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シアの国  作者: 薄荷堂
左の国
17/106

17.参考意見

(どうして、それはいいの?)


ルツの隣の席に座っているノーラは、やはり面をつけている。


祖母も首を捻りたそうにしているように見えるので、私と同じ気持ちなのだろう。


「はい、どうぞー」


リンランは、カフェで扱いたいケーキを少しずつのせた皿を配っていく。


(何種類あるんだ?)


たくさんのケーキの欠片が並べられている皿は、見ていると何だかわくわくする。


「これいいんじゃない?色々な店のケーキを紹介しているカフェ」


「ちょっと!私の店を試食処にしないで!」


「いいね、試食処!」


リンランに止められたのだが、館主は採用してくれるようだ。


「今日はこの一皿!飲み物はお好みで!」


館主と笑い合っていると、リンランをむすっとさせてしまったのだが、まだ提案しておきたい。


「燻製肉やチーズで、つまみの一皿とかもいいよね?」


「酒かー!気に入ったつまみを買って帰って晩酌に!」


「酒はショットグラスのような小さいものに入れて、いくつかを‥‥‥それもその日のおすすめってことで、組み合わせは選べないようにしておけば、ふらっと立ち寄って、さっと出てくるもので軽く飲んで帰ることもできる店に!立ち飲みだ!」


「いける!」


館主が目で示すと、館主の秘書はさっと手帳に書き留めた。


(いやー!気分がいい!あ‥‥‥)


ケーキの皿から欠片を一つ、リタに取られてしまった。


「これ美味しいです」


(じゃあ私も食べたかったよ?)


リンランはほくそ笑んでくれているのだが、リタの注意はケーキの皿に向けられていて、私の念は届かない。


リンランは、コーヒーも配って回ると、私の前には、牛乳の入っている小さな計量カップも置いてくれた。


コーヒーがカップに少ししか入っていないのも、私への配慮だ。


「ありがと」


淑やかに微笑むリンランは、すでにカフェの女主人の風格を漂わせているようにも感じるのだから、私というのは簡単なお子さまだ。


(いい香り)


コーヒーの香りだけ楽しむと、牛乳を足そうとしたのだが、もぐもぐしているリタがカップを指さしたので、リタのカップにも牛乳を少し足す。


私のカップには牛乳をどばっと足し、口に含むと、お子さまには十分な苦みとなったコーヒーのおかげで、ケーキの欠片がさらに魅力的に見えてくる。






◇◆◇◆◇◆◇






「一人で切り盛りするということは、厄介事にも一人で対処しなければならないんだと理解しているのかい?」


「どんな厄介事ですか?」


館主が早速助けを求めた先は、ノーラだった。


「なんて不味いんだー、と言われてしまったらどうするんだ?」


「どんな味が好みなのか聞いて、気に入ってもらえそうなものを用意するからと、次の来店を促します」


ノーラは館主の方を見て小さく頷き、館主の顔には渋さが足された。


館主は次は祖母を見る。


「自分の子ではないと言われてしまう可能性を考慮しているのか?」


「それは‥‥‥」


見事にリンランを俯かせた祖母を、館主夫妻は称えるような目で見ている。


「婚姻とは、確実に金を引き出すために使える契約でもある。しかし、それも相手によるという点では、おまえの生き方と違いは無いかもしれない。ただ、おまえは生まれという武器を持っている。おまえと婚姻関係にあるのだということは多くの人に知られることになるのだから、おまえが金を引き出せる可能性は高い。それでもあえて自分の道を行くのか?」


「あの‥‥‥えっと‥‥‥その‥‥‥私の考えていたような買い付けの代わりにカフェを、と考えている訳ではないの。生まれというものを理由に選ばれたのではなく、私という人物を理由に選んでもらえたんだと思いたいのなら、私という人物を私にとって好ましい人物にしていかないと、と思ってる‥‥‥けど、それがカフェを経営する私なのかはわからない‥‥‥です‥‥‥」


「経営をやってみたいのね?」


館主の奥さまに柔らかに微笑まれ、リンランは涙目となっている。


「はい‥‥‥」


館主の秘書も涙を拭い、館主は感激してぷるぷるしている。


「おまえ、それ、気に入ったのか?」


祖母にとんとんと頬を示されたのだが、ノーラは、ん?となってケーキの皿を見ている。


祖母はお疲れな様子となって続けた。


「ミレットを店主として、店を開けろ」


「いいわね!面も制服としてあげる!」


メイシャンが見えないレジを弾いて笑顔となると、ノーラはしゅんとしてケーキの欠片を口に入れた。


商館の二階の端にある母がやっていた店は、ずっと閉まったままだ。


今では観葉植物を壁として、母がやっていた店には辿り着くことさえできない。


「ノーラ、一緒にやろう?」


ノーラはしゅんとしたまま、こくりと小さく頷いた。


リンランは嬉しそうに微笑みながらも、ノーラ以上にしゅんとしているルツを見て苦笑いとなりそうになっている。


(なぜに‥‥‥?)


私にはわからなくとも、リンランにはわかるのだろうと思うと、コーヒーを飲みたくなってしまう。


リタは、すっと私の手を取った。


「どうして拾ったんだと思ってます?」


急に聞かれても考えがまとまらないのだが、なぜか皆も私が答えるのを待っているようなので、何か答えておきたい。


「‥‥‥面白いから」


「ふーん‥‥‥」


リタの眉間に皺が寄っていくのは、笑いそうになっているのを誤魔化すためだろう。

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