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★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)  作者: 埴輪庭


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42.エルカ・スフィア④

 ◆


「ケージ……?」というか細い声が、暗い部屋の奥から返ってくる。


 君は思わず足を止め、その声の主をじっと探す。


 暗がりに沈む室内は殺風景で、鉄臭い空気が肌を刺すように重たい。


 床には雑多なパイプや箱が乱雑に積まれていて、そこを縫うように伸びた鎖が誰かを拘束しているのが見えた。


 やがて君の視界が慣れてくると、金属的なボディを持つ“女”の姿がうっすらと浮かび上がる。


 メタノイド特有の鋼色の曲線。


 四肢と首とを拘束する電子錠をはめられていたのは──


「ザッパー……? おい、こんなところで何してるんだ」


 君が声をかけると、女は苦しげに顔を上げる。


 鈍い光を宿した青い瞳が、微妙に焦点を合わせるように微動した。


「お久しぶりです、ケージ……まさか、こんな所で再会できるなんて」


 ザッパーが息をつきながら言う。


 彼女はかつて鋼の殺し屋として名を馳せ、君とは惑星C66の下層街で顔を合わせた仲だ。


 元恋人でもある。


 今はその冷徹な眼差しも翳り、疲弊しきった様子でがっちりと拘束されている。


「君がこんなところにいるなんて、想像もしてなかったぜ。……ってか、どうしてそうなった?」


 君の問いにザッパーは恥じるように目を伏せ、鎖が擦れる音をさせながら首を振る。


「ボディガードを始めたのですが、運悪く質の悪い依頼主に騙されまして……。結果的に、宇宙奴隷商人の手に落ちてしまいました」


「奴隷商人、ね。本当にどこにでもいるよなぁ」


 君が言うと、ザッパーは肩を震わせる。


「まさか私が、こんな形で捕まるなんて思いもしませんでした。お恥ずかしい限りです……」


 その声には悔しさがにじんでいた。


 ──まあザッパーは小細工するタイプじゃないしな


 君はそんなことを思う。


 君が知るザッパーはズバッと殺って何もかも解決! ……というようなステレオタイプな脳筋なのだ。


 君は周囲を見回しながら、首輪や手錠の錠前に目をやる。


「君のそういう姿はそそるけどな、まあでも他の奴が君をこうしてるのは気に食わない。ミラ、こいつを外せそうか?」


 君が呼びかけると、傍らを浮遊していた球形ドローンがモノ・アイを点灯させ、控えめに答える。


『少々お待ちください。暗号化された電子錠のようなので、解析には時間がかかるかもしれません』


「だとよ、暫くおとなしくしていてくれよ」


 そう声をかける君に、ザッパーは小さく微笑んだようにも見える。


「ありがとうございます」


 君は大げさに肩をすくめてみせる。


「さすがにヒーロー面する気はないけどな。……おっと?」


 突然、君の袖口から黒い粒子が流れ出す。


 まるで生き物のように粒子が蠢き、首輪の電子錠や手首のロック部に入り込んでいく。


 その様子にミラが警戒の光を放ちながら言う。


『ケージ、これは……あなたの身体に寄生しているナノマシンでは?』


「かもしれないな。まだ正体はよくわからんが、便利っちゃ便利だ」


 粒子が内部に潜り込んで数秒後、カチリと錠が解除される小さな音がした。


 これまで頑強に閉ざされていたはずの束縛が、あっけなく外れる。


「なんで俺を助けてくれるかわからねぇんだよなあ。まあいいか! ザッパー、立てるか?」


 君は膝を曲げて彼女に手を差し伸べる。


 ザッパーが遠慮がちに指先を君の手へ預け、ゆっくりと身体を起こすと、薄暗い室内にかすかな金属音がこだました。


「本当に……ありがとうございます。ケージのおかげで助かりました」


「いいってことよ。だが、この後どうするかだな。脱出したいのはやまやまだが──」


 そう、脱出をするにせよ足が必要だ。


 しかし君は着の身着のままでこの船へ乗り込んだため、自前の船──シルヴァーはない。


『惑星開拓事業団へ報告をしましょう。ただ、助けがくるかどうかはわかりませんが』


 ミラの言に君は頷く。


「ああ、まあ仕事に関する事は自己責任だったか」


「ケージは惑星開拓事業団で働いているのですか……?」


 ザッパーが心配そうに言った。


 惑星開拓事業団は言ってしまえば合法的なヤクザ組織である。


 星系内の様々な問題を暴力で解決することを厭わない。


「まあね、ちょっと金が必要なんだ」


 金が必要な理由は言わない。


 というか言えなかった。


 ギャンブルでスッて人体実験をさせられて──などとはとてもとても。


 ──俺にもプライドがあるからな……あったっけ? あったかも


 ◆


「それに、なにか以前のあなたとは違うような……」


 ザッパーの言葉に君は軽く眉を上げる。


「格好よくなったって事かい?」


 茶化すような口ぶりに、ザッパーは大きくかぶりを振った。


 そして少し呆れた顔で、静かに言葉を継ぐ。


「隠し事をするとき、茶化す癖は変わっていませんね。それに、あなたはいつも格好良いですよ」


 あまりにさらりと言われて、君は一瞬言葉を失う。


 が、そのままバツが悪いような沈黙を続けるのも癪だったので、君はわざとらしく口の端を吊り上げて言った。


「まさか、ハニトラかい?」


 生意気な笑みを浮かべたその瞬間、ザッパーは今度こそ露骨に冷たい視線を君へ向けた。


 まるで「冗談はほどほどに」と言わんばかりの、刺すような眼差しに今度こそ君は黙り込んだ。


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最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
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「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
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そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

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「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

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果たしてエリーナは悩める冒険者たちにどんな道を示すのか?
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「その追放、本当に正しいですか?」

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「君を愛していない」──よくあるこのセリフを投げかけられたかわいそうな令嬢。ただ、話をよく聞いてみると全然セーフだった。
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──目の前に現れたのは“お姉さん”だった。
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ある夜、彼は無数の電柱に個人の名が刻まれたおかしな場所へと迷い込み、そこで自身の名が記された電柱を発見してしまう。一方、青年を追い詰めた上司もまた──
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