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シアの国  作者: 薄荷堂
左の国
16/106

16.会議

これはどういう会議なのだろうか。


本を読むことに集中したいファーゼは迷惑そうなのだが、リンランは真剣そのものだ。


「私の商会にぴったりな名は!」


「ミレット商会でいいでしょ?」


「はい、意地悪!ファーゼも意地悪!」


「ミレット商店がいいよ」


「‥‥‥身の丈ってこと?」


「そうだね。野盗とか怖いからね」


「あーあ‥‥‥齢千を超える魔女さまは、これだから‥‥‥」


(ついに、千を超えたか)


リンランが私の隣からファーゼの隣の席に移ると、ファーゼは本を閉じて言った。


「魔女さまに言い包められたってことにして、大人しく使用人生活を続行しなさいよ」


「‥‥‥私のような何にも持たない奴は、若さとか女性だってこととか、そういうのを掲げて生きていくしかないんだよ」


「振られたじゃない」


リンランは、うっ‥‥‥!となって、テーブルの上に揃えて置いた手の甲へと、すーっと額を下ろしていった。


「私という人間を好きだって思ってくれる誰かに出会いたい‥‥‥!」


「行ってらっしゃい」


「‥‥‥出会えるかな?」


「はい、だめー!出かける目的が買い付けではない!正直に、レンギョウ商会のお嬢さまとしてちやほやしてもらうために旅行に行きたいのでお金出してください、って言いなさいよ!」


「うわー!」


リンランがよろよろと移動していく先は、寝台となる予定だったごろ寝台だ。


私のベッドで使っていた布団を、敷布団も上掛けも並べて敷き、その上から布をかけてみると、立派なごろ寝台となって活躍するようになった。


リンランはきちんと靴を脱いで揃えてから、スカートがめくれないようにそっとごろ寝台に俯せとなるのだから、育ちの良さというものがはっきり見えている。


「レンギョウ商会のお嬢さまが店を始めたとなれば、わらわら寄ってきてくれると思うけどね」


リンランは、なぬっ!という顔を上げたのだが、ゆっくりと俯せへと戻っていった。


「それは、レンギョウ商会のお嬢さまを好きな人達だよね‥‥‥?」


「ちやほやされたいんでしょ?」


ファーゼにぴしゃりと言われ、リンランはぐっと口元を歪めている。


「リンランはどんな夫を望むの?」


「そうだなー‥‥‥自由に使えるお金をくれて、放っておいてくれる人!別居がいいけど、他所で子供を作られるのはちょっとな‥‥‥」


ファーゼは呆れ顔となっている。


「あんたを好きじゃなくてもよさそうだけど?」


「え?‥‥‥レンギョウ商会のお嬢さまが妻の席に着いてくれてればいいって人なら、それなりに大事にしてくれるってこと?」


「あんたの希望を優先してくれるんじゃない?」


「わかってないなー‥‥‥私の希望だから叶えてやろう、って思ってくれる誰かがいいんだよ!」


「あっそ!」


ファーゼが本を開いてしまったので、残る会議出席者はリンランと私だけとなり、リンランは私を見て溜め息をついている。


期待されていないようなので、軽い気持ちで提案させてもらうとしよう。


「ミレットとして、カフェを始めるのはどう?」


「カフェ‥‥‥?」


「その日のおすすめしか置いてない店」


「一人で切り盛り可能‥‥‥?」


「きちんと美味しいケーキは仕入れたもの。コーヒーは、注文が入ってからミレットが豆を挽いて。お客さまに合わせて、牛乳をどばっと入れてくれると嬉しいね」


「魔女さまはお子さまだからね」


元気が出たらしいリンランは、体を起こすと靴を履き、鞄の中からノートを取り出す。


テーブルの上に開いて置かれたノートには、リンランなりの構想が書かれているようだ。






◇◆◇◆◇◆◇






本を私のリュックに戻しておいてくれたファーゼは、ごろ寝台に腰かけると、手でぽんぽんと改善された座り心地を確かめる。


「あの子のいいところは素直なところなのに‥‥‥」


「これだと、どうだ?」


「ここのところ、ずっとそんな感じだったわよね‥‥‥やっぱりさっきの無し!とやらない誠実さは‥‥‥誰に向けたものなのかしらね‥‥‥」


「目指す地点を定めてしまえば、そこへ行こうと頑張るんだろうけど‥‥‥」


「カフェ?」


「‥‥‥惚れっぽいのかな?」


「そういう可能性がね‥‥‥でも、出会いを求めているし、常連という形で時間をかけて中身を知っていけるのはよさそうに思うわ。ケーキ、コーヒー、紅茶。そのうちクッキーでも上手に焼けるようになれば、常連に味見してもらう。そうやって品数を増やしていき、あの子目当てではない客も獲得していけると、もう立派に店主よね」


「‥‥‥店の外で会おう」


「それよ‥‥‥客あしらい以前の問題‥‥‥あれって、どのくらい本気なのかしら?」


「生活というものを一緒にしない方が、知らずにいられる部分が多いから、好きを減らすことなくいられる、とか言ってたね‥‥‥」


「それは、幻滅するような場面に遭遇する可能性をできるだけ排除したい、ってことよね?」


「おそらくね」


「‥‥‥カフェ、ぴったりじゃない?」


「‥‥‥店の外で会おう?」


「たーくさんの男性と、好きを減らさない恋をできそうよね‥‥‥」


またも館主に深淵を見つめさせてしまうことになる提案をしてしまったのかもしれない。

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