ると、夜眠れなくなるよ?」
「うたた寝というのは、至福の時間なんです」
少し経てば起こしてくれ、ということだろう。
(お休みだからね)
夕食は何にしようか。




