12.本体探し
今日はハザンも交えて、本体探しについて話し合いだそうだが、どういう出席者達なのだろうか。
(面って‥‥‥)
ノーラは目元を覆う面をつけているのだが、まさかそれでルツに気付かれないとでも思っているのだろうか。
ルツが今にも泣きだしそうになっているのは、隣に座る祖母がどぎつい目で睨んでいるからだと思っておこう。
祖母は母方の祖母なのだと思っていたのだが、実は父方の祖母だったのかもしれない。
「ハザンは僕の実家との連絡係です。こちらはレンギョウ商会の会長ご夫妻と先代ご夫妻、次代会長のランセンくんと、弟のザイロンくん、この商館の館長と、館長の息子さんのハルクさん。そして、館長補佐のメイシャンさんとノーラさん」
キリ家当主は地方領主であり、治めている地には大きな港湾を有している。
海を挟んだ隣国との行き来の中継地点となることもあって、ハザンの手土産には、海産物はもちろん、他国との交易品もどっさり積まれていて、物色したくて仕方ない。
館主のご家族の皆さんもハザンの手土産に目をぎらぎらさせているのだし、本体探しなんてことについて話し合うより、商談を始めてくれないだろうか。
「あとはルツさまだけなんですよ?」
「えぇ?!」
ルツは驚いて立ち上がり、皆を見回す。
きちんとノーラのところで、ぎしっと固まってから動き出し、最後に私の方を向いて目を泳がせているのだが、私は何が何だかわかっていない。
「ヒイラギ卿のお心遣いは有り難いのですが、リタジオードさまは末息子という立場ですので」
「待て!そん‥‥‥こいつは優秀だ!」
ハザンの言葉を遮ってまでルツに褒めてもらえたリタが嬉しそうで、なんだか和む。
「ルツさまだって、キリ領の遠さは体験済みですよね?」
「おまっ‥‥‥!そ‥‥‥!」
ルツはこちらを見ては、リタの方を見ているのだが、こちらを見る度にさらに追い込まれているように見えるのは何故だろうか。
ルツの発言を妨げる何かが、私にあるのだろうが。
「あ、好きに呼んでください」
ルツは、情けない顔となって、ぼたぼたと涙を零し始めてしまった。
浮遊霊と呼ぶことに抵抗があるのかと思ったのだが、違ったようだ。
どうしたものかと思っていると、がたっと館主が立ち上がった。
「よし!無事に本体に戻った!商談を始めよう!」
リタはルツを椅子に座らせてやり、館主達はハザンを囲んで手土産を物色し始めた。
こそこそ部屋を出ていこうとしているノーラの口元からは、泣くのを我慢しているのだろうことが窺える。
メイシャンは、ぽんぽんと私の頭に手を置いてから、ノーラの後を追ってくれた。
(リンランは恋に、で、ノーラは恋と、かな‥‥‥ん?何?)
リタは私の前に片膝をつき、私の両手を取った。
「シア、会いたかったです」
穏やかに微笑むリタは、出会った頃とは少し違う。
何だか落ち着かないのは、名を呼ばれたのが久しぶりだからだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
「何言ってんの?!」
「え?何?どれ?」
「あんたはアローラでしょ?!」
「いや、シアだけど?」
リンランの怒りに点火したことが明らかで、リタ達と一緒に帰ればよかったと思ってしまう。
「ノーラがどんな気持ちで、あんたをアローラって呼ぶようになったと思ってるの?」
涙目のリンランを見ていると、あの日のリンランの言葉を思い出す。
もう別々。
私よりリンランの方が、ノーラとの距離が近いのは明白なようだ。
「‥‥‥わかんない」
「あんたはアローラを殺したじゃない!」
母は私をアローラと呼ぶようになり、私を見なくなった。
母にとっていらないものであるアローラは、母が死ねばごみでしかなかった。
「‥‥‥私としては、アローラの霊だった訳じゃないんだよね」
「誰の霊なのよ?!」
「誰ってことではなく‥‥‥迷子だと思われてるんだろうから、放っておいてもらいたいな、って‥‥‥」
「紛らわしい!紛らわしいのよ!ごめんね!色惚け!」
(何言ってんの‥‥‥?)
「でも、そんなのって‥‥‥!」
情緒の忙しいリンランは、またも涙目だ。
ごろんと横になると、今日も洗濯物がはためいている。
ハザンの手土産の中にあった砂時計を傾けると、硝子の中をさらさらと砂が落ちていく。
ぬっとこちらを覗き込んできたリンランが、意地悪を言いたそうな顔をしているのは、どうしてだろうか。
「そんなのどうせ、その辺の砂だよ」
「砂浜の砂って言ってたけどね」
どこの砂であろうと、見ていたいと思うのだから、私にとっては価値のあるものだ。
(さらさらさらさら‥‥‥)
「‥‥‥お帰り、シア」
私としては、ずっとシアだったのだが。
「ミレットは?」
「本当ー!に!性根が腐ってる!」
リンランがぷりぷりしつつ行ってしまったということは、リンランでいることにしたのだろう。




