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シアの国  作者: 薄荷堂
左の国
11/106

11.後見人

ルツの執務室に五つお茶をと言われ、用意してルツの執務室を訪ねると、リタが扉を開けてくれたのだが、扉に来客中の札をかけたのは、かけ忘れていたということだろうか。


未だ山の中にあるルツの執務机にルツがいるのは、珍しい。


(怒ってる?)


応接用の椅子には、リタとテオ、それから来客なのだろう男性が腰かけている。


ルツが威嚇するような目で見ているのは、どうやらリタだ。


「浮遊霊さんもこちらにどうぞ」


「いや!こっちに座ってくれ」


ルツは、どっかりとリタの隣に腰かけて、威嚇を強めて、リタをじっと見ている。


(見すぎじゃない?)


あの至近距離で凝視されても動じないリタのような人が、ルツの側にいてくれて大いに助かっている、というのはルツと関わる皆さんの共通認識であるように思う。


ルツはどうやら癖が強い。


相手によって多少の態度の変化というのはあるものだろうが、母が語ってくれたルツはまったくの別人だ。


人違いなのではないか、と思ってしまっている。


私の銀髪は父から、と聞いてはいた。


目の前にいるルツは、まとめてしまえば寝癖などなかったことにできるという言い分で、後ろでまとめることのできる長さ以上を保っている。


短ければ、あっという間に乾くので、起きたら水を被れば寝癖などなかったことにできるという言い分で生きてきた私が、ルツから受け継いだのは銀髪だけではないような気もしている。


(親子ね‥‥‥)


どうやら私は、ルツが母の語った父と同一人物なのかは疑わしいが、血縁なのではないかとは思える、という何ともよくわからない関係性だと認識しているようだ。


皆に茶を出し終えて、ルツの譲ってくれた席に着く。


(おお!)


高そうな椅子だとは思っていたが、これは中々に素晴らしい座り心地。


来客用のちょっといい菓子で、優雅に休憩時間といこう。






◇◆◇◆◇◆◇






「聞いてます?」


(‥‥‥え?)


半分寝ていたので聞いていないのだが、いつも通りならば、本体探しについての話をされていたのだろう。


「本体はもう、ふぁーっと霧散したんだよ?」


寝惚けている勢いで言ってみたのだが、リタは背後でぬーんとなっている気配が濃厚だ。


本体に戻るというのは、ルツの家から住処を移すように、ということではないらしいのだが。


「戸籍制度が存在することは知ってますよね?」


(もう寝る寸前なんだよ?)


お子さまに眠気と戦わせて真面目な話を始めるとは。


「‥‥‥はい、死んだー、で死ねないってことを言いたいのかな?」


「そのあたりは、生き方という分類だと思っています」


(うーん‥‥‥?)


考えようとはするのだが、どうにも眠く、リタは私の手をふいふいと動かしてくる。


「うちとしては、どうぞどうぞ、なんだとわかってくれましたよね?」


(わかってないよ?)


お子さまの手に力が入っていないのでは、寝かせてやろうという気になってくれたらしく、リタはそっと頬に頬を寄せてから横になった。






◇◆◇◆◇◆◇






私のリュックを肩にかけているディードは、にこっと微笑んでくる。


いつも仏頂面なのに、こういう場面では笑顔を安売りするのだから、仕事熱心だと思っておこう。


「おまえのところの後見人!どうなってんだ?!」


「‥‥‥誰です?」


「おまえ‥‥‥」


ギドロイは怒りを急速に消火してくれたらしく、早速クッションに突っ伏した。


ギドロイはもぞもぞと靴を脱いで、長椅子に横になると、顔だけこちらに向けて睨んできた。


「ハザンだ!」


「ああ、あの方は‥‥‥」


ルツの執務室にいた来客だという以上の情報を有していないことに気付いた私に、ギドロイは声を出さずに、はあー?!とやってくれた。


「キリ家から派遣されてきた、ヒイラギ卿の副官の後見人だろ?!」


「え‥‥‥誰です?」


「こいつ‥‥‥!」


ギドロイは顔面だけでディードに告げ口しているのだが、ディードはそれもにっこりと微笑むことで応対している。


「おまえは誰の助手をしているんだ?!」


「リタジオードさんです」


「リタジオード・キリ!」


「え?キリって、あのキリ家ですか?」


「‥‥‥リタジオードは、ヒイラギ卿の副官だよな?」


「え?ヒイラギって、あのヒイラギ家ですか?」


「こいつ!何なんだよ?!」


「まあまあ、殿下。浮遊霊ですから」


にっこりディードに言われ、ギドロイは誰に告げ口したものかとなっているのだが、応接間には三人だけだ。


「俺の名を言えるか?」


「ディード・ウツギだよね?」


「‥‥‥俺は?」


「え‥‥‥?」


ギドロイは悲しそうにクッションに突っ伏し、私はディードと声を出さずに笑い合う。


ギドロイは、たっぷりと間を置いてから、クッションから顔を上げた。


「俺‥‥‥王子なんだが?」


「え?!」


「それはさすがに知ってるだろ!?留学!おまえが言ったんだろ?」


「殿下、それは下っ端野郎がぺらぺら語りまくってくれたんですよ?」


ディードが真犯人を告げてくれると、ギドロイは両手をわきわきさせて怒りを燃え上がらせている。


「あの下っ端野郎!領地での仕事があるとか言って、とんずらしやがった!」


「思惑通りとなったんですね」


よいしょをしたつもりだったのだが、ギドロイは完全にこちらを睨んでいる。


「キリ家のお嬢さまも留学希望だ!」


「へー‥‥‥これはもう学院でも作ってはどうですか?」


「受け皿を用意してしまうということか‥‥‥」


ギドロイはわきわきをやめて検討し始めたので、これは商機ありと見ていいだろう。


「行儀見習いなんてものをしたがるお嬢さま方も、みーんなぶち込みましょう。成績優秀者は宮廷内での研修に進めることにすれば、養成所という役割を持たせることも可能ですし、お見合いを勝手にやってもらえることにもなります」


「いいな‥‥‥!」


「土地の確保から制服まで、レンギョウ商会にお任せください!」


「出たな怠惰な商売人!」


「寮も用意してしまえば、地方の御曹司さまや御令嬢さまに、他国からの留学生も受け入れ可能かと!」


「さすが金の亡者!帰ってよし!」


ギドロイがご機嫌さまとなって靴を履くと、ディードが私にさっとリュックを背負わせてくれた。


早く館主に知らせなければ。

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