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シアの国  作者: 薄荷堂
左の国
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1.自殺

あんなに待っていたのに。


母は父のことを語っては私を抱きしめ、愛おしそうにどこかを見つめていた。


だが、父が迎えに来たことを知らせると、母は自分は死んだと言った。


母は泣いていた。


わからなかった。


ただ、自分はもういらないのだと理解していた。


実感していた。


母はこちらを見なくなっていた。


どこへ行こうかと考えてみたところで、幼い自身を雇ってくれる先など思いつかない。


生きていくには金がいる。


母は館主の幼馴染というもので、私もその恩恵を受けて生きてきた。


母に倣い、自身を殺してきたのだが、これからも居座ることのできる場所となると、館主に与えてもらった土地しかない。


きちんと外壁で囲まれたその土地は、製作所と呼んではいるのだが、一角を畑とできたばかり。


収穫などまだまだ先だ。


与えてもらえていたものを、これからは自分で何とかするとなれば、どうにも涙が零れてくる。


「すみません」


声をかけられ、そちらに顔を向けると、視界の端に入ったのは少年だった。


泣きながら歩いている幼子とくれば、迷子とでも思われているのだろう。


親切を受け取ることなどできぬ状態なので、放っておいてもらいたい。


「私が見えるんですか?」


少年は深刻そうな顔となり、私の前にしゃがんでこちらを見上げてきた。


「幽霊なんですか?」


「憑り殺してしまうかもしれないので、私に関わらないでください」


少年を避けて歩き出す。


こんな時に、これ以上少年に煩わされずに製作所に入れるかまで考えなければならないとは。


このまま放っておいてくれ、と念を送りつつ、製作所までの道順をどうしたものかと考える。


「ルツさまの部下のリタです。ハルクさんに、浮遊霊さんに馬を繋いでおける場所へ案内してもらうように言われました」


(こいつ、性悪か‥‥‥)


伯父の指示だと言われては、こちらも従うしかないのだが。


少年の方を見てみると、少年は馬を二頭連れている。


父と少年の乗ってきた馬ということだろう。


「こちらです‥‥‥」


「ありがとうございます」


案内と言われても、心当たりは製作所しかない。


さらに重みを増した足で歩き出すと、少年もついてきた。


鍵を取り出し、門扉にもたれかかるようにして背伸びをして鍵を開けた。


少年は伯父から何を聞いたのだろうか。


私のことは使用人だとでも思ってくれているのだろうか。


(さっきもいたのか‥‥‥?)


馬を繋いでおくということは、私が馬を預かるということだろう。


こんな時だが、肥料が手に入るかもしれないのは喜ばしい。


「戻ってきたら、外から声をかけてください」


「ハルクさんのところに案内してもらえませんか?」


それも伯父の指示ということか。


つい先ほど自分を殺したばかりなので、ちょっと‥‥‥というのを察してもらえないだろうか。


馬に水を提供し、ちらりと少年を見上げてみたのだが、にこりと微笑んでいる性悪に察してもらえそうにはないようだ。


伯父のところとなると、伯父の自宅でいいのだろうか。


伯父の自宅を訪ねてみると、父だそうな男性が泣いている。


「入らないんですか?」


この少年は何も見聞きしていなかったので、このようにほけっとしているのだと思っておこう。


「ここがハルクさんの自宅です」


頼まれた仕事を終えて、足早に立ち去ろうとしたのだが、少年はさっと私を抱え上げ、少しだけ開いていた玄関扉から中へと入っていく。


「浮遊霊を拾いました!持って帰って浮遊させます」


少年の声に顔を上げた父だそうな男性は時を止め、伯父の笑い声が響いている。


少年は私の怨念に気付いているのか、こちらを見ない。


少年は、父だそうな男性の隣の椅子に座ると、私を膝に座らせて、膝から落ちないように腹に腕を回してきた。


私の後頭部が少年の視界を遮るらしく、少年は左右どちらから顔を出そうかともぞもぞしている。


(下ろして?)


怨念を送ってみても、伯父の笑い声が大きくなるばかりだ。

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